スミレは二度咲く

「なるほど。過去の閲覧がしたい、と?」

「そうなんだ。姉さんにしたのと、同じことをしてほしい」

 アザレアは顎に手を当てると、一度目を逸らしてから、にやりと歯を見せて笑った。するりと背筋を指で撫でられたような感覚になる。眼窩に収まったブラッディレッドの瞳がきらんと輝いて、俺を縛りつける。

 アザレアは、シオンと同じ、カリスマ性のある人物だ。一言で表すなら「妖しい人」だろうか。目つき一つで相手を黙らせ、笑顔一つで相手を魅了する。だから、信じてはいけないのだ。そうは分かっていても、俺はこの選択をした。

 過去の閲覧。アネモネ図書館に収めた過去をもう一度自分のものとして受け入れるのだ。

「しかしまぁ、どういう吹き回しだ? あれから少し経ったとはいえ、スミレまで過去を知りたいだなんて」

「俺も姉さんと同じ道を行くかどうか、考えたいんだ。それ以上はまだ考えてない」

「過去を開示するのは良いが……まだお前は悩んでいることがあるはずだ、違うか?」

「そうなんだ。だから、すぐに決めることはできない」

 そうか、と答えると、アザレアは俺を図書館の端へと連れていく。足を進めるほど辺りがひんやりとして、高鳴る心臓を押さえようとしてくる。

 こうして見ると、本当にたくさんの本があるものだ。人間が作った物語に、人間の歴史に、さらに小さなものになると、人間一人一人の人生が収まっている。でも、これらを読むだけでは、俺の疑問には辿り着けないのだろう。

 アザレアが足を止め、本棚から一冊の本を取り出す。その様はまるで本が手に吸いついたようだった。アザレアが本を引っ張り出したのではなく、本がアザレアの手に収まったのだ。

 本の表紙には「観月聖夜」と書いてある。俺が人間だった頃の記録なのだろう。アザレアが一度手渡してくれたが、そこには何も書かれていない。しかし、アザレアが手を翳すと、ふわり、とインクが浮かび上がって、インクが文字を作っていく。

 それと同時に、辺りの景色が一変する。図書館だったそこは、薄暗い研究室へと変貌していた。途端、鼻を突くのは血生臭さだ。白いベッドが立ち並び、数多くの人が眠っている。

 切れかけの蛍光灯の下で、誰かがメスを手にしている。隣に立つのは、俺だ。黒い髪は闇に溶けて、赤い目だけが明るいルビーのように輝いている。そして、まくし立てるように何かを話している。

 身を乗り出して、口を閉ざさないで、目を煌めかせて、メモを取って。その後ろにあるのが、被検体という名の人間たちであることを知りながら──

「そう。お前は夢中だったんだ。とあるメアリー・スーにな」

「……うん、思い出したよ」

 俺は所詮、あの人の犬。全ての行動原理はあの人の研究にあった。

 自分の意思にかかわらず、胸が熱くなる。目元までその熱が上がる。涙が出そうになる。脳までゆだり上がる。

 知っている、この感情は崇拝だ。あの男に何をされたっていい。あの男のためなら何だってできる! だってあの人はとても面白いから!

 感情に呑み込まれて意識が遠のきそうになったとき、アザレアが肩を叩く。刹那、風が吹き抜けて、研究室の光景が図書館へと塗り替えられていった。

 熱が下がっていき、顔が、胸が、体が冷えていく。ゆっくりと、正気が頭から下がってくる。

 アザレアは、ぱたん、と本を閉じた。

 不思議と正気なままだった。今の状況を俯瞰していた自分がいたようにさえ思えた。過去は過去だと割り切れているのかもしれない。

「へぇ、意外と無事みたいだな」

「うーん……過去を見る前から、知ってたというか。この気味悪さには慣れてるというか」

「さて、記憶を取り戻して何を思う?」

「……人間になりたい、と思う」

 アザレアは本を小脇に抱えると、唇に指を当てて横目で俺のことを見た。何かを言いたげに二つの唇が動いたけれど、言葉は発せられず閉じる。

 人間になりたい──その願いは、最初から変わらない。人間としての体はあるし、人間としての生活をしているけれど、心はまだAIのままだ。過去を取り戻して、人間として生きていたことも知っているけれど、あの人生を人間として生きていたとは言えない。

