第13話 魔王は王都に行くことを決意する

「クソッ、我が国の軍勢はどうなっている! 歩兵は!?」


「皆打ち取られました……」


「ナイトは……? 皆どうした……?」


「それもすでに……」


 すると、王の目の前に一人の騎士が現れた。


「フハハハハハッ! 貴様が王か」


「グッ……お前は……!」


「貴様の首を頂いて、我が殿下のお目に入れるのだ!」


 そして、騎士は王の首向けて、剣を振った。




「うわああああああッ!負けたあああああああッ!」


「はい、俺の勝ち!」


 今俺は、ロイドと一緒にチェスをやっている。

 なぜ不法侵入してきたやつと仲良く? と思うかもしれないが、なぜだかこの男とはなかなか気が合うのだ。


「いやー、まさかお前が俺と同じ転生者だなんて思わなかったよ」


「俺もだ。40年生きてきて、転生者にあったのは初めてだな」


 そう、ロイドは俺と同じ転生者だったのだ。

 しかも、偶然にも同じ日本からの転生者だ。


「しかも、好みだったアニメも、推しキャラも同じだとは……! なんて偶然なんだろうな!」


「日本にいたころは、よくアニメを見ていた記憶があるよ……」


 俺には、日本にいたころの記憶がほとんどない。

 覚えているのは、自分が死んだ時の光景と、日本の常識的な知識、例えばアニメやサングラスとかだ。

 だけどロイドと出会って、どうやら俺はアニメのことについて詳しいということが分かった。


「ほんとに、ロイドが侵入してきてくれてよかったよ!」


「おいおい、出会い方がおかしいだろ。もっとマシな方法でお前と会いたかったのによ」


「それはこっちのセリフだよ」


 2人で笑いあう。

 ああ、こんなに笑ったのは何年ぶりだろうか。

 最初はこいつから外の世界の情報を得ようと思って、この城に滞在させていたけど、今では完全に仲のいい友だちのような関係だ。


「そういえば、ロイド。君が今まで多くの貴族や領主から奪ってきた金はどうしたんだ?」


「ん? ああ、金は全部教会やら孤児院やらに寄付したよ」


「君はその金は全く使わなかったのか?」


「びた一文も使わなかったよ」


 俺はそれを聞いて少し驚いた。


「なんでだ? 少しくらい使ったっていいじゃないか」


「俺が奴らから奪った金は、もともと奴らが治めている領民たちが手にするはずだった金だ。俺が使うべきじゃない」


 さらに、ロイドは続けた。


「俺が襲ったとこはどこもそうだ。今まで4つくらいやったけど、どいつもこいつも国に内緒でありえないほど高額な税金を課したり、自分の収入を安く見積もって脱税してたような奴らだった。本当は、金を領民たち全員に返せたらよかったんだけど、それだったら奴らの権力で領民たちから巻き上げればいいわけだから、結局奴らの手に戻っちまう。だったら、巻き上げられない孤児院や教会に寄付しようってなったわけだ」


 孤児院や教会は、すべて国が管理していて、税金を納める必要がない。

 そのため、貴族や領主たちはそれらから税金を取ることはできない。


「なるほど、考えたな」


「だろ?」


「でも、少しぐらいはその金を使ってもよかっただろ。飯食ったり、風俗店行ったりさぁ」


「飯は自分で作るのが好きだし、風俗は……」


 すると、ロイドが急に黙り込んでしまう。


「どうした、ロイド?」


「いや……、風俗に行っても俺全然気持ちよくなれないんだよね……」


「なんでだよ?」


「いや、実はさ……、俺呪いで『短小』なんだよ」


「呪い? ああ、俺の性行為ができないやつと同じやつか?」


「そう。呪いのせいで、俺の息子は米粒並みに小せぇんだよ……」


 米粒サイズの息子!?

 えッ!?どうやってそんなので排尿とかすんの!?


