第二十五話 屈強の男
豊とルシールが一緒に行動している事も知らずに紗瑠は深いため息を吐いていた。
当然その原因となるのが紅美である。
「紗瑠と二人なんてデートみたいね。できればこんな無人島じゃなく、ショッピングとか映画とか。あ、元の場所に戻ったら私とデートしない? それに夏休みも近いようだし、海に行くのもいいわね。ふふ、紗瑠の水着を私が選んであげましょうか?」
「・・・・・・」
一人盛り上がる紅美は、紗瑠とのデートに想像を膨らませて笑みを零し、楽しそうだ。逆に紗瑠は不機嫌を隠そうともせず、憂鬱な気分である。
一方的に紅美の話に耳を傾けるだけじゃ、ストレスが溜まる一方である。豊に出会えないのも紗瑠の精神が徐々に摩耗してくる。
別の事を考えようとして、紅美の話にあったデートや夏休み、海というワードから少しでも気を紛らわすため妄想を始める。
夏休みといえば海。海といえば水着。紗瑠は瞬時に夏休みに豊とどう過ごすか、計画を立てた。
まずは水着を調達する事から始まる。去年の水着を紗瑠は持っていたが、豊が選んだ水着を着る予定だった。そのためには彼をデートに誘う必要がある。
二人でデートをし、ショッピングを楽しむ。そこで水着売り場へ行くが、豊の好みとなる水着を選んでくれないと予想した。なら紗瑠が強引に水着売り場へ連れ出し、色んな水着を試着し、豊に披露する。まずは無難な水着から徐々にランクアップし、過激な水着を見せつける予定。あわよくば試着室に連れ込んで、誘惑してエッチな事をしようと邪な事も考えた。
「・・・・・・ふふ」
自然と気持ち悪い笑みが漏れた。
紅美は未だに話を続けているが、今の紗瑠は妄想に浸っているため耳に入っていない。
紗瑠の妄想が続く。
最終的には披露した水着の中で、豊が一番反応した水着を選んで購入。
次は海である。本来なら二人っきりで海へ行きたい紗瑠だが、みんなで行こうと計画する。当然だが豊と二人っきりになる時を狙うつもりだ。そして既成事実を作る。
海という開放的な空間なら豊も浮かれて、紗瑠の事を求めてくるだろうと思っていた。
豊と結ばれる未来を妄想が捗り、紗瑠の中のプランが練り上がる。紗瑠は妄想だけで気味の悪い笑いが再び漏れて、幸せそうだった。
「・・・・・・気に食わないわね」
紅美はいつの間にか話が止まり、豊との未来を妄想する紗瑠を凝視し、面白くないと感じていた。また紅美の中で豊に対する殺意が膨れあがる。
「紗瑠と海行くの結構楽しみになってきたわ。そういえば紗瑠ってば胸大きくなったんじゃ無い?」
紅美のねっとりとした視線が紗瑠の胸へ注ぐ。未だに妄想を続ける紗瑠は気付いておらず、背後に近づく。そして脇の間から腕を伸ばして、紗瑠の胸を掌に収める。優しく揉み、ほどよい弾力性に形を変える。揉み心地が抜群で、手に伝わる感触に紅美は満足する。
「ーーっ!?」
急に胸を揉まれた紗瑠は全身に鳥肌が立ち、不快感を覚える。直ぐに紅美の手をはたき落とし、振り向きざまにビンタを放つ。
しかし、紅美はすぐにビンタを察知し、飛び退き、ビンタが空を切った。
それに悔しさを滲ませる紗瑠。
「あら? 怖いわね。ちょっとした女の子同士の戯れじゃない?」
「貴女のそれは全然戯れじゃ無いわよ! 私の胸は豊のものよ! 勝手に触らないちょうだい!」
「またその男・・・・・・いい加減不愉快よ。その名前」
「貴女には決して理解できない事よ」
「ええ、理解したいとも思わないわね。その底脳なゴミのどこがいいのかしら? 紗瑠も私と同じ考えだったわよね? もしかしてそれに洗脳されているの? それは可哀想だわ。私の愛で洗脳を解いてあげるわ。私の胸に飛び込んでおいで?」
「本当に可哀想ね貴女」
紗瑠の憐憫な視線。その視線を受ける紅美は気にした風も無い。
紅美は本気で紗瑠を手に入れるには、豊を殺すしか紗瑠を解放できないと考えていた。そんな彼に対する怨恨が強まっていく。しかし、二人が出会うのはまだ先の話になるだろう。
