第84話 最低

体育祭当日になった。

春樹と喧嘩してからは一言も喋ってないし、メールもしてない。

春樹からあんなことを言われるとは思わず、かなりショックだった。

いまだに苛立ちを覚えつつ、体育祭は始まったのだった……



暑い中、午前の部を終えた。

なんだか今年の体育祭は楽しめている気がしなかった。

昼の休み時間、私は準備のために倉庫に向かっていた。

その倉庫には、先着がいた。

誰だろう……

近づいていくと、その人の正体が分かった。

ふ、藤田さん……

彼女もこちらに気付いたらしく、笑顔を浮かべた。

一方私はいつも通りの笑顔が出てこなかった。


「お疲れ七菜美ちゃん!」

「お、お疲れ……」


互いに手を動かしつつ、言葉を交わす。


「ごめんね〜最近今井くんの事借りちゃって〜」

「……」


彼女にそう言われ、私は何も言葉が出なかった……


「いや〜ほんと今井くんは勉強教えるの上手いよね〜」

「そ、そうだね……」

「私の家あんまりお金に余裕なくって……親に迷惑かけたくないから今井くんに迷惑かけてます……ほんとごめんね!2人の時間減ったりしてない?」

「え……」


嘘でしょ……

春樹があの時言ってた事は本当だった……

私は動かしていた手が止まり呆然としてしまう。


「それにしても今井くんはほんとに七菜美ちゃんのこと好きだね〜勉強の休憩には惚気話ばっかりでさ〜」


私は藤田さんの言ってることがすぐには理解できなかった。

脳をフル回転させ、理解できたときには涙が頬を伝っていた。

嘘でしょ……

春樹の言った事は全部本当だった。

私を好きでいてくれた。

その言葉を真っ向から否定した私は最低だ……

私はこの前自分がしたことに気付いた。

最低なのはどっちよ……

いても立ってもいられず、私は春樹のクラスのテントに向かって駆け出していた。

でも、その足は春樹が視界に入った途端止まった。

ただただ怖かった。

愛想尽かされていてもおかしくないことを私はしてしまった。

別れを切り出されてもなんらおかしくない。

そのことを想像するだけで怖くて足が進まない。

悪いのは私なのに……

気付けば目の前にいた春樹はどこかに行っていた……


体育祭は無事終わったが、私は藤田さんと話してからずっと後悔に追いやられていた。

家に帰り、自分の部屋に入る。

荷物を放り投げ、ベッドに飛び込む。

汚れたままの服も、今はどうでもよかった。

枕に顔を埋めたまま、大粒の涙か溢れ出す。


「うう……私のバカ……」


疲れが出たのか、まぶたは次第に重くなっていった……


「七菜美〜七菜美〜」


遠くに聞こえた声が、次第に近くに感じた。


「んん〜」


いつの間にか閉じていた目をゆっくりと開ける。

目の前にはお母さんが立っていた。


「体育祭お疲れ様。ご飯食べれる?」

「うん……」


上半身を起き上がらせる。

お母さんはなぜか不安そうにこちらを覗いている。


「ど、どうしたの?」

「午後からずっと様子が変だけど大丈夫?」

「ちょっと、色々あってね……」

「春樹くんと喧嘩でもしたの?」

「え?!な、なんでそう思ったの……」

「なんとなくね……で、大丈夫なの?」

「わかんない……」

「相談したくなったらいつでもしてね。頑張って」


お母さんはそれ以上何も言わずリビングに向かって行った。

この問題は私たち2人の問題だ……

お母さんにはあまり助けを求めたくない……

ベッドから起き上がり、お母さんを追うように私はリビングに向かって行った。



〜あとがき〜

読んでいただきありがとうございます!

次回は春樹のお話しです!

次回もよろしくお願いします!

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