 アザレアは目を細めると、よろしい、と言って、手を後ろに回した。

「ならば、お前がどんな人間になりたいか見つけたとき──新しい世界に誘ってやろう」

「ありがとう……最後になんだけど、姉さんとの話を聞かせてくれないか?」

「あぁ、観月玲奈の話か。そうだな……彼女は、特に崇拝の感情や恋慕の感情が強かった。だから、過去を見せたときは大きなショックを受けていたよ」

 脳裏に姉さんの部屋の様子が思い浮かぶ。暗い部屋で独り、無数のデータと共に蹲っていた。顔は白く、目元は潤んでいた。

「それでも何か転換点を得たらしい。自分が人間として生きていく覚悟を決めたみたいだ。

そしてこうも言っていたな……スミレを、幸せにしてやってほしい、と」

「その転換点っていうのは、」

「お前のことだよ。お前と話したことが転換点になったんだ」

 口を閉じる。俺が姉さんにかけた言葉が、姉さんのためになっていたのだ。人形として生きようとしていた姉さんに、人間として生きていく選択肢を与えることになった。

 なにも、独りで決めた選択ではない、ということだ。だとすれば、俺も独りで決めなくて良い。

 ありがとう、と言って別れようとすると、背を向けた俺に向けてアザレアがこんな言葉をぶつけた。

──観月玲奈の贈り物を忘れずに。



 姉さんはかつて、自分の仕事のやり方を見つけるために他の司書にインタビューをしたという。そのときはティーセットとクッキーを持っていったとのことだ。

 カトレアが買ってきてくれたクッキーと、普段使いのティーセットを持って、一休みしているシオンの元へと向かった。シオンはソファで一睡していたようだ。アザレアが帰ってきたとしても持病は治らないらしい。

 シオンが起きるまでクッキーを摘んで待っていようとすると、その物音のせいか、シオンが目を覚ましてしまった。彼は目を薄らと開けて、俺とクッキーとティーセットとを順番に見ると、欠伸をする口を隠しながら体を起こす。

「あ、起こしちゃったか。悪い、シオン」

「いや、気にしなくて良い……僕に何か用かな」

「ちょっとシオンの知恵を貸してほしくて……あ、紅茶飲むか?」

「頂くよ。ちょうど夕方に仕事があったからちょうどいいところだ。少し話そうか」

 シオンは大きく伸びをしてから頬杖をつき、気怠げに目を細め、口角を緩く上げてみせた。そうすると端正な顔立ちで、俺も思わず息を呑んでしまう。

 適当に話し相手を選びに来たわけではない。俺にとって尊敬できる人間は誰か、と考えたときに、真っ先に浮かんだのはシオンだったのだ。

 崇拝の中にいた俺が目を覚まし、姉さんと死を選んだあと、初めて出会ったのがシオンだ。この図書館が精神病院だとしたら、俺たちに薬を与えてくれたのがシオンだ。俺たちにとっては救世主だ。

 背筋を正し、シオンを見つめる。シオンは言葉も無く、視線で話すよう促した。

「シオン。人間とは何なんだ?」

「……そうだね、アリス、君がずっと悩んでいることだな。どんな回答をお好みかな?」

「何でも良いよ。シオンの考えを教えてほしい」

「そうか。僕は──そうだね、言葉という道具を操れる生き物だと思っているよ」

 言葉という道具を操れる生き物、とは、また生物学的な解釈だ。確かに、舌を上手く使って言葉というものを作ったのは人間が初めてだろう。

 シオンはティーカップに口をつけ、眼鏡越しに憂いげな目をした。

「そしてその道具の使い方を継承できる……ラチェット効果があるのが人間だと思っている」

「シオンは哲学的な捉え方より、物理的な捉え方をするタイプなんだな」

「そうだな。だからこそ、AIが人間かどうかというのは悩ましいところだ。プログラミングをされれば動くのだが、自分で学習して次世代にその結果を継ぐ、というのがAIだろう? それに、コンピュータ言語を使っている」

