第27話 40歳童貞のまま死んでたまるか!

「そ、そんな……」


魔王軍幹部と遭遇し、アロマにすべてを丸投げして人々の避難させていた俺。


しかし、そのアロマは幹部ミメシスとの戦いに……。


「ごめんね、魔王さま……。私、勝てなかった……」


「そんな……」


「さぁ、勇者さん?」


声をかけられ、俺は再度気が付いた。


「あたしと戦ってもらおう!」


俺は今、最悪の状況に置かれていることに。


「グッ…………」


どうする……?


このまま戦っても、俺が勝てる気がしない。


「まぁ、あんたみたいな雑魚にあたしが負けるわけがないだろうけどな」


「……は?」


「だって、あんた弱いんだろう?あのお嬢ちゃんに全部丸投げするくらいなんだ。あたし、あの後逃げたのかと思ったけど、一応様子を見に来たって感じか」


さらに、ミメシスは続ける。


「それに、あんた仲間に、しかも女に戦いを押し付けるなんて、恥ずかしいと思わないのか?あんた、勇者なんだろ?そんなクズみたいな奴が勇者なんてなぁ……」


さらにさらに、ミメシスが続ける。


「というわけで、あたしはあんたみたいなク

で雑

勇者には負けないってわけだ。何の抵抗もしないのなら、苦しまずに死なせてやるよ」


プッツ――――――ン。


そんな音が聞こえた気がした。





「…………誰がクズで雑魚だって?」


自分でもクズで雑魚だということはわかっている。


だけど、他人から言われるととてもイラつく。


自分が勉強が苦手だとわかっていても、周りに『あなたは勉強ができないのね』と言われるのは嫌なのと同じだ。


「黙って聞いてれば色々と言ってくれるじゃないか」


「なんだって?まさか、あたしに文句があるのか?」


「そうだよ、ありありだよ」


「へぇ……、じゃああんたはクズで雑魚じゃないって言いたいのか?」


「……いや、それは違う。お前の言う通り、俺はクズで雑魚だ」


そう、俺はクズで雑魚だ。


けど、ただのクズで雑魚なやつじゃない。


「ここに宣言する!お前は俺には勝てない!」


俺はミメシスを指さし、決めゼリフを言い放った。


「……はぁ、何言ってんだ?あたしがあんたに勝てない?」


「ああ、お前は俺に勝てない」


「……ぶッ、アハハハハハハ!!」


急にミメシスが笑い出した。


「アハハハハ!きゅ、急に何を言い出すかと思えば……!あたしがあんたに勝てないわけがないだろ!」


そのまま、ミメシスは笑い続ける。


「あんたは仲間に戦闘を押し付けて、あわよくば逃げようとしたんだろ?そんなやつが、あたしより強いとは思わないんだが」


「だからさっきも言っただろ?『俺はクズで雑魚だ』って」


「まぁ、もう無駄なことはしないほうがいいぞ。何もしなかったら、代わりに楽に逝かせてやるからな」


「やってみろよ」


「えっ?」


「楽に逝かせてくれるんだろ?やってみろって」


「……ハハッ、あれほど言っていたのに、もうあきらめるのか。本当にあんたは雑魚だな」


そう言いながら、ミメシスは体から触手のようなものを出した。


「これであんたの頭を貫いて、一撃で確実に逝かせてやるよ」


触手が俺のほうに向かってものすごいスピードで伸びてきた。


だが次の瞬間、俺はそれを回避していた。


俺のスキル『回避』が発動したのだ。


「な、何だと……!?」


「……フッフッフ、フゥーハッハッハ!!」


思わず笑ってしまう。


「どうだ!お前は今自分の攻撃を、このクズで雑魚な俺に簡単に避けられたんだ。そう、お前の言うクズで雑魚のこの俺にな!」


「クソッ、調子に乗りやがって……!」


「あれぇ?どうしたんですかミメシスさん?まさか、本当に俺が無抵抗に殺されるとでも思ってたんですか?」


「黙れ!次はない!次こそはお前を殺す!」


「あれ、額にしわよっちゃってますよ。もしかして、焦ってるんですか?俺に避けられたことを」


「黙れ黙れ!」


「黙れ以外の言葉を使えないんですか?人でしょうあなた。あっ、人じゃなくて下等生物のスライムでしたね、ごめんなさ~い!」


ミメシスの顔に青筋が走る。


散々言われた……いや、散々てほど言われてない気もするが、言われた分は倍返しで言い返してやろうじゃないか。


「っていうか、お前のタレントの『擬態』だっけ?どんな姿にでもなれるのか?」


「……ああ、イメージができるやつはな」


「すげえじゃん!えっ、でもそれって自分の容姿好き勝手にいじれるってことだよな?うわー、実質的にセルフ整形じゃんそれ。整形百回とかしてるってことになるじゃん、うわマジかよ……」


すると、とうとう我慢の限界なのか……。


「黙って聞いていれば、もう我慢の限界だ!お前を殺してやる!」


「やれるもんならやってみろよ!」


俺は振り返って、走って逃げ始めた。


「待て!あたしの触手から逃げられると思うな!」


ミメシスは体から無数の触手を生み出すと、一斉に俺めがけて襲いかかってきた。


「なッ、何で追いつけないんだ!?」


しかし、触手は一本も俺の所にはたどり着けなかった。


それもそのはず、俺には『逃走』というスキルがあるからだ。


このスキルは、逃げるときだけ足が超速くなるというもので、こういうときに役に立つのだ。


そう、俺はミメシスには勝てない。


だが、それと同時にミメシスも俺に勝てない。


なぜなら、俺は永遠に逃げ続けるからだ。


攻撃さえ喰らわなければ、死ぬことはない。


「何としても逃げきってやる!40歳童貞のまま死んでたまるか!」

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