第12話 例のワンパンする男性と同じで、右手を上下に動かし続ければ強くなれる

 クレアを無事部屋に送り届けた後、俺は自分の部屋に戻った。


「ふぅ……、まったく、今日は朝から騒がしいな」


 ここ数日でいっきに騒がしくなった気がする。

 思えば、俺が魔王になって、20年ぶりに魔物開発専用部屋から出たときからとても賑やかになった。

 毎日、失敗作を作ってはアトラスたちに押し付ける生活。

 そんな一色の生活はいつのまにか終わり、気づけば昔からの仲間たちとの楽しい毎日。


「こんな生活も……」


 悪くない――――


「ま、魔王さま! 人間がこの城に侵入してきました!」


 ――――と一瞬でも考えた俺が馬鹿だったよ!




※※※※※※※※※※




「あ、魔王さま!」


 俺が下の階に降りると、アロマが待っていた。


「人間が侵入してきたって?」


「ええ、そうなの。もうすでに一階は突破したらしいわ」


「まじかよ、勇者は一階で死んだのに」


 まさか、別の勇者?


「アトラスはどこにいるんだ? もし勇者ならタレント持ちのはずだからあいつに見てもらわないと」


「アトラスなら、今ごろ森で剣の修行のはずよ」


「ああもうッ! 肝心なときに……」


 アトラスの『鑑定』があれば相手のタレントが分かるのに……。

 ……いや、待てよ。

 なにもアトラスがいなくてもいいじゃないか。


「俺にはこの『戦闘力はかるやつ』があるじゃないか!」


 そうだ、これさえあれば相手のタレントが分かる!

 あれ? もしかして、アトラスってもう用無しか?

 ……まぁ、それは後でいい。

 今はとりあえず侵入者だ。


「アロマ、その侵入者のところに案内してくれ!」


「ええ、分かったわ!」




※※※※※※※※




 大量のモンスターたちが一人の人間にめがけて襲いかかる。

 だが、数秒後には全員吹き飛ばされて壁にぶつかる。


『くそッ、なんだよこいつら!? いくら吹っ飛ばしても終わる気がしねぇ! 一体何匹いやがんだよ!?』


「お、あいつがその侵入者か。どれどれ……」


 俺は戦闘力はかるやつを装着した。



レベル:200

戦闘力:1000



 画面には、こんな数字が表示された。


「あれ? 思ってたよりめちゃくちゃ弱いな」


 勇者たちが倒せなかった一階のモンスターたちを倒したんだから、もっとレベルも高いし、戦闘力も高いもんだと思ってたけど……。

 じゃあ、タレントのほうは?



タレント:性玩具

自身の体を、自分が知っている性玩具に変えることができる。



「…………は?」


 なんだこのふざけたタレント?

 こんなタレントで一体どうやったらあんな力を出せるんだ?

 まぁ、分からないなら本人に聞くまでか。


「おーい、お前たち! そいつは殺さずに生け捕りにしろよ!」


 俺がそう言うと、モンスターたちが全員うなずいた。


『なんでただのゴブリンやオークたちがこんなに強いんだよ!?』


 その侵入者が周りのモンスターを吹き飛ばすが、どれだけ攻撃されてもモンスターたちが減っている様子はない。


『くそッ、離せッ!』


 そして、ついに侵入者を捕まえることに成功した。



「よぉ、侵入者さん! 歓迎いたしますよ!」


 早速、俺は侵入者に話しかけた。


「歓迎だぁ? 魔物けしかけて、ロープで縛りあげるのを歓迎っていうのかよ?」


「おやおや、不法侵入しといてその態度。まったく反省してないようだな」


 俺はしゃがんで、床にいる縛り上げられた男に目線を合わせた。


「お前は何者だ?」


 男にそう問いかける。


「………フッフッフ」


 すると、男は不敵な笑みを浮かべ、こう言った。


「俺は『マカ・ロイド』。勇者になれなかった、哀れなタレント持ちの義賊だよ!」


 勇者になれなかった?


「どういうことだ?」


「ハハハ、どうせ聞いたって無意味なことだぜ。お前に殺されるんだからな」


 ……ん?

 殺される?

 一体誰にだ?

 あ、俺のことか?