「それはそうかもしれないけど……人間にあるものが無いじゃないか。感情とか、痛覚とか、五感とか……」

「五感に関しては関連機材を使えば再現できるし、痛覚は搭載するのが楽だろう。感情だって表現できるようになったアンドロイドが多いだろう?」

「でも、その感情は本物じゃない」

「君は何をもって『本物』と表現するんだ? ブレインが生み出した電気信号が感情だと言うのなら、コンピュータにもできるはずだ」

 思わず舌を巻く。嗚呼、なんて論理展開だ。もちろん、今までの話に論文や雑誌の情報があったわけではないから、彼の話が科学的かどうかは分からない。けれど、人を黙らせるくらいの舌は持ち合わせているのだ。

 それはシオンも分かっているようで、何の根拠にも基づいていないがな、と付け加えた。

「人間なんて一つの大きなコンピュータにすぎない。五感から感覚記憶を得て、それを脳内で言語にして、脳という演算機能とメモリに刻み込む。入力があり、反応があり、出力がある。僕は、そう思うがね」

「じゃあ、シオン。どうして人間には多様性が出るんだ?」

「記憶する言語やデータが違い、それに最適化されていくんだろうな。真似する親が違えば子が変わるのはそういうことなんだと思っている」

「その『最適化』の作業こそ、自分で考えてするものじゃないか」

「そう。そこがAIと一緒なんだよ。まぁ、でも違うとしたら」

 シオンがクッキーを口に入れる。サクッ、と小気味良い音が鳴る。シオンは半分を噛み砕いて飲み干してから、これはカトレアのセレクトだな、と呟いた。

 クッキーを紅茶で流すと、シオンは静かに続けた。

「人間は自分で考え、自分で選択する。学び始めも学んでいる最中も自分で決める。自由な選択肢のうち一つを自分で考えて選ぶ。

AIはそれを人間のプログラミングで選ぶんだ。そう考えると、自由であるか否かが問題だろう」

「自分で決める、か……」

「その考え方は様々だ。合理的か? 効率的か? ドラチマチックか? はたまた、運試しか?

どんな理由でも良い。他人から言われたこと以外をするようになったとき、人間になったと言えるかもしれないな」

 シオンの言葉に、ふと姉さんの姿が思い浮かぶ。権威的な人間に振り回され、自分自身の選択ができなくなっていた。

 そんな姉さんが初めて自分の意思で選んだのが、アネモネ図書館の司書として働くことだった。それからは、マニュアルの無い仕事をする覚悟を決め、やがて精神病院を出る選択をした。

 シオンが小さく微笑み、赤い目を輝かせた。スカーレットに煌めく瞳は、俺の心の深部まで視線の槍を突き刺した。

「君はどうだ? きっと自分で選択をしてきたはずだ。今も、過去も──」

「……そうだ。俺は無数の選択をしてきた。それで、勉強して、小児科医になったんだった。ここに来たのだって自分の意思だ」

「アリス。君は昔から人間だったんだよ。

確かに、他の人に比べて感情の起伏は激しくないかもしれない。何かが足りていないように感じるかもしれないけど、人間として大切なところは持っていたんだよ、最初から」

 嗚呼、すっかり忘れていた。なにも、最初からずっと人でなしだったわけではないのだ。あるときを境に自分で自分をコントロールするのを止めてしまっただけで、それまでは人間として生きてきたはずだ。

 忘れたからと言って、この図書館で何も考えずに生きてきたわけではない。だとしたら、もう俺も人間として生きる資格があるのではないか?

