第28話 魔王はマネキンを使った!

「クソッ!逃げ足の速い勇者だな……!」


スキル『逃走』のせいで、ミメシスはすぐに勇者の姿を見失った。


『おーい、そんなところで何やってるんだよ!』


すると、勇者が路地裏から突然現れた。


「!そこにいたのか!」


『俺に追い付いてみやがれ!』


「追いかけるつもりなどない。次は外さない!」


ミメシスは勇者に向けて触手を目にもとまらぬスピードで繰り出した。


『やべッ!』


それを見た勇者は、再び路地裏に逃げた。


それを追いかけるように触手たちも曲がって、追い続ける。


『グアアアアアアアアッッ!!』


次の瞬間、勇者のそんな悲鳴が聞こえてきた。


「ふっ、やはりただの雑魚だったか。あたしに歯向かうからこうなるんだ。おとなしくしていれば、痛みに苦しむこともなかったのに……」


勇者が悲鳴を上げ続けたが、しばらくすると悲鳴は収まった。


「事切れたか……、それともあまりの痛みに気絶したか……。いずれにせよ、勇者の体を回収しなければ」


ミメシスが触手を戻し、勇者の体を回収しようとした。


「……何だコレは?」


しかし、触手の先には勇者ではなく人形のようなものが刺さっていた。


「まさか、あたしはこれに攻撃したっていうのか?いや、たしかにあたしはあの勇者の体を貫いたはず。これは一体……?」


ミメシスが思考を巡らせていると。


『ギギギギ……』


不意に、何かがきしむような音が聞こえてきた。


ミメシスが音のしたほうを見てみると……。


「ヒッ!?」


先ほどまで目を閉じていたはずの人形が、目を見開いて彼女を見ていた。


『ケケケケケケケケケケケケケ!!』


人形が、気味の悪い笑い声を上げる。


「……まずい、まさかこの人形……ッ!」


彼女が気が付いたときには、すでに遅かった。


次の瞬間、ミメシスの体の右半分が吹き飛んで無くなった。


「グゥゥウウウ……ッ!まさか、自爆する人形だとは……!」


そう、人形が自爆し、彼女の体を吹き飛ばしたのだ。


「だが、こんな傷はすぐに治る……!」


彼女の言う通り、吹き飛んだ右半分は5秒も経たないうちに元に戻った。


『おいおい、何へばってるんだよ!俺を殺すんじゃなかったのか!?』


すると、勇者がまた突然現れた。


「ッ!ああ、今すぐ殺してやる!あたしを騙すような真似しやがって!」


『騙されるほうが悪いんだよ!ほら、殺せるもんなら殺してみやがれ!』


「お望み通り、今すぐ殺してやる!」


ミメシスは、また勇者を追いかけ始めた。





「うわ……、自己再生能力が高いとは聞いてたけど、あれは規格外だろ……!」


俺はミメシスから少し離れた家の屋根の上で、ミメシスが俺の偽物を追いかける様子を眺めていた。


さっきからミメシスが追いかけているのは、俺のスキル『投影』によって空中に映し出された偽物の俺だ。


この『投影』は今までのようにテレビ電話のような使い方だけでなく、俺が想像した映像を映すこともできる。


それを上手く使い、ミメシスに俺が現れたり消えたりして混乱させて時間を稼ぐ。


「しかし……、こいつの自爆でのダメージをあの一瞬で完全に治すとは……」


あの人形は俺が生み出した魔物だ。


名前は『動くマネキン』。生体反応のある動くものを見つけると、気味の悪い笑い声を上げながら襲いかかり、自爆する魔物だ。


名前通り、見た目はマネキンそっくりだ。


俺が昔見たことのあるホラー映画に出てきたモンスターがもとになっている。


「何体かけしかけて、身体を全部吹き飛ばせば倒せるか?いや、もう一度喰らわせるのは難しいか。さすがに警戒するよな」


だが、これでダメージを与えられることは分かった。


問題は、あの異常なまでの再生能力の高さだ。


あれじゃあ、いくら攻撃しても回復され続けるだけだ。


アロマが勝てないわけだ。


「だけど、普通あんなに再生能力が高いものなのか?」


いくらスライムの上位種の『スライムロード』とはいえ、あの回復力は異常だ。


自然の治癒能力によるものとは考えにくい。


何か秘密があるのか……?


「…………ん?」


しばらくミメシスを観察していると、あることに気が付いた。


「何だあの触手?」


そう、ミメシスの体から一本だけ触手が明後日の方角に伸びていたのだ。


「何であの触手だけ……?」


とても気になる。


なぜ一本だけ俺の偽物を襲おうとせずに、別の方向に伸びているのか。


その答えはなんとなくわかる。


おそらくだが、あの触手が伸びている先には何かがある。


もしかすると、そこに治癒能力の高さの秘密があるかもしれない。


「よし、行ってみるか!」


俺は触手が伸びているところに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る