第4話 魔王は魔王になったことを後悔する

「こんなものを創っていたなんて……私はあなたをそんな子に育てた覚えはありません!」


「いや育てたっていうか、俺お前に育ててもらった覚えないんだけど」


「あなたどうしましょう!? 私たちの息子がグレました!」


「あー……そうだなー……だ、だめだぞー息子よー……」


「アトラスもアロマの茶番に付き合わなくていいから」


 突然始まったこの謎の状況。

 今現在何が起こっているのかというと、アロマによる俺への裁判である。

 罪状は『仕事を部下に丸投げして、自分の部屋でわいせつ物を作っていた罪』だ。


「だめじゃないのアトラス! あなたは厳格な父親の役なんだから!」


「む、むぅ……しかし、吾輩はこういった芸当は苦手でなぁ……」


 ちがうわ、これ裁判じゃなくて茶番だわ。


「あなたが頑張らなくてどうするのよ! ほら、もう一回最初から痛いッ!?」


 調子に乗っているアロマの頭にチョップをお見舞いした。


「調子に乗るんじゃない、いちおう、アトラスはお前より立場は上なんだぞ」


「被告人よ! そんな口をきいてただで許されるとでも思って痛い痛い痛いごめんなさいごめんなさい!!」


 どうやらチョップでは足りなかったらしいので卍固めを決めてやった。

 アロマが俺の背中を叩いてくるので、仕方なく放してやる。


「うぅ……また負けた……悪いのは魔王さまなのに……」


「それに関してはもう謝っただろ。それより、なんでしずくはここにいるんだ?」


 俺は目の前の白衣姿の幼女に話しかけた。


「アロマに呼び出されたんだよ。用があるから来いってね、お、この茶菓子美味いね。紅茶によく合うよ」


 ゴーストのしずく。主に武器や薬品の開発などをしてくれている。

 見た目としては、白衣姿に黒髪黒目のツインテールで、パッと見は幼女だ。

 だが、本人いわくもう200年は生きているらしい。

 それなのに、見た目が幼女だから、本人としてはそれがかなりのコンプレックスになっている。


「ああ、しずくちゃんはだめな被告人の妹役ね」


「い、いもうとだと……!?」


 アロマの放った言葉を聞いたしずくが、持っていたカップを落とす。

 そのまま紅茶がしずくの膝にかかるが、しずくはフリーズしてしまっていて微動だにしない。


「ああ、これ台本ね」


「なんだこれは!? おもいっきり幼女キャラじゃないか! このデカ乳野郎ふざけてんのか!?」


「痛い痛い! やめて! 胸をちぎろうとしないで!!」


「本当だったら、あたしにもこんなにデッカイ乳がついてるんだよ! ちくしょう、馬鹿にしやがってえええええ!!」


「やめてえええ! もげちゃうううううう!」


「そこらへんにしておけ、しずく」


「はっ、また例の幼女コンプレックスが……」


 しずくがアロマから手を放す。

 アロマは、胸を押さえながらうずくまってしまう。


「うぅ……どうして私ばっかり痛い目に……」


「ぜんぶお前の自業自得だよ」


 まったく……なんでこいつは全く学習しないんだ……。


「そうだしずく、はできたのか?」


「ああ、アレね。あともう少しで完成すると思うよ」


「助かる。……そういや、アロマがこんな本を持っていたんだ」


 しずくに、アロマが持っていた秘蔵本を見せる。


「……ねぇ、見逃してくれないかい?」


「いやだね、自分をネタにされた同人本なんて売ってたら嫌に決まってるだろ」


「頼むから、本当に見逃してよ。最近溜まってるんじゃないの? あたしで良かったら発散の材料になっておげてもいいけど……」


 しずくはそう言って、俺に抱き着いてきた。

 しずくの手が俺の腕を艶めかしくすべる。


「あ、ごめん。俺幼女に興味ないから」


 俺は体からしずくを引きはがした。


「なッ!?」


「そういうわけで、これから同人本の制作、販売は禁止な」


「ま、魔王さまにも…………魔王さまにも馬鹿にされたああああああああッ!!」


「…………吾輩はいったい何のためにここにいるのだろうか」





「よーし、じゃあモンスター図鑑でも作るとするか」


 変な茶番はもうこりごりだ。

 ちゃんと魔王としての仕事をこなすとしようじゃないか。



NO.4  ゴブリン


