第14話 始まる。王都での生活

 ロイドに勇者が王都に集まるという話を聞いた俺は、すぐに魔王城を発ち王都に向かうことを決めた。

 いっしょに連れていく仲間も決め、あとは準備をすれば完璧というところで重大な事実を俺は知ってしまった。


「金が無いって……? 全額か……?」


「はい……、このままではモンスターたちが共食いを始めてしまいます」


 アトラスが、モンスターたちを養うために、金庫の金を全部使いきったと言うのだ。


「え……? どうすんだよ。俺の武器は?」


「先ほど申し上げた通り、全て売り払ってしまいました……」


 武器も、金のために売ったと。


「え、マジでどうすんだよ!?」


 俺は頭を抱えた。


(クソッ、考えろ! まず金と食料だ !しかもあと数日でそれらを集めないといけない!)


 王都で祭りが開かれるのは15日後だ。

 それに間に合うように、一定量の金と食料を集めなければいけない。


 ここから王都までだったら10日はかかるぞ。


「クソッ、考えても始まらない。一刻も早く行動に移そう!」


 まずは食料だ!


「アトラス、瑠璃、クレア、リーン、グライドは近くの魔物の群生地でとにかくデカいモンスターを狩りまくってきてくれ! モンスターたちの一日分の食料になるぐらいだ!」


「「「「「わ、分かりました!」」」」」


 5人が魔王城の外へ向かった。

 さて、次は金だが……。


「まさか……、魔王さま私に体で稼いでこさせるつもりね!」


「とりあえず、めんどくさいからお前もアトラスたちについて行け」


「……ねぇ、私の扱いひどくない?」


「気のせいだ。さっさと行け」


 アロマはぶつくさと文句を言いながらアトラスたちのあとを追いかけた。


「さぁ、金の問題だが……」


 これといって、うまく稼ぐ方法が思いつかない……。

 俺が魔王城を出た後でも、こいつら自身で稼げるようにしておきたいんだが……。


 そのとき、俺はしずくをこの場に残していたことに気が付いた。


「……そうだ! おい、しずく。お前、ポーションは作れるのか?」


「え、そんなもの朝飯前だけど?」


「よし、そうか、それはちょうど良かった! ソルトにもぜひ頼みたい!」


 俺はしずくとソルトにあることを頼んだ。




※※※※※※※※




「ふーん、なるほど、このポーションを嬢ちゃんがねぇ……」


「質は一級品にも劣らないレベルのはずなんです。店長さん、あなたの目なら分かるでしょう?」


 それは、街の魔道具店にポーションを売ることだ

 しずくほどの優れた発明家なら、質の高い良いポーションを作ることは朝飯前だ。

 これを、人間にそっくりなソルトに売りに行かせる。


「フンフン、確かにこれはすごい! ここまで質がいいものは年に10本も出回らないよ! そんなものを20本も売ってくれるのかい?」


「はい、私のような名もない者が売るよりも、この街でも有名な店長さんに売ってもらった方が、このポーションも喜ぶと思うんです」


「嬢ちゃん、あんたそんなにポーションのことが……。よし、そんな嬢ちゃんの心意気を買って、一本10万ゴールドのところを一本12万で買い取ってやるよ!」


「ありがとうございます」


 こうして、何とか食料と金を手に入れることはできた。




※※※※※※※※




「……よし、こんな感じでいいか」


 手に入れた金で、一通りの装備を手に入れることができた。

 剣と肩当て、丈夫な服を着替え用も含めて上下3セット。

 それと、革でできた丈夫なバッグを一つ買った。

 この中に色々入れることができる。


「まずは、魔力回復用のポーション、戦闘力はかるやつ、野宿で寝るときに敷く布、ロープ」


 旅で必要なものを入れておく。


「着替えに水筒、財布、ハンカチ、あとは……包丁と調味料セットかな」


 調味料セットがあればどんなものでもある程度は美味しくすることができる。

 主に、塩やコショウ、砂糖にお酢が小瓶に入っている。

 味付けをするのとしないとでは、料理の質が格段に変わるからな。

 包丁とこれがあれば、どこでも料理ができる。


「ああ、敷くだけじゃなくて寝るときに上にかける用の布も必要だな」


 布をもう一枚バッグに入れる。


「あとナイフと、箸とコップ」


 ナイフは、武器にもなるし、木などを加工することができる。

 何かの役に立つだろう。

 箸があれば手を汚さずに食べれるし、コップがあればスープなどを作ったときに飲める。


