第7話 お嬢と強大な力

「レギオン!」


ワイバーンの手から逃れ、運良く地面に近いところに転がった私は、すぐに黒いドラゴンの元に走った。

無数のワイバーンの攻撃を、彼は傷一つ負わず、見事に弾き返している。


「アサコ!無事で良かった!そこは危ない、オレの尾の下に入れ!」


「うん!」


言われた通りレギオンの尾の下に入り込もうとした時、一体のワイバーンが急降下し、私目がけて突進してきた。

レギオンは咄嗟に尾で振り払おうとしたけど、ワイバーンの方が早かった。

尾は空を切り、ワイバーンの爪が首元に迫って私の命は風前の灯!

何もできないけどなんとかしなくちゃ!と、思った私はもうヤケクソでワイバーンの足を掴んだ。


それからは、自分でも何が起こったかわからなかった。

でも、結果を見て推測すると、私は反射的に掴んだワイバーンの足を勢いよく投げていたらしい。

投げられたワイバーンは美しい放物線を描き、流星のように彼方へと飛んで行った。


「え?」


レギオンはポカンと口を開けたまま、飛んでいくワイバーンを眺め、私は自分の両手を呆然と見つめた。

驚いていたのは私達だけではない。

仲間がぶん投げられる様子を見ていたワイバーン達も、放心状態で飛んでいく仲間を目で追い、次に私を怯えた表情で見た。


「アサコ……」


「何でしょう?」


「君は、何族だ?」


「ヒト……?」


「ヒト族とは、竜族を素手でぶん投げる程の力があるのか?」


「いや、ないと思う……」


あるわけがない。

ワイバーンを投げる人間なんていてたまるか。

そんなのはファンタジーのお話かゲームの中の世界だ。

でも……確かに投げた感触はあった。

私はそれをもう一度確かめるために、手っ取り早く、側にいたワイバーンを掴み軽く投げてみた。

するとどうでしょう!

ワイバーンはさっきと同じくらい美しい流星になった。


「レギオン。私、強いかも?」


「ああ、そのようだ」


呆けていたワイバーン達は少しずつ正気を取り戻し、レギオンに向かって再度攻撃を始めた。

レギオンはその攻撃を弾き返しながら、私を守るように立ち塞がる。

戦える力がある。

そのことに気付いた私を誰が止められるだろうか?

ドラゴン族の絶滅を防ぐんだ、そう決意すると、私はレギオンの背をよじ登る。

そして、レギオンの首元を攻撃しようとするワイバーンを素早く掴んでは投げ、掴んでは投げた。

いや、面白いくらい爽快だ。

ワイバーン達は、まるで手応えのないぬいぐるみのようなもので、簡単に捕まえることが出来る。

確かに動きは速い、けど、私の方が遥かに速かったのだ。

力だけでなく、素早さもチート。

ラスタが言っていた「最強の戦士」も満更嘘じゃないかもね。

うーん……でも、掴んで投げるだけじゃ芸がない。

この複合チートを使ってもっと派手に暴れてやろう!


「レギオン!尾を高く上げて!」


彼の首元で大きな声で叫ぶ。


「わかった!」


レギオンの尾がグォンと派手な音を立てて勢い良く上がる。

私はそれを駆け上がり頂上でワイバーンを迎え撃った。

視界は360度開けている。

この状態では、空中を舞うワイバーンの方が遥かに有利だ。

でもそんなこと、チートな私に関係ない。


「かかってこーい!!」


調子に乗りまくって叫ぶと、二方向からワイバーンが急降下した。

その一体目をヒラリと躱し、二体目の腹に突きを入れて、怯んだ所にすかさずヘッドロックをかける。

そして、旋回して戻ってくる一体目をヘッドロックしたワイバーンでフルスイング!

そして、また流星が生まれた。


二体では足りないと思ったのか、ワイバーンは五体で一斉に襲いかかってきた。

ヘッドロック中のワイバーンで、それらを纏めて叩き落としてやると、やがて狡猾な彼らは連携して退却を始める。

分が悪いと悟ったのだ。


「勝った?」


レギオンは尾をクルリと反転させると私を自分の顔の近くに寄せる。

そして、大きな長い舌でペロリと頬を舐めた。


「撃退したぞ!やったな、アサコ!」


黒く大きな瞳がキラキラと私を見る。

その黒曜石のような輝きに思わず見とれていると、近くでスロートが大きく叫んだ。


「ラスターーー!」


スロートの視線の先を見ると、ワイバーン五体が動かないラスタに爪を食い込ませ、運んでいるのが見えた。

翼も体もボロボロになったスロートでは、あの速さのワイバーンにはきっと追いつけない。


「レギオン!ラスタを助けよう!」


「ああ!わかった、飛ばすぞ!掴まれ!」


レギオンは黒い翼を大きく広げ、勢いをつけて高地から飛び立った。


前方のワイバーンとの距離は約500メートル。

その距離をレギオンはぐんぐん詰めていく。

速いといえども、ドラゴン姿のラスタを抱えていては、スピードも落ちるというもの。

それに本気モードのレギオンのスピードは私の顔の形が変わるくらい凄かった。


「レレレレギギギオオオオンンンーー」


「なんだ?なんて言っている?」


私は風圧でうまく喋れないことに気づき、彼の首にしがみつくと顔の近くで必死で訴えた。


「聞こえるー?」


「ああ!聞こえている」


「ワイバーンに追いついたら、ラスタの体に私を下ろしてほしいの」


「構わないが……大丈夫なのか?」


「うん。子供のためにもラスタを揺らすのは良くないよね?だから一体ずつ静かに倒すわ。落下したら回収よろしく」


さすがにいくら腕力とスピードがあっても、この高度から落下すればたぶん死ぬ。

よって、レギオンの助けは必要だ。


「わかった。必ず助ける」


作戦会議が終わると、私達はまたスピードをあげてワイバーンを追いかけた。

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