第34話 解呪……できませんでした
オナ〇ワームを売りに行ってから一週間が過ぎた。
俺は手紙に書かれていた通りに、ルートの屋敷にやってきた。
「おお、よく来たなアル!わざわざ来てもらってすまないな」
「いやいや別にいいよ。童貞が捨てられるんだったら、俺は宇宙の果てまで行くよ。……で?肝心の呪術師はどこにいるんだ?」
「ああ、その呪術師なら俺の後ろにいるぞ」
ルートの後ろを見てみると、たしかにフードをかぶり込んだ人がいた。
「初めまして、フォート・アレイス様。私は『エッシャトルテ』と申します」
声の高さから、相手が女性であることが分かった。
「この呪術師は凄くてな、俺やほかの勇者の呪いを軒並み解呪してくれたんだ!」
「マジかよ!?」
「はい、私の手にかかれば、どのような呪いであろうと解呪することができます」
こりゃあ、期待できそうだ!
勇者が生まれつきかけられている呪いは、古来から誰にも解呪することができなかったものだ。
それを、この目の前にいる呪術師はいとも簡単にやってのけるというのだ。
これを期待しなくてどうする!
「それでは、早速解呪の方に移らせていただきます」
「は、はい!」
「それでは、
「わ、分かりました」
言われた通りに、俺が手を差し出すと、呪術師は筆を使って俺の手に魔法陣を書き始めた。
「……はい、これで書き終えました。では、これからアレイス様の呪いを解呪していきたいと思います」
そう言うと、呪術師は俺の手を強く握った。
すると次の瞬間、俺の手に書かれた魔法陣が光り始めた。
これから、俺の呪いが解呪されるのだろう。
と、思ったとき、思わぬ事態が起こった。
「あ、あれ?」
呪術師が突然、困ったような声を上げた。
「ど、どうかしましたか?」
「い、いえ。アレイス様の呪いは、私が今まで見たこともない術式で組まれていて……」
「えッ!?」
「だ、大丈夫です!絶対解呪して見せますから!」
とは言っているが、だいぶ切羽詰まったような話し方だ。
「ぐうぅぅ……!何よこれ……、どうやったらこんなにスキのない術式が組めるのよ……!?」
そんな呪術師の独り言が聞こえてくる。
「だ、大丈夫ですよね……?俺の呪い解けますよね……!?」
「だ、大丈夫ですから!」
すると、次の瞬間。
「きゃッ!?」
「うおッ!?」
突然、彼女に握られていた手に激痛が走った。
何だと思って手を見てみると、先ほどまであったはずの魔法陣が消えていた。
「あ、あれ?魔法陣は?」
「……どうやら、呪いに魔法陣をかき消されたみたいですね」
「呪いが魔法陣を消す?」
「はい、先ほども私が申し上げたように、あなた様の呪いは未知の術式によって組まれています」
「未知の術式?」
「あなた様のタレントは、魔物を生み出すものだとお伺いしました。それは生命を生み出す力、まさに、神にも等しい力です。そのため、呪いの解呪も一筋縄ではいかないということです」
「じ、じゃあ……、俺の呪いは……?」
「……残念ながら、今の私にはそれを解呪することはできません」
「そ、そんなぁ……」
40年待って、やっと童貞が捨てられると思ったら、結局捨てられない。
俺はこの先、ずっと童貞を捨てることができないのだろうか?
