第二十三話 悪意の視線

 一人、森の中を歩く銀髪の美少女ーー紗瑠。愛用する二本の刀が入っている竹刀袋も、近くに落ちていた。

 紗瑠は竹刀袋を背負って、不安な顔をしていた。

 突如見知らぬ森に飛ばされて、周囲に仲間が居ない状況で一人いるのは、普通なら不安しか残らない。ただ紗瑠の不安は周囲に仲間がいない事が原因では無い。

 それよりも大事な人が近くに居ない事。愛しの豊が近くに居ない不安感が強かった。

 もちろん病み上がりで突然無人島に飛ばされて、豊の体調など心配する部分もある。それと同様か、それ以上にいつも一緒に居るはずの豊の存在が側に居ない事の方が、紗瑠にとっては由々しき事態である。

 必死に紗瑠は周囲を歩き回って豊を探す。しかし、もし近くに豊がいるならば、紗瑠なら微かに漂う匂いや気配で直ぐに見つけられる自身がある。探しても見つからないのは、単純に近くに豊が存在しないからだ。

 紗瑠の目の前にエックスからのメッセージが浮かび上がり、無人島における簡単な概要が説明されるも、紗瑠に取っては豊を探す方が重要視していた。


「豊? どこにいるのよ。返事してよ豊!」


 豊と離れてから一時間ぐらいは経過しているだろう。今頃は豊に密着して匂いを堪能している頃だったはずだ。その楽しみをエックスが奪った。殺意が膨れあがるも、エックスは目の前にいない。この行き場の無い怒りはどこにぶつければ良いのか。

 紗瑠は弱々しい声で豊の名前を呼び続けた。

 普段学校がある日や豊が家に帰ってしまう時の離れた時間は、不可避であると割り切っていた。その分一緒に居られる時間は、豊の匂いを堪能したり、密着して感触を確かめたりなど、目一杯に豊の全てを感じようとしていた。

 しかし、強制的に豊と離れ離れにされて、自由に感じる事ができない今はどうだろうか。

 今日は十分に豊を堪能しきれず、紗瑠は豊成分を摂取しきれていない。既に豊成分が不足し始め、紗瑠の身体は豊成分を欲している。食料より、豊を食べたいとさえ思っていた。


「ゆたかぁ・・・・・・私の豊はどこ? 豊の匂いが欲しい・・・・・・」


 最近は暑さでおかしくなっている紗瑠。豊成分という紗瑠にしか味わう事しかできない謎の成分を摂取できなければ、紗瑠はより一層おかしく暴走する予感があった。

 犬のように鼻を動かして嗅ぐ紗瑠だが、森や土の香りしか鼻孔を刺激しなかった。

 しばらく周囲を歩き回る紗瑠だが、彼に会えない寂しさ、会えない不安がずっしりとのし掛かってくる。焦燥感で紗瑠は必死に、自分の体力を考えずに彼を捜し求める。

 その時、背後から土を踏む音が近づいてくるが、紗瑠の頭は豊しか考えていなかったため、背後から近づく存在に気がついていなかった。


「あら? あなた・・・・・・紗瑠かしら?」


 声を掛けられて紗瑠は初めて背後に気配があることに気付いた。それと同時にその女性の声に紗瑠は全身に鳥肌が粟立った。二度と会いたくないと思っていた相手。その声を聞いただけで拒絶感が先行する。

 振り返るとーー。


「やっぱり私の紗瑠じゃない! まさかこんな所であなたに会えるなんて運命ですわね! ふふ、相変わらず綺麗だわ。ねぇ紗瑠? 感動の再会に私の胸に飛び込んできてもいいのよ? 私が優しく受け止めてあげるから、おいで?」


 両手を広げた女性の姿を目に映した瞬間、紗瑠は嫌悪感を抱いて、苦虫を噛み潰したよな顔をしていた。

 茶髪の毛先をゆるふわな巻き髪、紗瑠より豊満な胸は谷間が見える露出度が高い服装。綺麗なS字ラインを描き、丸く出た臀部、スラリと長い脚、そのモデルのようなスタイルは誰もが憧れるプロポーションだろう。彼女の美貌に惚れる男は数知れないはずだ。