「スープを作るんだったら、鍋もいるな。いや、この際だから焼くのも煮るのも適したそこの深めのフライパンにしよう」


 俺はフライパンをバッグに入れようとしたが、入らなかったので、入る大きさのバッグに入れて背中に背負った。


「あとこれこれ! これは欠かせないよな、紅茶のパック」


 日本にいたころの記憶を頼りに、しずくに作ってもらったものだ。

 これをコップに入れ、お湯を注ぐだけで紅茶ができる便利なものだ。

 これを作ってもらって以来、毎日紅茶を一杯飲むのが俺の習慣だ。

 まぁ、めちゃくちゃ紅茶が好きなわけではないし、高いものはあまり飲んだことがない。

 普通の庶民用の安いやつで俺には十分だ。

 俺はティーパックを20個ほどバッグに入れた。


「……よし、こんな感じでいいかな」


 一通り準備を終えると、俺の部屋にアロマがやってきた。


「ねぇ、魔王さままだー? 私もう待ちくたびれたんですけどー」


「ああ、悪い悪い。今終わったよ」


「そう、じゃあ行きましょ!」


「ああそうだな」


 俺はアロマと共に、魔王城の外に向かった。




※※※※※※※※




 俺は魔王城を見上げる。


「この魔王城を出るのも20年ぶりか……」


 今思うと、本当に長い月日をここで過ごしたんだな。

 アトラスたちが魔王城の外に俺たちを見送りにきた。


「じゃあなお前たち! また今度会おうな!」


「いってらっしゃいませ魔王さま! このクレア、全身全霊をもってこの城をお守りいたします!」


「20年ぶりの外だからね、色々と技術も進歩してるかもしれないから、帰ってきたらあたしにぜひ話を聞かせてほしいな。いい土産話を待ってるからね、魔王さま!」


「わ~い、じゃあね~」


「いってらっしゃいませ。あの男の面倒はお任せください。美味しい料理を作ってお待ちしております」


「またおいしいスイーツを買ってきてください! 前のプリンに負けないぐらいのがいいです! お願いしますよ魔王さま!」


「いっ、いってらっしゃい……ッ、が、頑張って……ください……ッ」


「お任せください! 何があっても、私がこの城を守ります! なんといっても、この私こそがこの城で一番強いのですから!」


俺が別れの言葉を告げると、皆が返事を返してくれた。


「さぁ、アロマ、行こう!」


「ええ!」


 ここから王都まではおよそ10日。

 豊穣祭が行われるのは14日後。

 十分間に合う。

 途中でいくつかの町を通って、宿に泊まったり野宿をすることになるだろう。

 ……ああ、ほんとに久しぶりだな。

 野宿なんて、勇者時代によくやったもんだな。

 自分でモンスターを狩って、火を起こして、仲間たちと火を囲んで騒いで。

 ああ、本当に楽しみだ。


 そう思った、そのときだった。


「『テレポート』!」


「え?」


 アロマのそんな声が聞こえてきたのは。




※※※※※※※※




「ふぅ……、さぁ魔王さま、王都についたわよ!」


 そう、王都である。

 王都に着いてしまったのである。

 モンスターと戦って、自分で火を起こして焼いて食べて、火を囲みながら仲間と騒いで。

 そんなもろもろの過程を全部すっ飛ばして、王都に着いてしまったのである。


「さぁ、行きましょ魔王さま!」


「……ふざけんな、ふざけんなよ!」


 俺はアロマにつかみかかった。


「えっ、な、なに!?」


「どうしてお前はいつも役に立たないんだよ! 俺が念入りに準備してたの知ってるだろ! 20年ぶりに野宿とかするのすごく楽しみだったのに!」


「な、なによ! 私は悪くないわよ!」


「問答無用!」


「痛い痛い痛いごめんなさいごめんなさい!」


 俺はアロマにDDTを決めてやった。


「うぅ……、私何も悪くないのに……」


「ハァ……ッ、ハァ……ッ! どうだ参ったか!」


 しかし、よくよく考えれば、豊穣祭にはあと14日もある。

 その分、王都で長く遊べるということだ。

 アロマのやったことは俺の意には沿わなかったが、結果としては別に悪いわけじゃないかもしれない。


「よし、まずは王都の一級品の料理でも食べるとするか……」


 せっかく王都に来たんだ、楽しめるだけ楽しんで帰ろうじゃないか!


「おい、そんなとこに寝てないで早く起きろ! 飯食いに行くぞ!」


「うぅ……、こうなったのは魔王さまのせいでしょ……」


 こうして、俺とアロマの王都での生活が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る