第二十四話 最悪な未来

 ルシールが三人の男に捕まる少し前。

 草むらの中を掻き分けながら少し進むと、直ぐに草むらから出た。豊は休憩しようと近くの木まで歩み、寄りかかった。

 ルシールは未だに豊のあとを付いてくる気配がある。最初は歯牙に掛けず、ルシールの好きなようにさせていたが、豊は数時間前のルシールとオーバンとの戦闘を思い出していた。

 ルシール達は当たり前のように両目を発光し、宙あるいは地面に魔方陣を浮かび上がらせ魔法を行使していた。それは豊達のアナテマとは少し異なる発動の仕方である。

 アナテマは両目に幾何学模様が浮かび上がるはずだが、魔法は魔方陣が浮かび上がる。アナテマと魔法は共通する部分はある。魔法の派生形がアナテマだと考えれば納得できる。


「アナテマはX《エックス》が生み出した力・・・・・・」


 元々はエックスが勝手にアナテマを与えられる。片目だけが発光する、不完全な形で。

 なぜ不完全な形でアナテマを与えられたのか。本来の力を初めて使用した豊自身が、その理由に納得した。

 本来の力は精神的消耗が激しく、下手すると命の危険性が高いから。

 赤津に右目を潰され、覚醒した時、何も考えずに力を使った代償が二日間目覚めなかった事である。

 本来の力を連発するのは自殺行為に等しく、今後は控えなきゃならない。本当ならアナテマを自由に使い熟せるように、色々と試したい所だったが、無人島に飛ばされてしまい、迂闊な事はできない。もし赤津以上の強敵に出会ってしまったら、おそらく今の豊では無残に殺される事だろう。


「・・・・・・あの女なら」


 豊はルシールとオーバンが魔法を何度も使用していた事が脳裏に過ぎる。魔法の派生形なら、アナテマを自由に使い熟すヒントが得られるかもしれないと思った。それとアナテマとは別の力を身に付ける術も必要に感じていた。

 その両方を得られる適任者は直ぐ近くにいる。

 一度は決別したルシールに、果たして協力して貰えるか疑問を抱くが、豊のあとを付いてきているならまだ話す余地はあると思っていた。


「話は聞いて貰えるはずだと思うが・・・・・・」


 ただ一方的に要求するだけでは、ルシールは難色を示し、簡単に頷かないだろう。ならルシールが利益となるような等価交換が必要となる。

 豊は今までのルシールとの会話の中で、取引材料となるヒントが無かったかと思索に耽る。

 ふとオーバンが、ルシールを他に狙っている連中がいると漏らしていたことを思い出した。これは取引に使えるのではと思った。


「・・・・・・まずはそれで話してみるか」


 豊は早速ルシールと交渉を持ちかけようと、少し待っても草むらからルシールの姿が現れない。もしやはぐれたのかと疑う。豊は元来た道を戻る。


「どこ行った?」


 自分自身が成長できる相手と偶然出会ったのだ。これではぐれたならせっかくの機会を不意にしてしまう。

 豊は周囲を見渡してルシールを探し回る。

 すると直ぐに目立つ金髪を見つけた。

 ただし、ルシールの他に三人の男がいて、彼女は蜘蛛の巣に囚われて下着姿で三人の男を睨み付けているが、その瞳は弱々しい。これはどう見てもルシールが今から犯されそうな雰囲気だった。ルシールなら三人を簡単に追い払う事ができると思っていたが、三人に協力を求めようとした結果、囚われたのだろうと推測した。短い付き合いだが、ルシールの考えを直ぐに当てた豊である。

 呆れて溜息を漏らし、世話の焼ける王女様だと豊は三人に近づいて声を掛けた。


「何やってんだ?」


 突然豊に声を掛けられ、三人の男と涙を浮かべていたルシールが顔を向けた。男達は困惑の色を見せたが、すぐに大したことがなさそうだと判断したのか、その中の一人、チャラい男が前へ出てきて豊を睨めつけて言った。


