第90話 ご挨拶

「じゃあ、一時に行くわ」

「うん!待ってるよ〜」


通話終了のボタンを押す。

今日は七菜美の家に行く。

この前お願いしたので、ご両親もいる。

早くも緊張してきて、心臓の鼓動が早まる。

昼ごはんを素早く食べ、服を選ぶ。

今日はいつもよりも大人っぽい服を選んだ。

服を着替えたが、まだ12時で、家を出るにはなだ早い……

気晴らしに本でも読もうと思ったが、なぜだか集中できない……

いつもよりも何倍も長く感じた30分を過ごした……


荷物をかれこれ10回ほど確認した。


「大丈夫だよな……」


持っていくものは手土産ぐらいなのだが、なぜか何度も確認してしまう。

ようやくもう大丈夫と思え、玄関に向かう。

靴紐を結んでいると、後ろから母さんがやって来た。


「失礼の無いようにね」

「おう!」

「行ってらっしゃい」

「行ってきます!」


家の扉を開け、俺は七菜美の家に向かって歩き始めた。


予定通り、50分に七菜美の家に着いた。

流石にまだ早いので、その辺を少し歩こうと思った時に、空から俺を呼ぶ声が聞こえた。


「春樹〜」


声のした方を見ると、七菜美が自分の部屋から顔をひょっこり出していた。


「ちょっと待ってね」


そう言って七菜美は顔を収めた。

階段を下りる音が微かに聞こえる。

数秒し、目の前の扉がガチャリと開いた。


「どうぞ〜」

「お邪魔します」

「いらっしゃい〜」


奥の方からお母さんの声が聞こえてきた。

靴を脱ぎ、家に上がる。


「こっち」


七菜美の後ろをついて行く。

静まっていた心臓が再び激しく動き出す……


「ふぅ……」


深呼吸をし、気合を入れる。

リビングへのドアを七菜美が開いてくれたので、その先に進む。

キッチンのほ方でお母さんが何か作業していた。

視界を左にずらすと、テーブルのところにガタイの良い男性が座っていた。

七菜美のお父さん……

鋭い目線をこちらに向けている。

なぜだかとてつもない緊張が襲い、足がすくむ。


俺は何をしに来たんだ……

自分に自信を持て!


自分に喝を入れる。

そして、お父さんの方に体を向ける。


「こんにちは。七菜美さんとお付き合いさせていただいています。今井春樹です」

「父の坂石達也さかいしたつやだ」

「よ、よろしくお願いします……こちら、良かったら食べてください……」


そう言って俺は鞄から持ってきたお菓子を渡す。


「あらあら。わざわざありがとね〜」

「ありがとう」


ご両親からお礼を言われる。

悪い印象は与えてないよな?……

お父さんの視線は相変わらず鋭いままで、なんだか不安になる。


「暑かったでしょ。お茶でも飲んで〜お父さんも」

「ありがとうございます」


お母さんが目の前にお茶の入ったコップを置いてくれた。


「座りたまえ」


お父さんにそう言われ、ゆっくりと目の前の椅子を引く。


「失礼します」

「母さん、七菜美、ちょっと2人にしてくれないか?」

「えっ?」

「行くわよ七菜美〜」


戸惑う七菜美をお母さんが引っ張り、部屋を出て行く。


「男2人で、話そうじゃないか」


お父さんの圧に、俺は唾を呑み込んだ。




〜あとがき〜

読んでいただきありがとうございます!

次回、男の話!

お楽しみに!

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