第2話 たった一つの冴えたやり方 (2)

タッタッタッ……


辿り着いた場所では、緊迫した空気が流れていた。


ざわざわと何人もの人達の声がする。


積み荷を積んだ荷台が無惨にも地面に散らばっていた。


人質が一人野盗に刃物を突き付けられてる。


出来る事は―


「良いか少しでも妙な真似をしたら、コイツの命は」


「ごめんなさいっ!」


ビシッ


「―はっ?」


口上が終わる前に、野盗は不思議そうな声を出した。


やがて、自分の手首が何かで打たれたのを痛みで知る。


「てっ、テメ―」


「ごめんなさい!」


バシッ


「グェッ!?」


言わせて貰えず今度は顎を揺らされた。


何が起こったのか。


野盗の恫喝の最中、


そしてすれ違い様に小太刀の鞘を手首、次いで顎に打ち込まれた者は、決して屈強じゃないようだから…


世界を回したまま、ゆっくり倒れ伏せた。


………………。


シン…と静まり返るその場。


「えっと、お騒がせして申し訳ありません。もう、大丈夫です…か?」


右左を見渡してお仲間が居ない事を確認して

ぺこりと頭を下げた。


……ワッ


ドワァァァッ!!


それを呼び水に、盛大な歓声がその場に湧き上がる。


「どうなったの今!?」


「わかんねぇけど、すげぇや!」


「今のうちに縛って、郡役所ぐんえきしょに連れてきましょ!」


口々に思い思いの言葉を吐く。


「あ、あはは…ど、どうも…」


生来せいらい、称賛される事が恥ずかしかったり、控えめな性格が災いして巧く受け答えは出来ないけど。


皆が無事で良かった。


話を聞いて直ぐに、なんて出来すぎな話ではある。


「これ持ってきな!」

「じゃあ、ウチはこれね!」

「何時もありがとねぇ!」


そうして、暫くして―


「…あ、ありがとうございますっ…」


皆に見送られて歩き出しますが


お魚、お肉、野菜に、両手で抱える大きさの西瓜スイカ等々…


さっきの颯爽とした足捌きは何処へやら。


よろよろとした足取りは否めない。


…帰れるかな?


『相変わらず人気者ねぇ、美夜は。』


「この街の人たちが良い人たちばかりだからだよ。…嬉しいけど、大変。」


本来なら。


こうして刀霊と語らう事は、去年には出来なくなっている。


この街、ひいては夕京を揺るがす出来事の後以来、存在を認識、力を示す為の霊脈自体が無くなってしまったのだから当然だ。


では、何故こうして存在して会話なんてしてるかというと。


『この後は、何時もの場所に行くんでしょ?間に合うかしら…』


「…が、頑張る。」


『貴女の歌を待ってる人の為、がんばれがんばれ♪』


わたしは、恥ずかしがり屋なクセに歌が好きだ。


家族も。前当主ぜんとうしゅも、お兄様も。私の些細な趣味を肯定し続けてくれた。だから、今でも好きでいられている。


わたしの歌には、自分でも理解しきれていない霊力と似たような何かがあるみたいで。


彼女が未だに傍で助けてくれるのは、正直嬉しい。


そんな歌声で。


少しでも、元気になってくれたり、やる気になってくれたり。その人の何かの力になってくれるなら。


届くかな。


届くと良いな。


今日は昨日より遠くへ。


―まだまだ、今日は終わらない。

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