俺が落ち込んでいると。
「ま、まあ元気出せよ!別に、この先ずっと呪いが解けないって決まったわけじゃないだろ?」
「まぁ。そうだけど」
「前向きにいこうぜ!いつかは絶対解けるって!」
ルートが励ましてくれた。
……やはり、持つべきは男友達だ。
こういうときに、誰よりも自分のことを助けてくれる。
「……そうだな」
「まぁ、今回は残念だった。わざわざ来てもらったのに、すまないな」
「いやいや、ここに来たのにはもう一つ理由があるんだ」
「え?もう一つ?」
「ああ、お前に頼みがあってな」
そして、今日はあの日から一週間。
俺はルートの屋敷に行くことに加え、もう一つすることがある。
それは……。
「はーい!押さないでください!ちゃんと全員分ありますから!」
オナ〇ワームの販売だ。
あのあと、俺が売った男たちから話が広まったのか、俺の露店に来た客は百人を超えていた。
「あ、あの!一つください!」
「はい、3000ゴールドです!」
おかげで、俺はぼろ儲けだ。
このオナ〇ワームは俺のタレントによってノーコストで生み出すことができる。
よって、オナ〇ワームを売って得た金は、全て利益になる。
よってこれは、利益100パーセントの超美味しい仕事なのだ。
売れ行きも順調。
すでに50人ほど売っただろうかというところで。
「ちょっと、あなた何やってるんですか?」
「はい?」
突然、誰かに話しかけられた。
「警察です。ここで販売許可の下りてない露店があるとの情報を得たものでしてね」
俺に話しかけてきたのは、一人の女性警察官だった。
……ちょっと思いついた俺は、呪いを解除できなかった腹いせを、この人にぶつけることにした。
「どうしたのお嬢さん?いくら警察のコスプレしてるからって、本当の警察名のっちゃダメでしょ」
「これはコスプレじゃありません。私は本物の警察官です」
そう言うと、その女性は警察手帳を見せてきた。
「おおっと、これは失礼。まさか本物の警官さんだとは。いやー、このあたりにいる女性警官さんは、てっきり婦警コスプレ店の嬢さんかと思っていたもので」
「……いえいえ、別に大丈夫です」
絶対に大丈夫じゃないだろう。
女性警官のこめかみに青筋が浮かんでいる。
「……で、本題ですが、この露店はこの町の販売許可を取っていませんね。町のリストには、このような店の存在は記されていません」
「あれ?そうだったかな?」
「とぼけないでください。あなた、今日ここに初めて露店を出しましたよね?店を開くには、三日前には町からの許可を取る必要があるんです」
「へー、そうですか」
俺は鼻をほじりながら、女性警官の話を聞く。
それを見た警官は、顔を引きつらせながら話を続ける。
「へー、そうですかって……、そういうわけで、この露店はまだ販売許可が下りていないので、開くことはできません。一刻も早く、この店を閉めてください」
「だが断る!」
「……あくまで、断るということですね。それでは、最終手段として……」
「俺を逮捕するって?それは無理だぞ」
俺はそう言うと、女性警官に一枚の紙を見せつけた。
「こ、これは、『特別認可証』?」
「そう。販売とか、一部許可の必要な行為は、これがあれば許可をわざわざ取らなくてもできるっていう代物だ」
「そ、そんなもの、聞いたことがありません!」
「信じられないっていうなら、ここを見てみろ」
「え?これは、署名ですか?名前は、『ドングラス・ルートリア』!?」
「そう、俺はルートリアに直接、販売の許可をもらってるんだ。あんたたちが俺にどうこうすることはできねぇよ!」
俺のルートへの頼み。
それは、この『特別認可証』を作ってもらうことだ。
これがあれば、今後、面倒な時に相手にこれを見せつけることで、相手を簡単に黙らせることができる。
ようは、水戸黄門の紋所のようなものだ。
「ぐ……ッ!」
「ハハハ!警察に俺を止めることはできねぇよ!」
その後も、俺はその女性警官にドヤ顔をしながら、オナ〇ワームの販売を続けた。
女性警官が、唇をかみしめながら悔しがる様子で、俺はご飯3杯は食えそうだった。
だが、俺はこのとき、オナ〇ワームを売らなければよかったと、あとで後悔することになる。
もちろん、そんなことを……。
「ハハハハハッッ!!大漁大漁!がっぽがっぽ稼ぐぞ!」
このときの俺は、知る由もなかった。
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