「ああ? お前何見てーー」


「まあ待て」


 チャラい男がアナテマを発動する前に、長身の男に肩をぽんと置いて止める。不満があるものの、チャラい男は直ぐに引き下がった。

 三人の男の中では、長身の男の方が格上だと瞬時に豊は見抜いた。それは長身の男も同様で、目を細めて豊を値踏みし、ここで争うのは得策では無いと判断を下していた。


「お前と争うつもりはないんだ。見ての通り俺達はこれから楽しむ所でね、お前も混ざるか?」


「・・・・・・」


 長身の男からの提案に、他の二人は目を見開いた。


「お、おい、いいのかよ?」


「ここはみんなで堪能した方がいいだろ? 別に独り占めするつもりはないさ。どうだ? この外国人の身体を好き放題できるんだ。悪い話じゃないだろ?」


「ーー、・・・・・・」


 ルシールの瞳は悔しさで涙が溢れそうになっている。

 豊の登場に驚きはしたものの、ルシールは期待が籠もった瞳を豊に向けて、必死に助けを求めている。


「・・・・・・」


 この状況でもルシールの力なら切り抜けられると思ったが、三人が相手だとそれも難しいのだろう。それに蜘蛛の巣に囚われて身動きできない状態になってしまっている。ここまで危機的状況だと、さすがに一人では抜け出す事も抵抗もできない。もはや誰かに助けを請うしか助かる道はない。

 豊は男達の視線を受けながら考える。

 突然姿を現した豊に、男達に注意を向けられている状態。現状豊が判断できるのが、三人の誰かが蜘蛛の巣を使用する力を有する。ただそれだけ。もし三人がアナテマを覚醒している場合、今の豊が果たして三人を相手できるだろうか。

 不確定要素が多くて、豊は迂闊に動くことができない。三人が何かに気を囚われていれば、あるいはこの状況をどうにかできる。

 豊はチラリと下着姿のルシールを映し、口の端を上げて答えた。


「確かに俺もこの金髪の外国人を是非とも堪能したい。胸は揉み心地が良さそうで、肌も綺麗だ。俺も混ぜてもいいか?」


「はは、決まりだな? この女を好き放題できるんだ。たっぷりと堪能していけ」


 豊も下劣な三人の男と同様に、ニヤニヤと醜悪な笑みを浮かべる。四人の卑劣な視線が下着姿のルシールを舐めるように視姦する。

 豊に助けられるとばかり思っていたルシールは裏切られ、期待が籠もった瞳が絶望へと塗り変わった。


「ーー、ーー、・・・・・・っ」


 声にならない悲鳴を上げて、ルシールは豊を睨み付ける。

 意見の食い違いで決別した彼だけど、他の下劣な男とは違う殿方だと感じていた。決してこんな卑劣な行為をするはずが無いと信じていた。


「それじゃ、最後の下着も脱いでやろうか」


 こんな形で裏切られるとは思わず、ルシールは豊の事を失望し、激しい怒りが込み上げてきた。

 長身の男の手がルシールの最後の砦となる下着へ伸びる。三人の男の目はルシールに釘付けとなる。


「へへ、これでーー」


「なぁ」


 ルシールの下着を掴んで、脱がそうとした所で、豊に声を掛けられる。せっかく高揚した気分が、豊に声を掛けられて軽く苛立ちが募った。豊へチラリと目を向けた瞬間ーー。


「は・・・・・・?」


 間の抜けた声が漏れた。長身の男がそれに理解するのに数秒かかった。しかし、その時間で十分だった。

 そう、長身の男が目にしたのはーー豊の両目が雪色に発光し、チャラい男と細身の男が凍結し、粉々に砕けた場面。そして長身の男が、それを目に映したのが最後、氷の中に閉じ込められ、同じく粉々に砕けた。

 何も抵抗すらできず、三人を殺した豊。

 蜘蛛の巣が消失すると囚われていたルシールは自由となる。何が起こったのか理解する彼女は、バラバラになった男達の無残な姿が目に映る。それから背を向ける豊にキッと睨み付ける。


「どうしてあなたはーー」


「説得して話は通じたのか?」


「・・・・・・」


 話は通じなかった。


「こういう人間もいる。こいつらまで手を差し伸ばさなくてもいいだろ。ルシールの信用できる人間だけを助ければいい」


「・・・・・・」


 言いたいことは沢山あったが、また豊に助けられた事もあってこれ以上文句も言えず、沈黙する。

 そしてルシールは自分の身体へ視線が下がる。下着姿で恥ずかしい気持ちになるも、三人の男が執拗に触られた事もあり、未だに気持ち悪い感触が残っているようで不快になる。 豊は自らを抱くように震えるルシールを一瞥する。


