第6話 筋肉の恐怖

「き、筋肉が……筋肉が迫ってくる……」


「やだ……止めてくれ……! もうプロテインは飲みたくない!」


 勇者を襲った罰として、インキュバスたちと肉体改造(意味深)をさせていた触手たち。

 あのあと、部屋から出てきた触手たちは、完全に灰と化していた。


「うわ……これはひどいな……」


 まぁ、こいつらの自業自得なんだけどね。


「しかし、さすがにこれはかわいそうだな」


 相手があの巨乳インキュバスたちだもんなぁ……。

 俺が同じ目にあったら二度と立ち直れないと思う。

 中で一体何をしていたのかは知らないが。知りたくもないが。

 と、そんなことを考えていると。


「よ、幼女……幼女はいずこに……!」


 一匹がプルプル震えながらそんなことを言った。


「あ、思ったより元気みたいだな」


 まぁしかし、このまま灰のままでいられるのも困るし……。


「仕方ねぇなぁ、連れてきてやるよ。お望みの幼女を」




※※※※※※※※


「おーい、しずくいるかー?」


 今、俺はしずくの研究室の前にいる。

 しずくに少し用事があるからだ。


「入るぞー」


 返事がなかったので、ドアを開ける。

 ドアの先には、真っ暗な部屋の中、緑色に発光する謎の液体が入ったフラスコを持った、しずくの姿があった。


「フヒヒヒヒ、このマンドラゴラを入れて……フヒヒヒヒ!」


「おーい、しずく」


「うひゃあッ!? え、魔王さま? いつからそこに?」


「ついさっきから。ドアノックしたんだけど、お前の返事がなかったから入ったんだよ」


 ゴーストのしずく。

 魔王側近八人衆まおうそっきんはちにんしゅうの一人だ。

 主に薬や武器の開発をしている。

 研究しているときに、よく『フヒヒヒ』と言うくせがある。


「あ、そうだ。頼まれていたものができたよ」


 しずくはそう言うと、どこかで見たことがあるやつを取り出した。

 見た目はメガネに似ているが、半分しかないし、レンズの部分は緑色と不思議な設計だ。


「……これは?」


「前に言っていた、相手の強さをはかるやつだよ。これを介して見るだけで、相手のレベル、タレント能力、総合的な戦闘力が分かるよ!」


「おお、やっとできたか」


「名付けて、『スカウt」


「まて、それ以上は言うな」


「え? どうして?」


「お前これ、『龍の玉りゅうのたま』のあれだよな」


「うん、そうだけど」


「7つ集めるアレに出てくる、野菜ヤサイ人が使うあれだよな」


「うん、そうだけど……」


「よし、この装備品の名前は『戦闘力はかるやつ』とでもしておこうじゃないか!」


「りょ、了解!」


 そのままの名前にしたらたぶんマズいことになっていただろう。著作権的に。


「あ、そうそう、しずくに頼みたいことがあったんだ」


「え? あたしに頼みたいこと?」




※※※※※※※※


「な、なんであたしがこんな格好を……」


「頼むよ、部下を助けるために!」


 俺の目の前には胸に『しずく』と書かれたスクール水着を着たしずくがいる。


 話は少し前にさかのぼる。




『―――――てなわけで、触手たちを元気づけてほしいんだよ』


『うーん、助けてほしいのは分かったけど、なんであたしが?』


『実は、その触手たちはHな女の子が好きなんだよ』


『はぁ……』


『でだ、オトナの魅力を持っているお前になら、たぶん元気にさせることができるんだよ』


『オトナ……そう、あたしはこんな見た目でもちゃんと大人だからね!』


『そういうわけで、こいつを着てくれ』


『え? これって、魔王さまの元居た世界にあったっていう『スク水』ってやつじゃない? こんなものに魅力を感じるの? こう……もっと扇情的なやつじゃなくて?』


『いやー、俺も良くわからんが(大嘘)あいつらはこれを着た女の子が大好きらしくてな』


『そ、そうなの?』


『そんなわけで、オトナの魅力あふれるしずくさんに是非ともHな女の子になってもらいたい!』


『うーん、ちょっと嫌だけど……魔王さまがそこまで言うんだもんね。分かった』




 そして、現在に至る。


「本当にこの服であってるの?」


「それがあいつらにはいいんだよ」


「そういうものなんだ。男って変だね。……ねぇ、今さらなんだけどさ。なんでアロマや瑠璃るりじゃなくてあたしなの? あの2人の方がスレンダーで胸も大きいのに。体だけで言えばあの2人の方が大人じゃないの?」


「さぁ! そろそろ行くとしようか! あいつらが待ってる!」


 俺は勘の良いしずくのセリフを無視して犯罪者予備軍ロリコンたちのところに向かった。




※※※※※※※※


「も、もう脂肪分抜きの鶏肉は食いたくねぇよぉ……」


「……ん? なんだこの感覚は?」


「ああ、なんだろう。何か俺たちにとってオアシスになる何かが近づいてきてる気がする……」


「おーい、お前ら!」


「こ、この声は魔王さま?」


 俺の声に気が付いた触手たちが起き上がる。


「ま、魔王さま、その箱は一体?」


 早速、俺が持ってきた箱に気が付いたようだ。


「ああ、この箱か? くッくッくッ……見て驚くなよ?」


 俺は箱を持ち上げる。


「え? おっ、おおぉぉぉおおおおおおお!?」


「「「「うおおおおおおおおおおおおお!?」」」」


 箱の中身を見た触手たちは驚きの声を上げた。

 そう、その箱の中にはしずくがいた。


「えっ、しずっ、しずく様!? ど、どうしてしずく様がそんな恰好を!?」


「おお……なんと素晴らしい! 拙者たちの好みドストライクでござる!」


 俺は驚いてる触手たちに近寄り、しずくに聞こえないように小声で話す。


『俺がお前たちのことを思ってしずくを上手く言いくるめたんだよ。でも、本人としては自分の見た目が幼いことにコンプレックスがあるから、絶対に『幼女』か『ロリ』の単語を口に出すなよ。いいか?』


