第7話 勇気の翼

その日は晴れていた。

曇りと晴れの区別がつかない空。

気温だとか、天気の話じゃない。

今日がそういう日なだけ。


洗濯物を干そう。

昼寝をしよう。

趣味に時間を割こう。


「おいひぃ」


美味しいものを食べよう。


何を隠そう甘いものだ。

ふとる?

よし、一歩前に出なさい。

頬に紅葉もみじを作ってさしあげましょう。


銀髪の風貌ふうぼうのせいか、好奇の視線を受けることが多い。

実際、アタシの両親はこの国の血が流れていない。勿論、アタシも。

その容姿の為に、それはもう酷い目に遭いましたとも。


目の色から髪の色。両親の見た目の異質さ。


でも、アタシはこの国しか知らない。この場所しか知らない。

当たり前に皆と同じ言葉を覚え、当たり前に成長してきた。


だからこそ、思う。


全員が、逃げる事に賛同してはくれないと。


慣れ親しんだ場所から新たな場所へ。

簡単なことではない。


絶対。


この言葉が可能性や確率にどれだけ打ち勝てると言うんだろう。

為すすべもなく、生死に立ち向かう人間がどれだけいるんだろう。


「怖いよ。」


逃げる時に躓いたら?

化け物に捕まったら?

皆とはぐれてしまったら?

―――誰かが死んでしまったら?


正直、立ち止まる自信がある。

後悔する自信がある。

泣き叫ぶ自信がある。


だって、なにも出来ないから。


不安と恐怖は強いから。


でも。


あの言葉がアタシの頭の中から離れない。


皆の前で瑞己達が告げた後に、皆に向けた彼の言葉。



「……最後に。一つ、良いかね。私も皆と同じく戦う力は無い。」


「ミズキ、そんな事は」


「良いのだ瑞己。事実ゆえ。このまま、言わせて欲しい。」


眼鏡の青年は、そうして続けた。


「孤独は一番、全てをむしばむ強いもので。助けを求めるのも、人間がそれに影響されるのも弱いからだ。残念ながら。」


悔しそうに顔をしかめながら


「辛い、怖いは今だけだ。」


「助けを求めず、自分で自分を届ける。そんな戦う事を覚えよう。」


「何も出来ない事が堪らなく悔しくある。そんな者等が正面を切って生き延びる道を諦めぬ。」


「…………諦める事。」


噛み締めるよう、絞り出した言葉。


「やられ続ける事。―それは『』違うのだ。」


ずっと、ずっと。


どうしようもないと。


手も足も出ないと。


皆思ってた。


仕方ない、って。


倒すとか、やっつけるとか。


そうじゃない。


たった一つじゃない、やり方。


何時しか不文律ふぶんりつになっていた、諦めること。


戦う事は、逃げる事。


だけど、彼にとって。


彼等にとって。


アタシ達に向けた言葉はアタシ達にとって。


戦う事は逃げること。


逃げることは戦う事。


そして諦めない事だと。


「死ぬなんて、勿体もったいないからね」


ミズキくんに続けるように、瑞己がそれに続いた。


そんな事を思い出したら。


「つい昨日のことなのに」


何時ものように過ぎてゆく時の中で。


何時ものように過ぎるべき時の先で。



「待ってて。」


夢見るのは


素敵な明日を。


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