第30話 ミメシス戦・完

「ヒィィイイイイッッ!!」


「ハハハハハッ!いいぞアロマ!もっとやれ!」


「『ブラスト』!『ブラスト』!」


現在、俺とアロマはミメシスを追いかけ回している。


アロマが爆発魔法『ブラスト』を逃げるミメシスに向けて撃ちまくる。


「ハハハ!いいぞォッ!もはや俺たちの勝利は決まったも同然だ!」


「『ブラスト』!アハハ!なんだか、楽しくなってきたわ!」


「ヒィィッッ!!あいつら、頭がおかしいんじゃないか!?建物が壊れようと構わずに撃ってくるなんて、あいつら本当に勇者なのか!?」


「ハハハハッ!どうせ建物を壊したって、あいつが壊したことにすりゃ俺たちにお咎めは無しだ!遠慮なく撃て!もっとデカい魔法を撃ってもいいぞ!」


「これじゃあ、どっちが悪役かわからないわね」


「悪役だ?俺は魔王だぞ?悪いことするのが魔王だろ!」


そう、俺は勇者じゃない。


俺は魔王だ。


「よって、これは正しいことだ!さあ、アロマよ!どんどん撃て!」


「わかったわ!『カースド・ライトニング』!『フレア・ハザード』!『メテオ・ストライク』!」


「ヒィィイイイイイイイッッ!?」


「ハッハッハ!いいぞ、もっとだ!」


アロマが、家が何件も吹っ飛ぶほどの魔法をポンポン撃ちまくる。


ミメシスはそれをヒィヒィ言いながらギリギリのところで避ける。


「いいかアロマ!当たるか当たらないかのギリギリのところに撃つんだ!」


「『ブラスト』!え?どうして?」


「そうすれば、あいつがヒィヒィ言いながら逃げるさまが見られるからな」


俺がそう言うと、アロマが顔をしかめた。


「うわ……、まさか魔王さまってドS?」


「いや、どっちかっていうとMだと思う」


「いや、そういうことは聞いてないの。ヒィヒィ言いながら逃げる様子が見たいって……、いかにも魔王っぽいけど、実際に身近の人が言うと気持ち悪いわね……」


おっと、ゴミを見るような目ですね。


「そんなことよりもっと撃て!」


あいつを倒せば、ルートが凄腕の呪術師を呼んでくれて、俺の呪いを解除してくれる。


そうすれば、俺は童貞が捨てられる!


「俺は童貞を捨てるんだ!」


「な、何?いきなりどうしたの?」


「あ、いや、お気になさらず」


「…………」


おっと、またゴミを見るような目ですね。


「それはそうと、どんどん魔法を撃て、アロマ!」


「あっ、そ、そうね!『ジャッジメント』!」


「ヒィィッッ!!もう嫌だあああああああッッ!!」


そうして、ミメシスでしばらく遊んでいると。


「……ん?」


俺はミメシスが逃げていく方向の先に、人影があることに気が付いた。


「誰だ?」


かなり遠くにいるため、誰なのかは見ただけでは分からない。


一体誰だろう?


「こういうときはスキルを上手く使わないとな!『投影』!」


俺は『投影』を使い、誰なのかを確かめることにした。







「…………え?」


俺の目の前のスクリーンに映ったのは、一人の幼い少女だった。


「な、なんでここにいるんだ……?」


おかしい、町の住民は全員逃げたはず。


……まさか、逃げ遅れたのか!?


……すごく嫌な予感がする。


「おっ、ちょうどいいところに……!」


しまった!


幼女はミメシスに捕まってしまった。


「おい!このお嬢ちゃんがどうなってもいいのか!?」


「ふえぇ……、こわいよぉ……」


クソッ、面倒なことになった……!