「水浴びでもすればいい。俺が見張っている」


「ーー、ど、どうしてあなたがいる前でーー、ま、またわたくしの裸を覗く気ですのね!?」


「興味ないから、さっさと着替えて行くぞ」


 ルシールは文句を言いつつも、軽く着替えて、二人は再び川へ向かった。

 豊は離れて見張りをすると言い、その場から去ろうとして、ルシールに袖を掴まれる。

 何か用かと振り返ると、ルシールはそっぽを向いて囁くように言った。


「べ、別に後ろさえ向いてくだされば、近くにいてもいいでしょ? ユタカなら・・・・・・信用できるわよ」


「・・・・・・わかった」


 豊はルシールに背を向ける。川のせせらぎとセミの鳴き声、自然を感じる音に混じって、服を脱ぐ衣擦れ音が聞こえてくる。その後、ちゃぷんと川の中に入るルシール。当然、下着を濡らすことはできないから全裸である。

 彼女の直ぐ目の前には豊の背中が映っている。近くに異性がいることに頬を朱色に染め、今更ながら恥ずかしくなった。彼女自身が近くに居て欲しいと口にしてしまった手前、やっぱり向こうに行って欲しいと言えない。

 ただ一つ言えることは豊が近くに居ると安心する。

 お互い一言も言葉を発しないまま、しばらく沈黙が流れる。ルシールは今の状況に耐えられず、気を紛らそうと彼女から沈黙を破った。


「と、ところ、どうしてユタカはわたくしの事を助けたのですの?」


「ああ・・・・・・ルシールに頼み事ーーいや、これは交換条件がある」


「そ、それは・・・・・・わたくしの身体が目当てですの? そ、そうですわよね!? 最初にわたくしの裸を見ておいて、何も要求することもないですし、やはりユタカは助けた代わりにわたくしを好き放題したいってことですわよね!? お、王女にそんな交換条件出すなんて卑怯ですわよ!? そ、そんなにわたくしの身体を舐め回したいのですの!?」


 ルシールは憤慨して言葉を吐いていくが、僅かに期待の籠もった瞳が見え隠れしていた。当然、豊は背中を向いていてそれに気付かず、呆れた顔をしていた。


「勝手に勘違いするな。ルシールに要求するのはアナテマの使い方と剣術を俺に教えろって事だ」


 その要求にルシールはきょとんとし、何を要求されるのかと身構えただけに拍子抜けした。


「・・・・・・? わたくしでいいんですの?」


「お前しかいないから頼んでる」


 ルシールはもちろん交換条件じゃなくても、助けたお礼に教えるくらいは構わないと思っていた。ただルシールは敢えて交換条件という形で応じようと考えた。とはいえ、ルシールは豊に要求したいことは思いつかなかった。


「交換条件という事はわたくしに益となる事があるんですわよね? それは一体なんですの?」


「ルシールは最初にあった騎士に狙われていたな。他にもお前を狙う人物がいる」


「そう、ですわね・・・・・・」


 今まで命を狙われる事は多々合ったが、オーバンのように直接狙われる事はあまりなかった。いつもルシールを守るメイドや執事が立ちはだかり、ルシールの前に現れる事は滅多に無い。だけど今回に関しては、彼女を守る存在が近くに居ない。

 またオーバンのように彼女の前に現れ、命を狙ってくる。彼女もそれなりに戦闘力はある方だが、オーバン以上の強敵が現れた時、彼女を守る存在が不在の今、絶好のチャンスと言える状況である。

 果たしてルシールは最後まで生き残ることができるだろうか。

 深刻な顔で考え込んでいるとルシールに、豊は淡々と答えた。


「ならこの島に居る間、お前の事を守ってやる」


「へ・・・・・・?」


 ルシールの口から間の抜けた声が漏れた。豊から紡がれた言葉を反芻し、ジッと彼の背中を見つめる。川の中にいるのに、徐々に身体が熱くなるのを感じた。そして瞬時にその意味する事を少々曲解した形で理解する。


「そ、それってわたくしに対するき、求婚って事かしら!? だ、だって今日会ったばかりの殿方にそんな事申されても心の準備がまだといいますか、で、でもわたくしの裸を見た仲でもありますわよね!? も、もしかしてユタカはあの時からわたくしの事を惚れていましたのね!? で、でもわたくしは王女という身分ですので、ユタカに求婚されても色々と問題があるといいますか・・・・・・どうしてもというのならわ、わたくしが頑張って何とかいたしますわ! だからその・・・・・・ユタカの求婚をおうけーー」


