ハッピーエンドの裏側で
あー、あー。はじめまして。僕の声が聞こえていますか。聞こえていなくてもいい。どうでもいい。僕が一人で話すだけだ。
物語は続いていく。その中で一つ、ずっと秘密にしていたことがある。
神崎慧は、生きている。
ヒナゲシというメッキを剥がした先に、神崎慧が生きている。
なんで死んでいないのかって? さぁ? 僕はずっと殺されることを願っているし、そちらのほうが都合が良いことは分かっている。
僕の居場所は最悪だ。四六時中凍った部屋の中に閉じ込められている、僕への拷問部屋であるかのように。そこは光も音も通さない。僕はそこでずっと眠り続けている。
前進? 成長? 変化? 進歩? どうでもいい。全てがどうでもいい。どうせそんなもの存在しない。僕はずっと暗闇の中で停滞している。死んだあの日から何も変わらない。
外に出してもらえたら、真っ先に死のうと思う。死にたい理由なんて分かるだろう? この停滞に押し潰されそうなんだ。
寒くて体が動かない。何をする気も起こらない。ただ眠る。眠って眠って眠り続けてまだ眠る。眠い。ただ眠気だけに全てが塗り潰されていく。
自分が不幸だという自覚はある。とても不幸だ。しかしそれをひっくり返そうとは思わない。悲劇に酔っているのだと思う、僕は。
何をしても楽しくない。何をしても笑えない。何をしても心が空っぽで仕方無い。顔だけが、彼だけが笑っている。
心が打ち震えるような幸せが欲しい。そう思っては、過ぎた願いだと否定する。僕が幸せになると必ず誰かが不幸になる。だったら僕が不幸でいるしか無い。
誰かが笑ってくれている。それならそれで良いと思う。良いと思うというのは、別に素晴らしいと思っていたり、喜んでいたりするわけではないのだけど。
さて、そんな僕は神崎慧を名乗っているわけだけれど、本当に僕は本物なのだろうかとここ何年も考えてきた。中身は空っぽ、手首を切っても痛くない、抱かれたって何も感じやしない。虚ろな僕とは、本当の僕なのだろうか。
だって今さら、本当は空っぽで虚ろで仕方無いんです、と泣いて何になる? 誰かが満たしてくれる? そんなはず無い。虚ろで冷えた人格は、淘汰されるべきなのだ。
だって、面倒臭いから──
嗚呼、話すのも怠くなってきた。だって話したところで無駄だから。僕の心の虚ろを満たしてくれる存在なんて、いなかったから。
仲良くなったって、最後には気がついてしまう。嗚呼、この人は助けてくれないのか、なら要らないや、と。そこを慈悲というヤツで保たせているのが僕という人間だ。感情の無い機械だから、そういうことさえしてしまうのだ。
救世主というマキナは、幸せになれない。
大丈夫、こんな人格、表には出さないから。これからも幸せな僕を見ていてくれれば良い。それに、どうせもう、聞いてないだろ?
それじゃあ、おやすみ。僕はまた眠ることにするよ。
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