禱れや謡え花守よ【日常】

水本由紀

一章 こころのつぼみ

第1話 たった一つの冴えたやり方

ーー1年が経ったーー


活気の増えた町並み、心身共に多少癒えてきた頃。


禾橋のぎばしに、その姿は在った。



「御影家当主様、御足労痛み入ります」


「労いの言葉、感謝致します。……出来れば、畏まった形式は止して頂けますと…」



身なりのしっかりとした男性が、労いの言葉を向けてくれた。


それに言葉を返すのが、少女。


御影家当主・御影みかげ美夜みや


右側にて束ねた髪が、上下に揺れる。


「なら、キミもだよ美夜ちゃん」


「ふふ、そうだねオジさん。」


そうして畏まった挨拶が可笑しくて笑ってしまった。


変わらないなぁ、と思う。


それを嬉しく思う。


夕京でこそ霊魔の騒ぎが鳴りを潜めたものの、全国で似たような事が起きているかは分からない。


「…それじゃ、お願い出来るかい。無理はしちゃ駄目だよ」


「はい。」


頭を下げて、その場を後にした。


……


お願いされた事とは何かというと…見廻り。


『……美夜、美夜。』


周囲に人影はない。独り言?そうじゃなくて、実は…


「どうしたの絶?」


何もない場所にゆっくりと幽霊のように妙齢の佇まいが隣に。


『格好良かったよ、凛としてて』


「えへへ、有難う…照れちゃう。」


『主様が居なくなってから、ずっと頑張ってたもん。』


「…うん。」


そう。


前当主ぜんとうしゅより、わたしに絶と立場を託されてから早いもので季節が巡った。


小太刀の二振り、名を[絶影ぜつえい]


刀霊と称される彼女は、所有者の想いを霊力ちからに乗せる事が出来る。


持ち手の歌声に踊るように融けてゆくようにその身を体現していく。


かつては、わたしが追っていた背中が持ち主だった。


『美夜は、美夜らしくで良いの。ずっと、主様はそう言ってたわ。』


「そうだね。わたしは、わたしにしかなれないから。お兄ちゃんは、そんな所までお見通しだったんだ…敵わないなぁ」


溜め息をつきかけて


「う、うわぁ!野盗だ!皆、逃げろ!」


切羽詰まった叫び声がそれを遮った。


「急ごう、絶!」


腰の小太刀の柄を軽く握って走り出す。


ーこれは、夜と、血液と、足跡ぜんとうしゅの物語だった。


そして、きっと。


正義わたしの物語でもある。

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