第62話 お嬢と竜と新しい関係②

「お前のまっすぐなところ。それは、長所だぞ?でもな、家族には甘えたっていいんだからよ?本音、言ってもいいんだぜ?」


本当に、敵わない。

三代目組長、だてに長年頭を張ってきたわけじゃない。

私なんて、まだまだガキで足元にも及ばないや。


「ドラゴン族のみんなに会いたい……会いに行って……いい?」


素直に言葉にすると、不思議と笑顔になった。


「おうよ!ワシの代わりに礼を言っといてくれ」


そう言って破顔する祖父を見ながら立ち上がり、私はパリピ衣装……いや、親衛隊の愛情たっぷりの衣装を取りに行く。

ドラゴニクルスに行くなら、あれじゃないとね!

早足で自室に向かい、きちんとクリーニング済みである衣装を持って大広間へと向かう。

すると、大広間に着くという一歩手前で、突然視界が真っ白になった。


「えっ!え!?えーー!何!?ちょっと、眩しいーー!」


踞って凌いでいると、次第に光は消えていった。

恐る恐る瞼を開ける。

そこはさっきまでいた廊下だった。

荒野ではない?

ということは、つまり……。


私は、開けっぱなしの障子からひょいと中を覗く。


「アサコ!!」

「アサコ様!」


レギオンとアラン。

見慣れた二人が、祖父の前で正座するという見慣れない光景がそこにあった。


「レギオン!?アラン!?……あ、あの……」


「ま、座れ」


手招きをする祖父の隣に、私も座る。

二人は私に微笑んでから、祖父に真剣な目を向けた。


「お初にお目にかかる。三代目殿。オレはドラゴン族の王、レギオン」


「同じくドラゴン族、戦士長アラン」


「おう。皇京次だ。いろいろ世話になったな!で、揃って何か用かい?」


三つ巴の状態が何故か空気をひんやりとさせている。

そんな中、レギオンが口火を切った。


「我らドラゴン族……ドラゴニクルスに住む種族をここで受け入れて貰えないか?」


「レギオン!?それって……」


びっくりして叫んだ私を、軽く目を伏せていなし、また続けて言った。


「滅びる寸前だったドラゴン族はアサコによって救われた。我らは皆アサコが好きで、一緒に居たいと思っている。出来れば、ドラゴニクルスにずっといて欲しいと考えているのだが……」


「レギオン、実は私ね……」


そっちへ行こうと思っていたの。

と、続けようとしたのに、それをレギオンは手で制した。


「アサコの住む所はここで、大事なものもここにある。例えドラゴニクルスに来る決意をしてくれても、三代目殿や組のことが気になって仕方ないと思うのだ。ならば、我らがここに来れば全て解決するのではないか、と」


「向こうで決をとったんだ。全員一致で賛成だったよ。すぐに来られなかったのは、砦の片付けとかに手間取ってしまってな。すまない」


アランがレギオンの言葉を補足した。


「でもっ、それって……レギオン達は故郷を捨てるってことでしょ?いくら行き来出来るって言っても……」


馴染んだ場所を捨てるなんて決断、簡単にしていいはずはない。

不安げな私に微笑みを投げ掛けつつ、レギオンとアランは一呼吸置く。

そして、声を合わせて一字一句丁寧に言った。


「……病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、番として愛し、敬い、慈しみ、いついかなる時も離れぬことを誓う」


漆黒の瞳と、焦げ茶の瞳が真摯に私を捉えた。

身体が熱くなって、あっという間に顔が火照る。

これは、このフレーズはいわゆるあのとても有名な……。

頭は支離滅裂で、到底冷静ではいられない。

そんな私の隣で祖父が直球を投げた。


「お前さん達、もしかすると、亜沙子に婿入りするつもりなのかい?」


「む、むこっ?」


婿入り……え、嫁入りでなくて?

いや、そんなことはどうでもいい!


「ああ。アサコ様がうんと言ってくれれば……」


「先程の言葉どおり、この皇組を終の棲家としたい。一生アサコを守って側にいたいのだ」


アランとレギオンはスッと姿勢を正した。


「ははっ!こりゃいいねぇ!腕っぷしの強ぇ男、いや竜が二人揃って、亜沙子がいいってか?こりゃあ女冥利に尽きるねぇ」


親衛隊と同じこと言ってる……。

祖父はニヤリとしながら私を見た。

でも。

ど、ど、ど、どうしよう。

婿だなんて、全く考えてなかったし、そもそも色恋なんて何がなんだか……。

そわそわと落ち着かない私を見て、レギオンとアランはくくっと笑った。


「知っている。アサコの心など全てお見通しだ」


……でしょうね?

と、私は一気に冷静になった。

こうして、アワアワとしてることもきっとわかってて、心の奥にある本心ですら見透かされている。

なら、もう、いいや。


「わかりました!皇組四代目……まだ仮だけど、ドラゴン族の王レギオンと戦士長アランの申し出、受けさせて貰います!……でも、婿っていうのはいきなりなんで、ええと……」


「仕方ねぇなあー。まずは亜沙子の用心棒から始めるかい?」


「お、おじいちゃん?」


何で用心棒なの?

不思議な顔をする私に祖父は言った。


「力があれば、すぐにのしあがれる世界だ。のしあがって地位を固めたら、その時、どうするかを決めればいい。お誂え向きに、婿なんて一人だろうが二人だろうが関係ない世界だしな」


「そう言えば、おじいちゃんにも何人もいたよね?」


「……忘れたなぁ……そんな昔のことは……」


そっぽを向いて笑う祖父を、私は暖かく見つめた。

これは祖父なりに、彼らを見極めようとしての提案なんだ。

私を心配して……もう、本当に……優しいんだから。


「三代目殿、その申し出謹んでお受けする!必ずアサコに相応しい地位を手に入れてみせる」


「オレもだ!誰にも負けねぇよ」


雄々しく笑うレギオン。

猛々しく叫ぶアラン。

二人は頷く祖父を見て、姿勢を正し、次に真っ直ぐ私を見た。


「うん。じゃあ、これからもよろしくっ……ん?」


意気揚々と叫ぶ私の背中で、何かが光った。

この部屋で光るものと言えば、それはもうアレしかないよね?


光は暫らくの間輝きを放ち、その目映さが収まって行く頃……。


そこには、素敵な沢山の笑顔があった。



~終幕~

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この度、四代目(仮)が、ドラゴンライダーになりまして。 藤 実花 @mika_f_mika

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