嫌忌と好意。お互いが正反対の感情を見せる会話を続けていると、二人の耳に草が揺れる音を捉えた。会話を中断し、音の発生源へ視線を向ける。
そこにはーー身長180センチ以上の鎧を身に纏った屈強な男が佇立していた。手には巨大な斧。その男の目は二人を睨み付け、口から唸り声を漏らしている。真面に話し合いができない状態というのは一目瞭然。
「私と紗瑠の世界にいきなり入ってこないでくれるかしら?」
「貴女と一緒の空間にいるだけで吐き気がするわ」
紅美は突然現れた屈強な男に対して非難し、紗瑠は紅美の言葉に対して不快感を露わにする。
口ではいつも通りの口調だが、屈強な男から纏う雰囲気は尋常じゃなく危険な存在だと第六感が囁いていた。二人は身構えて出方を窺う。
「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああ!!!」
屈強の男が獰猛な獣のように咆哮を上げた。
森全体に震動が伝播するほどの威圧感。鳥や小動物などが咆哮に驚いて騒がしく逃げ去っていく。二人はピリピリした空気が肌まで伝わり、身体が強ばった。
次の瞬間、屈強の男は地面を蹴って二人の方へ駆けてくる。近づいてくる度に威圧感で二人に重圧が襲う。
普通なら恐怖心が先行し、足が竦んでしまうだろう。しかし、修羅場を抜けてきた二人は咄嗟に動いた。
紗瑠は右目を紅藤色に、紅美は両目を白百合色に発光した。
「ーー・・・・・・」
紗瑠はチラリと紅美を一瞥し、両目に幾何学模様が浮かんでいるのに気付いて、驚愕していた。それも一瞬で、直ぐに意識は目の前の敵へ向ける。
「ヴァアあっ!」
屈強な男は斧を振り上げると、二人へ叩きつけた。
「???」
それに疑問を抱く屈強の男は周囲へ視線を走らせる。
「ーーっ!」
二本の刀が迫る気配に気付いた屈強の男。斧で薙ぎ払う。金属音が鳴り響き、刀を一本弾き飛ばす。しかし、もう一本が腕を切り刻んで離れていく。そして再び襲い掛かってくると、今度は斧を振り上げて叩き落とした。
屈強の男は直ぐに二人を見つける。
数メートル離れた位置で無傷で立っている。彼女らはその場から一歩も動いていない。
「ふふ、あなたバカね?」
紅美の小馬鹿にする声に、屈強の男は紅美を鋭い眼光を向ける。唸り声を上げ、愚直にさっきと同じ行動を起こそうとした。
刹那、屈強の男の周囲に幾つもの鏡が出現する。鏡に映るのは自分の姿。その鏡に屈強の男は鬱陶しいと感じて、振り上げた斧で鏡を叩き割っていく。
「ーーっ、ぐふっ!?」
すると、屈強の男が何か見えない攻撃を受けて胴体が斬られて
「やっぱりバカね。自分で自分を攻撃して自傷行為するなんてマゾなの? それとも脳まで筋肉でできてるから考える事もできないのかしら。滑稽ね」
「ぐっ、ヴァアアアアアアアアアあああ!!!」
紅美にまたバカにされた屈強の男は周囲の鏡を悉く斧で薙ぎ払って、全て割っていく。当然、その攻撃全てが自分に返ってきて、自分の身体をあちこちに傷が増え、血を流していく。
「さっさとアレを倒してくれない?」
「そうしたいのだけど・・・・・・」
屈強の男が二人の方へ跳躍すると、振り上げた斧で落下と共に紅美へ叩きつける。
しかし、紅美だと思っていたそれは自分を映し、またしても鏡へ攻撃。割れる音、着地と斧の衝撃で周囲が揺れる。
そして鏡の反射が屈強の男へ返ってくると、身体を深く傷つけ、衝撃で吹き飛んで木に衝突し、薙ぎ倒された木と共に倒れた。
「知能が低いから対処が簡単だったわね。ただ・・・・・・その分体力バカだから、長引くと厄介だわ」
紅美はアナテマを使った疲労が蓄積し、これ以上力を使えないと判断した。今のうちに逃げようと紗瑠の手を掴んでその場から離れた。
森を出た二人は浜辺まで辿り着き、屈強の男が追いかけてくる気配が無く、ようやく人心地着いた。
屈強の男相手に紗瑠の力では敵わなかった。紅美の助けがなかったら、今頃紗瑠は殺されていただろう。嫌忌する相手に助けられたのが癪に障ったが、それより一番気になる事があった。
