第5話 触手たちの最期

「また勇者かよ……」


 俺が今まで作ってきた黒歴史モンスターたちの図鑑作りにいそしんでいたところ、俺の住処(すみか)である魔王城に勇者がやってきた。


『おーい、魔王! 勇者がやってきたぞ! 出てこーい!!』


 勇者の声が魔王城の外から聞こえてくる。

 どうしたものか……。


「魔王さま、どういたしましょう。返り討ちにすることもできますが」


「やめろよ、勇者に危害を与えるなんてことしたらシャレにならんぞ。完全に俺が魔王になっちまうだろうが」


「え? 魔王さまは何をおっしゃっているのですか? 魔王さまはすでに魔王ではないですか」


「あ、そうか」


 そういや、俺魔王だったわ。


『魔王はまだか! 早く出てきやがれ!』


 外から聞こえてくる勇者の声がだんだん荒っぽくなってくる。

 あまり長く待たせるのは難しそうだ。


「ああ、もうッ! どうすりゃいいんだ……!」


 前の勇者みたいにボコボコにすると、また俺が悪者だと思われてしまう。

 俺はただの善良な一般市民だ。仲間に、ドラゴンとかデュラハンとかリッチーとか伝説級のモンスターがいるだけの。

 だけど、はっきり言ってそれ以外に勇者を追い払う方法がない。

 魔物たちに手加減させるか。いや、たぶん今からじゃ難しいだろう。


 それに、急に勇者に来られた以上策を練る時間もない。

 俺のスキル『投影』で会話ができるのは、場所を既に設定していて、今は魔王城の外だけだ。

 設定を変えないといけないため、今すぐには魔王城の中にいる仲間たちに指示を出すことはできない。


「アトラス、この城の門の守りはどうなってる」


「はい、アロマが作った強固な結界としずくが作った鋼鉄のバリケードで固めていますが」


「相手が勇者ってことは、たぶん簡単に破られるな」


 城に立てこもるのも無理か。

 何か、何かいい方法は……。


『出てこないつもりか? だったらこっちの方から行かせてもらうぞ!』


 勇者のそんな声が聞こえてくる。

 このままだと、勇者が城に入ってくる。


「クソッ、もう時間がない!」


 いったいどうすれば……!


「……もうこれしかない!」


 俺はスキル『投影』を発動した。




※※※※※※※※


『お、なんだやっと話す気になったか』


「…………」


 俺の視線の先には、ビキニ姿の幼女がいた。


(え? まさか、この幼女がさっきの勇者?)


『改めて、俺が勇者だ』


 聞き間違いじゃない。マジで勇者だ。

 え? 最近の勇者は水着を着るのが流行ってるの? それと、勇者になれるのって確か12からじゃなかったっけ? この子8か9くらいに見えるんだけど……。


『で? お前が魔王か?』


「いいえ、ケフィアです」


『え? いや、ケフィアってなんだよ。俺はな、アダムがここで魔王に殺されたっていう情報をきいたんだぞ? 無駄な嘘はつかない方がいいぜ。もう一度聞く、お前は魔王か?』


「いいえ、ケフィアです」


 俺の作戦、それは自分が魔王ではないと嘘をつくことだ。

 はっきり言って、こんなので勇者が騙されてくれるとは思わないが、何もしないよりはいいだろう。

 これで騙されてくれるといいんだが……。


『……まさか、本当に魔王じゃないのか、お前?』


 お? これはいけるか?


「はい、ケフィアです」


『そ、そうか……人違いだったか……いや、すまない。どうやら俺が得た情報が間違ってたみたいだな。迷惑をかけてすまなかった』


 良かった、簡単に騙せた。

 知能レベルはアロマと同等……年相応みたいだな。


『それじゃあ、俺は忙しいんで戻るとするよ。邪魔して本当にすまなかった』


 そう言って、ビキニ幼女は帰っていった。


「……ふぅ、なんとかなったか」


 とりあえず、これで一安心――――


「「「「「ま、魔王さま! あ、あの幼女は一体!?」」」」」


 ――――と思っていたところに、さっきの触手たちが現れた。


「ああ、さっきの? 勇者だよ勇者。何とか帰ってくれたけどな」


「なんですと!? あの襲いたくなるようないかがわ……かわいらしい幼女が勇者ですと!?」


「あのビキニ姿の幼女が勇者!?」


「そうだけど、なんかあったのか?」


「「「「「いえ! なんでも!」」」」」


 触手たちが口をそろえて言う。

 どこに口があるのか知らないけど。


「それでは、拙者(せっしゃ)たちは用事があるのでこれで!」


「お、おう、じゃあな」


 触手たちが俺の部屋から急いで出ていく。


「しかし、どうしたものかねぇ……」


 魔王である以上、勇者と戦う悪役であるのは当たり前のことだ。

 だが、俺は世界を破滅させたいとかそういう考えはない。

 むしろ逆、世界を幸せにしたいと思っている。

 争いだってなるべく避けたい。

 だから、早めに対策をしないとさっきのビキニ幼女みたいに――――


 ――――ん?


『それでは、拙者(せっしゃ)たちは用事があるのでこれで!』


 ビキニ幼女……ロリコン触手……。


「おい、まさか!?」


 やばいぞ、あの触手たちあいつらさっきの勇者を襲うつもりだ!!


