第8話 勇気の翼(2)

雲を掴む予定。


そう評されている。


それで良い、悪くはない。


「だけど、決して良くもないよねぇ…」


確実には乏しく、その線はか細く。


けれど唯一のまだ閉じておらぬ扉。


御影瑞己みかげみずきは、溜め息を吐きそうな所をグッと堪えた。


準備はあくまでも準備。


万全まで待ってくれる律儀な相手ならば、こう悩まないだろう。


「お兄様。」


そんなおり、声がかかる。


「ここに居たんだね」


妹の美夜みやだ。


「やあ、美夜。どうしたんだい」


「えっと、そろそろお昼だから声をかけに来たの」


「あれ、もうそんな時間か。」


割と朝早くに居たと思っていたのにな。


「うん」


「わかった、冷めない内に食べるよ」


頷き、また戻っていく妹の姿を眺めながらふと、水溜まりに自分の顔が映る。


ーー酷い顔だ。


両親や兄弟、親しい人間等にこれから地獄を見せようとする者には相応ふさわしいのかもしれないが。


昨日までに、何人、何十人がその命を落としたろう。


「絶対」


その口約束が一体どれだけの信憑性しんぴょうせいと結果を産み出すと言うのか。


「絶対」は有り得ない。


なれど「絶対」に逃げなければならない。


「はぁ…」


なんて後ろ向きな理由だろう。


批判や躊躇ちゅうちょは言わずもがな。


だが責任なんて僕が被れば良い。


恨まれても、さげすまされても、構わない。


皆が無事で。


それが代償と言うのなら、喜んでその悪名を被ろう。


「時代が先に進むのなら。此処で終わってはいけないんだ。」


「絶対」に。


そう遠くない未来。


予知にも近い予感。


この仮初めの日常は、脆くも崩れ去るだろう。


それは明日か、明後日か。


「僕は」


霊魔にとって、正義でもなんでもない。


一度死した者を斬り伏せる。


人斬りに等しい。


花守と言う免罪符めんざいふをもってしても変えようのない事実であり不文律だ。


「許して、とは言わないよ。」


修羅しゅらとなる覚悟は、出来ている。


心優しき、人でなし。


人知れず、可能性にその身を捧げた男。


ーーーーーーー



その決意が、後に悲劇の引き金になると。


ー今は、誰も知るよしは無かった。


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