第91話 俺の気持ち

「君のことは母さんから聞いてるよ。いつも七菜美がお世話になっているね」

「い、いえ……どっちかと言うと、七菜美さんには支えてもらってばっかりで……」


お父さんは表情を全く変えずこちらを見ている……

ど、どう言う心境なんだ……

全く読めない……


それから数秒、無言の時間が続いた。

き、気まずい……

頭をフル回転させ、何か話すネタはないかと考える。

しかし、緊張のあまり何も思い浮かばない……

その時、お父さんの口が動いた。


「単刀直入に聞こう。君は、七菜美とどうしていくつもりだ?」


俺は迷うことなく、考えることもなく、気付いたらその答えを言っていた。


「まだ2人で話してはいないんですが、僕は七菜美さんと結婚して一生そばで支えるつもりです」


お父さんは迷いなく答えた俺に驚いた様子だった。

俺自身も正直驚いていた。

でも、考えずにそう言えるほど、俺の気持ちは固まっていることが確認できた気がして、ほっとした。


お父さんの方を見ると、穏やかに笑っていた。

本当に同じ人だよな?……

先程の鋭い視線はどこに……


「春樹君からその言葉が聞けてホッとしたよ」

「え……あ……」

「さっきまではすまなかったね。君の器というか、度胸というか……試したくて少し怖そげなオーラを出していたんだよ」

「な、なるほど……」

「母さんから話を聞いている時点で君のことは信用していたよ。どうか、これからもずっと七菜美とよろしくね」

「はい!」


お父さんの言葉は、温かかった……

お父さんは、なぜかドアの方に視線を移した。


「そこの2人はいつまでそこにいるんだ?」


そういうと、ドアがガチャリと開き、お母さんと七菜美が出てきた。


「え?!な、七菜美?!」

「ご、ごめん春樹……その……お母さんが聞こうって言うから……」

「私のせいにするのかしら〜?七菜美も気になってたじゃない」

「いや……まあ……」


七菜美は部屋に入る時から顔がほんのり赤い。

あ、あの話聞かれてたのか……

そう思うと俺も恥ずかしくて顔の熱が上がっていく……


「まあまあ。春樹君は七菜美とゆっくりしておいで」

「あっ、はい。失礼します」


そう言って椅子から立ち上がり、七菜美と一緒に七菜美の部屋に向かった。

七菜美が「どうぞ」とドアを開けたので俺は遠慮なく部屋に入る。

なんだか無言が続く……


「な、何する?」


この雰囲気をどうにかしようと思った結果、この言葉が出た。

七菜美は、体をもじもじと動かし、再び顔をほんのり赤くする。


「さ、さっき、ああ言ってくれて嬉しかった……私も、春樹と同じ気持ちだから……その……これからもよろしくね」


上目遣い気味で七菜美はそう言った。

俺もつられるように顔が赤くなっていくのが分かった。

俺は、

この人のためならなんでも頑張れる。

この人は何を犠牲にしてでも守りたい。

その時心からそう思った。

七菜美を思い切り抱きしめる。

七菜美の香りがする。

なんだか緊張していた心の糸がほどけていくような気がした。

七菜美の肩にそっと顎を置く。


「そちらこそよろしくな……七菜美が幸せと思い続けられるように頑張るから……」


七菜美も同じように俺の肩に顎を置いた。


「ありがとう……でも、頑張りすぎなくていいから……今まで春樹に頼ってばっかで……これからは一緒に頑張ろう。負担かけててごめんね」

「何言ってんだよ。負担と感じたことはないよ……でも、そうだな……一緒に頑張って行こうな……」


顎を動かし、代わりに手を置く。

そしてゆっくりと顔を近づける。


俺がこの世で1番愛してるのは、坂石七菜美だ……




〜あとがき〜

読んでいただきありがとうございます!

ここからは、ポンポン月日が経っていきます。

ご了承ください。

最後まで、よろしくお願いします!

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