「貴女・・・・・・アナテマを覚醒していたのね」
「ええ、そうよ。ただ覚醒したばかりでまだ使い勝手が分からないのよね。そういう紗瑠はまだのようだけど、あまり驚いてないわね」
「貴女が覚醒した事には驚いていたけれど・・・・・・知っているわ」
「ふーん・・・・・・紗瑠の言う男がそうなのね」
「・・・・・・どうかしらね」
敢えて誰とは言わず、豊がアナテマに覚醒した事を告げなかったが、紅美には気付かれていたようだ。
「いちいち苛つく男ね。やっぱり殺しておかないといけないわ」
「殺されるのは貴女だけどね」
しばらく浜辺を歩いた二人は誰かの気配を感じてまた敵が現れたのかと身構えた。そして現れたのは髪を片方に結んだ女性だった。見知らぬ女性に紗瑠は警戒を解かずにいると、女性の方は歓喜の声を上げて駆けてくる。
「お姉様! 無事だったんですね!」
「あら? 香奈じゃない? よかったわ、凄く心配したのよ」
香奈は紅美に抱きついて、潤んだ瞳を紅美に向けて幸せそうな笑みを浮かべる。そんな香奈を抱きしめて優しく髪を撫でる。
「ぁ・・・・・・お姉様の匂い」
「ふふ、可愛いわね香奈。もっと顔を見せて?」
「はい・・・・・・」
香奈はうっとりした顔を向ける。紅美に抱きしめられ、触れられるだけで頬が紅潮し、期待の籠もった瞳で見つめると、そっとと目を閉じた。
それは何かを求めているような仕草。すぐに香奈の求めていることに察した紅美は「この子ったら」と呟く。香奈の頬に触れると肩が揺れる。それから顔を近づかせて唇と唇を重ねてキスをした。
最初は啄むように優しく触れる程度。それから徐々にお互いを求めるように激しさを増して、遂には舌を絡めるようにエスカレートした。お互いの吐息が漏れて、唾液が糸のように伸ばして二人の視線が絡まる。香奈の瞳にハートが浮かび、紅美の事しか映していない。火照った身体が紅美を求める。それがよりいっそう愛おしさを感じて、香奈の太股に手が伸びて撫でた。ビクッと身体を震えた香奈は甘えた声を上げる。
「はぁっ。お、おねぇさまぁ・・・・・・」
「もっと香奈の喘いだ姿見せて?」
「はぁい・・・・・・おねぇさまっ、ぁあ!?」
そんな二人の色恋を見せられる紗瑠。当然、それはおぞましい行為で不快感を覚え、到底理解できる事じゃなかった。理解しようとも思わない。紅美が紗瑠に同じ事を求められていると考えると、拒絶反応が起こり、全身に鳥肌が立つ。
紗瑠はこれ以上同じ空間にいたくないと感じて、早々にその場から立ち去る。
紅美は彼女が立ち去る姿に気付いて、香奈を優しく離して追いかけた。
突然紅美が離れた香奈の心に寂しさが襲った。
「お姉様?」
香奈の声は届かず、紅美は紗瑠の手を掴む。
「待ちなさいよ紗瑠。そんなに嫉妬しなくてもいいじゃない? でもそんな紗瑠も好きよ?」
「はぁ?」
紅美の勘違いに心底呆れる紗瑠は低い声を上げた。
「あら、怖い。ごめんなさいね? あまりにも香奈が愛おしくて欲しくなっちゃったの。紹介するわ」
未だに身体が火照っている香奈が紅美に近づいて、初めて紗瑠の存在に気付く。
紅美は香奈に優しい笑みを浮かべて紹介した。
「この子は藤沢香奈。私の恋人って所かしら。他にも手を付けている子は居るんだけど、香奈ともう一人が特にお気に入りなの」
「・・・・・・お姉様、この女誰ですか?」
香奈の冷たい視線が紗瑠へ向けた。あまり歓迎していない顔である。
「あら? 香奈も嫉妬? 可愛いわね。ふふ、この子は私の恋人になる暁烏紗瑠よ」
「気持ち悪いこと言わないで」
紗瑠の冷酷な瞳にもどこ吹く風の紅美。
「またお姉様は私意外に恋人なんか・・・・・・」
「ふふ、大丈夫よ。私はみんな等しく愛するわ」
新たに加わった紅美の仲間である香奈。
紗瑠にとっては興味なく、むしろ歓迎していない。それは紅美も同様。
