第15話 レストランにて

王都に着いた俺たちは、まずは腹ごしらえをすることにした。


適当な飲食店を見つけ、中に入る。


「いらっしゃぁせええええッ!」


「うおッ!?」


入店直後、男性の大きな声が聞こえる。


あまりに唐突に大きな声を聴いた俺は、びっくりして声を上げた。


「おふたりさぁ、はぃりゃしたあああッ!」


声を上げていたのは、カウンターにいる店長らしき男だった。


「お客様、2名様でよろしいでしょうか?」


「あっ、はい」


すると、ウェイトレスらしき人に話しかけられた。


「では、こちらのお席にどうぞ」


ウェイトレスさんについていく。


「では、ご注文がお決まりになりましたら声をおかけください」


「あっはい分かりました」


メニューを受け取ると、ウェイトレスさんは戻っていった。


「いらっさあせえええええッ!」


店の中に、男の声が響き渡る。


「うるせえぇぇ……、何だこの店……?」


客が店に入ったり、店から出ていくときに男は声を荒げる。


この店流の挨拶か何かだろうか。


もう慣れているのだろう、周りの人たちは特に気にすることもなく食事を楽しんでいる。


「まぁ、これが普通だっていうのなら、俺も慣れるしかないか」


俺はメニューを開いた。


「うおッ、結構メニューあるんだな……」


メニューには様々な料理の名前が右から左までびっしりと書かれていた。


こりゃまいったな、どれを選ぶのが正解なのか全く分からん。


「アロマはもう決めたか?」


アロマに聞いてみる。


こういうときは、人の意見を参考にするべきだろう。


「うん、私はこの『海鮮たっぷり!まるでうどん!霜降り牛肉とキノコのヘルシースパゲッティ』てやつにしようかな」


「なんだそのたった一文で矛盾してるメニューは」


え?うどんなの?スパゲッティなの?


霜降り牛肉なのにヘルシーなわけねぇだろ、バカにしてんのか。


くそ、アロマのは当てにならなさそうだな。


いや、そもそもアロマをあてにした俺が間違いだったか。


「じゃあ、こういうときは……」


俺は周りの客が何を食べているのかを確認した。


見たところ、ほとんどの客がこの店の常連と見える。


俺みたいに店長らしき男の声に驚いている人が少ないからな。


ならば、周りの客が食べているものはこの店の中で美味しいもの、つまり正解である可能性が高い。


「ん?」


ふと、俺は一人の鎧をまとった女性に目が付く。


「あの鎧って……、結構値の張るやつじゃないのか?」


そう、俺はその女性が来ている鎧に見覚えがあった。


たしか昔、鎧専門店で見たことがある。


「あの鎧ってたしか100万ゴールドくらいするよな」


そんな高級な鎧を持ってるあの女性は何者なんだ?


……面白い。


よし、あの女性が頼んだものと同じものを頼もう。


「失礼します」


すると、さっきのウェイトレスがその女性のところに料理を運んできた。


(おっ、来た来た)


さて、何を頼んだのでしょうか。


「こちら、スッポンの生き血カクテルです」


……なんて?


「あら、ありがとう」


女性がそれを受け取る。


スッポンの生き血カクテル……?


なんだそれ、聞いたことがないぞ……?


俺が戸惑っていると、女性のところに次々と料理が運ばれてくる。


「お待たせしました。こちらうな重でございます」


次はいたって普通の料理だった。


「おお、うな重か。俺もあれにしようかな」


しかし、さらに女性のところに料理が運ばれてくる。


「お待たせしました。牡蠣とレバーのニンニク風味パスタです」


今度はパスタだ。


え?あの人うな重にパスタも食べるの?食べすぎじゃね?


そんな俺の心配をよそに、さらに料理が運ばれてくる。


「お待たせしました。蜂の子とアボカドのサラダです」


…………ハチノコ?


え、ハチノコってまさか蜂の子のこと!?


「………………」


俺は無言になってしまった。


俺はこのときうすうす気づいていた。


「ん~、おいしいわね!」


この女性がヤバい人なのではないかということに。


確認してみよう。


スッポン、うなぎ、牡蠣、レバー、ニンニク、蜂の子、アボカド。


どれも精力増強の効果があるとされる食べ物だ。


うなぎ、牡蠣、レバー、ニンニク、アボカドはまだ分かる。


誰もが日常的に口にする食べ物だからだ。


しかし、スッポンと蜂の子を普通好んで食べようと思うか!?