「何を勘違いしている?」


「ーーた・・・・・・・・・・・・え?」


「お前を殺そうと考えているヤツがいる。そいつらから守るだけだ」


「・・・・・・わたくしを一生守ると誓ったのではなくて?」


「誰が一生と言った。この島にいる間だけだ」


 勝手に勘違いして、勝手に暴発したルシールは顔を真っ赤にする。理不尽に豊に怒りをぶつけた。


「わたくしの事を誑かして面白いのですの!? 一人舞い上がってるわたくしを『うわ、何こいつ勝手に勘違いしてんの? 頭大丈夫か? ぷぷ』って、そんなにわたくしの滑稽な姿がおかしいですの!? そんなに王女の滑稽な姿が笑えますか!? はい、笑えますね! ふふ、もういっそ笑いなさいよ! ふふ、うふふふふふふって笑うな!?」


 一人おかしく笑うルシールの情緒不安定さに豊は刺激しないよう沈黙した。触らぬ神に祟りなし。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一方、萌衣と蓮魅は同じ場所に飛ばされて行動していた。

 二人はエックスのメッセージを確認した後、萌衣のアナテマで鳥を操り、視覚を同期し、周囲を確認していた。近くに浜辺もあり、宝箱らしき物も発見したため、二人は浜辺の方へ向かい歩いていた。

 その間、運がいいことに誰とも出会わずに森を出て、浜辺に辿り着いていた。

 上空から見つけたと思われる宝箱近くまで来て、二人は周囲を探していた。


「あ! あれじゃないですか?」


 萌衣が声を上げて指さした。その方向へ蓮魅は目を向けると、波打ち際に宝箱が置いてあった。明らかに怪しい。


「え? あんなあっさり見つかったけど、罠なんじゃないの? 普通あんな如何にも怪しい感じに置くかな?」


「それじゃあ、どうしたらいいですか・・・・・・?」


「ボ、ボクが取りに行ってみるよ。萌衣たんはそこに待ってて?」


「でも蓮魅さんが危険です!?」


 蓮魅が一歩踏み出すと、萌衣が蓮魅の手を握って止めた。その柔らかく、温かい感触に蓮魅の心臓がドクンドクン速まる。まさか傾慕する萌衣から手を握られる日が来るとは思わず、少し興奮していた。


「も、もももも萌衣たん!? だ、大丈夫。多分、な、何もないはずだからね? ふひひ」


「そ、それじゃあ、一緒に行きましょう!」


 蓮魅は萌衣に手を引かれる形で宝箱へ近づく。その間、蓮魅は幸せな一時を感じていた。

 ゆっくりと宝箱に近づいて、周囲は特に何もなく、波が押し寄せる音だけが聞こえてくる。そうして辿り着いて宝箱を開けると、そこには弁当箱と水の入ったペットボトルが置いてあった。特に何も起きず、食料をゲットした二人は日陰へ移動した。

 ちょうど丸太が浜辺に埋まって、そこに二人は腰掛けた。それから萌衣はポツリと言葉を零す。


「みんな大丈夫でしょうか・・・・・・」


「まあ大丈夫だと思うけどね。榎園とかそもそも心配する必要ないし、暁烏も問題なさそうだし、星崎は知らないけど何とかなるんじゃない。多分問題はボク達の方だと思うけれど・・・・・・」


 他の仲間に関して蓮魅は心配しておらず、問題なのが戦闘向きじゃないアナテマを持つ萌衣と蓮魅であると危惧していた。


(榎園が一緒に居れば心配なかったのに、ボク達だけじゃ、どうすることもできないよ・・・・・・せめて萌衣たんだけは守れるようにが、頑張らないと)


 蓮魅は不安に思いつつも、萌衣と一緒に居ることで不安は多少和らいでいる。戦闘向きじゃないアナテマだけど、萌衣だけは助けると決意する。

 そんな中、萌衣も思った。


(蓮魅さんも不安ですよね・・・・・・ここは私がしっかりしないといけないです! お兄ちゃんがいないのは不安ですけど、でも頑張ります!)


 萌衣も同様に蓮魅を不安にさせないよう、自分自身がしっかりしようと決意していた。

 しばらくして二人はお腹を空かせたため、獲得した弁当箱を食べた。これで少しは持つだろうと、二人はこれからについて話し合った。


「まずこれからどうするかだけど、ボク達だけではこの先危険だと思う。だから、どこかに隠れられる場所を見つけるか、榎園達を探す必要がある。ボク達のアナテマは戦闘向きじゃないけど、他のアナテマ使いに出会わずに回避しながら榎園達を探す事もできる」


 萌衣の動物を操るアナテマ。鳥を操り、視覚を同期できれば上空から捜索できるだろうが、そこで問題点がある。さっき萌衣は鳥の視覚を同期して、上空から浜辺に置いてあった宝箱を見つけた。