豊に会うこともできず、肌を密着したり、匂いを堪能したり、そんな欲求も満たせずにストレスだけが溜まっていく一方である。それに加えて紅美と香奈の存在にさらに苛立ちが増幅する。段々紗瑠の精神が不安定になっていき、そろそろ限界を迎える頃だった。。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
竜斗は一人、鬱蒼とした森の中を一人歩いていた。当座仲間を探すために動いている。
優先順位は戦闘向きでない萌衣と蓮魅。豊と紗瑠に関しては、無人島に一人で行動しても問題ないと判断を下していた。それは豊と同じ結論に至っていた。
しかし、
それに長時間萌衣と蓮魅を探すには問題がある。歩き回ったせいでお腹が減ってくるし、それよりも喉の渇きの方が重要である。
森林が日光を遮って、自然の涼しい風で多少暑さを凌げていても、暑さは残る。そのため歩き回るにしても体力は削られるし、喉の渇きは訴えてくる。二人を探すのも重要だが、先に自分が倒れては本末転倒。そろそろ食料を確保するために宝箱探しをメインで探す必要があった。
しばらく歩いていると、変わり映えの無い景色に竜斗は、自分が進んでいるのかどうか怪しく思っていた。確実に遭難しているだろうと思いながら、取りあえず前へ進む。
時々、茂みから草が揺れる音が聞こえ、目を向けるとウサギが飛び出したり、木と木を移動するモモンガが確認できる。萌衣のアナテマなら動物の目を借りて、仲間達を探す事だってできる。竜斗じゃなくても豊や紗瑠をそれで見つけていれば萌衣の心配はいらなくなるだろう。
けど蓮魅は未来を視るアナテマだ。どの時点の未来が視えるかは定かじゃないが、ここでは仲間を探す事は難しいだろう。
仲間思いの竜斗は無事を願いながら奥の方へ進んでいく。
「あれは・・・・・・」
竜斗は洞窟を見つけた。奥は薄暗く、不気味な雰囲気が漂う。如何にも宝箱がありそうな場所ではあるが、中に入るべきか判断に迷っていた。
こんなわかりやすい洞窟があれば、他のアナテマ使いが中の様子を確認するだろうし、宝箱があった場合はもう中身は空になっているはずだ。もしくは萌衣や蓮魅が隠れ家として身を潜めている可能性もある。
竜斗は前者よりも後者であって欲しいと願い、中へ入ることにした。
中は懐中電灯が必要なくらい薄暗かった。これ以上進むのは難しいかと思っていたが、そこまで奥は続いていなかった。洞窟を進んでしばらくして行き止まりになり、大きな箱が置かれていた。それは宝箱だった。まだ開けられておらず、中身を確認すると食料と水を手に入れた。
目的の物は手に入れたが、萌衣も蓮魅も洞窟の中にはいなかった。
一旦、外へ出ようと元来た道を戻ると、洞窟の出入り口付近で腰掛けるショートボブの女性を見つけた。竜斗は一度警戒するが、その女性は意識が朦朧として焦点が合っていなかった。慣れない場所を飲まず食わずで歩き回ったのが原因か。宝箱を見つけられなかった場合は最終的に餓死する恐れもあるだろう。遭遇した時のサバイバルに知識があれば少しはマシ。しかし、その女性にその知識はないのだろう。かくいう竜斗も知識がない。
今自分の手元には一人分の食料がある。これを半分分けることはできるが、逡巡する竜斗。
しかし、目の前には餓死寸前の女性。迷いは一瞬。さすがに放って置けなくて竜斗は女性に近づいた。
「おい、これ水と食料だ。さすがに全部は俺も厳しいから、半分残してくれよな」
「ーー・・・・・・・・・・・・」
女性の目が竜斗を映して、差し出されてたペットボトルへ移した。手を伸ばしてそれを受け取ると、キャップを開けてごくごくと喉を鳴らして喉の渇きを潤していく。三分の一くらいで飲み口から口を離した。
「助かったけど、君、あたしを助けるような事していいの?」
「俺を殺すつもりなら容赦なくお前を殺すつもりだ。そういう意思がなければ、目の前で困ってたら助けるさ」
「ふーん? まあありがと」
