第4話 明日天気に…(2)

「良い天気にしたいね」


「全く、これじゃ洗濯物も満足に渇きゃしないよ」


曇天染みた空を眺め、縁側で男女が口にする。


御影梓みかげあずさ御影蘭みかげらん夫妻。瑞己、美夜の実の親だ。


「怖い?」


「そりゃ、少しはね」


「僕も」


お互いが、そうして見つめ合えば笑いあう。


が、しようとしている事は決して確実じゃないもんねぇ」


「それを承知の上で、やると言ったんだ。親が背を押さない訳にはいかないだろ?」


………………。



今より数刻前。



感染症のように徐々に蔓延まんえんしてゆく明らかに身体に影響をおよぼし得る空気。


実体を持たないようでいて、アチラ側からの危害は後を絶たず、


刀を振るおうが、物を投げようが虚像きょぞうのように。


まるで存在しない者達に命を奪われ続けるのだ。


これを絶望と呼ばずしてなんとする。


悲観、号泣、自ら命を断つ事を選んだ者すら、少なくない。


街の中は、半ば死んでいた。



僅かな希望、そして抵抗が続いていたのが花守はなもりと呼ばれる者達だ。


彼等は絶望をその手で文字通り退ける事が出来るすべを持っていた。


しかしそれも才能や潜在能力、継承、遺伝によるもので絶対数は決して多くはない。


また全ての者が脅威に立ち向かうとは限らない。


それが普通で、人間である以上避けられぬ思考である。


普通なら。


「ミズキ、提案があるんだ。」


突拍子も無く眼鏡のミズキクンに御影瑞己みかげみずきはそう告げた、有紗アタシの近くで。

二人はおんなじ名前なんだ、ややこしいよね。


『……藪から棒に。何だ。』


億劫そうに受け答えるミズキクンは、続きを促した。


「…先日、書簡が届いてね。内容は花守部隊への招集命令だった。」


『…!そうか。現状が現状だ。当然、行くのだろう。』



即座に、否定の言葉が返った。


『……成る程。』


何がなるほど、なのか私にはわからない。だけど、彼が言わんとした事はなんとなく解る。


禾橋ここの皆を置いては、とても。」


『良いのか。分が悪い賭けには違いないぞ。』


「分が完全に無くなるよりはマシさ。」


『…覚悟が、くつがえらぬか。』


「疲れるだろうね。これ以上ない程の恐怖も、怪我もする。非難され、恨まれ、無謀だと嘲笑あざわらわれ命すら、危険に冒される。それでも…」


決意に満ちた言葉は絞り出されるように、それが余りに現実的でない事を物語っている。


『全く。雲を掴むような話、だ。確かに笑われるだろう。恥も掻くだろう。』


「ミズキ…」


『それでも…今より。ずっとマシだろう。』


二人の視線が重なりあった。


「あのさ…二人とも、何の話?」


耐えきれずに思わず聞いちゃう。


瑞己とミズキクンは何の事を話していたのか、後になって解らなくなったからね!


「有紗、今からキミも協力してくれるかい」


「何を…??」


『簡単な話だ。』


「いや、だから何が!?」


「このまま此処に留まっていたら待っているのは確実な終わりなんだよ。」


ようは。』


要は…?


『現在、禾橋に残る者全てを引き連れて霊魔達のただ中を突っ切る。…そうして現在花守達が在籍する区画まで撤退する…と言った訳だ。』


「その為には皆を説得しないといけないからね。集めるのを手伝って欲しいんだ。」


な、


な、


なんって事を考えてるの、この二人!


「民衆の安全と保護。及び生活の保証。それがとして…先方から快諾を頂いてる。」


『皆が。後は応じるか否か…ではある。』


そんなの…


そんなの!


「アタシ、皆に声をかけてくる!ううん…引き摺ってでも連れてくる!」


人知れず終わりを迎える未来を変えるべく、時は動き出す。


決められた未来を切り拓こうとするのも、また人である。



そしてこの後の出来事により


禾橋のぎばし

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