第31話 占い師の言っていた意味

「…………ん?あれ……?ここは……?」


俺が目を覚ますと、視界によく見慣れた天井が入ってきた。


「あ!魔王さま!魔王さまが起きた!」


「そうだ……、たしか俺……」


右を向くと、涙目のアロマが俺の手を握っていた。


「よかった……、よかったよぉ……!」


アロマがボロボロと涙を流している。


よほど嬉しいのか、かなりの強さで俺の手が握られている。


……いや、とても不安だったというのもあるのだろう。


周りを見渡すと、他にも見慣れた顔があった。


「魔王さま……!大丈夫ですか……?」


「おい、アル!お前目ぇ覚ますの遅すぎだろ!どんだけ心配させれば気が済むんだよ!」


そこには、とても心配そうな表情をしたソルトと、涙目のルートがいた。


「……おい!ソルト……、お前……!?」


ソルトが表情を変えた。


その事実に、思わず俺はベッドから飛び上がると、彼女の顔をじっと見た。


「えっ?ま、魔王さま……、どうかされましたか……?私の顔に何かついているんですか?」


「いやお前!表情が!」


「えっ?あっ……」


(ど、どうしよう……、思わず表情が……!ば、バレちゃったかな……?私が本当は表情を変えられるっていうこと……)


「よかった……、お前心配な顔はできるんだな!ハハハ、この調子で笑ったりとかもできるか?」


「え?いや……」


「ちょっと魔王さま、ソルトが笑うわけがないでしょ!そんなことより、まだ危ないんだから、早くベッドに戻って!」


「まぁ確かにそうか。あと、たぶんもう大丈夫だ。ベッドに戻る必要はなさそうだぞ」


(よかった……、バレてないみたい……)


「それより、一体何があったんだ?俺、ミメシスにあの首輪をつけたあたりから全然記憶がないんだけど」


「分かった、俺が説明しよう」


そこから、しばらくルートの説明が続いた。




あの後、ミメシスの行動をほぼ完全に封じ込めた俺は、多量の出血のせいで意識を失った。


そのとき、アロマがテレポートを使い、ルートの屋敷の前に俺を連れてきた。


『誰か……、回復魔法が使える人はいないの!?』


幸いなことに、そのときルートの屋敷には、あのビキニ幼女勇者がいた。


彼女のタレントは、回復系のタレントだ。


彼女の力によって、俺は傷を塞ぐことはできた。


だが、かなりの量の出血をしたらしく、脳へのダメージが大きい可能性があったらしい。


そのため俺は何日も寝ていて、ずっと目を覚まさなかったらしい。


「だけど安心しろ!フォート・アレイスはもう完全に治ったぜ!」


そう言って、俺はにっこりと笑った。


「たくっ……、心配かけさせるなよ」


「本当よ!私たちがどれだけ心配したか……!」


「ごめんごめん」


「それと、俺から話すことがもう一つある」


「おう、何だ?」


すると、突然ルートが真面目な顔つきになった。


「アル、いや、フォート・アレイス殿。この度は、魔王軍幹部を生け捕りにしていただき、誠にありがとうございました」


「な、なんだよ突然?」


「これは友人としてではなく、一貴族としての仕事だからだ。真面目に聞いてくれ」


「お、おう……」


ルートは一呼吸置くともう一度話始めた。


「つきましては、この度、魔王軍幹部ミメシスの討伐の報奨金をあなた様にお渡しします」


……報奨金?


「本来であれば、報奨金の3億ゴールドがあなた様に送られるはずですが、今回の場合、討伐ではなく生け捕りなので、本来の額をお渡しすることはできませんが……、協議の結果、本来の額の3分の1の額の報奨金をお渡しすることになりました」


……おい、まさか!?


