第15話 ざっくりすぎる街構想な件
「……ほんと、あんたって人は」
まず動いたのはバルトロだった。
彼は後ろ頭をボリボリかいてドカッと椅子に腰かける。
しかし、座りが悪そうでもう一方の手で机の上を指先でトントンと叩いていた。
その音にアルルの耳がぴくぴくと反応し、彼女もバルトロの隣にあった椅子にちょこんと腰を降ろす。
「ヨシュア様のお願い。だもの。エリー」
「うん」
机を挟んで対面にいたエリーが神妙にコクリと頷く。
残すはルンベルクだけとなった。
彼は口元に僅かな笑みを浮かべ、斜め45度ぴったりの完璧な礼を行う。
「いつもヨシュア様には驚かされます。常識に囚われぬその発想力こそ、あなた様です!」
ルンベルクは真っ白の手袋をはめた手で椅子を引き、美麗な動作で椅子に腰かけた。
「なんだか逆に無理させてしまったようですまなかった。だけど、じっくりと聞いて欲しかったから。せっかくみんなで集まって話し合うんだから、より会話がしやすいようにしたいんだ」
「承知しております。ハウスキーパーとしての我らの気遣いが足りず、申し訳ありませんでした」
全員が恐縮したように揃って頭を下げる。
い、いや……そんな真剣な顔で頭を下げられても、こっちが弱ってしまうよ。
え、ええい。気にしたら負けだ。
ともかく、彼らも今後、もう少し砕けた感じで接してくれるはず。そう思うことにしよう。
うん、前向きであることが大切だ。
ガタン!
腰を浮かし、立ち上がろうとしたら思いのほか動揺していたようで机に膝をぶつけてしまった。
ひ、ひいい。
全員が既に俺の横までかけつけておるではないか。
「気にするな。何ともないから」
「失礼いたしました」
今のは俺が悪い。正直すまんかったと心の中で詫びる。
コホンとワザとらしい咳をして白いチョークを手に取った。
「それじゃあ、さっき相談したいと言ったことからやろう。俺の考えている街の概要を説明する」
黒板に体を向け顔だけを後ろやると、固唾を飲んで見守る四人が見える。いつの間にか既に全員着席しているじゃないか。
相変わらず動きが早い。
「周辺地域の脅威度がまだ分からない。だから、過剰なのか足りないのか不明なことを前提として聞いてくれ」
そう前置きしてから説明を続ける。
「外周はコンクリートの外壁と堀を併用しようと思う。外壁の高さは要相談だけど、俺の身長より低かったとしてもそれなりに効果はあるはず」
「対人ではなく、対猛獣やモンスターでしたらアルルくらいの高さで問題ないかと」
これにルンベルクが意見をくれた。
材料と人手次第だなあ。街の防備は必須だけど、必要最小限を目指したいところだ。
「ルンベルク、意見をありがとう。みんなも思うところがあったらガンガン意見を挟んで欲しい。個別検討は専門家も交えて別の機会に行おう。概要の続きを進めるぞ」
「承知いたしました。
会釈するルンベルクに向け、親指を突き出し微笑んで見せた。
「街は水車を建築中のルビコン川のほとりを中心地とする。水車に隣接するように工房を建築。特に鍛冶屋はこの場所に設置予定だ。といっても水源が必要な施設は多数あるから、中心地とはいえ商店街や中央大通りって感じではない。街機能を司る中心地って意味だな。アルル」
「え。あ。あの」
彼女の首がどんどん傾いていっていたから何か思うところがあるのかなと思い、彼女の名を呼ぶ。
しかし、彼女は首と耳をまっすぐに伸ばし目が泳いでしまう。
「ゆっくりでいい。思ったことをまとめようとしなくてもいい」
アルルはこういう場で意見をすることに慣れていないのだろう。でも、いい機会だ。会議の場で意見を述べることは、きっと彼女の今後のためにもなるはず。
「は、はい。え、えっと。水の傍じゃないと。ダメなの?」