『分かりました!ありがとうございます、魔王氏!』


『ごめん、その魔王氏って呼ぶのはやめて』



「おお……まさかしずく様のこんな姿が見られる日が来るとは……!」


「写真を撮らなければ……!」


 至福の声を上げながら写真を撮る触手たち。

 触手たちはしずくに頼み込んで様々なポーズをさせている。

 まるでアイドルの撮影会みたいだ。


「……まぁ、とりあえず元気になったみたいで良かった。……そうだ、そういえば」


 自分のズボンのポケットの中をまさぐる。

 少し探すと、手に硬い感触があった。


「ああ、あったあった」


 俺はズボンからスカウt……もとい戦闘力はかるやつを取り出した。


「これを試さないとな」


 俺は戦闘力はかるやつを装着し、そして、しずくを見た。

 すると、戦闘力はかるやつに数字が表示された。



レベル:600

戦闘力:2550000



 しずくいわく、この数字はおおまかなものらしく、あまり細かくは表示されないらしい。

 ちなみに戦闘力の基準は野生のスライム1匹が1、一般人が5くらいだ。

 つまり、しずくの戦闘力は255万くらいだから、スライム255万匹と同じくらい強い。

 ……ていうか、しずくさん。あなた勇者よりレベル高いんですね。

 いつも引きこもって研究ばっかしてるのに。


「触手たちはどうだろう」


 触手たちの方も見てみる。



レベル:500

戦闘力:500000



 ……あれ? 俺の目がおかしいのかな?

 なんかこいつらのレベルが勇者のレベルより300くらい多い気がするんだが……。


「ああ、そりゃ勇者もこいつらの拘束から逃げられなかったわけだ」


「ん? 魔王様、その顔に付けているものは一体何ですか?」


 と、触手たちが俺が付けていた戦闘力はかるやつに気が付いたようだ。


「ああ、これ? しずくに作ってもらったものでな、見た相手のレベルやタレントなんかが分かるんだよ」


「へぇー」


 そうだよ、タレントだよ。

 確かこいつでタレントが何か分かるんだったよな。


「では、我々のタレントが何か、魔王様は分かるということですか?」


「ん? ああ、そうだけど」


「それでは、ぜひ、我々のタレントがどのようなものなのか教えていただきたい!」


「もちろんいいぞ。俺もそのつもりだったしな」


 俺は戦闘力はかるやつの『タレント』の部分を見た。



タレント:毒液

なぜか衣服や甲冑かっちゅうのみ溶かす毒液を出せる。



 ああ、この前の勇者のビキニを溶かしていたのはこのタレントのせいか。

 まさに、触手系の薄い本にありそうなやつだな。

 他の触手を見ても、全員同じタレントを持っていた。


「ま、魔王様。我々のタレントは一体どのようなもので?」


「この前の勇者のときに、だんだん勇者の服が溶けていっただろ? あんな風に服や甲冑なんかを溶かす毒液が出せるみたいだな」


「ああ、あれが拙者たちのタレントでござるか」


「そう、それ……ん?」


 そのとき、俺はさっきの『毒液』の説明文の下にまだ文が続いていることに気が付いた。


「あれ? まだ何かある?」


「どうされました?」


「いや、お前らのタレントの説明文の下にまだ文章が続いててさ……」


 俺はそこに表示されている文字を読んだ。

 “タレント”。


「え? タレントってことは……」


 この触手たち、まさか全員タレント2つ持ち!?

 おいおい、タレント2つ持ちなんて滅多にないぞ!


「おい、マジかよ! お前らもう一つタレント持ってやがる!」


「ええ!? 本当でござるか!?」


「ああ、今から読んでお前たちに教えて…………。ごめん、今のやっぱ嘘。忘れてくれ」


「え? いやいや、さっきの魔王様の様子からして嘘ってことはないでしょう。もったいぶらずに教えてくださいよ」


「いや、マジですまん。さっきのは忘れてくれ」


「ははは、魔王様も冗談がお好きですね。本当はちゃんと我々のタレントは2つあるんでしょう?」


「いやマジでウソなんだって。あやまるよ」


 こいつらの言う通り、確かにタレントは2つあった。

 だけど、肝心のその2つ目のタレントが……。



タレント:苗床作成なえどこさくせい

人型の生物のメスを自身の苗床にすることができる。



 これだ。

 もしもこいつらが自分たちがこんな能力があるのだと知った日には……。

 ……想像したくもない。

 俺にはこいつらが悪用する未来しか見えない。

 具体的には幼……。


「教えてくださいよ!どうしてそう渋るんですか!」


「ハハハハハ、ゴメンウソダッタンダー」


 このことは墓場まで持っていくことにしよう。

 そう覚悟を決めた俺であった。

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