第5話 お嬢と砦の事情

そう言うとレギオンは赤くなった。

いや、褐色の深みが増した、の方が正しいか……って、そんなことはどうでもいいっ!

私はパニックになり目を泳がせた。

番って、何する人!?

敵を殲滅する力なんて私のどこにある!?


「レギオン……それ、別人じゃ……?」


「あり得ない」


きっぱりとレギオンは言った。


「光の柱から現れたのは後にも先にもアサコだけ。それに、王には番が本能でわかるのだ!」


「本能……で?」


「そうだ。オレにはわかる。アサコは王の番であるとっ!」


自信たっぷりにレギオンが言い放った。


「アサコ!オレとドラゴン族を救おう!そして、元気な子を産め!」


「……ん?」


前半は多少理解出来たけど、後半……おかしくなかった?

聞き間違いかと思って、私はもう一度レギオンに聞いた。


「えっと……なんて?」


「オレとドラゴン族を救おう!」


「その次」


「元気な子を産め!」


「……話飛びすぎてない?」


私は呆れて突っ込んだが、レギオンは大真面目だった。

それどころか、心外だという表情で迫ってくる。


「この話は繋がっているぞ?しかも、切実だ」


「繋がってるの?」


「うむ。この国では、今ある戦いが起こっている。ワイバーン族とドラゴン族の種の存続をかけた争いだ。ワイバーン族は機動性に優れ、度々我が砦に奇襲をかけた。そして、決まって数人のメスを拐っていく」


「何の為に?」


話が生々しくなり、背筋がゾッとした。

きっといい話じゃない、と私の勘が告げている。


「ドラゴン族の女達とワイバーン族を交合させ、我らより更に大きく強い上位種ドラゴンロードを誕生させるためだ。そして、ドラゴン族を完全に滅ぼすつもりなのだろう」


「つまりそれって、強い子供を産ませる為の実験に使うから拐うってこと?」


「そういうことだな……」


レギオンの表情が曇り、私は怒りに震えた。

そんな下劣な行為に及ぶワイバーン族は、きっとろくなもんじゃない。

レギオンに頼まれなくてもフルボッコにしてやりたいと、カッと頭に血が上った。


「……少し話が脱線したが、つまりワイバーンに拐われて女の数が激減したのだ。この砦にもう女は片手で数える程しかいない」


「そんなに少なくなってるの!?」


それはもう絶滅の瀬戸際だ。

たぶんこのまま行くと、ドラゴン族は間違いなく滅びる。


「そうなのだ。だから、アサコに是非ともオレと交合して貰い……」


「こっ、交合……って!?あの、私一人がどんなに頑張っても、出生率は上がらないよ?ドラゴンがどうかは知らないけど、人間は普通一回の出産で一人だからね!まれに多産もあるけど、だからっ!」


私はもう必死だ。

いくら、異世界産の特殊な番だといっても無理なものは無理。

たった一人の人間で出生率は上げられない。


「レ、レギオンは王なんだから、その片手で数えられる女性の中から選べるんじゃないの?」


私は苦し紛れに言った。


「残ったのは全員部下達の妻なのだ。王だからといってそんな無体は出来まい?」


「あ……うん」


そりゃそうだよね。

そんなのワイバーンの略奪と何にも変わらない。


「しかし、王の血筋を残さねばならぬ。オレの子が出来なければ、ドラゴン族を率いるものがいなくなるからな。王の血筋の者は、もう一人いたが、あいつは最初のワイバーン奇襲時に真っ先に拐われたのだ……」


「嘘……もしかして、レギオンの血縁者?」


「……妹だ」


私は堪らなくなって目を伏せた。

違う種族で争うことは、どこにでもあることだ。

でも、こうまで執拗に攻めるワイバーン族は、一体どういう神経をしているのか!


「ごめんなさい。思い出させたよね……」


「かまわない。ついでに聞いておいてくれ。ワイバーンは度重なる交合でついにドラゴンロードを誕生させた。その母親は妹だ」


「はぁ!?そんな……ひどい……」


怒りに震える私の頭をレギオンはポンポンと優しく叩いた。


「争いにおいて、これはあり得ることだ。アサコが気にする必要はない。だが、心を痛めてくれて感謝する」


「……ねぇ。例えば、ドラゴンロードを倒そうとして、それを阻止するために妹さんが立ちはだかったら……レギオンは彼女と戦えるの?」


「もちろん、戦うさ」


レギオンは言い切ったけど、出来るならそんな悲しいことは起こって欲しくない。

だって、家族同士の争いなんて辛すぎるから。

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