「このお嬢ちゃんに酷い目に合わせたくなかったら、さっさとあたしのところに来い!」


「クソ……ッ、その子を離せ!」


「嫌だね。この子は大事な人質だ。このお嬢ちゃんさえいれば、お前たちは攻撃できないだろう!」


「ふえぇ……、ひとじちなんていやだよぉ……」


「クソ……、卑怯者め!」


「卑怯者?あたしは魔王軍幹部だ。勝つためならどんなことだってするさ!」


「……おい、今のセリフ聞いたか?」


「ええ、悪役のテンプレのセリフね。でも、あのセリフを言った悪役って大体すぐに死ぬのよね」


「やめろアロマ。ミメシスさんが怒っちゃうだろ」


「もう既に怒ってるんだよ!お前は散々とあたしのことを……、まぁ、それももう終わりだ」


「……何?それはどういう意味だ?」


「ッ!魔王さま!危ない!」


「え?」


それは本当に一瞬の出来事だった。


「…………え?」


気が付いたときには、ミメシスの触手が、俺の体を貫通していた。


「……フッ、この子は単なる時間稼ぎさ。本命はその触手。気づかれると、あんたには簡単に逃げられるから、こっそりと建物の陰からあんたを突き刺したってわけだ」


「う、嘘だろ……?ゴホッ!」


口から、血を吐いてしまう。


「あぁ……、そんな……」


触手に貫かれ、血を吐いた俺の姿を見て、アロマが震えている。


「グアッ!?」


俺の体から、触手が引き抜かれた。


「フフ……、その男はもうすぐ死ぬぞ。あたしと戦うよりも、その男を助けたほうがいいんじゃないのか?」


「あ……」


「ッ!アロマ……ッ!俺のことは気にするな……!」


「で、でも……!」


「……いいから!行け!」


俺が全力で叫ぶと、アロマは了承したのか、ミメシスと向かい合った。


「まさか、忘れたのか?あたしには人質がいるんだぞ?」


「ふえぇ……、たすけてぇ……」


「そうだった……!」


クソ……ッ、あの幼女がいる限り、アロマはミメシスに手出しができない。


一体どうすれば……。


……一か八か、やるしかない。







「その子は関係ないでしょ!離しなさい!」


「断る!」


「……じゃあ、力ずくで離させるしかないな」


「……え?魔王さま?」


「だから、何かしようとすればこのお嬢ちゃんがどうなると思って……、待て、あの男はどこだ?」


「ま、魔王さまがいない!?」


「ここにいるよ!」


俺は張り付いていた壁から飛び出して、ミメシスに斬りかかった。


「『斬撃』!」


そして、ミメシスの体から、幼女を縛っていた触手を切り離した。


「なッ!?お、お前!今どこから現れた!?」


今俺がやったことは、『投影』の応用技術だ。


『投影』を自分の体に使い、壁の模様と同じ映像を自分の体に映すことで、俺の体は壁と同化する。


いわば、光化学迷彩のようなものだ。


これを使い、壁に張り付きながらミメシスに気づかれないように近づいていき、『斬撃』を使った。


「そんなことはどうだっていい……。さぁ、早く逃げるんだ……」


「ふえぇ……、こわかったよぉ……」


幼女が俺たちから離れていった。


「アロマ……!これで邪魔なものはもうないだろ……!」


「し、しまっ――――――」


「……ありがとう、魔王さま。『ブラスト・バーニング』!」


「グアアアアアアアアッッ!?」


アロマの魔法によって、ミメシスの体が炎に包まれた。


……やった、これで勝った。


と、俺もアロマもそう思ったとき。





『――――ポツ……』


そんな音が聞こえてきた。


「あ、雨か……?」


突然、雨が降り出した。


そう、


「し、しまった……!」


「アハハハハ!あたしも運がいいね!まさか、最悪のタイミングで雨が降ってくるなんてね」


「そんな……、こんなことって……」


そう、ミメシスは雨を吸収して、完全回復してしまったのだ。


さらに……。


「か、体が……、動かない……!?」


「ど、どうして……?」


なぜか、俺もアロマも体に力が入らなくなってしまった。


「ハハハ、力が入らないか?それはあたしのスキルだ」


「な、何だと……!」


「本当なら、直接触らないと使えないんだが、今は雨で地面が濡れているからな。触らなくても、あんたたちを『マヒ状態』にすることができた」


「ま、マヒ……?」


たしかに、全身に痺れている感じがある。


「さぁて、今あんたたちは何もできない状態だ。この意味が分かるか?」


そう言うと、ミメシスは触手を伸ばし……。


「ッ!?グ……ッ、ガ……ッ!」


もう一度、俺の体を貫いた。


「ガッ!アアッ!?」


さらに、二度、三度と何回も俺の体に触手を突き立てた。


「いや……、魔王さま……」


「ハハハ!あんたにはあたしを侮辱した分、苦しんで死んでもらおうか!」


そして、ミメシスは俺の体から魔力を吸い始めた。


「グッ!?アアアアアアッッ!!」


「ハハハハハ!どうだ!つらいだろう!」


俺の体中を痛みが駆け巡る。


触手に刺されたときの何倍もの痛みが俺を襲う。


「ああああああああああッッ!!」


「そうだ!もっと叫べ!」


そして、しばらくして……。


「もう魔力は吸いきったか」


「あ……」


俺は意識が朦朧もうろうとしていた。


魔力をすべて吸われ、体中に穴を開けられた。


その痛みで、俺の意識は今にもトんでしまいそうだった。


「さぁ、それでは、トドメと行こうか」


そう言うと、ミメシスは俺の体を持ち上げた。


「今から、あんたの心臓を貫く。これで、あんたは死ぬ」


「そんな……、お願い!やめて!」


「やめるわけないだろ。さぁ、これであたしの勝ちだ!」


そう言って、俺の心臓に触手を突き立てようとした。


しかし、その触手は俺の胸に届くことはなかった。


なぜなら……、ミメシスの首にはあの『絶対服従の首輪』が着けられていたからだ。



============


絶対服従の首輪。


それは条件を満たせば、どんな相手でも奴隷にしてしまう恐ろしいアイテムだ。


その条件は5つ。


・自分が1500cc以上の出血をしていること。


・状態異常で麻痺状態であること。


・天気が雨であること。


・魔力の残り残量が0であること。


そして、童貞で包茎であること。



条件はすべてそろった。


「お前は俺たちに攻撃できない……!」


その命令通り、ミメシスは俺に攻撃することができなかった。


「こ、この首輪のせいか!こんなもの……!」


「お前はその首輪を取ることができない……!」


俺の命令通り、ミメシスは首輪を取るどころか、触ることもできないようだ。


「だ、だが……、あたしは雨で完全回復した!このまま逃げて……」


「お前は俺の許しなしに逃げることができない!」


「う、嘘だ……!体が動かない!」


これで、もうミメシスは逃げることができない。


「す、すごいわ魔王さま!これで、私たちの勝ちよ!」


「………………」


「……あれ?魔王……さま……?」


しかし、アレイスは答えない。


「ウソでしょ……、ねぇ!起きてよ魔王さま!」


しかし、アレイスが答えることはなかった。

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