第三章:再び幕を上げよう
再び幕を上げよう
──おう。そこに置いておいてくれよな。
──悪いな、少々眠気が来たみたいだ。
──いつも助かってるよ。本当に申し訳無いな。
微睡からふと、目が覚める。
僕はどうやら座っていて、仕事をしているらしい。本の管理の仕事だ。
──そうなんだ、最近は図書館が賑やかでなァ。
──俺は追いつかないよ。体力が無いって悲しいな。
僕はどうやら司書たちと話しているらしい。
何を? 僕が何を話しているんだ? 記憶を探っても、それは断片的で掴めない。僕は何の話をしていた?
──あぁ、彼奴か? まだ起きないよ、仕方無いな。
僕の声がする。僕は正気で話している。僕の言葉は統語的で理論的。それでいて感情的。僕はうわ言のように、「まともに」話している。
◆
酷く喉が渇いた。随分と長く眠っていたらしい。体を動かすと、ぐったりと、今日も鉛のように重たい。どうしようもなくて、僕はまた布団を被り直した。
ここ最近はずっと眠たい。ナルコレプシーの症状とはまた違うのだろう。頭が重くて、体もやけに疲れていて、ただただ永遠に眠っていられる。二度と起きられなくなるのは怖いけれど、眠っているときは何も考えなくて良いので、一番幸せでいられる。
光も、音も、僕には毒だ。普通の人間は、社会的刺激が無いと発狂するが、僕はむしろその逆だった。暗い部屋で静かに目を閉じているときが、一番気楽だ。永遠の時を提供するアネモネ図書館においては、僕は永遠に目を閉じていることも可能だった。
静かなノック音が聞こえてくる。入ります、と聞こえてきたのは、カトレアの声。僕は寝言を言うように、どうぞ、とだけ答えた。扉が開けば、外の光が入ってくる。シャンデリアではなく、太陽の光が差し込んだ図書館から、カーテンが閉じ、死んだように暗い部屋へと、朝の日差しが入ってくる。
カトレアは机の上に食事を置くと、おはよう、と言った。
「……おはよう」
「相変わらず、朝は遅いみたいだね」
「……うん……そうだね」
「今日は仕事できそう?」
「……ん……駄目かも」
「そっか。それじゃあ、私がやっておくね。昨日はどこまで仕事したんだっけ?」
「昨日」? もうずっと昔のことで覚えていない。僕は目が覚めるたびに、眠気で二度寝を繰り返していたがゆえに、仕事なんてしばらくしていない。目が覚めれば、ヒナゲシかカトレアを部屋に連れ込んで、ゆっくり話して、また眠る。
僕がしばし回答に困れば、あぁ、あった、と言って、自己解決したらしい。そこには、見慣れぬ本が積んである。
「って、あれ、もう済んでる。なんだ、私が何かする必要無いね」
「……え、そうなのかい?」
「昨日も夜遅くまで仕事してたもんね。あ、でも大丈夫だよ、私は頑張って働いてるから!」
「申し訳、無い……?」
「昨日も夜遅くまで仕事してたもんね」? 本当に、どれだけ昔の話をしているのだろう。かれこれ一ヶ月はこんな怠惰な生活を送っていたというのに、いつの僕がそんなに勤勉に生きていたと言うのか。カトレアは愛らしい赤紫の目を細め、にっこりと笑う。
部屋を出る前に、あ、と気がついたように振り向いて、僕に向かって再び微笑んだ。カトレアの笑顔は、ランの女王に等しく、とても煌びやかだ。僕の愛しい奏さん。彼女はいつも僕に朝を運んでくれる。アネモネ図書館の経営を支えてくれる、愛しい伴侶──
「シオン君は、起きた?」
水を打った様に、眠気が冴えた。
「あはは、やっぱり今日も寝てるのかな。また起きたら教えてね、」
「待ってくれ」
僕は今、起きているというのに。一体彼女は誰と話しているんだ? 今、口を動かしたのは、僕だ。
