第20話 魔王の魂の叫び

テレポートを使い、俺とアロマはセバスさんに言われた座標に移動した。


「うわッ!すげぇ……」


テレポートした直後、最初に目に入ってきたものは、とてつもなくデカい屋敷だった。


「すごく……大きいです……」


思わず、そんなことをつぶやく。


「本当にあいつがここに住んでいるのかよ?」


俺が疑問の声を上げると、一緒にテレポートしてきたセバスさんが答えてくれた。


「たしかに、昔の仲間が貴族になったなんていう話、とても信じがたいでしょう。……ですが、その疑問もおそらくすぐに消えますよ」


そう言うと、セバスさんは扉の近くに立っていた衛兵に話しかけた。


「セバスだ。ご主人様に、フォート様をお連れしたと今すぐ伝えてほしい」


「かしこまりました」


衛兵がすぐに屋敷の中に走っていった。


「今しばらくお待ちください。まもなく、ご主人様がここに来ると思いますので」


「ここに来る?」


こういうのって、普通は客室に通されて、そこで面会するものじゃないのか?


そう思っていたところ――――――


「おおッ!来たか!」


上の方からそんな声が聞こえてきた。


上のほうを見てみると……。


「よう!久しぶりだな、アル!」


俺のことをアルとあだ名で呼ぶ、ドングラス・ルートリアの姿があった。


「おお、久しぶりだな!何年ぶりだよ?」


俺は頭からフードを外した。


「いやー、本当に何年ぶりだろうな。たしか、22年ぐらいじゃ……ッ!?」


空から俺たちの目の前に降りてきた彼は、俺の顔を見て驚愕の表情をした。


「お、お前なんだよその顔……?前会ったときとほとんど顔が変わってねぇじゃねぇか!?え、もう40歳ぐらいだよな?どっからどう見ても20歳ぐらいにしか見えないぞ……?」


「ああ、この若さか?」


そう、今の俺の見た目は、20年前魔王城に引きこもったときと全く同じ年齢の見た目になっている。


なぜ急に若返ったのかというと、魔王城を出る前――――――





『魔王さま、王都に行く前に渡したいものがあるんだけど』


『ん?なんだこの青い粒は?』


『前から魔王さまがあたしに頼んでいたものが遂に完成したのよ!若返りの薬!』


『マジかよ!で、使い方は?』


『ただ飲むだけだよ。一錠につき、10年若返るよ』


『よし、それなら……』





――――――というような感じで、しずくが若返りのくするを作ることに成功したのだ。


ただし、この若返りの薬は単に体の老化の進行度合いを昔の状態に戻す薬であるため、寿命が延びるわけではない。


「……とまあ、そんな感じで薬のおかげで今は20歳のピチピチの状態になれたっていうわけだ」


「そんな薬が……!ぜひ俺にもくれ!俺も若くなりたいんだ!」


「あー……その気持ちはわかるけど、残念ながらこの薬は材料を手に入れるのがとにかく難しいらしくてな、俺が飲んだ2錠で全部無くなったんだ」


「そうか……、残念だ」


彼は肩を落とした。


「ところで、ルートリア」


「昔の呼び方でいいよ」


「じゃあ、ルート。どうして俺を王都に呼んだりなんかしたんだよ?あと、なんで俺の居場所が分かったんだ?」


「実は、お前に頼みたいことがあってな。それでここ数年お前の足取りを追いかけていたんだが、20年近く何の足取りもなかったんだ」


「そりゃ、あの城に20年こもってたからな」


「ところが、勇者のアダムとリーってやつが戦いを挑みに行った魔王が、お前だったっていうわけだ」


「え、なんでそんだけで俺が魔王だって断定できたんだよ?実際に、俺の顔を見たわけじゃないだろ?」


「あの2人の言っていた魔王の情報が、俺の知っている魔王の情報と明らかに異なっていたからだ」


「それはどういう意味だよ?」


「特にリーの方、人の言葉をしゃべる触手に襲われたらしいんだが、どこでもそんなモンスターの話は聞いたことがない。しゃべる触手だぞ?発見されたらその珍しさに世界中が騒ぐぞ」


そりゃそうだ。俺もしゃべる触手なんて聞いたことがない


「そこで、お前のことを思い出したんだ。お前の自由に魔物を生み出せるタレントなら、そんな不思議な魔物が生まれたっておかしくはないはずだと」


なるほど、そういうことか。


たしかに、俺のタレントならおっπスライムとかオ〇ホワームみたいな普通は存在しない魔物を生み出すこともできる。


そりゃあ、普通の触手が突然変異でしゃべるようになるのなんて、生物学的に考えれば何万年もかかるんじゃないだろうか?


