第3話 魔王の仕事

 仲間たちのよけいな気遣いによって、なぜか魔王になってしまった俺。

 仲間たちに問い詰めたら、『責任をとる』とか言って切腹しようとしたので、仕方なく魔王として生きていくことにした。

 だけど……。


「魔王って、具体的に何をすればいいんだ?」


 そう、肝心の魔王の仕事が一切分からないのだ。

 なんだろう……、なんか悪いことをする立場なのは分かるんだけど……。


「……なあアロマ、魔王ってなにをすればいいんだ?」


 とりあえず近くにいたアロマに聞いてみる。


「えー、魔王の仕事? うーん……女の冒険者をさらってくんずほぐれつ?」


「却下だ」


「えーひどい! せっかく教えてあげたのに!」


 ひどいもなにも、俺は呪いのせいで人とはハッスルできないというのに……。


「他にはないか?」


「えーと、じゃあかわりにゴブリンとかミノタウロスとかにヤらせるのは?」


「お前の頭の中はピンク一色なのか?」


 どうしてこいつはいつもそっち方面の話にするのだろう。

 性剣エクスカリバーとか、エロ同人みたいにとか。


「そりゃ、脳みそはピンク色でしょ?」


「そういう意味じゃなくて、思考回路のことだよ! どうしておまえはいつもH(エッチ)な方面に話を持っていくんだ!?」


「しかたないでしょ、これが私のキャラなんだから」


「だからってな……」


「どうしたの~?」


 と、そこに鬼人(オーガ)の瑠璃(るり)が現れた。

 いつものほほーんとしているが、身長が2メートル越えなので、見た目は結構怖い。


「ああ、ルリか。いやな、どうしてアロマの思考回路は真っピンクなんだろうなぁって思ってな?」


「ぜんぜんそんなことないわよ! 普通よ普通!」


「会話のたびに淫語を使うことが普通だと思うんだったら、今すぐ医者に行くことをおすすめする」


「そういえば~、アロマちゃんこの前変な本持ってたよね~?」


 アロマの体がビクンと震えた。


「変な本? なんだそれ?」


「え? いや……何のことかしらねぇ? 私は知らないわー」


 セリフが完全に棒読みだ。

 アロマの顔中から汗が噴き出している。


「ルリ、それはどんな本だったんだ?」


「え~とね~、けっこう大きい本なんだけどね~、あんまり分厚い本じゃなかったな~。けっこ~薄かったよ~。あ、あと~、表紙がピンク色だった~!」


「大きいね……」


 大きくて、薄い、表紙がピンク色の本……。


「おい、それって……!」


 アロマの方を見る。

 アロマは顔じゅうから汗を噴き出して、眼をキョロキョロさせていた。。


「……どこで手に入れた」


「え? な、なんのことかしら!?」


「どこに隠してあるんだ!」


「か、隠すって何をかしら!? ま、まぁ私の部屋には絶対にないわよ!? 特にベッドの下とか!!」


 ……ベッドの下にあるんだな。





「やーめーてー!! お願い許して!! それがないと生きてけないのおおおおおお!!」


「生きてけないとか、そもそもお前死んでるだろ! ふざけんな! こんなもんどこで手に入れたんだ!」


 アロマのベッドの下には、十数冊のうすい本が隠されていた。

 内容は、女勇者がゴブリンとヤったり、女の格闘家が少年とシたり、魔王が部下の女の魔物とヤったりするなどの内容だ。


「てか、この魔王のやつって、まさか俺が主人公か? これなんかどこに売ってたんだ?」


「しずくちゃんが一部の魔物たちに売っていたものを私も買ったの」


「は?」


 同人誌をよく見てみると、作者名のところに『愛のシズク』と書かれていた。


「うそだろ……? これをしずくが……?」


 しずくとは、俺の仲間の一人で、ゴーストだ。

 主に様々な機械や薬品を作っている。


「ここ最近、夜中に作業していることが多いと思ったら……」


 あとでキツく注意しておくとしよう。


「ていうか、これ全部しずくが描いたものか? マジかよ、結構上手いじゃん」


 絵はかなり綺麗でとてもそそられる表紙だ。

 この20年間引きこもっていた内に、まわりの環境がかなり変わったようだな。

 しずくがエロ本を描いたり、アロマがそれを持っていたり……。


「まぁ、俺を主人公にした本を描くのは止めさせようか……」