「言葉遣いも気にする必要がないからな。まずは意見を述べること。これが大事だ」
「はい!」
ただでさえしどろもどろになっているというのに、言葉遣いまで気にしていたらますます喋り辛くなってしまう。
「それで、水の傍じゃないとってところだけど、とてもいい気づきだと思う。そうなんだ。水の傍の方が望ましいんだ」
「望ましい?」
「うん。俺の見解だけど、この地はやはり「不毛の地」だった。農作物ではなく、魔石と燃焼石がないことからだ。特に燃焼石が無いのはキツイ」
「水が。燃焼石?」
「そう! その通りだよ。水の流れを水車に伝え、この力を利用する。できてからのお楽しみってことにしてくれ」
「はい!」
暖炉とか煮炊きになら、木炭やもし発見できれば石炭で代用すればいい。
だけど、鍛冶となるとちょっと難しい。この世界の鍛冶は燃焼石で行っているから、な。
トーレに燃焼石がないのはマズイって言ったのは、鍛冶をどうするか悩ましかったから。でもそれも、水車を利用することでお手軽に鉄を溶かす炉を作ることができる……はず。燃料には木炭か石炭を使うけどね。
「それじゃあ、続きを。川を中心にといったが、北端は川を越えて崖のところまで。崖が天然の防壁となってくれるだろう。この辺にはガラスと火山灰がある」
黒板にルビコン川を示す線を引き、崖を記載する。
「街の中心地は川のほとりなんだけど、中央はずっと南に下り、この屋敷の傍になる」
北の崖から館を挟み、反対側くらいを街の南端に。
東西も同じくらいの距離とする。
「ちょっと広すぎるかもしれないけど、農地も含める。これは、外壁の外が安全かどうか分からないから。もし安全だとなれば農地だけ外に出してもいい」
ばばっと円を描き、コンコンと中央部を叩く。
「一つ意見をよろしいでしょうか?」
「うん」
すっと手をあげたエリーへ頷きを返す。
「街の広さはご紹介いただきましたので理解いたしました。ヨシュア様のことです。商業区画や住宅街、農業地まで全てその聡明な頭脳の中に入っているとは思いますが……」
「区画は領民の意見を募り決めたいと思っていた。でもそうもいかないか。木材も揃ってきたところだし」
「生木の乾燥は、ノーム族やドワーフ族の魔法で進めております。ですが、まずは伐採優先とのことでした」
「ありがとう。ガラムかトーレに聞いてくれたんだな」
「トーレ様がそうおっしゃっておりました」
領民の数も多いから、予想以上に材料の揃いが早い。領民の数が多い分、必要な量も増えるんだけどな。
「となると、ざっくりとだけでも区画を決めておいた方がいいか。細かいことは領民の意見を募ってくれるか」
「御心のままに」
この発言にはルンベルクが代表して応じる。
「俺が決めておきたいことは『通路』だ。東西南北に馬車が交差できる幅がある大通りを作りたい。いや、もう二本足そう。北東から南東。北西から南西も追加で」
大通りは先に確保しておかないと、家が建ってからでは遅い。
紐か何かで「大通り予定地」とでもしておけばいいか。
お次はルンベルクがすっと手を挙げる。
「舗装はいがかなさいますか?」
「舗装は後からでいい。場所の確保をしておいてもらえるか?」
「畏まりました」
「舗装はレンガが見た目的にいいかなあ。その辺も材料次第で決めよう。工事は住宅、外壁の順で優先だな」
おっと。エリーの意見を聞こうとしていたら、ついつい街の区画のことになってしまった。
「エリー。ごめん。エリーの意見から逸れちゃったな」
「いえ。素敵なお話しで、想像しただけで街の風景が浮かんで来るようです」
両手を胸の前で組み、頬を染めるエリー。
ところが、この後に続いた彼女の言葉に俺は驚かされることになる。
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