蜂の子に関して言えば、虫だぞ!?


「ん~!」


女性がおいしそうにサラダを食べている。


しかし、女性の口の中に、まだ動いている蜂の子がフォークで串刺しになって入っていく様子はとても見せられるものではない。


昆虫嫌いの人は絶対に吐く、いや昆虫好きでも吐くだろう。


そして、シメには……。


「お待たせしました。牛のペニススープです」


「ゴフッ!」


思わず、せき込んでしまう。


これで確信を得た。


あの女性は、関わっちゃいけない人だ。


……っていうか、牛の息子なんてうまいのか?


「お客様、ご注文はいかがなさいますか?」


「えっ?」


声をかけられ、振り返るとウェイトレスさんがいた。


「ご注文は?」


「あっ、えっと……」


どうしよう……、あの人と同じものは頼みたくないなぁ……。


「じ、じゃあ、この『海鮮たっぷり!まるでうどん!霜降り牛肉とキノコのヘルシースパゲッティ』ってやつで」


「あ、はい。お二人とも同じものですね」


結局、アロマが頼んだものと同じものになってしまった。


「ご注文入りましたー。例の矛盾スパゲッティを2つです」


「あいよ!矛盾スパゲッティ2つね!」


「おい」


どうやら、店の方もこのスパゲッティがおかしいことは気づいているらしい。


じゃあ改名しろよと思ったが口には出さなかった。


名前はアレだったが、味の方は結構よかった。







「ありがてぇごぜえましたあああああッ!」


食べ終わったので、俺たちは店を出た。


「さて、腹ごしらえもしたし、次はなにをするかな」


俺が考えていると、アロマが俺の服の袖を引っ張ってきた。


「ねぇねぇ、魔王さま!ギルドに行くのはどうかしら?」


「ギルドか……、うんそうだな」


ギルドに行けば、クエストが受けられる。


クエストを受ければ、報酬として金をもらうことができる。


これからしばらく宿で暮らすことになるんだ。金は必要だ。


「よし、ギルドに行こう!お前もたまには役に立つんだな」


「えへへ、そうでしょ?……ねぇ、『たまには』って何?」


俺たちはギルドに向かった。







「ここが王都のギルドか……。さすが、国の中心だけあってギルドもデカいな!」


早速、中に入る。


中はたくさんの人であふれかえっていた。


「おお、久しぶりだなこの感じ」


昔は仲間たちとギルドで集って、酒場でよく騒いだもんだ。


『次のクエストはどれにしようか?』


『このゴブリン退治とかは?』


近くの男女4人組と、昔の俺の仲間たちとの姿が重なる。


「……よし、とりあえずクエストだ」


俺はクエストの募集が貼られる掲示板を見た。


モンスターの討伐、薬草の採取、旅の護衛など様々な依頼が募集されていた。


「どのクエストにしようかな」


「あっ、これとかはどう?『マッドフロッグの討伐』ってやつ」


「マッドフロッグか……」


スライム、オーク、ゴブリンに並ぶ有名なカエル型モンスターだ。


「1匹につき3000ゴールドか。結構いいな」


3000ゴールドあれば少し良い宿に一晩は泊まれる。


「よし、こいつにするか」


俺は募集の張り紙をクエストの受付まで持って行った。


「すみません。このクエストを受けたいんですけど」


「はい、マッドフロッグの討伐ですね。分かりました。では、ギルド会員カードを出してください」


俺は受付の女の人にカードを2枚渡した。


「……はい。確認できました。えーと、マオーさんにアリマさんですね」


「はい、俺がマオーです」


「はい、私がアリマです」


俺が今この人に渡したのは偽造ギルド会員カードだ。


ギルド会員カードは俺は持っているが、そのまま使うと俺が昔の勇者ということがバレてしまう。


だから、今回のためにしずくに作ってもらった。


俺の偽名の『マオー』というのは、アロマが俺のことを『魔王さま』と呼んでも『マオーさま』と発音は同じなので違和感がないからだ。


アロマの偽名の『アリマ』は特に理由はない。単純にロをリに変えただけだ。


「それでは、討伐クエスト、頑張ってきてくださいね!」


こうして、俺たちの冒険最初のクエストが始まった。

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