天使に恋をした
とし
隣の席
高校1年の秋。昼休みを挟んだ後の英語の授業、先生が教科書の英文を読んでいるが、その声は窓から入ってくる風に乗って教室の外へ運ばれてしまう。
心地よい風と少しまだ暖かい気温、木の葉の間をくぐり抜けてきた太陽の光が教室に優しく包み込む。食後ということも相まって、教室には眠気に逆らいノートを書く人、心地良さに任せ机に突っ伏して寝ている人がいる。
僕、清水英之の席は窓側から2列目の1番後ろであり、僕の窓側の隣には君が座っている。
ふと、君の艶やかな、肩に着くかつかないかくらいの黒髪が風に撫でられ揺れた。僕より窓側に居るからだろうか、肩に丁度つかないくらいの黒髪の1本1本が柔らかな日の光を受け、僕には輝いているように見えた。髪の隙間から君の白い頬が見え、僕は何故だか少し恥ずかしくなり、教科書に目を落とした。
進学校である僕の通う学校は英語や数学など、それぞれの科目で定期試験の点数ごとにクラス分けがされる。基本授業は聞かずにそこそこの点をとっていた僕は、1番上のクラスでほぼ毎回の授業を寝て過ごしていた。あまりに寝ていたので先生も呆れ最近は注意もされなくなってきた。睡眠時間の確保にご協力ありがとうございます。先生。
前期の期末試験も終わり、季節は秋に入った。そして期末試験の結果を元に各教科で新しいクラス分けがされた。
1回目の英語の授業、最初から寝る気満々だった僕は、教科書の上に英語辞典を起き、ちょうどいい高さの枕とし、そこに頭を置こうとしていた。そこでふと、新しく隣になった人がどんな人か気になり、少し目をやった。
そこで僕は、君に目を奪われてしまった。
僕より1つ窓側に座っていた君は、陽の光を受け輝いて見えた。ごく平均的な身長に白い肌。少し幼さが感じられる顔立ち、そして日の光を受け輝いている黒髪。その全てに惹かれ、息を飲んだ。
眠気などは吹っ飛び、僕は君のことをもっとよく見たくて、でもじっと見つめるのも恥ずかしくて、君の方をチラチラと見ていた。
その時先生が、
「ではここの本文を隣の席の人と読み合わせてください」
と生徒に指示を出した。僕は少し早くなる心臓の鼓動を感じながら、君の座っている窓側の席の方へ体ごと向けた。
「は、はじめまして。えーっと、なんて呼んだらいいですか?」
「あ、斉藤未央です。未央って呼んでください」
そう答える君の声はとても小さく、教室のざわめきに掻き消されそうであった。
「じゃあ未央さん、読み始めましょうか」
「はい」
そう言って本文の読み合わせを始めた。読んでいる間も未央の声は小さく、正直僕はほとんど聞き取れていなかったが、なんだかその声の小ささまでもが未央の雰囲気と相まって可愛らしく感じられた。
周りの人より少し早めに本文を読み合い終わった為、僕は未央に聞いてみた。
「未央さんは6組だっけ?」
「はい」
「そっか、僕5組だから未央さんの全然知らなかった」
「私もほかのクラスのこと全然わからないです」
「やっぱりまだ高一だからほかのクラスのこと全然分からないよね」
「部活の子なら知り合いいるんですけど、それ以外はほかのクラス関わりないから全く知らなくて」
「僕も似たような感じですよ」
「そうですね。あ、お名前聞いてもいいですか?」
「清水英之です。英之って呼んでください」
「分かりました」
「あと、同い年ですし敬語はやめますか?」
「そうですね·····じゃなくて、そうだね」
と言って、僕らは少し笑った。
僕のちょっとした特技のひとつなのだが、少し話せば相手と波長が合うかどうかすぐ分かる。
未央とはものすごく波長が合うと感じた。
その日から僕らは英語の授業の度によく話をするようになった。
僕は気が合う人にはたくさん話しかけるが、気が合わない人には興味も抱けない性格だった。
そして僕と未央との会話の速度は決して早いものではなく、2人でゆっくりと喋れるのは唯一の接点である英語の授業中だけであったため、なかなか長い時間2人で喋っていることは出来なかった。
それでもなぜか未央との会話はとても心地よく、2人のペースで沢山話ができた。
廊下ですれ違った時には挨拶を交し、少し小話をしたりと、僕と未央との距離は少しずつではあったが確実に縮んでいった。のんびりではあるが決して途切れることなく、話してるとまるで時間そのものまでもがゆっくりになっているような感覚になる、そんな未央との会話の雰囲気が僕はとても大好きだった。
いつもは眠くてやる気の出なかった英語の授業も、未央が隣になってからは英語の授業が楽しみで仕方なかった。
授業が始まる前には、今日はどんな話をしようか考えたりもした。2人で話す時間があまりにも心地よく、授業中に寝ることはほとんど無くなっていた。(英語に限る)
いくら注意されても授業で寝ていた僕が急にずっと起きてるようになったもんだから、英語の先生からは何故か褒められもした。ごめんなさい。授業内容は相変わらず聞いてないです。ごめんなさい。
僕は未央の事がとても気になり、もっとたくさん話したいと思っては居たが、2人で長く話せる機会なども無かったため、時分が未央に対して恋愛感情があるかどうかはよく分かっていなかった。しかし付き合いたいという感情は不思議と無く、今はただ、未央といる時間の心地良さが愛おしく、ただひたすらに喋っていたい、そんな気持ちだった。
英語の授業で未央が隣になってから2ヶ月が経ち、次の定期試験も終わった。
今回の定期試験を踏まえ、教科ごとに新たにクラス分けがされた。そして新しいクラスになって最初の授業、1番上のクラスに残ることとなった僕は、隣に未央が来るのを待っていた。
しかし、未央が同じクラスに来ることはなく、隣には知らない人が座り、授業は始まった。
僕は軽く、隣の人に挨拶してみた。
「初めまして」
隣の人は軽く会釈した。そしてその後、会話が続くことは無かった。
僕は教科書の上に英語辞典をおき、そこに頭を乗せ静かに目を閉じた。
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