女性はお礼を言って、今度は弁当箱を受け取って割り箸を手にする。半分くらい食べて残し、竜斗に渡した。
竜斗もさすがに腹が減っているので、弁当箱と割り箸を受け取って残りの半分を食べる。女性はその様子をジッと見つめていた。そしてふと口にする。
「間接キスだね」
「だからなんだ? 別に俺は気にしてないよ」
水を少し飲む。これも間接キスになるが、当然竜斗は気にした素振りは無い。半分くらい残してキャップを閉める。
「なんだ、つまらない。ってまあ君のその見た目じゃあ、女慣れしてそうだし、間接キス程度じゃ戸惑わないよね。何ならあたしを襲ってもいいよ? 君だったら構わないし」
「悪いがこの状況で余計な体力を使いたくねぇんだよ。つーか、俺はお前のような誰でも股を開く女は好きじゃない」
「もしかしてその見た目で童貞だったりするの?」
「下世話な話をするつもりはない。そんな欲求不満なら他の男でも探しにいけばいい」
内心変な女を助けたと後悔した。
「つれないなー。君に助けられたし、お礼がしたいのよ?」
「恩を感じなくてもいいさ。俺が勝手に助けただけだ」
「ふーん? 君に惚れちゃいそうだなー」
女性の目は獲物を狙うハンターのような視線で竜斗を凝視していた。それに迷惑そうな顔をして、溜息が漏れた。はっきりこの状況でそういう気分になれないと竜斗は思った。
「そういえば君、名前は?」
「・・・・・・星崎竜斗だ」
「竜斗君ね。あたしは黒川薫。よろしくね?」
「いきなり距離を詰めてくるな・・・・・・」
げんなりする竜斗。
「悪いが俺はもう行く」
「あたしを置いていく気なの? それはちょっと酷くない? それに一人よりは二人で行動した方がいいでしょ?」
「俺は仲間を探さなきゃならないんだ。お前に構っている暇はない」
「竜斗君って仲間いるのね。あたしもいるんだけど、全然見つからないんだよね。突然一人で森の中にいるし、心細かったよ。でも竜斗君がいて、しかも優しいし、嬉しかったよ。竜斗君だってそうでしょ?」
「はぁ・・・・・・俺はこんな所で恋愛ごっごするつもりはねぇぞ?」
「別に少しくらいいいでしょ? 一人で森の中を歩いて精神的に参ってたんだから。竜斗君も結構歩いたんじゃない? 仲間を探すにしても少し休憩してからでもいいと思うけどな」
竜斗はしばし考え、薫の言うとおり歩きっぱなしで十分な休憩を取っていなかった。仲間を探すことに注力し、他のアナテマ使いを警戒しながらの捜索だったため、精神的にも肉体的にも疲労が溜まっていた。
立ち上がりかけていた竜斗は再び腰を下ろして休憩する事にした。
「俺は少し休んでから行くからな」
「ふふふ、それじゃあお話しましょうか?」
「だからって恋愛ごっごはしない」
「あら、本当につれない。もしかして竜斗君って彼女いたりするの?」
「・・・・・・・・・・・・」
竜斗は下世話な話をする薫を無視することにした。
「いなさそうね。それじゃあ好きな人は?」
「・・・・・・・・・・・・」
「それもいなさそう。ならあたしが立候補しちゃおうかな? 竜斗君的にはあたしはあり? なし?」
「はっきり言うが、お前からは色んな男を取っ替え引っ替えしているような女に見える。おそらくセフレも何人かいるだろ。そんなろくでもない女に俺は興味ない」
「観察眼はあるようね。やっぱり竜斗君には色んな女性が寄ってくるからその目は養われたのかな? それなら・・・・・・隠し事はできないだろうし、少し攻め方を変える必要がるみたいね」
「は? だから俺はろくでもない女に興味ないって言ってるんだ。攻め方を変えた所で何も変わらない」
「そうね。もし竜斗君があたしに対する気持ちが全くなかったら諦めるしかないわね」
「俺としてはもう諦めて欲しいんだが」
殺意はなく、襲ってくる気配もないが、 妙な女に好かれたと竜斗は最悪な気分だった。
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