第4話 お嬢と王の部屋

砦の中は、外から見るよりも広く大きく作られていた。

通路は幅3メートルほどあり、レギオンやスロートのような大きい人がすれ違っても十分通れる広さである。

前からやって来た戦士風の男は、すれ違い様にさっと脇に避け、片腕を前に敬礼をした。

男の衣装も古代ギリシャ風で、武器などは持ってないけど、一目で戦闘職だとわかる体つきをしている。

彼らは一様に、王の後ろの変わった衣装の女を見て目を丸くし、執拗に視線を絡ませてきた。

何だろう……もの珍しいのはわかるけど、見られ過ぎのような気もする。

それに、さっきから気になってるんだけど、男としかすれ違わないわ。

確か、レギオンが女は貴重って言ってたから圧倒的に人数が少ないのかもしれない。

そんなことを考えていると、やがて大きな扉の前に着いた。


「ここだ、入れ」


レギオンに促され入った部屋もやはり大きかった。

円形で天井は高く奥行きもある。

カーテンに仕切られた寝台が奥にあり、円形に沿わせるように長い木の机と同じ素材のキャビネットが置かれていた。

また、部屋の中央には触り心地の良さそうな特大のクッションが置かれている。

まさか、突然現れた得体の知れない女にこんな豪華な部屋を使えと?

ドラゴン族、体も大きいけど心も広すぎない?


「ええと、あの、こんな広い部屋じゃなくて、もっと狭い部屋でも構わないんだけど……」


「狭いとオレが困る」


「……どうして?」


「いや、ここは、オレの部屋だ。まぁ入れ」


私は恥ずかしさで一杯になった。

てっきり来客用だと思っていたものが王の部屋……。

まぁ、良く考えたらこんな広い部屋、王しか使わないのはわかることだけど。


未だ恥ずかしさは消えず、私は出来るだけ小さくなって部屋の中央のクッションの脇に座った。

それを見てレギオンもクッションにどっかりと座り込んだ。


「さて、では何から話そうか?」


「まず、この場所がどこなのか……を知りたいんだけど」


「ふむ……アサコは、どこから来た?」


「日本と言う国よ。こことはまったく違う所で……」


そう言うとレギオンはうーんと唸って腕を組んだ。


「……悪いが、ニホンという国はこの世界にない。ここはドラゴニクルスという世界で、オレ達ドラゴン族とワイバーン族しか存在しないのだ。アサコのような者は初めて見る」


「……じゃあ、別の世界……異世界ってこと?」


愕然として問うと、レギオンは頷いた。

日本ではないとは思っていたけど、まさか全く別の世界に飛ばされているとは……。

いや、んじゃなくて、死んで生まれ変わった可能性だってある。

最後の瞬間が銃声を聞いた後だったのだ。

信憑性はそちらの方が高い。

だったら……もう腹を括ってここで生きるしかない。

皇組四代目、皇亜沙子。

潔さと図太さだけは誰にも負けない。


「アサコ。大丈夫か?」


大きな体を屈めて、レギオンが私を覗き込む。

その目には労りと心配が見えた。


「うん……驚くことばかりだけど。後ろ向いてても仕方ないからね」


「うむ。そうか。それで……混乱しているところ悪いが、今度はオレの話を聞いてほしい」


「……うん。いいよ?」


「まず、何故オレがアサコを荒野で見つけたのか、ということだが……ドラゴン族には古い言伝えがあってな。一族の危機にどこか別の世界から女がやってくるそうだ。その女は王のつがいとして敵を殲滅する大いなる力を持っている」


突っ込み所の多いレギオンの言葉に、私は首を傾げた。

言伝えとかつがいとか、話が一気にファンタジーになってきた!

ここってもしかしてゲームの中の世界なのかな?

クエストを受注して達成すると、いいものが貰えるっていう特典はないの?


つがいは光の柱から現れる。オレは高台からその柱を発見して、急いで向かったのだ。すると……アサコがいた……」


「え?あれ……だとすると王のつがいって……」


話がおかしな方に流れつつあり、私は冷や汗をかいた。


「……アサコだろう。まぁ、オレも最初は半信半疑であったが、出会った瞬間……その……なんだ……」


レギオンはモゴモゴと口ごもり、私の冷や汗は止まらない。


「気に入ってしまった……」

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