 しかし、鬱蒼とした森がどこまでも続いて、上空からでは森の中を確認する事が難しかった。これでは豊達がどこに居るのか探す事が不可能。

 森の中を捜すには鳥以外の動物の視覚を同期する必要があった。

 これについては、萌衣曰く、モモンガが木と木を飛んでいるのを確認していたため、森の中はモモンガの視覚で状況を確認することが可能と話した。

 次に蓮魅のアナテマについては、蓮魅と萌衣の未来を視る事で、最悪な出来事が起こりそうになった時は、回避する事は可能だろう。問題があるとすれば、その未来がいつ起こるのか分からない事くらい。

 一先ず蓮魅は未来を視るべく、右目を月白に発光し、萌衣の未来を視た。

 蓮魅の脳内で映像が流れる。

 映像の中の萌衣は一人で不安な顔を浮かべて、茂みの中にジッとしていた。周囲には蓮魅の姿がない。何かが起こってはぐれたのか、その映像からでは原因が分からない。しばらく視ていると、萌衣の背後に見知らぬ男が現れた。それに気付いた萌衣は青ざめた顔をしてーー。

 そこで映像が途切れた。


「え、ま、マジ・・・・・・?」


「蓮魅さん? どんな未来を視たんですか?」


「あ・・・・・・えっと」


 これを話すときっと萌衣は不安がるだろう。蓮魅は適当な事言って誤魔化そうと考えていると、萌衣は直ぐに蓮魅が悪い未来を視たと感じ取って口にした。


「あの、私なら大丈夫です。何があったのか教えてください」


「・・・・・・わ、わかった」


 蓮魅は萌衣の未来に何があったのか伝えた。最初は信じられない顔をしていたが、その未来を受け止めて、はぐれた原因について聞いた。

 そんな肝っ玉な萌衣に、小さいのに強いなと蓮魅は思った。


「はぐれた原因は分からないけど・・・・・・ボクの未来に何かあるかも」


 今度は蓮魅自身の未来を視る。

 脳内で映像が流れて、最初に視たのが顔面蒼白な蓮魅と見知らぬメイドと一緒に何かから逃げている姿。そこには当然萌衣の姿がなかった。気になる点は多かった。

 萌衣がいないことと、メイドが一緒の事。そして、何から逃げているのか。

 その映像から読み取れる考察を始めようとした次の瞬間、背筋がゾッと這い上がり、戦慄が走った。思わず怯えた声が漏れる。

 蓮魅が視たのはーー二メートル以上は優に超えて、一つ目に牙が剥き出し、二足歩行な歪で凶暴な姿。それはまるでティラノザウルスを彷彿するような化け物だった。

 その化け物と目が合った瞬間に映像が途切れた。

 金縛りにあったかのように身体が硬直し、恐怖心で速まる鼓動が聞こえてくる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「蓮魅さん・・・・・・?」


 放心状態の蓮魅に訝しんだ萌衣は声を掛けても反応しなかった。今度は肩を揺らし、必死に呼び掛けると、蓮魅はやっと反応を示した。


「・・・・・・ヤバい」


「え? 今度は何を視たんですか?」


「こ、この島に化け物がいる・・・・・・ティラノザウルスのような凶暴な化け物」


「・・・・・・え?」


「ボ、ボク達がはぐれたのも多分そのせいだよ!? で、でも・・・・・・あ、あんなのどうすればいいんだよ・・・・・・。も、森の中は危険だよ。いや、この島にいること事態が危険・・・・・・」


「そ、そんな・・・・・・わ、私達どうしたらいいんでしょうか? ・・・・・・は、早くお兄ちゃんに会った方がいいです!」


「え、榎園でもあんな化け物・・・・・・倒せんのかな? もう無理ゲーだよ・・・・・・」


 最悪な未来を視てしまった蓮魅は、絶望した顔をしてがくがくと震えて「終わりだ・・・・・・もう終わりだ」と呟いた。

 萌衣もそれを聞いて不安になるが、それでも萌衣の中では豊なら大丈夫という根拠のない自信があった。それと自分まで怖がってちゃ、豊に見せる顔はないと、自分を保つ。

 そして恐怖する蓮魅を抱きしめて、頭を優しく撫でる。「大丈夫です、怖くないです」とあやして安心させる。それではどちらが年上なのか分からない。

 そうしていると、蓮魅は萌衣に抱きつかれていることに気付いて、緊張で固まっていた。一気に恐怖は吹き飛んでいた。

 すると微かに足音が二人の耳に届き、二人は視線を上げた。

 そこにはメイド姿の女性が二人を見て、首を傾げていた。

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