「いや、殺すつもりはないぞ」


「殺すつもりはないだって? じゃあ、なんだ、拷問でもするつもりか?」


「いや、拷問もしない」


「じゃあ、なぜ俺を生け捕りにした」


「お前に聞きたいことがあったからだよ」


「……俺に聞きたいことだと?」


「なんで、あんなタレントであそこまでの力を出せたんだ?ステータスだって高いわけじゃないだろう?話してくれたら、釈放するの、考えといてやるよ」


 戦闘力も低かったしな。

 普通なら、あんな戦闘力であそこまでの立ち回りはできないはずだ。

 すると、ロイドはこう言ってきた。


「それは、俺のこれまでの人生について聞く必要がある。それでもいいか?」


「ああ、ぜひ聞かせてくれ」


 そして、ロイドは自分の人生について語り始めた。




※※※※※※※※




 俺は『マカ・ロイド』。20歳だ。

 俺はこの世界で数十人しか存在しないタレント持ちとして生まれてきた。

 タレント持ちは、若い間は“勇者”となって、人々を助けたり、強大な悪を倒したりするヒーローになる。

 俺も最初は村のみんなから『この村初の勇者だ!』などと褒められたもんだ。

 家族にも、将来の勇者として期待されていた。


 毎日が本当に楽しかった。

 12歳の春、王国の使者が迎えに来るまでは。


『な、なんだこれは……?』


 王国から迎えが来ると、鑑定紙と呼ばれる紙を使って、新しい勇者が一体どのようなタレントを持っているのか、どのような魔法に適性があるのかなどを調べるのだ。


『自身の体を、せせ、性玩具に変えるだとッ!? 魔法適正も0! どの属性にも適性がない! ステータスも、オールDだとッ!? 普通の冒険者よりも弱いではないか! なんだこれは!? こんなのが新しい勇者だというのか!?』


 俺の鑑定紙を見た使者はひどく憤慨し、


『マカ・ロイドよ』


『は、はい、何でしょう国王様?』


 俺は、国王自ら、


『お前は勇者には向いていない。というか、冒険稼業そのものが無理だ。村に帰って畑仕事でもして生きていくがよい』


『……え、いやしかし、私はタレント持ちですよ!? タレント持ちは勇者になると法律でも決められて……ッ!』


『そんな法律、いつでも変えられる。だいたいアレは、強いタレントを持ったものが勇者になるべきという意見から作られたものだ。お前のような、風俗街でしか役に立たないようなタレントを持った者が、勇者になれるように作られた法律ではない』


『しかし……!』


『それともなんだ? 勇者になって赤っ恥でもかきたいのか?』


『あ……』


『お前も分かっているだろう? このまま勇者になっても、他の強い勇者と比べられて蔑まされるようになると。それよりも、村でのんびりと暮らしたほうがさぞかし幸せだろう?』


『…………はい』


『そういうわけだ。お前は村に戻れ』


 国王自ら『使えない』と言われた。

 村に戻った俺は、次の日から誹謗中傷、罵詈雑言の嵐を受けた。


『なんだよあいつ、あんなに自分のことをタレント持ちだってアピールしてたのに、そのタレントがクソ雑魚だったのかよ! 超ウケる!』


『国王にも、お前は勇者じゃないって言われたってよ!』


『ダセェ!』


 家族からも、冷たい目で見られるようになった。


『父さん、クビになったよ……。クソみたいなタレントを持っている息子の父親なんか働かせてたら、会社のイメージが下がるからだってよ! お前のせいで! 俺は仕事を失ったんだ!』


『あなたがこの家にいるせいで、もう何回石を投げ込まれたか……。窓ガラスを買うためのお金で今月30万はいくわよ……』


『今日、学校のみんなに、勇者になり損ねた、村の恥さらしの妹だって、石投げられたの……。もう、お兄ちゃんがいるからだよ……、お兄ちゃんなんか死ねばいいのに!』


 そんな生活を続けているうちに、俺は部屋に引きこもるようになった。

 毎日毎日、ただひたすらオ〇ニーをしていた。

 それくらいしかすることがなかったからだ。




 そして、19歳になったころ。


『ふぅ、今日も快調快調! ティッシュの山が増える増える!』


 毎日ただひたすらに右手を上下に動かしていたからか。

 いつのまにか、俺は右腕だけ、音よりも早く振れるようになった。

 そして、俺はこれを活かした戦闘方法を確立した。



『ふんッ!』


 俺が右腕を目にもとまらぬ速さで振る。

 次の瞬間、目の前の木がズシンと音を立てて倒れた。


『よし、成功だ!』


 まず指先をナイフで少し切る。

 もちろん、切ったところからは血が出てくる。

 そして、そのまま腕を高速で振る。

 その瞬間に、血をバ○ブかディ○ドに変えるのだ。

 すると、その棒状の性玩具たちは俺が腕を振った速さと同じ速さで飛んでいき、


『ズドンッ!!』


 たとえ、分厚い鉄板だろうとへこむほどの威力を出せる。




※※※※※※※※




「これを、人間やモンスターに当てれば簡単に吹っ飛んでいくっていう仕組みだ」


「なるほど、そういうことだったのか」


 たしかに、バ○ブやディ○ドなど重量のあるものを速く物体にぶつければ、そのぶんダメージも大きくなる。

 これが答えだったのか。


「しかしまぁ、本当にふざけたタレントだよなぁ……」


 タレントは、生まれるときに神から授かるものだ。

 つまり、神が彼にこんな馬鹿げたタレントを授けたのだ。


「じゃあ、もう話したし。俺帰っていいか?」


「いや、帰すわけにはいかない」


「え、なんでだよ? 話したら帰してくれるんじゃなかったのかよ?」


「そんなこと、俺は言ってないぞ」


「クソッ、じゃあ話すんじゃなかった! やっぱり殺すつもりか!」


「殺さないって、俺そこまで悪いこと好きじゃないし」


 そして、俺はこう言った。


「しばらくこの城で過ごしてから帰ってくれないか」


「……………へ?」

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