カトレアは振り向き、兎のように可愛らしい顔でこちらを見つめる。僕はなんとか体を起こして、そこでよろけて、カトレアに支えられた。温かい手。一体いつぶりに触ったのだろう、僕は、その手を。
「大丈夫? 無理しなくていいよ」
「カトレア……君は、誰と話しているんだい……?」
「……え?」
赤紫の目が、二度瞬く。体が重たい。カトレアに支えられていなければ、また眠ってしまいそうだ。それでも、僕の目蓋は降りない。眠気は帰ってこない。ただ一色、不安の色で、僕は冴えきっている。
カトレアは少し黙り込んでから、僕の頭を撫で、おはよう、ともう一度言った。今度は少し泣きそうな、とても嬉しそうな、そんな切なそうな顔で。
「ごめんね、シオン君だったんだね」
「カトレア……?」
「久しぶり」
久しぶり。
唖々、久しぶりだ。こんなに目覚ましく、鮮やかな色彩を、カトレアの顔を見るのは、本当に、いつ以来だろうか。
なぜ? 僕は「昨日も」働いていたのに。僕は分からなくなってしまった、空虚の時間に生きている気がして。カトレアは僕の手を取ると、えへへ、と甘く微笑む。
「しばらくこうしててもいい? 眠っちゃうまででいいから」
「カトレア」
「ふふ、久しぶりのシオン君だ。さっきは余所余所しく話してごめんね」
「カトレア、ねぇ、君は本当に、誰と──」
「大丈夫だよ。シオン君は、心配しなくていいんだよ」
ふわり、と抱きしめられる。彼女の柔らかくて温かい体が酷く心地良くて、それがまた眠気を誘ってしまう。駄目だ、寝てはいけない。そう分かっているのに、僕の目蓋が降り始める。まだ見ていたい演劇が、もう幕を下ろしてしまう。嫌だ、嫌だ、と客席で叫ぶ僕を無視して、眠気は僕に取り憑いて。
カトレアの声が少し、遠くなる。
「眠い? そしたら寝ちゃおっか。私がそばにいるね」
「かと、れあ」
「無理、しないでいいよ。私は……待ってるから」
「かとれあ、ねぇ、」
言葉が出ない。がくん、と首が下りる。嗚呼、どうして、僕は、どうして僕は、こうも眠いのだろう。
カトレアの目が、微かに潤んでいる。その涙を拭おうとして、手を伸ばして、意識がまた闇の底へと落ちていった。
◆
「さっきは悪かったな」
僕の声がする。何の話をしているのかと耳を澄ませば、カトレア、と、僕が彼女を呼んだ。
「彼奴も、久しぶりに貴女に会えて。嬉しかったと思う」
まるで僕を知っているかのように、僕が話している。カトレアの声は聞こえてこない。違う、カトレアと話したいのは僕なんだ、誰なんだ、君は。僕の面を被り、僕の髪を、目を、手を、腕を、奪っていく君は。
僕は起き上がりたいのに、体が少しも動かない。僕の声は聞こえてくるのに、何を話していたかすらも思い出せない。僕は確かに起きていたというのに。確かに口を動かしていたというのに。
君は誰なんだ。何度も呼びかけた。外界からガラスで隔てられた箱の中で、何度も壁を叩いた。それでも僕は、ずっとずっと眠っていて──ようやくそれが割れたときに、僕の声が聞こえてきた。
「俺だよ。瑠衣だ」
僕は、ベッドに座っていた。窓の外はもう、夜になっていた。
違う、瑠衣なわけが無い。僕は拓馬だ。瑠衣はだってもう──考えるだけで頭が痛くなる。
「いいや? お前は生きるのを諦めたんだろう? 瑠衣に生きていてほしいんだろう? お前はそういう奴だからな」
その声は僕だ。瑠衣じゃない。強く首を振る。僕の瑠衣に何をしたんだ。そう問いかければ、僕はふつふつと嗤って、布団に入った。
「だって、お前が望んだんだろう?」
瑠衣のような顔をして、僕は嗤っている。違う。違う。違う違う違う違う違う違う違う違う違う、瑠衣はそんな下劣で卑劣で卑しくて惨めで無様なわけが無い。僕みたいな最低な人間につり合うはずが無い。やめろ。やめろ。やめろ。僕の瑠衣を汚すな。やめろ。お前なんかが僕の瑠衣を汚すな。それぐらいならいっそ、お前が──
