第26話 魔王軍幹部ミメシス(B105・W60・H88)

そして、占いで予言されていた1週間後の当日。


「それじゃあ、行ってきます!」


「ます!」


俺とアロマはみんなに別れを告げ、テレポートで王都に向かった。


「「「「「「「いってらっしゃい!」」」」」」」


そんなみんなの声を聞きながら、俺は光に包まれていった。





~~~~~王都 ルートリアの屋敷~~~~~


「予言の一週間が経ったけど、なにか、例の幹部の動きとかはあったのか?」


「いや、今のところ特にそう言った情報は入ってきていない」


「そうか……、とりあえずヴィンガルに行ってみないとわからないか……」


「ああ、本当にすまない」


「いやいや、謝る必要はないさ!そういう情報がないってことは、ようは魔王軍幹部が現れてないってことだろ?別に大したことないし、むしろそっちのほうがみんな喜ぶしさ!」


「それもそうだな」


すると、ルートは俺の後ろにいたアロマに気が付いたようだ。


「そちらのお嬢さんは?」


「ああ、俺の仲間の一人のアロマだ」


「アロマです。よろしくお願いします」


「どうも、アルの友人で元仲間のドングラス・ルートリアです。こちらこそよろしく」


すると、ルートはまた何かに気が付いたようだ。


「あれ?他にはもういないのか?」


「何がだよ?」


「お前の仲間だよ。もしかして、彼女しか連れてきてないのか?」


「ああ、そうだけど」


俺がそう言うと、ルートはとても驚いたような表情をした。


「おい、アル!お前これからどこに行くのか分かってるんだよな!?」


「え?ヴィンガルだろ?」


「そうだけど、そうじゃない!お前はこれから魔王軍幹部がいるかもしれないところに行くんだぞ!?それなのに、仲間がたったの一人だなんて……!」


なるほど、そういうことか。


魔王軍の幹部はおそらくかなりの強敵だ。


それは、俺も色々な情報を得ているから十分わかっている。


だから、俺の仲間がたった一人ということに、強い不安を抱いたんだろう。


「大丈夫だよ。これは俺なりの考えがあってだな」


「アルなりの考え?」


「前に言ったと思うけど、俺はこの機械で相手の強さとタレントを知ることができる」


俺は戦闘力はかるやつを取り出した。


「まず、これで幹部のやつの情報を見る。もしもそれで、アロマ一人で手こずるような敵だったら、アロマにテレポートで他の仲間を呼ぶっていう作戦だ」


「なるほど、それはわかったが、なんでそんな回りくどいことを?最初から連れてこれるやつは全員連れてくればいいじゃないか」


「それもそうなんだけど、そうすると問題が起こるんだ」


「問題?一体どんな?」


「じゃあ逆に聞くけど、もしも町中に突然モンスターを連れた男が現れたらお前はどう思う?」


「え?えーと……、怪しいと思う」


「だろ?一気に全員引き連れても、ただ単に目立つだけなんだよ。それに、自分が行った町に突然そんな奴が現れたら、幹部の方から見ればどう考える?」


「魔物を操るとか、そういったタレントを持った勇者が現れたと考えると思う」


「そういうことだ。ようは、俺は敵に動きをできるだけ悟られたくはないんだよ」


「そこまで考えていたなんて……!さすがアルだな」


「いやいや。……というわけで、今からヴィンガルに行ってくる」


「分かった、気をつけてな」


「ああ。アロマ、テレポートを」


「わかったわ」


アロマが構えると、俺とアロマの足元に魔法陣が現れた。


「『テレポート』!」


そして、俺たちの体は再び光に包まれた。





さて、一週間ぶりのヴィンガルはどうなっているのかな……。


「いてッ」


「うわっ!?」


テレポートした瞬間、俺は何かにぶつかった。


と同時に、知らない人の声が聞こえた。


「いてて……」


声のしたほうを見ると、男の人が尻もちをついていた。


「大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫です、急いでて……、ってこんなことしてる場合じゃなかった!」


すると、その人は立ち上がり、急いで俺の横を通ろうとした。


「え、ちょっとどこに行くんですか?」


「どこにって、逃げるんですよ!王都に!」


「逃げるって……」


……まさか。


「あなたもしかして知らないんですか!?魔王軍が現れたんですよ!」


そう、あの占い師の占いは見事的中したのだった。





「おい、勇者はどこにいるんだ!?さっさと教えろ、このジジイ!」


「そ、そんなこと言われましても、この町に勇者がいるはずがないと先日申し上げたはずですが……」


「何だと!?」


「勇者ならここにいるぞ!」


俺は大声を上げた。


「ああ?」


俺の目の前には、一人のおじいさんとそのおじいさんの胸ぐらをつかんでいる女の2人がいた。


「そのおじいさんを離せ。目的は俺だろ?」


俺がそう言うと、その女はおじいさんを離した。


おじいさんは『ヒィィッッ』と言いながら逃げていった。


「お前が勇者か……、ようやく勇者と戦えるときが来るとは……」


「お前が、魔王軍幹部で間違いないか?」


俺がそう聞くと。


「ああ、そうだよ。あたしが魔王軍幹部の一人、『スライムロード』のミメシスさ」


