第3話 お嬢と砦と不思議な竜族

「見えてきたぞ!砦だ」


レギオンが示した方を見ると、そこには巨大な崖があった。

アメリカのグランドキャニオンを彷彿とさせる、そそりたつ茶色の崖。

その中には窓のような無数の穴が開いていて、何かが生活している様子が窺える。


レギオンは崖の上の高地に着地して、体をうつ伏せにすると、尾を絡ませて私を下ろした。


「疲れてないか?」


頭上からかかる優しげな声に耳を疑った。

これ、さっき私のこと食べようとしたドラゴン?

態度が違いすぎて怖い……。


「うん。大丈夫。えっと……いろいろ聞きたいことがあるんだけど、砦の代表に会える?私、ここがどこかもわからなくて」


「ふむ、そうなのか。よかろう。何でも聞くと良い。寝床の心配もいらんぞ?アサコはオレが連れてきたのだから、ここで暮らす権利も得ている」


わぁ!至れり尽くせりで更に怖い!

……だなんて失礼なこと言えないよね。

あれ?でも『ここで暮らす権利も得ている』って、どういうことかな?

という疑問は、抱いてすぐに解決することになった。


「お帰りなさいませ」


レギオンの後ろから声がして、そっと覗いてみると、そこにはスラッとした長身の男が立っていた。

古代ギリシャ風の装いで、どこか哲学者っぽい雰囲気である。


「ああ、スロート。こっちはアサコ。これからここで共に暮らす」


「では、このお方が!?王の……」


王……おう!

なるほど、道理で簡単に決められるはずだ。

でも……と、私は首を捻る。

レギオンはどう見てもドラゴン。

スロートと呼ばれた男は、普通よりも大きいだけのに見える。

とても、同じ種族とは思えないんだけど。


「はじめまして、アサコ様。良くお越し下さいました。私、スロートと申します。レギオン王の側近のようなものをしております」


スロートはレギオンの隣に立ち、ゆっくりと頭を下げた。

うーん……やっぱり、人っぽい。


「あの……ここって、レギオンだけがドラゴンで他は人間なの?」


「そんなわけあるか」


私の質問にフフンと笑ったレギオンは、首をグーッと伸ばし翼を体に巻き付けると大きく息を吐いた。

すると、彼の回りだけに小さな風が巻き起こり、徐々にその形を小さくして人の姿になっていく。

風が収まった後に現れたのは、褐色の肌に引き締まった体、端正な顔立ちの綺麗な男だった。

スロートよりも一回りは大きく、王と呼ばれるのが当然というように堂々としている。

髪は黒、瞳も黒。

ドラゴンの漆黒の鱗がそのまま服になったような帷子を全身に纏っている。


「どうかな?」


レギオンは得意気に言った。

……えーと、つまり。

ここはドラゴンが人型になる世界で、おまけに日本語を喋って王政をしいている、ということ?

なんとなく理解はしても頭の方が追い付かず、私の口はバカみたいにポカンと開いた。


「アサコ?」


得意気だったレギオンは、少し眉根を寄せる。

あっ!マズい。

ここで機嫌を損ねたら、気が変わって食われるかも……。

私は取りあえず誉めることにした。


「ド、ドラゴンが、へ、変身できると思わなかった……けど、素晴らしく凛々しい姿だと思……います」


「ん、そ、そうか?うん。あ、ではこっちへ来い。部屋に案内しよう。その後、これからのことを話すとするか」


何故か早口で言うレギオンは、さっさと砦の中へと歩いていってしまった。


「ふふ。さぁ、どうぞ。王に付いて行かれませ」


意味深に笑うスロートは、早足のレギオンの背中を見つめながら私を促す。

それに頷いて返すと、私は急いでレギオンを追いかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る