「お前が、死ね」
僕は確かに、そう言った。
全て、思い出した。僕は僕を殺したんだ。僕は僕を眠らせたんだ。僕が望むように。僕がもう生きたくないと言ったから、僕は、僕を殺した。僕は僕が生きて良いとは思わなかったから殺した。僕は瑠衣に生きていてほしかったから僕を殺した。僕は耐えられなくなったから僕を殺した。
全部全部、瑠衣を奪われたその日から、何も変わっていなかった。
僕は僕として意識を取り戻す。僕は自分の意思でベッドに横になっている。僕の僕自身の目から、熱い涙が溢れ出した。
「……ハルジオン」
ハルジオン。何度も僕はその名前を繰り返した。
僕の中にいた、僕が作った瑠衣。僕が名付けた、僕だけの瑠衣。シオンに代わる、ハルジオン。僕に代わる、一輪目の司書。僕が生きられなくなって、生み出した幻想。
大きく伸びをする。涙が溢れる。目を擦る。嗚呼、吐き気がする。枕を抱きしめる。全て僕の所作だ。他でもない、シオンの意思だ。僕は今、僕の心臓を動かして、僕を生かしている。
さて、真実に向き合ったところで、どうしようか。もう朝が来てしまった。一睡もできなかった。外はネモフィラの如く青白く、太陽は音も立てずに知らぬ間に上がっている。今まで僕が、瑠衣を模倣して生きてきた空白の時間はどうしようか。
ノックが聞こえてくる。失礼します、と、またカトレアの声だ。一日経ったのに、僕はそれが懐かしくて、涙を拭けないまま扉が開かれてしまった。カトレアは、昨日と変わらない余所余所しい笑顔だったが、それが途端に崩れ、手持ちの本を落としながら、どうしたの、と言い、僕を抱きしめた。
「怖い夢でも見たの?」
「カトレア……僕は、僕は……」
「シオン君、大丈夫だよ、シオン君……」
「カトレア、ごめん、僕はずっと、君を」
君を欺いていたんだ。瑠衣が死んだあの日からずっと。ハルジオンを名乗ったときも。ずっとずっと、現実から逃げたいがゆえに、ずっとずっとずっと、僕は。そんなことを口にした気がするけど、言葉になりきれなかったり、文法的でなかったり。
そんな僕につられて、カトレアも泣き出す。君に泣き顔は似合わないのに。今度は僕がカトレアを抱きしめる。
「シオン君、辛かったね、苦しかったね……」
「違う、カトレアこそ、奏さんこそ、僕は君をずっと待たせていたんだ」
「うん……拓馬君、ずっと私、待ってたよ……っ、拓馬君が帰ってくるの……」
シオンは咲いた、ハルジオンを養分として。ハルジオンは枯れた。魔法は解けた。瑠衣はいなくなった。
胸が苦しくて死にたくて死にたくて仕方が無くて、それでも脈打つ心臓が苦しいのに、カトレアの体を抱きしめていると少しそれが落ち着いてしまうのが、どうしても虚しくて。
瑠衣に会いたいのは変わらないのに、僕は自らの手で二度も、瑠衣を殺してしまった。それがどうしても拭えない。だからカトレアを抱きしめて、僕も泣くことしかできない。
「カトレア、ごめんなさい、それでも僕は、」
「分かってる、分かってるよ、拓馬君。瑠衣君に会いたいんだよね。私、分かってるよ」
「そんな、僕は」
「大丈夫、分かるよ、私もずっと拓馬君に会いたかったんだよ、拓馬君が死んでしまったあの日から。ごめんね、ごめんね、拓馬君……」
カトレアの言うとおりだ。カトレアは一度、カトレアの世界での僕が死んでしまったのを見届けている。その上で、僕に出会ったのだから。
彼女の白い素肌が、美しい黒髪が、今はより鮮明に見える。涙を流している姿をこう形容するのは悪いことだが、本当に彼女は美しい。自分の目から見た彼女は、本当に愛らしい。