「よって、あなた様には、国から1億ゴールドの報奨金が送られます!……おめでとう、アル」


「……はは、嘘だろ……マジかよ……!?」


俺は、一瞬にして大金持ちになった。







「カンパーイ!」


「「「「「「「「カンパーイ!!」」」」」」」」


ジョッキとジョッキがぶつかり合う音がする。


そう、手に入れた大量の金を使って、俺はパーティを開いた。


「いやぁ、さすがは魔王さま!敵の幹部を生け捕りにするとは……!」


「いやアトラス、俺はたまたま運が良かっただけだよ」


「何をおっしゃいますか!運も実力のうちというでしょう!」


「はは、まぁそれもそうだな」


正直言って、今回は本当に運がよかった。


あの『絶対服従の首輪』がなければ、俺は今ごろ死んでいた。


全ては、あの魔道具専門店に入ったことが正解だった。


あそこに入らなければ、あの首輪を手に入れることもなかっただろう。


また今度、お礼にあの店で何か買ってあげるとしよう。


そのとき、俺は占い師が言っていたことを思い出した。


『何か探し物をするときは、自分の一番近いところから探すと良いと出ています』


「ああ、あの占いはそういう意味だったのか」


あのとき、俺はミメシスを倒すための打開策を考えていた。


そんなとき、俺はバッグの中に入れていた『絶対服従の首輪』のことを思い出した。


バッグの中に手を入れると、首輪のロックが外れていた。


探し物というのは、ミメシスを倒すための打開策のことだったのだ。


それが、俺の一番近いところのバッグの中にあった。


占いが見事的中している。


「あの占い師さんの所にも、お礼を言いにまたいつか行かないとな……」


そう思いながら周りを見渡すと、ロイドの姿があった。


「おお、ロイド!久しぶりだな」


「それはこっちのセリフだよ!お前、魔王軍の幹部を倒したんだって?すごいな!」


「いやいや、生け捕りにしたんだよ」


「それでも十分すごいじゃないか!……で?いくら貰ったんだ?」


「は?何が?」


「報奨金だよ!いくら貰ったんだ?」


「あー……報奨金ね。まぁ、討伐じゃなくて、生け捕りにしたから、貰った額は少なめなんだけど……」


俺は少し遠慮して。


「まぁ、1000万ゴールドもらったよ」


もらった額の10分の1の額をロイドに伝えた。


「へぇ、すごいじゃないか!1000万か……、俺も魔王軍幹部を倒せばそれくらい貰えるのかな?」


「当たり前だろ!討伐だったら、もっと貰えるぞ!」


「そうか!じゃあ、次に魔王軍幹部が現れたら、俺が倒しちゃおうかな!」


「おうおう、やっちまえやっちまえ!」


二人で笑いあう。


「あ、そうだ。ロイド」


「んあ?何だ?」


「面白いもの見たくないか?」


「面白いもの?」


俺は不敵にニヤリと笑った。







「よう、ミメシス!調子はどうだ!」


「クソッ、この首輪をさっさとはずせ!」


今、俺とロイドは牢屋の前にいる。


牢屋の中には、俺をにらみつけるミメシスがいる。


「こいつがその魔王軍幹部か?いい体してるな」


「そうだろ?これから、こいつの体を自由にできるんだぜ」


「ク……ッ、あんたたち、あたしに何をするつもりだ!」


「そりゃあ決まってんだろ。今、お前は俺の命令に逆らえない。つまり……」


「……まさか!やめろ!あたしは辱めは受けない!さっさと殺せ!」


「おいおい勘違いするな。そういうことじゃねぇよ」


「え?どういうことだ?」


「その首輪で、お前に性行為を強要することはできないんだよ」


そう、この首輪にはもう一つルールがある。


それは、法律に触れるようなことはできないというものだ。


例えば、自殺を命令したり、性行為を強要したり。


命令で犯罪をさせることもできない。


さらに、本人が抵抗できないように命令して襲おうとしても、その瞬間首輪の効果が切れて、抵抗できるようになるらしいのだ、


これは、改めて首輪の説明書を見て分かったことだ。


とても残念だ。


ミメシスはスライムだ。人じゃない。


だから、童貞を捨てられると思っていたのに……。


「でも、こういう命令はできる。『両手を頭の後ろに回してガニ股になれ。そして、腰を上下させろ』」


「うっ!?体が……勝手に……」


俺の命令通り、ミメシスは両手を頭の後ろに回しガニ股になると、腰を上下に振り始めた。


「ハハハ!こりゃいいな!酒も右手もはかどるぞ!」


「そうだろうそうだろう!」


「ぐううぅぅ……ッ!貴様ら……!」


「さぁて、お次は……」


そのあと、俺とロイドは一通りミメシスの痴態を楽しんだ。







「……んぅ?んぁ……、ここは……俺の部屋か?」


気が付くと、俺は自分の部屋のベッドで寝ていた。


「あれ、おかしいな。たしかさっきまで、ロイドと酒を飲んでいたはずなんだけどな……?」


酔っぱらって、いつのまにか寝てしまっていたのだろうか?


俺はベッドから起き上がると、俺の枕のそばに一枚の紙が置いてあるのに気が付いた。


「あれ?何だこれ?」


その紙を開いてみると、中には文字が書かれていた。


文字を読んでみる。




アレイスへ


たぶん、お前が起きたときにはもう俺は城にはいないだろう。


何も言わずに出ていくことになってすまない。


でも、これ以上お前のところで世話になるわけにもいかない。


だから、俺は帰らせてもらう。


今までありがとうな。


すごく楽しかったぜ。


マカ・ロイドより




どうやら、ロイドからの手紙のようだ。


「そうか……、あいつ帰ることにしたのか」


寂しくなるな……。


ロイドは、完全に俺の親友になっていた。


彼と話すのは、とても楽しかった。


それが、しばらく会うことができなくなるのだから、とても寂しい。


……まぁ、またいつか会えるさ。


手紙には続きがあるようだ。




追伸


帰る前にお前の城の金庫をピッキングで開けてみた。




「おいおい、お前何やって……」


開けてみると、とても1000万とは思えないほどの大量の金貨があるじゃないか!


数えてみると、ざっと一億ゴールドもある!


お前、1000万って言ってたよな?


これはどういうことなんだ?



……嫌な予感がしてきた。



まさか、俺に嘘をついていたのか?


……ああ、そうか!分かったぞ!


お前が1000万って言ってたのは、本当にお前が欲しい金額なんだな。


お前は1億もいらないんだな。


だから、お前は俺に1000万ゴールドって言ったんだな?


じゃあ、残りの9000万ゴールドはいらないよな?



「……は?……あッ!?」


その文章の意味が分かった俺は急いで金庫に向かった。


開けてみると、中から金貨がほとんど無くなっていた。


「……嘘だろ、あの野郎!」


そこで、俺は占い師が言っていたもう一つのことを思い出した。


『嘘を重ねていくことで、近い未来に後悔があなたの身に訪れると出ています』


「……そういうことだったのかよ!」


占い師さんすげぇよ。


見事に的中したよ。


これは的中してほしくなかったけどな。


……あぁ。


「何でいつも俺はこんな目に遭うんだ!?」


俺は心から叫んだ。

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