「アトラス!」


「どうかしましたか!?」


「いますぐあの変態どもを止めに行け! あいつらが勇者を襲ったらせっかく回避した戦いをするはめになるぞ!」


「わ、分かりました!」


 アトラスが部屋から急いで出ていった。


「クソッ、どうして俺はいつもこんな目に合うんだ!」


 俺は『投影』を使った。





『へへへ、お嬢ちゃん。こっちでおじさんといいことしないかい?』


『なんだ、お前ら? 俺に何か用か?』


 マズい! あいつらもう追いつきやがった!


『へへへ、ちょっと気持ちいいことをするだけだよ。じゅるっ』


『なんだ? 俺を襲うつもりか? 言っておくが、俺はレベル200越えの勇者だぞ? やめといたほうがいいぜ』


 レベル200越え!? 全盛期のときの俺より強いじゃねぇか!

 これじゃあ、あの触手たち全員……。


『そんなの関係ない! 目の前に幼女がいて我慢できる拙者(せっしゃ)たちではない!』


 触手たちが勇者を拘束する。


『……全く、警告したのに。こんなの簡単に引きちぎって……な、なんで切れない?』


 それを勇者が解こうとしたが、できなかった。


『クソッ、なんだ……この力は……ッ!? お前たち、いったい何者だ!?』


『怖がらなくていいでござるよ、ただの怪しい触手でござる!』


『こうなったら、もう少し本気を……ッ!? キャアアアアアアアッッ!? 服が……ッ、服があああああああッ!!』


 よく見てみると、勇者の着ていたビキニが少しずつ溶けていた。


(マズい! このままでは、この子のアレやアレが見えてしまう! そうなると――――)


『へへへ、ここがええのんか? ここがええのんか?』


『やめてえええええええッ!! それ以上やると見えちゃううううううッ!!』


 薄い本の展開になるのは必至(ひっし)!


『ここか? それともここか!』


『あっ、あっ! だめぇっ! それ以上はらめぇっ!』


 勇者がだんだん甘い声を出し始める。


(このままだと、この作品にR18令和18年のマークが押されてしまう!)


「早く! アトラス、早くううううううッ!!」


 そして、こんなに追い込まれている状況のはずなのに。


「俺はロリコンじゃない……、俺はロリコンじゃないはずだ……!」


 ビキニ幼女勇者がヌルヌルされているところを見てなぜか息が荒くなっている俺がいた。




※※※※※※※※


「はあっ……はあっ……お前やっぱり魔王だろ!」


「すんません! 俺が魔王です! うちの仲間がすんません!」


 あのあと、なんとかアトラスが間に合い、令和18年的展開になることは防げた。



 今俺は誠意を見せるため、勇者に土下座をしている。

 はたから見ると、裸同然の幼女にアレなことをお願いしている中年男性にしか見えないが、そんなことはどうだっていい。


「だって、仕方がないではありませぬか! ビキニ姿の幼女ですぞ!? 襲ってくれと言っているようなものではありませぬか!」


「しかも俺っ娘おれっこでござるよ!? こんな珍しい属性の幼女、我慢するなど無理でござる!」


「ぐっ……」


 なぜか分かってしまう。


(クソッ、こいつらの講義なんか受けるから……!)


「ふざけるなよ……!」


 触手たちと馬鹿な話をしていると、勇者が突然立ち上がった。


「おお、俺に……こ、こんにゃことをして……絶対に許さないからな!?」


 勇者は股の部分を手で押さえてもじもじしながら、そう言ってきた。

 俺の方に向けてプルプルしながら剣を向けてくる。


「次は、必ず勝つ! 覚えてろッ!!」


 勇者はそのまま逃げるように帰って行った。


「……よし、お前たちに罰を与えよう」


「「「「そ、そんなぁ!?」」」」


「当たり前だろ、今回は勇者が帰ってくれたけど、戦ってる可能性だってあったんだぞ?」


「で、でも、優しい魔王さまは拙者(せっしゃ)たちに苦しい罰なんて与えるなんてことしないでござるよね……?」


「安心しろ」


 そう言うと、触手たちの表情が明るくなった(顔なんてないから俺の想像だけど)。


「この世で最も苦しい罰を与えてやるよ!」


「任せてください魔王さま! 必ずや彼らを肉体美の世界へ導いて見せましょう!」


「マッソー! マッソー!」


「さあ君たちも、私たちと共に汗を流そうじゃないか!」


 そして、巨乳インキュバスを見た触手たちの顔は一気に絶望の表情に変わった。





※※※※※※※※


「嫌だああああああッッ!! 誰か助けてえええええええッッ!!」


 壁の出っ張りにしがみつく触手。


「HAHAHA、何をそんなに嫌がっているのかね!」


 それをはがそうとするガチムチ巨乳インキュバス。


「私たちと肉体改造――――」


「「「「「やらないか?」」」」」


「「「「「嫌だああああああああああッッ!!!」」」」」


「許してください魔王さま! なんでも、何でもしますからあああああッ!!」


「ああ! 襲われるなら、こんなガチムチな奴ではなく、ランドセルを背負ったぺったんこな幼女がよかっ――――」


『バタン』


 触手たちとインキュバスたちが肉体改造部屋(意味深)に入ると……。




「「「「「アッ――――――――――!」」」」」




 魔王城に触手たちの悲鳴が響き渡った。

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