第5話 明日天気に…(3)

人数はお世辞にも多くはなく。


活気溢れるあの日常の半数程になってしまった。


それでも、何故此処に集められたのか。疑心暗鬼ぎしんあんきさいなまれた人々が其処に固まっていた。


「皆さん、こんにちは。御影道場のせがれです。」


そうして似つかわしくない挨拶で始まる。


「夢物語を語ります。」


あろう事か、そう続けた。当然、場はざわつき始める。


「今、街は死と隣り合わせです。このまま状況の改善を待っていた所で先は望めない。…なので、皆さんには是非とも生きて頂きたい。」


出来るものならそうしている。

誰しもが怒りに任せ、口にする事が出来たのに、返るのは静寂ばかり。


「つい先日、この脅威に立ち向かうべくした組織よりの招集がありました。…彼等かれらは、この状況を押し返しつつあるんです。」


返答が返らない位の疲弊と諦めは筆舌に尽くしがたく。


「…どうか、考えては頂けないでしょうか」


ぽつり、と一人の老人が呟いた。


『…簡単には言うがのぅ、儂等みたいな者を連れて本当に成し遂げられると思っているのかね』


「はい。」


間髪を入れず、しかし視線は逸らさず言葉を発した者を見ていた。


『口で言うは容易いが…』


「もし、貴方達の誰か一人でも犠牲になるようであれば」


眼鏡の男がそれに続き


「私とこの者も、冥土の共をしよう。提案を成せずしてどうして生き延びれようか。」


御影瑞己みかげみずきと呼ばれた者も頷いた。


先程とは違ったざわめきが起こるが、賛同の声は未だに上がらず。


「……して死ぬる諦めが出来るならば。」


「いっそ、逃げましょうよ皆で。」


しぃんと、辺りが静まり返った。


先程さきほどのような緊張感のある静けさではない。


戦うでも、抗うでもない。


「ただし、皆さんの誰一人犠牲にしません。お約束します。」


単なる口約束でしかないソレ。


「だから…悲しむより、笑って。霊魔の奴等に左右される感情はもう、おしまいにしましょう。」


誰一人。


考えもしなかった。


口にも出来なかった。


生きれる?


この先を?


どの道を選んでも死が付いて回るならばーー


だが。


だが。



この感情は染み付いて久しい。


前に進めなくなるには十分に。


未来を望めなくするには十分に。


この足枷は、見えない呪いだ。


変わりそうだった空気を、何もなかった事にする程、強力な…


「…そろそろか。」


そんな折、眼鏡の青年がそう口にするが。


ーーーーー


ーーーーー


ーーーーー


音が聴こえる。


いや。


これは、言葉こそないが


うただ。


誰ともなく、その方角に皆の視線が向く。


「心配するのも無理は無いよ。だけど…」


「息子達だけでは、ご不安でしょう。僕達が、その言葉をより真実に近付けるお手伝いをしましょう。」


知る者は知り


その活躍は当時奇譚きたんを生んだ。


御影道場みかげどうじょう前、


「まだ、腕は錆び付いちゃいないさ。御不満かい、皆様方。」


御影蘭みかげ らん


「花守、と大層な者ではないけど、怪異と渡り合った経験が必要と自負してるよ。」


御影梓みかげあずさ


口上を述べていた者の実両親。


その奥、音の発生源ー


「ーーー………どうか、どうか。私たちに皆様の未来を作るお手伝いをさせてください。」


歌声はこの世界に在りて異質。


清浄な響きすらもたらすその音は、可能性を示すにはきっと。


小さい子供達が、つられて歌い始める位に皆が知る歌が身体へと染みて行く。


御影道場、花守候補はなもりこうほにして次期当主。


こんな小さき者ですら、立ち向かう。


この場にいての


御影美夜みかげみや


役者は、揃った。


更に道場の門下生達を背後に、この作戦の達成を成し遂げんとす。


止まった時間の針が


動き出す音がした。
















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