偶然

 定期試験の結果を元として再びクラス分けされたことにより、僕と未央は別々のクラスとなってしまった。

他の教科で同じクラスになっている科目もありはするのだが、どれも席が遠く2人で喋ることはなかなか難しかった。

部活も僕は剣道部で未央は茶道部であったため、部活での接点は全くなかった。

お互い顔を合わせれば軽く小話はするものの、やはり席が隣だったときのように長い時間2人きりで話すことは少なくなってしまった。



未央と、たとえ1教科だけでも隣の席になれていた時期、毎日のように未央のことばかり考えていた。しかし僕はこれ程までに他人に興味を持たない人間だったのか、僕の頭の中に毎日のように現れていたはずの未央は、いつしかほとんど現れなくなってしまった。

決して疎遠になったわけでも無いし、少しは話もする。それでも僕の未央に対する思いは、日に日に薄れていった。



記憶の中から、心の中から消えることのない大切なものや人というのは、当たり前ではあるが長い時間をかけ、ゆっくりと構成されてゆくものだ。

1本1本の、細い思い出の糸が紡がれより太くて強い紐となり縄となってゆく。そして縄が強ければ強ほど、長い人生の中でどれほど磨り減ろうとも決して断ち切れることなく続いていく。

僕と未央が一緒にいられた時間はあまりにも少なく、思い出の糸をたくさん集めることは叶わなかった。



大切で、愛おしくて、心地良かったはずの2人で話した時間は、1年も終わりに差し掛かった頃には、僕は未央のことをあまり考えなくなっていた。

このまま高校2年、3年もあまり喋ることなく、疎遠になっていくかと思われた。



高校生活も2年生が近づいてきた。1年から2年に進級するときには文系、理系を選択しなければならなかった。将来特につきたい職業も決まっていなかった僕は、社会が苦手という非常に雑な動機にて理系を選択することにした。


そして学年が上がり2年となった当日。午前中に学年集会があったのだが、全員どこか浮ついたよな雰囲気が漂っていた。

それもそのはず、学年集会を終えた後にはクラス分けを控えていたのだ。

ここで分けられるクラスとは定期試験の結果を元にして行われるものでは無く、HRを共に過ごしたり学園祭などを一緒に作っていくことになるクラスだ。

さらに2学年には修学旅行や2泊3日で行われるスキー教室といった一大イベントお控えており、高校生活3年間のなかで最もイベントごとの多い密な1年となってくる。

そういうわけもあってか、学年集会の最中も、

「あの先生担任になったらどうしよう」

 とか、

「絶対一緒のクラスになろうね」

といった話し声が聞こえてきた。


僕も1年の頃に仲良くなった友達を捕まえて話しかけていた。

「なあなあ、誰が同じクラスになると思う?」


「全くわかんない。けどお前とは一緒にならないことを祈ってるわ」


「そう言って本当は同じクラスになりたいんだろ?」


「2年になっても相変わらず調子乗ってるな。ていうか、担任が誰になるのかも気になる」


「確かに、可愛い担任がいいよな」


「先生に可愛さを求めんな」

そんなことを話しながら盛り上がっていた僕らは、背後から迫りくる1年の頃の担任兼部活の顧問であった、松橋先生に気付かなかった。


「安心しろ、お前らの担任は今年も俺だぞ」

後ろから肩を叩かれながらそう言われ、僕らは、


「冗談よしてくださいよセンセー」

などと軽く流していた。

この松橋先生が放った冗談が後に本当のこととなるのを、このときの僕はまだ知るよしもなかった。



いつもより少し長い校長の話を聞いた後、学年集会はお開きとなった。新クラスは各旧クラスに学年集会の間に張り出されているため、集会が終わった後は皆騒ぎ立てながら急ぎ足でクラスへと戻っていた。

早く戻ったところでいいクラスになれるわけでも無いのに、皆はしゃいじゃってガキだなあ、などと思いながら、僕は競歩選手顔負けの早歩きで教室へと向かった。



教室に張り出された新クラスを確認した後、早速僕は2年の新クラスへと向かった。新クラスに仲の良い人がほとんど見当たらず、クラスへと向かう僕の足取りは若干重かった。



自分を席を確認し、席につく。既に半数ほどのクラスの人が来ており、1年の頃仲の良かった人を見つけしゃべっている人、喋り相手がおらず1人気まずそうにしている人などがいた。僕も仲の良い人が見つけられ無かったため、後ろで同じく気まずそうにしていた人と軽く挨拶を交わしていた。


そうこうしているうちに担任が、


「よし、それじゃあHRを始めます」

と言いながら入ってきた。

後ろの席の人とそれなりに仲良くなっていた僕は黒板の方を向いたとき、松橋先生が立っているのを目にし、自らの腐れ縁を激しく呪った。



HRで松橋先生が話しているのを何となく聞き流しながら、軽く周りを見回してみた。


隣に座っている人を見たとき、自分の目を疑った。


肩に着くかつかないかくらいの綺麗な黒髪で、HRの内容を前を向き丁寧に聞いてるその姿は、間違いようがなかった。




2学年新クラス。隣の席は未央だった。




まさか同じクラスになれるなんて。しかも前回の英語の授業のみのクラス分けとは違い、1年を通し様々なイベントを共にしていくクラスだ。しかも隣の席ときた。驚きと嬉しさのあまり、HRの先生の話など全く入ってこなかた。元より先生の話は基本的に聞いていないが。


HR終わり、僕は即君に話しかけた。


「すごい、同じクラスだね」

すると未央もそこで初めて隣が僕であることに気づいたのか、


「え、びっくりした。1年よろしくね」

と、驚きながらも笑顔で答えてくれた。未央の僕とは反対側の隣の席に座っている、1年の頃クラスが同じだった女子がこちらを見ながらニヤニヤしていたが、ひたすらに無視してやった。



その日、帰路に着く僕の顔にはにやけが張り付いたままだった。

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