第14話 そろそろ腹を割っておはなししたい件

「拾い集めて来てくれた小石の調査結果からいこうか」


 お行儀悪くフォークを立て、口の中に残ったパンを喉の奥に押し込む。

 ぐ、喉があ。

 

 急ぎ水をゴクゴクして、はあと一息つく。

 何してんだ俺は……。し、締まらん。

 一人芝居をしている俺と異なり、ルンベルクらは真剣そのもの。


「も、もう調査がお済みになったのですか」


 ルンベルクがワナワナと肩を震わせカッと目を見開く。


「トーレがいてくれたからさ」

 

 謙遜する俺にルンベルクが彼にしては珍しく呆気にとられた様子だったが、すぐに元の表情に戻った。


「あなた様がいたからこそ。指示を出し、気難しいと聞くトーレ殿を動かしたのです。尚、トーレ殿を立てるその気高き精神、感服いたしました」

「は、はは。ともかく、最低限必要な鉱石があることが分かった。俺の探していた鉱石はどれもレアなものじゃないしな」

「左様ですか!」

「必須の岩塩、石灰はもちろんのこと、鉄、銅、ガラス、火山灰……他に希少な魔法鉱石類がいくつか」


 最初にこの辺りに生き物がいることを確認したのも、この二つがあるかどうかのチェックのためでもある。

 塩は人間だけじゃなく、生きとし生けるものにとって必須元素だ。石灰は必須ってわけでもないかもしれないけど、貝殻であったり利用する生物は多い。

 つまり、ありふれた素材ってことだ。

 一方で魔法鉱石は、宝石類に並び希少とされている。正直、どう使えばいいのか持て余してしまうが、あったらあったで選択肢が増えることは確か。

 あって困ることは無い。

 

「問題は量だな。火山灰とガラスは問題ない。石灰と岩塩、鉄について聞きたい。バルトロ」

「あいよ」


 腰の後ろに両手を当てていたバルトロが「おう」とばかりに手をあげた。

 あ、実物があった方がいいか。

 パンを咥えたままよっこらせっと腰を浮かせると、途端にアルルとエリーに左右から取り囲まれてしまった。

 な、何だ。このピンと張り詰めたような空気は。

 

「敵襲。天井、気配なし」


 膝を少し曲げ、いつでも飛び出せる姿勢で顎を上に向け、ぶっそうなことをのたまうアルル。

 一方でエリーは片膝をつけ、前傾姿勢になり両目を閉じる。

 

「床下。気配ありません」


 ……。

 いや、突然立ち上がったのは悪かった。別に不穏な気配を感じたわけじゃないんだ。

 そっとアルルの腕に手を添え真っ直ぐに立ち上がらせ、続いてエリーの手を「まあまあ」と両手を前に向ける。

 

「鉱石を書斎に取りに行こうと思っただけなんだよ」

「それでしたら、ここにございます」


 ルンベルクが目配せすると、エリーがさささっと音も立てずに早足で消え、すぐに戻って来る。

 ガラガラと台車に乗ったアレは、アフタヌーンティーに使うような三段のティースタンドだ。しかし並べられていたのはスコーンではなく、石だった。

 突っ込まない。俺は突っ込まないぞ。

 かぶりを振ってバルトロへ改めて目を向ける。

 