「それに君には感情が無いわけじゃない。人間でありながら人間になりたいという矛盾を孕んでいて、そこに何かしら思うことがあったんだろう?」

「……それは……アネモネに言われた……」

「そうか。だったら問題無いじゃないか。君は存分に人間を名乗ると良いさ」

 ハマりかけていたピースが、ようやく全て綺麗にハマり始めていた。そうすると、今まで言われてきた全ての言葉が一つの大きな作品へと変わっていく。

 まだそれが何なのかは分かっていない。でも、それが完成したとき、俺のなりたいものが分かるのだろう。

 心にそよ風が吹いて、ふっ、と軽くなった感覚がした。水色の理性だ。視界をクリアにして、目を冴えさせてくれる。

「ありがとう……あと少しで分かりそうだ」

「そうか。もう少し悩むかい?」

「うん。ここからは自分で考えたいんだ」

「それが良い。君の選択を応援するよ」

 シオンは紅茶を飲み干し、終いにしよう、と言った。クッキーがだいぶ減ってしまっていたことに驚いたが、多くは自分が食べてしまっていたようだ。

 立ち上がったシオンは穏やかに微笑んで俺のことを見下ろした。目がきらきらと輝いて綺麗に見えた。

「それじゃあ頑張りたまえ、僕のアリス」

「うん、頑張ってみるよ」

 去っていく背中を見送ってから、ティーセットを纏める。まだ少し紅茶が残っているから、持っていこう。次の相手は、もうクッキーを食べることも無いのだけれど。



「入るよ、姉さん」

 ノックをしてから扉を開けて、そこでハッと我に返る。何年も生活したせいか、これが当たり前になってしまった。自分の癖に苦笑する他無い。

 姉さんの部屋には少しも手がつけられていない。家具以外何も無いし、あるとしたら紙の束くらいだ。本当に整頓されているな、といつも思う。姉さんはいつもこの広々とした床に紙をたくさん敷きつめていたのだ。見ているだけでほんの少し心が温かくなる。

 ふと目についたのは、わずかに開いた机の引き出しだった。そこには白い封筒が入っていた。捲ってみれば、表には「聖夜へ」と書かれていた。

「やっぱり、姉さんは俺に何か遺してくれてたんだな」

 そんなことを一人で呟いて、封筒を開けた。中に入っていたのはルーズリーフだった。達筆な文字で手紙が綴られている。

──聖夜へ。貴方のおかげで私は道を決めることができました。私の考え方が貴方のためになると良いです。

──私は人形のように生きたくはなかったのです。自分の意思で、自分のために生きたかったのです。そんな大切なことを、私はずっと忘れていました。

 ここに来たての姉さんは──確かに研究熱心ではあったけれど──あくまで自分はメイドだと言って司書たちに従うことを喜びにしていたはずだ。人間としての生き方を選ばず、人形らしく生きようとしていた。

──どんな人間になりたいかは決まっていません。でも、自分らしく在りたいとは思っています。何が自分らしいかも、私には分かっていません。それを探す意味でも、旅に出ると言えるのではないでしょうか。

 姉さんは本当にそのまま、手紙を出すことも無く、旅に出てしまった。俺より先に人間として巣立ってしまった。そう、俺を置いて──

 ……そうだ。俺はずっと、姉さんに劣等感を抱いていたんだ。人間になろうとしなかった姉さんを見て安心していたんだ。人間らしい挙動を見せると不安になっていたんだ。

 きゅっ、と心臓が締まるような気分になる。おそらくこれは悲しみというんだろう。

──スミレがこの先どう生きるかは、貴方が言った言葉の中にあったと思います。貴方はこう言いました。「俺は、人間に寄り添う仕事をしたいと思って、今の仕事をしてるつもりだ。ちゃんと人間の情緒を理解して、少しでも救いになればと思ってる」と。

──この思いは、貴方が仰ったように、決してプログラミングされたものではありません。貴方が自由に考えた結果です。大切にしてください。

「やっぱり姉さんには、敵わないなぁ……」

 目から雫が落ちて、白い紙にインクの染みを作る。持っている手紙の字が震えて見える。

 姉さんが自分の言葉を覚えていてくれたことが嬉しいのもあるし、最後まで俺のことを思っていてくれていたことが嬉しいのもある。

 やっぱり俺は、良い姉を持った。

──最後に。スミレならばきっと良い人間になれます。周りをよく見ているから、吸収力も高い。それを処理する能力も高いです。ぜひ、人間に寄り添う人間であり続けてください。私はそんな貴方に、憧れています。