「そんなのだから、風俗嬢に挿れても、全然気持ちよくねぇんだ……。っていうか、あれって入ってるのかな……?」


「そ、そうか……」


 俺も呪いのせいで童貞を捨てられないとはいえ、こいつも色々と大変なんだな……。


「そういえば、お前は魔王なんだよな?」


「そうだけど、なんで今さらそんな当たり前のことを聞いたんだ?」


「いや、魔王なんだったら、今後色んな勇者と戦うことになるだろ? 勇者の情報はもう手に入れたのか?」


「いや、それがまだ全然」


「それなら、ちょうどいい情報があるぜ」


「いい情報?」


「ああ、今度王都のほうで豊穣祭をやるらしいんだ。そのときに、王都に勇者が全員集められるって話だ」


「それは本当か?」


「領主や貴族たちがそう話してたから、間違いないだろ」


 そうか。

 ……よし、そうと決まれば。




※※※※※※※※




「「「「「「「「王都に行く!?」」」」」」」」


「ああ、そうだ。そこで今度、勇者が集められるらしい」


 俺は、いつもの仲間たちに王都へ向かうことを伝えた。


「し、しかし、そのような話は我々は聞いたことがありませんが……」


 アトラスが言う。


「ロイドから聞いたんだ」


 すると、皆がとても驚いたような顔をした。


「なんと、魔王さまはあのような男の話を信じるというんですか!?」


「あの男はこの城に侵入し、金銀財宝を盗もうとした男ですよ!?」


「そうよ! どうしてあんな男を!」


 皆が口をそろえてそんなことを言う。


「俺があいつを気に入ったからだ」


 だが、俺は即答した。


「し、しかし……」


「なんだ? 俺の言うことを聞かないつもりか?」


 そう言うと、全員下を向いて黙り込む。


「あいつには何かある。ただの人間じゃないと俺は思う。それに、俺はあそこまで気が合った男はいない。俺はあいつの言うことを信じるよ」


「そうですか……、魔王さまがそうおっしゃるのなら……」


「というわけで、仲間として誰か一人についてきてもらいたいんだ」


俺がそう言うと、アトラスが物凄い勢いで顔を上げる。


「それなら! 私が行きましょう!」


「いや、アトラスはいいよ」


 そう言うと、アトラスは絶望したかのように床に手をつく。


「な、なぜですか……?」


「お前全身鎧だろ? そんな奴と一緒に歩く俺の気持ちにもなってみろよ。完全に変な目で見られるだろ」


「ぐッ、確かに……」


「そもそも、なんでお前そんなに行きたいんだ?」


 すると、アトラスが言った。


「最近、私の出番が少ない気がするんです……。私の唯一の能力である『鑑定』も、この前しずくが作ったという機械で代用ができるらしいじゃないですか!」


 ああ、戦闘力はかるやつのことか。


「まぁ、確かにそうだな」


「厳格で、騎士というキャラも、クレアと完全に被ってますし……! この前も、せっかくアロマに呼び出されて茶番劇を手伝ったのに特にいいこともなく……!」


「まぁ、確かにそうだな……」


「私は仲間たちの統率をする、魔王さまの次に偉い存在のはずなのに! アロマは私にタメ口をするし!」


 それは、アロマの性格上仕方のないことだな。


「何でしょうか……、自分の存在意義が分からなくなってしまいまして……」


「そうか、それは可哀そうに……。だが、すまないが連れて行くのはお前じゃない」


「なんですか、鎧を脱げば連れて行ってくださるんですか!? だったら脱ぎますよ、鎧の一枚や二枚!」


「いや、そういう話じゃなくて」


 そう言うと、アトラスは床に完全に崩れ落ちた。

 すると、今度はクレアとソルトが顔を上げた。


「「それでは、私を連れていってください!」」


 2人が同時にそう言った。


「……なぜソルトが魔王さまについていく必要があるのだ」


「クレアこそ、どうして魔王さまとついて行けると思っているの? あなたの見た目じゃ、アトラスさまと同じように目立つでしょう? 私は見た目はほとんど人間だから、目立たないわ」


「ハッ、お前は魔王さまの言った意味が分からなかったのか? ついてきてほしいというのは、護衛してほしいということだ。私ならどんな敵が来ようとも、魔王さまをお守りする自信はあるが、お前は魔王さまを守り切れるのか? ただのメイドが」


「私だって、レベルは500はあります。どんな危険からだって守ってみせるわ」


なぜか、クレアとソルトが言い争いを始めてしまう。


「ちょいちょい、2人とも落ち着けって。それに、もうついてきてほしいやつは決まってるんだよ」


「「それは誰ですか!?」」


 クレアとソルトがぐいっと俺に近づいてくる。


「ちょ、近いって……! あ、アロマだよ!」


「え、私?」


 皆がアロマのほうを見る。


「アロマは見た目は完全に人間だし、実力もこの中で2・3番手ぐらいには強い。それに、あらゆる属性の魔法が使えるんだ。こんなに頼もしい仲間はいない」


「そ、それじゃあ……!」


 アロマが期待に満ちた目で俺を見てくる。


「ああ、アロマ。お前に頼みたい」


 そう言うと、アロマが大声をあげて喜び始めた。


「やった、やった! 久しぶりにおいしいスイーツが食べたかったのよ!」


 さぁ、行く準備をしなくちゃな。


「アトラス、金を5万ゴールドくらいと、俺の装備を一式用意してくれ」


 そう言うと、アトラスが泣きそうな声でこう言った。


「無理です……。現在この城には金はありませんし、魔王さまの武具は一つもありません……」


 …………は?


「……今なんて?」


「魔王さまはこの前、魔王城の中でモンスターたちを養えとご命令されましたよね……」


 確かにそう言った。

 これ以上、人々を襲わせないようにするためだ。


「しかし、圧倒的な数のモンスターを養うためには、貯蔵庫の食料だけでは足りず金庫の金を使いましたが、つい先日、食料もそれを買うための金も全て尽き、魔王さまの武具を売って足しにしましたが……、その分も今日尽きてしまいました……」


「………………」


 開いた口が塞がらない。

 えっ、じゃあ今俺たち、無一文ってこと……?


「…………どうしよう」


 気が付くと、俺は体中から汗が止まらなくなっていた。

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