女、いや、魔王軍幹部はそう答えた。


なるほど、スライムロードか。


スライムロードはスライムの上位の中の上位。


高い知能や強いタレントを持っていてもおかしくはない。


「最近の人間は本当につまらない。弱すぎるんだ。その点、勇者なら強いだろうと思ってな」


俺は何かを言っているミメシスを無視して、戦闘力はかるやつを着けた。



レベル:750

戦闘力:20000000

タレント:擬態

一度見たことのあるものに自分の体を変化させることができる。ただし、上手く変化させるには明確なイメージが必要である。



タレントは予想通り、姿を変えることができるものか。


戦闘力は2000万か……、少しキツいな。


アロマは2300万だから一応上回ってはいるけれど、アロマ一人で戦うのはおそらくキツいだろう。


「よし、アロマ。今すぐテレポートで瑠璃かアトラスを連れてくるぞ」


「わかったわ!『テレポート』!」


アロマがテレポートを唱えた。


しかし、いつものように魔法陣は現れなかった。


「あ、あれ?『テレポート』!『テレポート』!ど、どうしよう、テレポートが使えない!」


「何だと!?」


すると、ミメシスがニヤリと笑った。


「テレポートできないだろう?あたしが使えなくしておいたんだ」


そう言うと、ミメシスは三角形の形をした謎の物を取り出した。


「これは王都の魔道具店で売っていたものなんだが、この魔道具が動いている間は、この魔道具から半径3キロメートル四方の中では転移魔法は使えない。お前たちにうってつけの魔道具だろ?」


「ま、まさか……、俺たちの作戦を全部知ってたってことか!?」


「ああ、首をよく見てみな」


そう言われたので、俺は自分の首に触ってみた。


すると、首には小さな虫のような生き物が付いていた。


「その虫は盗聴虫

ワイアタップ

という特別な虫でね。その虫を通して、お前の会話が丸聞こえだったってわけ」


「ッ!クソッ!」


俺はその虫を叩き潰した。


「……まぁいい、別にテレポートで仲間を呼ぶ必要はない。お前の相手は、このアロマで十分だ」


俺はアロマの背中を押して、ミメシスの前に突き出した。


「アロマ、頼んだぞ!お前なら絶対あいつを倒せる!」


「任せて!あんなやつボッコボコにしてみせるから!」


「……へぇ、あたしも舐められたもんだね。小娘一人であたしが倒せるとでも思うのk」


「うん、思う」


「そ、即答!?」


「というわけで、アロマと戦っててね。俺は街の人を逃がすという大切な役割があるから、そんじゃこれでッ!」


「あ、お前ちょっと!」


俺は振り返ることもせず、一目散にミメシスから離れた。


さぁ、とっとと町の人たち逃がして……。


「俺も早く逃げよう!」


普通、こういうときは仲間であるアロマと協力してあのスライム幹部を倒すべきなのかもしれない。


だが、あのミメシスというやつは戦闘力が俺の千倍もあるのだ。


俺なんかが戦ったところで一体何になるというんだ。


よって、戦いはアロマに任せる!


他力本願?クズ主人公?


ノンノンノン!聡明でとてもイケメンなフォート・アレイス様と呼びたまえ!


走っているうちに、大勢の人と合流した。


「皆さん!焦らないでください!魔王軍幹部は今、俺たちで足止めしています!こっちに来ることはありません!落ち着いて逃げてください!」


人々に声をかける。


「人の数が少ないな……、まだ逃げ遅れた人がいるかもしれない」


そう思い、俺は町の中を逃げ遅れた人を探すために、走り回った。




「ハァ……、大体逃げたかな?」


俺は町中を駆け回り、人を見つけたら逃げるように指示をした。


そろそろ、全員逃げたとは思う。


「アロマの様子を見に行ってみるか」




「フンフンフン~♪」


のんきに鼻歌を歌いながら、アロマのところに向かう。


「お、そろそろ見えてくるな」


そして、しばらく歩くと、その姿がはっきりと見えた。


「…………え?」


両手両足を拘束され、もがいているアロマの姿が。


「おや、お仲間が帰ってきたみたいだ」


「アロマ!」


俺がアロマの名を呼ぶと、アロマは顔をゆがませながら言った。


「ごめんなさい……。私、汚されちゃった……」


いや、あいつ案外この状況を楽しんでないか?


……俺の気のせいか。


しかし次の瞬間、俺は思わず声を上げてしまった。


「ウソだろ……?アロマはあんなに傷ついてるのに、ミメシスのやつは傷一つ入っていないじゃないか……!」


そう、アロマがボロボロであるのにもかかわらず、ミメシスの体は俺が最初に見たときと何も変わっていなかったのだ。


「アロマの強力な魔法を全部耐えて、全部治したってことか……?」


そんなわけがない。


戦闘力はアロマのほうが上だった。


だから、戦い続ければミメシスの回復力が受けるダメージに追い付かなくなって、ミメシスを倒せると思っていた。


だが、現実は違った。


ミメシスがアロマを離すと、重力に従って落ちていき、アロマは動かなくなった。


「さぁ、次はお前だ。勇者さんよぉ……」


その言葉に、俺は本気で死を覚悟した。

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