──玲奈より。

 足音も時計の音もしない。無音の部屋の中で、俺のしゃくり上げる声だけが響いている。

 姉さんの願いと、昔の俺の願いと、今の俺の願いが全て重なって、一つの大きな作品を作る。パズルのピースは全て埋まる。

 もう一度同じことになるかもしれない。だって、したいことはずっと変わっていないのだから。だとしても、この世界で得た知見が全て無くなるわけではないだろう。

 誰かに左右されることの無い、自由な選択を。

 手紙を封筒に戻して、そっと手に取る。そのまま、姉さんがいた部屋を出て行った──向かうべき場所へ向かうために。



 アザレアはたくさんの本を抱えて棚の前に立っていた。小さく息を吐き、高い高い本の積み重なりを眺めていた。

 俺が声をかけるより前にアザレアが振り返った。それから困ったように笑って、近くの机に置いてある本の山を指差した。

「悪いな。ちょっと手伝ってくれないか?」

「あぁ、良いよ」

 確かにこれは大変だ、と言わんばかりの量だ。力持ちなアザレアでも持ちきれないのだから、俺一人だったら間違いなく手間がかかっていただろう。

 俺が一緒に本を入れ始めると、アザレアが口火を切った。

「それで、どうだ? 何か良い答えは思いついたか?」

「あぁ、辿り着いたよ。俺も姉さんと同じ道を行こうと思う」

「そうか。どんな人間になりたいんだ?」

「人を研究したいというのは変わってないんだけど……やっぱり、人の役に立ちたい……自殺志願者たちを助けてるうちに、そんな気持ちが強くなっていったんだ。

一度は自分で考えなくなっていたけれど、今度こそ自分で考えて何かを選んでいきたい」

 アザレアは満足げに何度か頷き、ほっとしたように息を吐いた。アザレアもそんな顔をするのか、と驚いていると、彼は眉を下げて薄く笑った。

「ん? どうした?」

「何でもないよ。それで、俺はこれからどうすれば良い?」

「この図書館を出ていくんだな?」

「……うん」

「新たな門出を歓迎するよ」

 アザレアはそう言って、俺の本の山を指した。全ての本を収めると、一番最後の本が「観月聖夜」となっていたのに気がつく。

 開いてみれば、一番最後に「つづく」の文字が書いてあったことに気がついた。俺という物語は、これからも続くのだ。

「お前はもう司書ではいられない。新しい世界で自分を見つけるんだな。

それと同時に、『スミレ』ではいられない。司書たちと同じ場所に辿り着くとも限らない」

「そっか……できたら、また姉さんに会えると良いな」

「会えるかもしれねぇな、こんだけ姉弟の絆が強いんだから」

 最後の一冊を収めると、自分の体が金色の泡へと変わっていく。痛みは無く、その代わりにあったのは解放感だった。今までの思い出が走馬灯のように巡っていくのは、死ぬときに似ているけれど、不思議と怖くない。

 金色の光の向こうに、何かの光景が見えた。そこに立っていたのは、メイド服を着た女性だった。隣にはパーカーを着た男性が立っていて──嗚呼、姉さんは一人じゃないのだ。

 それなら、良かった。これからもどうか、お幸せに。



「あら、聖夜、起きたのね」

 ガタンゴトン、優しい音を聞いて、うたた寝から目を覚ます。隣には白い髪の女性が座っていた。どうやらそろそろ終着駅らしい。

 俺は大きく伸びをすると、彼女の手を取った。

「さ、降りよっか」

 彼女はにっこりと笑うと、俺の隣に立つ。それだけで笑顔になってしまうのは、いったいなぜなんだろう? それはとっても研究しがいがあるような気がした。

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