 紗瑠は以前、彼女に出会った事があった。その忘れたい嫌な記憶が蘇り、彼女の名前が思い起こされた。

 麗紅美うららくみ。それがもっとも紗瑠が会いたくなかった彼女の名前。

 彼女との出会いは、アナテマ使いの紅美に殺されるとエックスから届いたメッセージから始まる。

 その時はいつも通りに目の前の女も殺そう殺して、終わらせようと思っていた。しかし、相手に殺意はなく、むしろ紗瑠を見た瞬間に好意を向けられていた。

 あれこれと話しかける紅美に少し動揺していた紗瑠、しかし次の瞬間に突然抱きついてきて胸を揉んできた。それから下半身に手を伸ばし、太股を優しく撫でられ、徐々に上へ這わせた。初対面でそんな事をされて、怖気が走った。

 当時の紗瑠と言えば男は底脳で、卑劣な存在と思い、男を嫌忌していた。それは今も豊以外に変わらず思っているが、少なからず全ての男が対象ではないと考えを改めていた。だからといって紗瑠には同性愛者の趣味はない。

 同性に胸を触られるくらいなら戯れで揉んだり、揉まれたりはあるし、別にそれで嫌悪感は覚えないだろう。しかし、紅美に関しては意味が異なる。

 紅美の場合は戯れではなく性的に胸を弄り、太股を撫でて、それ以上の事を求めよとしているのだ。当然だが紗瑠は気持ち悪さを感じ、鳥肌が粟立ってしまう。

 紅美も男を嫌忌し、そして同性を性的に見て興奮する同性愛者。それが紗瑠とは異なる点である。


「どうして貴女がここにいるのよ」


 隠す気が無い拒絶感を露わにし、紅美から十分に距離を取って言った。

 紗瑠に距離を取られた事に残念そうな顔を浮かべるも、特に紗瑠に拒絶されている事は気にした風もなく答えた。


「それは私にも分からないわ。突然エックスにこんな場所に飛ばされたとしか。紗瑠もそうでしょ? 一人でいるのも不安だったし、こうして紗瑠に会えたのは嬉しかったわ。ふふふ、あー・・・・・・私の紗瑠、以前よりも可愛いわ。愛でてあげるからおいで?」


「冗談じゃないわよ。それに私は貴女のじゃないわよ。私の全てはもう豊に捧げているの」


「・・・・・・・・・・・・ちょっと待ちなさいよ。誰よそれ?」


 紗瑠の口からゆたかの名前を聞いた瞬間、一気に気温が下がったように紅美の声音は冷たく発した。瞳は殺意に滾らせて、人を刺し殺しそうな雰囲気が漏れる。


『ーー私の全てはもう豊に捧げているの』


 その言葉が紅美は許せなかった。低い声で問いかける紅美。

 紗瑠は紅美の変わり身にどこ吹く風、むしろ豊の事を想ってはにかんだ笑みを浮かべていた。その紅美の知らない表情を見せられ、紗瑠を穢された気分になり、怒りを覚えた。


「豊は私の婚約者なの。将来を誓い合った仲、もう誰にも私と豊の世界に入ってこれないのよ。私の初めては豊に捧げるのよ。豊・・・・・・どこにいるの?」


 豊の名前を連呼する紗瑠の姿に、紅美は屈辱感を覚えた。最初に目を付けて、手を出したのは紅美の方。どこぞの馬の骨に先を越され、紗瑠の気持ちがゆたかに傾かれて、腹正しい思いだった。