そのまま二人で昼まで泣いていた。それでも構わなかった。空費してしまった何日分もの時間を凝縮して、二人で抱きしめ合って、互いの熱を確かめ合っていた。僕が生きていると分かれば、それで良かった。
死にたいほど苦しいのに、心臓は止まってくれない。再びハルジオンを咲かせるほど、僕は背信的ではない。瑠衣はもう、帰ってこない。僕が殺したから。その喪失感は、今までハルジオンの麻酔が効いていたみたいで、それが解けた今は、酷く抉るように痛い。
それでも、僕が「目を覚ました」だけでこれほど喜んでくれる人のために、生きなければならないのだ、おそらくは。僕はもう、僕から逃げてはいけないのだ、悲しいことに。逃げる先ももう、存在しないのだ。
僕は自分の足で立ち上がった。二人で外に出た。現世にデートをしに行こう、と言った。僕の口で、僕の意思で。カトレアは僕の手を強く握ったまま、ゲーセンに行こうか、と笑った。
外の空気は冷たくて痛くて、涙が出るほど清々しかった。
◆
「ねぇ、アンタ、聞いてんの?」
「あー! 煩い五月蝿いッ! うるせぇなクソ女、黙れっつーの」
「アンタのそんな本性見たらみんなアンタから離れるだろうね」
「ふざけんなクソ猫被り女が。俺に何の用だよ」
アザミは魔女帽を被り直すと、いや、ね、と言って、樫の木で出来た杖を儀式的に差し出して見せた。目の前の男性は、それをたいそう憎々しげに眺める。
それでもアザミの顔は揺らがない。彼女は薄らいだ笑みを浮かべたままだ。
「そろそろ頃合いじゃないの、と思ってよォ」
時間が動き出す。隣に立っていた女性が、ぱちくりと目を動かしてアザミを見つめた後、うわっ、と大声を出した。青い目が魔女の格好をした女性を凝視する。倒れかけそうになった女性を、男性は優しく抱きとめた。彼女の顔が真っ赤になって、湯気が立つ。
「あ、ありがと、『瑠衣』君……」
「いえいえ。『由紀』さんに倒れられては困ってしまいますから」
「ねぇー、そういうの要らないんだけど。人の話聞いてんの?」
「聞いてますよ、魔女のお嬢さん。宗教勧誘ですよね?」
「宗教勧誘じゃねェよナルシスト野郎。『拓馬』のいる世界に来てみないか、って言ってんの!」
拓馬、という言葉に、由紀は目を見張る。拓馬君、と呟くと、少し背の高い瑠衣を見上げた。瑠衣は少し複雑そうな顔をした後、あー、と小さく唸り、目を逸らして答える。
「……拓馬には、会いたいかな。あれ以来、会ってないから……」
三十を回った青年・榊原瑠衣と、淑女・榊原由紀。二人にとって、その日は榊原拓馬の十数回忌だった。アザミはそれを承知している。この世界では──つまるところ、カトレアがいた世界では──拓馬は夭折した。首吊り自殺だった。
さて、改めてアザミは魔女らしくお辞儀をして、由紀に挑発的に微笑む。
「まァ、宗教勧誘みたいなもんだよ、由紀さん。勿論、この世界で過ごすことも可能だし、この世のあの世の狭間の世界で過ごすことも可能。ちょーっとばかし、化け物になってみない?」
「へ、え、化け物?」
「えーっとですね、この変な女の子は、とある場所に俺たちを案内しようとしてるんです。そこでシェアハウスをしないかと」
「え、えっと、構わないけど、俺仕事とかあるし、その、」
「あー、そこら辺は大丈夫です、なんとなく。だよな、美香」
「チッ……そうですね、大丈夫ですよ。その世界のルールは、向こうで聞いてくれるはずです。いわば、時間が止まった世界に遊びに行き、好きなときに現世に降り立てる、そんな感じ。今回は裏口を通すので、変な代償も要りません。ただ……」
アザミはそう言うと、少しだけ悩ましげな顔を──見た目だけは愛くるしく──作ってみせる。