「っていうか、アル。お前20年間も一体何してたんだよ?」


「ああ、20年間か?」


俺はこの20年間のことについて話した。


とはいっても、毎日サキュバスを作るために魔物を生み出していただけなのだが。


「そ、そんなふざけた理由で20年間も魔王城に引きこもってたっていうのか……?」


「ふざけた理由とは失礼な!俺にとっては死活問題なんだよ!」


「ま、まぁそうだよな。お前40歳で童貞だもんな……」


「やめろ、それを言うな……。考えるだけで悲しくなってくる……」


「あ、ああ……、すまん……」


「……ところで、なんで俺をここに呼んだんだよ?俺に頼みたいことって?」


「ああ、そういやまだ言ってなかったな」


そう言うと、ルートは続けてこんなことを言った。




「アル、魔王を倒してきてくれないか?」




……はい?



「実は、お前以外に別に魔王が存在するんだよ」


……俺以外に魔王が?


そんなこと、聞いたことがないんだが……?


「お前の住んでる元魔王城の近くに、別の城があってな?そこに本当の魔王が住んでいるんだけど、アダムとリーが場所を間違えてお前のところに戦いを挑みに来たっていうわけだ」


「いや、それはわかった。ようは、俺は魔王じゃなくてただの一般人だったと。あの勇者が言っていたように、俺が作った魔物たちは人を襲ったりしてないんだな?」


「ああ、そうだ」


「よかったああぁぁぁ……!」


これで、あの勇者たちと戦わなくて済む。


「でだ、お前に魔王を倒すのを手伝ってほしいんだ」


「えー……」


正直言って、とてつもなくめんどくさい。


いくら昔の友の頼みとはいえ、受けられないこともある。


魔王を倒すのは勇者の仕事だ。


俺はもう勇者を引退している。


それに、ヒマさえあれば俺は新しい童貞を捨てるための魔物を生み出したいんだ。


前に20年の努力の結果、ようやくサキュバスを生み出したことがあるが、タレントのせいでセッ〇スをすると生命力を全部吸い取られて死ぬらしいので、結局童貞は捨てられていないのだ。


もう一度サキュバスを創りたくても、俺のタレント『魔物作成』は知能のあるモンスターは何体も生み出すことができないという決まりがあり、サキュバスの場合、もうこれ以上生み出すことができなかった。


だから、こんどは別の『人』じゃない魔物を生み出す必要がある。


そのためには、魔王なんか倒している場合じゃないんだよ。


「頼む、そこをなんとか!お前の生み出した魔物たちなら、きっと魔王たちに勝てると思うんだよ!」


「すまないが、それは無理だ」


「どうしてだ!」


俺は素直に理由を言った。


「そうか……、お前は世界を救うことよりも、童貞を捨てることが大事なんだな……」


やめろ、そんな風に悲しそうな顔で言うんじゃない。


罪悪感でちょっとだけ胸が痛くなる。


本当にちょっとだけだ。


だって、童貞を捨てることのほうが大事だし。


「それなら、これはどうだ?」


そう言うと、ルートは俺に一冊の本を渡してきた。


「これは……?」


「開いてみろ」


言われた通りに開いてみると、中には女勇者が触手にあんなことやこんなことをされているマンガが描かれていた。


「なっ、なんだコレ!?」


えっ、エロい!


思わず、俺の息子が反応してしまいそうになる。


「お前が昔言っていた、エロ同人?てやつか?それを異世界から来たやつが再現してたから、お前が欲しがると思って手に入れてたんだよ。これをあげるから、魔王を倒すのを手伝ってくれ!」


「し、しょうがないなぁ……!そこまで言うんだったら、もらっておこうかな!」


俺は同人誌を胸元にしまった。


「……胸元にしまったな?」


「え?」


ルートが突然、ニヤリと笑った。


「もうそれでその本はお前のものだ!俺は言ったよな?それをお前にやるかわりに、魔王討伐を手伝ってもらうと!これがどういう意味か分かるよな?」


……………。


し、しまったああああああああッッ!!


ほとんど何の違和感もなしに受け取ってしまった!


こ、これじゃあ……。


このままじゃ……。


「お前はいつもエロいものには目がなかったよな!20年経った今もその性格は変わっていなかったみたいだな!」


「い、いやだ……」


「さあ、俺と一緒に魔王を倒してもらうとしようか!」


「いやだああああああああッッ!!魔王となんて戦いたくない!俺は、童貞を捨てたいんだああああああああああああッッ!!」


俺はルートに引きずられて、屋敷へと入っていった。


こうして、俺の二度目の、魔王を倒す冒険が始まった。

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