「うぅ……私の秘蔵本が……」




※※※※※※※※




「しかし……結局魔王が何をするのか分からなかったな……」


「どうされました?」


「おおアトラス! ちょうどいいところに!」


 俺が悩んでいたところに、ちょうどいいタイミングでアトラスが来た。

 アトラスはデュラハンで、仲間の中でも特に信頼している一人だ。


「いや、いまいち魔王の仕事が分からなくてさ」


「魔王の仕事ですか? それなら、軍勢の統率や管理などでしょうか」


「軍勢?」


「はい、魔王さまが今までにお創りになられたモンスターたちの統制、またどのようなモンスターがいるのかについて管理するのはいかがでしょうか」


「おお、それなら今すぐにできるな」


 なるほど、魔物たちの管理か。

 俺がこの20年間、いったいどんなモンスターを生み出してきたのか、この際再確認しておくのもいいかもしれない。


「よし、じゃあアトラス手伝ってくれ」


「はい、かしこまりました」


「あと、アロマも来てくれ」


「えー、めんどくさいんですけど」


「あの本を返してほしくないのか?」


「よろこんでついていきます!」


 単純で非常に助かる。




※※※※※※※※




「魔王さま……このモンスターは一体……?」


「ああ……確か酔っぱらいながら創った記憶がある……」


「ええ……? こんなの創ってたの? ちょっと引くんですけど……」


「やめろ! 心に突き刺さる!」


 俺たちの目の前には、肌色でピンク色の突起があるスライムがいた。


「とりあえず、こいつについてまとめておくか」


 俺は紙とペンをとった。


NO.1  おっπぱいスライム


女性の乳房の形をしたスライム。

肌色の体をしており、一番上にはピンク色の突起がついている。

個体によって大きさや柔らかさ、さわり心地に様々な違いがある。

2匹用意してそれでアレをはさむと気持ちがいい。


 確かこのスライムは10年くらい前に酔っぱらって、ふざけて作った記憶がある。

 揉み心地は最高だ。自分で揉んで確かめたから間違いない。


「このスライムたち、みんなタレント持ちですね」


「マジかよ!?」


 タレントとは、その者が持っている固有の能力を表すものだ。前にも一度説明しただろう。


「で?どんなの持っているんだ?」


「えーと……『触れたものを混乱状態にする』ですね」


 アトラスのタレントは『鑑定』。見た者のタレントが分かるものだ。

 生み出した魔物のタレントも分かるし、敵のタレントも分かるため非常に助かるタレントだ。


「マジか、それを全員が持ってんの?」


「はい」


 強すぎないか?

 ようは、見た目につられて触ったら、混乱するんだろ?

 なんという鬼畜なトラップなんだ、男なら絶対に引っかかるじゃないか。


「よーし、次だ次」



NO.2  〇〇ぽキノコ


リザードマンの〇〇ぽの形をしたキノコのモンスター。

主に〇〇〇〇〇〇〇プレイをするために使う。



「魔王さま、どうして〇で隠すんですか。ちゃんと『しっぽキノコ』と書いてください」


「はいはい、ちゃんと書き直しますよ」


「このプレイの文も、ちゃんとコスチュームプレイにしてください。誤解を招きますから」


「へいへい」



NO.3  オナ〇ワーム


オナニー用のホールの形をした



「ふんッ!!」


「ああッ!?」


 書いている途中でアロマに紙を破られた。


「ねぇ、魔王さま……。20年間も私たちに魔物たちの管理押しつけといて、自分はこんな物創っていたわけ?」


「だ、だって……、本物の人間とはヤれないし……」


「だからってオナニーのために魔物つくるんじゃねえええええええええ!!」


「うごああああああああああ!!」


 アロマに思いっきり殴られた。




※※※※※※※※




「何か言うことは?」


「すびばぜんでじだ」


 鼻血が出ているせいでうまくしゃべれない。


「許してあげるからかわりに私の秘蔵本返して」


「それは断る」


「なんでよおおおおおおおお!!」


 今日も魔王城にアロマの泣き声が響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る