第29話 立場逆転
「ここか……」
触手の伸びていた先には、何の変哲もない一軒の家があった。
触手は玄関のドアから、家の中にまで伸びているようだ。
カギが開いているので家主には申し訳ないが、家の中に入らせてもらう。
「この触手はいったいどこに向かって伸びてるんだ?」
触手に沿って家の中を進む。
「これは……?」
たどり着いた先は、キッチンだった。
キッチンの蛇口から水が出しっぱなしになっていて、水が溜まっていた。
そして、触手はその溜まった水の中に突っ込んでいた。
「もしかして、水を吸っているのか?」
触手はどんどん水を吸い上げているらしく、吸い上げた水がこぶのようになっている。
「何で水なんか……?」
まさか、水があの異常な回復力に関係しているのか?
いや、そう断定することはできない。
だが、こうしてミメシスが水を大量に吸い上げている以上、何らかの理由があるのは確かだ。
とは言っても、ただ単に蛇口を閉めただけじゃ意味がない。
水道そのものを止めなければ、ミメシスはどこからでも水を得ることができる。
しかし、水道を止めるなんて一体どうやってやれば……。
「……そうだ!」
「おーい、大丈夫かアロマ?」
「うーん……、あれ?魔王さま?」
「良かった、もう大丈夫みたいだな」
目を覚ましたアロマが起き上がる。
「あの女は!?」
「俺が今まいてるところだ。しかし、まさかお前が負けるなんてなぁ……」
「ごめんなさい……」
「やっぱり、回復力が高かったのが敗因か?」
「ええ、どんなに魔法を撃っても、すぐに回復されるの。あれじゃあ、いくらやっても倒せないわよ……」
やはり、回復されるのを何とかしないと、倒すのは難しそうだな……。
「大丈夫だ。俺に考えがある。もしかすると、相手の回復力を下げることができるかもしれない」
「本当!?一体どうやって!?」
「ああ、まずは…………」
「よお、ミメシス!調子はどうだ?」
「クソがぁァァ……、ずっとちょこまかと逃げ回りやがって……ッ!!」
「ハハハ、すまなかったな。けど、もう逃げないから安心しろ」
「……それはどういう意味だ?」
「私があなたを倒すからよ!」
俺の後ろからアロマが出てくる。
「倒す?お嬢ちゃんがかい?あたしに勝てなかったお嬢ちゃんがねぇ……」
「問答無用よ!『メイジ・オブ・クリスタル』!」
アロマがそう言うと、地面にたくさんの氷柱が現れた。
「ク……ッ、やはり、魔法の威力はなかなかのものだな……」
ミメシスの体の一部が氷漬けになる。
「だが、切り離して回復すればいいだけの話だ」
ミメシスは氷漬けになった部分を切り離して、回復させて元の状態に戻した。
「まだまだ!『ジャッジメント』!」
今度は、ミメシスに雷が落ちた。
「グアアアアアアアアッッ!!」
だが、すぐに回復してしまう。
「まだまだ!」
アロマが魔法を撃って、ミメシスが受けたダメージを回復する。
これをしばらく繰り返し続け……。
「ハァ……ッ、ハァ……ッ」
「もう終わりなのか?じゃあさっさと回復して……」
そう言うと、ミメシスは顔をしかめた。
「ど、どういうことだ!?水が吸収できない!」
その言葉を聞き、俺はニヤリと笑った。
「おや?水がどうかしたのか?」
「ま、まさか……、お前が何かしたのか!?」
「……フッフッフ、そうさ!お前はもう水を吸収できない!なぜなら、この町の水道管は全てアロマが魔法で凍らせたからだ!」
「な、何だと……!?」
「どうせ、水を吸収することで、今まで回復してきたんだろ?だが、それももう終わりだ」
「そ、そんな……」
ミメシスが絶望の表情を浮かべる。
「さぁ、さっきまで散々俺を追い回していたけど、今度は立場が逆転したなぁ……!」
「ヒッ!?い、嫌だ!」
ミメシスが逃げだした。
「さぁ、鬼ごっこの開始だ!」
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