第6話 明日天気に…(4)

………うん。


説得力と言うよりは、感情に訴えかけるものがあったな。


彼等の真剣さも、不安さも全部ごちゃ混ぜでさ。


誰もが持ってる不安要素みたいなのを全部捨てずに持っていく、って。


宣言したんだ、彼等は。


置いていく必要なんてないんだよ、って。


悔しいけど、響いちゃった。解ってながらとか、ずい。


瑞己みずきのパパとママや美夜ちゃんまで、本当の本当に本気なんだ。


どれだけ難しいか判ってるのかな?


有紗ありさ


そんな時、呼ばれた。眼鏡のミズキクンに。


「な、なぁに」


「…お前の功績だ。私達では。全ての民を集める事、叶わなかったろう。」


「どーしたの、急に」


此度こたびの作戦に、私は物の数に入らん。…皆の重い腰を上げて貰うまでが肝要であった。」


動ける全員、までが足を運ぶとは思っていなかったのだと。


「どうして?強いじゃんか、ミズキクンも」


「人間相手ならばな。多少は、力になれよう。…だが、相手は特殊だ。当てる事が出来ないのでは立ち位置にすら立つ事を許されぬ。」


人でなき者達。


同じ場所へと誘う者達。


常識が通用しない者達。


痛感するは、無力な己自身。


「…それでも、戦うんでしょう」


それでもその目は、絶望に塗り潰される事を否定するのだ。


「…………ああ。」


「頑固にも程があるよね」


皆が賛同してくれた訳じゃない。


そんな否定する人達でさえ連れてくんだ、彼等かれらは。


「瑞己ほどではない。」


大概たいがいだよ、貴方も。


……………

……


「大丈夫です。私、こう見えて意外と器用なんですよ」


へぇ……と。


その手元を見て、数人が感嘆の息を漏らす。


頭の左側に留められた髪を揺らして、彼女がそう言った。


煮込まれた鍋の中身を囲むよう、人だかりが徐々に増えていく。


「沢山ありますから、是非食べていって下さいね」


そうして器に盛られたソレを配っているのが


美夜みっちゃんの手料理は僕が保証しますよ」


締まりのない顔をしながら慣れた手つきで手渡す男と


「バカ息子達がご免なさいねぇ。いきなり突拍子も無い事から突き付けちまって。」


世間話のように空気を和らげながら配る女。


御影夫妻とその娘。


『息子さんが言ってた事は、本気なの?』


「あー…今すぐにって訳じゃないのさ、出来るだけ早い避難はして欲しいとは言っても皆が納得してなきゃ意味が無いんだ」


『納得?』


「今生の別れには、させない。けれど、此処には置いていけない物もあったりするだろう。無理強いをさせたいんじゃあ無いんだよアタシ達は。」


『じゃあ、どうして…』


「目の届かない場所ならまだしも、手が届く場所にある以上は、ほっとく訳にゃいかないだろう?ましてや顔馴染みだ。」


少し気恥ずかしそうに、はにかみながら女はそう言った。


「また明日」を迎える人は全員が良い、と。


「流石、蘭さんカッコいい〜」


「張っ倒すよ、梓。」


クスクス…


真面目な話をしていると思ったらふざけている。


ああ、これは。


最近、無くなって久しい日常の光景だった。


「向こう行ったら、またこうやって集まろう。きっと、もっと賑やかになるだろうね。」


男が口にして見上げた方角には、錯覚か幻か。


虹が見えた気がした―

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