「バルトロ、岩塩は分かるな」

「おう。舐めたらしょっぱいやつだろ」

「そそ。岩塩については説明不要でどれくらい必要かもルンベルクと相談して採掘してくれ。採掘場所は多数あるだろうし」

「おうさ。それで、本命は石灰か鉄ってわけだな」

「うん。鉄は二段目のあの赤っぽいやつだ。石灰は一番上の段のその灰色のやつ。もし発見したのがルンベルクなら彼から場所を聞いてくれ」

「いや、どっちも場所は分かる」

「特に石灰は大量に必要なんだ」

「しばらくは大丈夫だと思うぜ。それで、石灰と鉄をとってくりゃいいんだな?」


 最悪、石灰についてはペンギンが「ぺしん」としていた巨大カタツムリの殻を砕くか、なんて思っていたけど、しばらくは大丈夫と聞いて安心した。


「うん。運ぶに台車などが必要だと思う。誰か手持ちのものがあればいいんだけど、無いならトーレに作ってもらうか」

「大丈夫だ。ここに来た人たちは大荷物を抱えてきた人もいるんだぜ」

「なるほど。分かった。頼むぞ。採掘した石灰はルビコン川のほとりとこの屋敷の周辺に分けて置いてくれ。周辺の方が多くでいい」

「あいよ。何につかうんだ、石灰って。あ、いや。俺は運び届ける。それだけでいい」


 首を振り、無精ひげに手を当てるバルトロに対し、少し残念な気持ちになる。

 疑問に思ったことは聞くべきだ。自分の役割とか俺に遠慮しているとか、そんな気持ちでせっかく浮かんだ好奇心を押しつぶさないで欲しい。

 傲慢かもしれないけど、聞きたいことがあれば聞き、疑問に思ったことがあれば知りたいことがあれば知るべきだ。聞いても分からないことも世の中にはたくさんあるけどね。でも、分からない時のために、不思議に思ったことに対して考えることをして欲しい。

 それがきっと巡り巡って自分のため、しいてはみんなの為になるのだから。俺はそう信じている。

 

「バルトロ、みんなも聞いてくれ。石灰の使い道はいくつかあるんだけど、今回やろうと思っていることは二つ」

「ヨシュア様」


 いきなり説明をはじめた俺にバルトロが俺の名を呼び興味深そうに口角をあげた。

 これには彼だけでなく、ルンベルクやメイドの二人も反応を示す。

 ルンベルクは表情こそ変わらないが、指先が僅かに震えているし、エリーとアルルは口元に手をあて驚いた様子を見せていた。

 アルルに関しては尻尾もパタパタ揺れているけどね。

 

「一つは砂と混ぜてモルタルにする。こいつは主に家の壁に使うつもりだ。今後レンガで舗装をする時なんかに接着剤としても使える」

「モルタルって、あ、あれか。レンガとレンガの間に挟まっている白い奴か」


 合点がいったようにポンと手を叩くバルトロ。


「そう、それ。もう一つはもうひと手間かける。モルタルの材料に火山灰を使い、固める時に細かく砕いた石かレンガを混ぜ込む。こいつはコンクリートといって硬く頑丈だ。モンスターを塞ぐための城壁なんかに使おうと思っているんだ。こっちは急がない」

「ほお。何だか凄そうだな」

「コンクリートに関しては、公国でセコイアと一緒に研究していたけど、実験段階では成功しているが実用ではまだ使ったことが無い。だから、彼女に製造・実験を任せようとおもっているんだ」

「おう。二か所に分けるのは、街の計画がもうヨシュア様の頭の中にあるからか?」

「うん。街の建築計画について、この後みんなに相談しようと思っていたんだ」

「是非、聞かせて欲しいぜ!」


 喰いつき過ぎたことに気が付いたからか、バルトロが後ろ頭に手をやりもう一方の手で無精ひげをさする。

 彼はルンベルクやエリーたちのことを気にしているのかな?

 

「先に言っておく。疑問に思ったことや意見がある時は立場とかを考えずに言って欲しい。でないと、こうして相談している意味が無くなってしまう」


 きつめの言い方になってしまったが、こうでもしないとこのままずっと俺に遠慮する状態になってしまうからな。

 俺は賢者ではない。だから、自分だけで考えることに限界があることも知っているし、多くの意見を募った方がいいアイデアが出て当然だとも思っている。

 

「そんなわけだからさ。じっくりと話合うためにみんな座ってくれないか?」


 いつも立ったまま話を聞いているハウスキーパーたちに向け困ったように眉尻を下げ参ったとばかりに両手を広げた。

 

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