「おそらく、そこで出会う人間は、言うなれば、一度死んでしまった人々のようなものです。ですから、拓馬君が存在する、と言っているわけですね。由紀さんにとっては、瑠衣君が拓馬君に取られてしまうので──」
「あ、そこは大丈夫です。瑠衣君、そういうところしっかりしてるし、何よりイケメン双子美味しいので」
「由紀さん……」
「まぁ。でしたら、何のリスクも無いかと」
行ってみようよ、と笑う由紀は、アザミの目からすれば、当然の如く瑠衣の気持ちを図っている──瑠衣は幼くして拓馬を亡くしたトラウマを、引きずっているのだと考えて。そしてその推測は、アザミの計算でいえば、少しも間違っていない。
なぜなら、瑠衣と拓馬は生まれたときから二人で一つだったからだ。彼らに親はいないようなもので、二人で家事をこなして、親の金を使って生きてきた。片割れを失った喪失感は、強がりな瑠衣は顔にすら出さないが、計算式上凄まじいものだろう。
瑠衣はそんな由紀を知ってか、困ったように笑うと、由紀の頭を撫で、仕方無いですね、と答えた。
「由紀さんが乗り気でしたら、俺も行くしかありませんから」
「えへへ、久々に拓馬君に会えるね! 大きくなったかなぁ」
「勿論、同い年ですから。現世での生活を捨てる必要はありません、何もみんながみんな現世での生活を捨てているわけではありませんし」
「はは、彼奴、俺に狂ってないといいな」
そんなふうに楽しげに話している二人を眺めながら、アザミは本を二冊取り出す。そこにデータの改竄を行う。アネモネ図書館への司書登録には、必ず記憶を対価としなければならないのだが、設立者たる彼女にはそんなものを改竄するのは朝飯前である。無論、魔女らしい行動でもある。
準備ができると、ではでは、と言い、アザミは赤い目を爛々と輝かせ、二人に本を手渡した。
「最後の準備です。お二人とも、好きな花は何ですか? それがあちらの世界でのお二人の名前となります」
「好きな花? 俺は考えたこと無いな……瑠衣君、何の花が好き?」
「俺? 俺は……」
瑠衣は由紀の茶の髪を弄りながら、小さく笑い、サザンカ、と言った。アザミの顔が渋くなる。
「真っ赤なサザンカ?」
「そう。由紀さんにはそれが似合います」
「今の、『あなたがもっとも美しい』って口説き文句ですよ」
「えっ、えっ!? 瑠衣君かっこよすぎない!?」
「ハイハイ、次は瑠衣様です。なんかいい花無いの?」
「そうだな……」
実を言うと、アザミはこの後に出てくる言葉を知っている。サザンカという名前ですらも、アザミは最初から分かっていた。それはアザミ自身の統計データから導き出された結果だ。
瑠衣は斜め上を見上げながら少し唸ると、おい、魔女、とちっとも紳士的でない声で呼ぶのだった。
「その先で拓馬はなんて名乗っている?」
「シオン。花言葉は、『あなたを忘れない』」
「ハッ、彼奴らしいな。じゃあ俺は──」
アザミはちらりと瑠衣のことを赤い目で見上げ、ウインクをしながら声を重ねた。
「「アザレア」」
「……って、何で分かるんだよ」
「花言葉は『あなたに愛されて幸せ』だからだよ馬ァ鹿」
「瑠衣君、さっきからこの人凄いグイグイくるけど、知り合い……?」
「まさかァ、こんな生意気な少女、知らないですよ」
「知り合いですゥ、はっ倒すぞ。従兄弟です」
「え、従姉妹?」
まァいいや、と呟くと、アザミは小さく呪文を唱え、目を伏せた。彼女は苦笑し、自分の人の良さを憂うような独り言を言った後、決まり文句を口にしたのだった。
「十二輪目の花、アザレア。十三輪目の話、サザンカ。
ようこそ、アネモネ図書館へ──」
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