人型のモンスター。

かなりの知能を持っており、様々な武器を使って戦う。

子鬼と呼ばれることもある。

人間と意思疎通ができる。



『アンギャルゴアアアアアア!」


『ドロロロルルルルル……』


『ブゲー、ブゲー』


「いや、意思疎通とか無理だろこれ。どう聞いたって人の言葉じゃないぞ」


 試しに、一匹のゴブリンに弓と矢を渡してみた。


『?』


 そのゴブリンは困惑した後……。


『バキッ』


 その両方をへし折った。


「だめだ、頭のほうもダメだった」


 俺は紙に『知能はない』と書き直した。 



NO.5  インキュバス


男の姿をした淫魔。

心臓が2つある。

1つは胸の中心に、もう1つはグレートソードをおっ立たせるために腰にある。



『魔王さま、見てくださいこの素晴らしき上腕二頭筋を!!』


『私の三角筋だって負けませんよ!!』


『私の大胸筋だってほら!!』


「やめろ! 俺のそばに近寄るなああああああああああッッ!!」


 大量の巨乳のインキュバスたちが俺に迫ってくる。

 その光景は、まるでこの世の地獄だった。

 巨乳のガチムチの男たちが俺を追いかけてくる。


『肉体美ですよ! 肉体美!』


『マッソー! マッソー!』


『大胸筋ですよ大胸筋!!』


「お前の胸には脂肪の塊しかついてないだろ!」


『さぁ、魔王さまもご一緒に!!』


『『『『『『サイドチェスト!!!』』』』』


 インキュバスたちの服がはじけ飛ぶ。

 そして、その裸が俺の網膜に焼き付けられてしまった。


「ぐああああああッッ! やめろおおおおおおおおおおッッ!!」


 魔王はトラウマになった。




NO.6  触手


それ以上でもそれ以下でもない。

ただの触手。



「見た目はただの触手なのになぁ……」


『はぁ……はぁ……カワユス……萌えええぇぇぇ……!!』


『なんだこの可愛い幼女は!? お前どこでこの写真撮ってきた!?』


『近くの町で駄菓子屋にいたところを盗さ……激写してきた』


『うおおおおおおおおッ! 可愛ええええええええッッ!!』


『1000ゴールドで売ってくれ!』


『まぁお前たちそう焦るでない……。ここにその子のワンピース姿の写真もある!』


『『『『『うおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』』』』』


「なんでゴブリンじゃなくてただの触手が知能持ってるんだよ……」


 ていうか盗撮って、やってることが思いっきり犯罪じゃねぇか。


『おや、これは魔王さま。魔王さまも私の秘蔵写真集をお買い求めに?』


「んなわけないだろ」


『なんと! まさか、魔王さまはロリに興味がないとでも!?』


『それはいけませぬ! 可愛いは正義、つまり幼女こそ正義なのです!」


『魔王さまに、そのことをじっくりと教えて差し上げましょう!』


「え? いや、俺は別に――――」


 そのあと、3時間みっちりと『幼女がいかに可愛いか』について触手たちから洗脳された。

 俺は鋼の精神でなんとかロリコンになるのを耐えきった。

 あれから、しずくを見るたびに変な気持ちになるのは多分気のせいだろう。


 俺の図鑑に、『ロリコン触手』の名前が追加された。





「なんで……なんでまともじゃない魔物だらけなんだ……!」


 それからも、様々な魔物を見て回ったが、まともなのは一匹もいなかった。

 結局、トラウマと変な性癖を植え付けられただけだ。


「あのアロマの方がまともに思えてきたぞ……」


「え? もしかして私褒められてる?」


「いや、多分ディスられてるぞアロマよ」


「俺よ……いったいお前は何をしていたんだ……」


 昔に戻って、自分を殴りたい、ついそう思ってしまう。

 そんなときだった。


『たのもおおおおおおおおおおッッ!! 魔王はいるかあああああああッッ!! 勇者がやってきたぞおおおおおおおおッッ!!』


 魔王城にそんな声が響いた。


「……また勇者かよ」


 ……やっぱり、魔王になるのは間違いだったかもしれない。

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