 当然紗瑠の言ったことは虚妄であり、それを真実だと判断する材料は紅美には無い。


「その男が私の紗瑠を誑かしているのね。会ったときに殺すわ」


「ふふ、貴女が豊に敵うはずがないでしょ? そういうことだから私の事は諦めなさい。気持ち悪いから名前も呼んで欲しくないわ」


「まあいいわ。いずれ私の方が紗瑠の事を気持ちよくさせることができるって、分からせてあげるわ」


「一生来ることがないわね」


 豊の知らない所で、勝手に紅美が嫉妬して恨みを買われる結果となった。

 紗瑠はこれ以上紅美と関わるつもりがなく、彼女を置いて一人さっさと歩き出した。それに紅美は当然のように付いていく。立ち止まる紗瑠は振り返って睨み付けた。


「どうして付いてくるのよ」


「あら、別にいいじゃない。一人より二人でしょ? 吊り橋効果で紗瑠の心が私に傾く事だってあり得るのだし」


「そんな可能性なんて絶対にないわよ。付いてこないでくれない?」


 紗瑠は竹刀袋を手にする。それを意味することに紅美はくすくすと笑った。


「それは止めた方がいいわよ? 紗瑠のアナテマが私に敵うと思うの?」


「・・・・・・」


 紗瑠は紅美のアナテマを知っている。

 鏡を使ったアナテマ。

 最初に豊と出会ったときに話した事があった。

 アナテマなどの攻撃を反射し、自分に攻撃が返ってきたりして闇雲に攻撃はできない。それに自分を映した鏡で姿を消すことだってできる。厄介な力。紗瑠のアナテマと相性は悪いと言えるだろう。

 本来なら紅美をここで排除する事ができれば、紗瑠としては喜ばしい事。しかし冷静に分析して、紅美が最初に出会った時よりどれくらいアナテマを使い熟せているか分からない。紗瑠もアナテマを十分に使い熟せてはいるが、紅美に敵わないと思っていた。下手に刺激するのは得策ではない。

 紗瑠は竹刀袋を背負い直して、紅美を無視して歩き始めた。


「賢明な判断だわ。そういう紗瑠も私は好きよ?」


「私は嫌いよ」


「嫌いは好きの裏返しって言うわね。それならいずれ私の事を好きになるって事でしょ?」


「・・・・・・」


 豊に会えない焦燥感がプラスして、紅美のような存在。

 紗瑠は爪を噛み、憤懣やるかたない様子でストレスが溜まる一方だった。


「紗瑠はこれからどうするつもりなの?」


 勝手に付いてくる紅美。もうそれには諦めるしか無い紗瑠は一瞥もせず淡々と答えた。


「豊を探しているのよ」


「そんな男どうでもいいじゃない。どうせ直ぐに殺されているわよ」


「私の豊が簡単に殺されるワケないでしょ。嫌なら付いてこないでくれる?」


「つれないわね。まあいいわよ。紗瑠の婚約者というその男・・・・・・拝んだ後に必ず殺すわ」


  ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一方、紅美に命を狙われているとは知らない豊はルシールと決別し、一人森の中を進んでいた。

 宝箱を探しつつ、萌衣と蓮魅の探し続けるも、一切痕跡が見つからない。それにルシールとオーバン以外に誰も人と会っていない。

 豊達が飛ばされた無人島は相当広いのか、それともアナテマ使いが少数なのか。

 しばらく歩き続けると、さすがに空腹や喉が乾いてきた。

 オーバン戦で負った怪我は一時的にアナテマで処置をしているが、ただ体力の方はごっそりと削られている。

 豊は優先順位を宝箱探しへ変更した。とはいえ、二人を探すついでに宝箱を探していたが、宝箱らしきものは見つかっていない。最悪の場合、食べられそうなものを探す事になるだろう。


「・・・・・・」


 それと豊はルシールと別れてからずっと視線と気配を感じていた。一定の距離を保ちつつ誰かが後を付いてきている。豊が立ち止まると、その人物も立ち止まり、歩き出すと、同様に歩き始める。チラリと背後を振り返ると、豊を付いてくる人物は慌てて木の後ろに隠れ、揺れる金髪を目にする。

 その人物とはさっき決別したはずのルシールである。一体彼女は何をしたいのか不明だが、豊は溜息を漏らすも、気にしないことにした。

 まずは宝箱。

 簡単に見つかる場所に置いてないと推測し、木の裏や茂みの中を重点的に確認するが見つからない。それ以上に見つからない場所に隠しているのか。

 例えば川の中や木の上、土の中などが考えられる。それか時間が決められて宝箱を設置するのか。


「スタート時点には置かず、もう少し歩いた場所にあるのか?」


 エックスの目的は殺し合いである。スタート地点に留まらせないよう対策し、行動させて人と遭遇させる事を狙っている可能性が高い。とはいえ、豊はかなりの距離を進んでいる。それともまだ行動範囲を広げる必要があるのか。

 豊は道を外して草に阻まれている道を重点に探す事にした。


 時を同じくして、ルシールは宝箱探しをする豊を遠くから様子を窺っていた。

 なぜルシールが豊の後を付いているのか。

 二人が決別した後、豊と反対方向へ数歩進んだルシールだったが、思い止まって背後を振る返って彼の背中を凝視した。

 一人見知らