第11話 騒がしい朝
「……んあ? もう朝か?」
窓のカーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。
「ふぁぁああ……」
俺は大きく伸びをし、ベッドから立ち上がる。
そして勢いよくカーテンを開けた。
「うあッ、眩しッ」
朝日が目に入ってきて思わず目をつぶってしまう。
目がまだ光に慣れていないのだろう。
「いや、それにしても、ちょっと眩しすぎないか?」
一向に目が慣れる気がしない。
「そして、なんか熱いんだけど……」
グライドがこの部屋でファイヤーブレスでもしたのだろうか。いや、さすがのグライドもそんなドジはしないはずだ。
第一、もしそうなら部屋中の家具が真っ黒こげだ。俺も今頃たぶん焼死体だぞ。
グライドがやったわけじゃない。
すると、唐突に『シュウウゥゥ……』という変な音が聞こえてくる。
音の聞こえる方向を見てみると――――――
「…………え?」
俺の視線の先では、お気に入りの黒色のローブから煙が出ていた。
「えッ、いやッ、ちょッ!?」
そして、ローブから火が出た。
「ちょッ……! 『ウォーター』!」
急いで水魔法を使って鎮火する。
「いや、なんだよ、おかしいだろコレ!?」
普通、朝日が当たっただけでローブって燃えるっけ?
「ていうか、眩しすぎだろコレ! もうそろそろ目が慣れてもいい頃だろ!」
これは明らかに何かがおかしい。
「一体、何が起こっているんだ?」
不審に思い、窓を開けてみる。
視線を落とすと、そこには――――――
「貴様、ふざけるな! ぶった切ってやる!」
「くく、クレアちゃっ……ん! お、おお、落ちッ、落ちッ、落ち着いてッ!」
そこには、俺の仲間である、リーンとクレアがいた。
(何だ、あの二人。一体何してるんだ?)
視線を横にずらすと、リーンが光り輝く剣を持っていた。
そう。
その光で、物が焼けこげるほどのものを。
「ッ! 目がッ! 目がああああああああッッ!!」
網膜が焼かれたような痛みに、思わず両手で目を覆う。
「ぐおおおおおおッッ!! ……あっ、そうだ! 確か、こんなときのためにアレを作っていたはず!」
俺は急いで棚から例のアレを取り出した。
そしてすぐにそれを装着した。
「フゥ……」
それとは、サングラスのことである。
日本にいたころの知識から、しずくに再現させたものだ。
それにしてもなぜ、あの某大佐はサングラスをしていたのに、あんなに痛がっていたのだろうか?まるでさっきの俺のように。
……まぁ、今はそんなことどうでもいい。
「さっきクレア、ぶった切るとかなんとか言ってなかったか?」
なんて物騒な発言を。
一体、外で何が起こっているのだろう?
もう一度外の様子を確認する。
「ふざけるな! 取り消せ! 今の言葉を!」
魔王軍側近8人衆の一人、
魔王軍の中では珍しく、アトラスと同じ真面目なキャラ。
見た目はいかにも厳格な女騎士といった感じだ。
だが、その張り出した二つの果実はアロマに引けを取らないくらいデカい。
「ごッ、ごめッ、ごめッ、あやッ、謝るから!」
同じく、魔王軍側近8人衆の一人、ヴァンパイアのリーン。
とてもシャイな性格で、相手が怒ったり、悲しんだりすると、焦ってうまくしゃべれなくなる。
その内気な性格のせいで、色々なことに巻き込まれるちょっとかわいそうな
ちなみに胸はアロマやクレアよりは小さいが、しずくよりははるかに大きい。
「おーい、2人とも! 一体どうしたんだよー!」
声をかけると、2人とも気づいたようで、こっちを見てくれた。
「ま、魔王さま!?」
「あっ、あっ、ま、魔おッ、魔王さま! たすたす、助けてッ、ください!」
リーンの反応からみて、なんかマズい状況みたいだな。
「2人とも、いったんそこで終わりにしろ! 話は俺が聞くから、俺の部屋に来てくれ! ソルトのおいしい朝食を一緒に食おうぜ!」
おいしいものを食べれば、リラックスしながら話せるだろうからな。
「わ、分かりました……」
クレアがそう言って、剣を鞘にしまう。
そして、リーンが泣きながらこちらに向かって何度もおじぎをしてきた。
※※※※※※※※
「じゃあ、そんなわけで。今から追加で2人分の朝食も頼めるか?」
「はい、もちろんです。私はどんな料理を作るときでも、魔王さまがそのおいしさのあまりにお代わりをされることを想定して、いつも余分に2人前は作ってありますから」
「うん、今回はそれで良かったけど、次からはそれやめてね? 俺、そんなに食わないから、食材の無駄になるだろ?」
「確かにそうですね。次からは気を付けます」
そう言ってソルトは、食事の準備をしに部屋を出て行った。
「……んじゃ早速、話を聞こうか」
俺はクレアとリーンに向き合った。
「まず、一体何があったんだ?」
「はい、リーンが私にふざけたことを言ってきまして……」
「で、でもッ、ほほッ、本当のことだもの!」
「嘘をつけ! そんなことは絶対にない!」
「ひッ、ごめッ、ごめんなさいッ!」
「まぁまぁ、落ち着けって。で? そのふざけたことって一体何のことなんだ?」
「そ、そうだよッ。魔王さまに、き、決めてもらえばいいんだよッ」
「む、むぅ……確かにそうだな。私たちで話し合うよりも、魔王さまに決めてもらったほうが早いな」
俺に決めてもらう?
一体何をだ?
「では……、ンンッ! ま、魔王さま」
「お、おう、なんだ?」
クレアは大きく息を吸い込むと、その言葉を放った。
「魔王さまは、私のことがかわいいと思いますか?」
「………………はい?」
クレアは、そんな意味不明なことを聞いてきた。
「だって……、クレアちゃんって美人じゃない。それなのに、おしゃれをしないでずっと鎧を着けているのはもったいない……って言ったのよ」
「だから、私は美人ではないと言っているだろうが!」
「すすッ、すみません……」
「なんだ、そんなことで怒っていたのか?」
「そんなこととは……、私は魔王さまに忠誠を誓い、魔王さまの騎士として生きてきました。女などとっくに捨てた身です。そんな私に『かわいい』などとは……、ばかげた話です!」
「そ、そんな……私はクレアちゃんはとてもかわいいと思うのに……」
なるほど、そういうことか。
確かに、クレアはいつも鎧ばかり着ていて、かわいい衣装とかを着たところは見たことがない。
今思うと、クレアは普段からあまり女性らしさを見せていない。
それなのに、『かわいい』と言われたことに怒りを感じたと。
でも、どれだけ自分の“女”を捨てようとしてもやっぱり女の子なわけで、ドレスとか着たらかなり似合うのではないかと俺は思ってしまう。
「俺はリーンの意見に同意だな」
「なッ!?」
俺の言葉を聞き、クレアが驚く。
「確かにお前は、いつも鎧ばっか着ていて、女っ気はない。だけど、お前は顔も美人だし、鍛えてるからかスタイルもいい。それなのに、女の子らしい服を着ないのは損だと俺は思うぞ」
クレアは俺の言葉に、目を見開いて驚いている。
「リーンの言う通り、お前はかわいいよ、クレア」
そう言うと、なぜかクレアの顔がどんどん赤くなっていき、『ボンッ』という音がした。
「え、おい、大丈夫か?」
クレアの頭から湯気が昇っている。
「は、はひぃ……大丈夫でしゅぅ……」
「全然大丈夫じゃないだろ、それ……」
クレアのおでこを触ってみる。
触った瞬間、クレアの体がビクッと震えた。
「なんだこれ、すごい熱じゃないか! 急にどうしたんだよ!」
「しゅ、しゅみましぇん……」
もうまともに立てないらしく、俺にもたれかかってくる。
「……たくッ、熱があったんなら我慢せずに休めよ」
俺はクレアを抱え上げた。
「リーン、頼むが一緒にクレアの部屋まで着いてきてくれるか?」
「は、はい。分かりました」
俺は部屋のドアを開けた。
すると、そこには3人分の食事が床に置いてあった。
「ん? ソルトが置いたのか?」
まだ温かいのか、食事からは湯気が立ち上っている。
「おい、ソルト? いくらなんでも、食事を床に置くのはどうなんだ?」
ソルトに話しかけるが、返事が聞こえない。
もう自分の部屋に戻ってしまったのだろうか。
「後で言っておかないとな」
前に、食事は床に置くなって言ったはずなんだけどなぁ……。
そう思いながら、俺はリーンとともにクレアの部屋に向かった。
※※※※※※※※
そのとき実は、ソルトは魔王が開けた扉の裏に隠れていた。
「そんな……、魔王さま、クレアのことが……?」
そう言って、ソルトは足から崩れ落ちた。
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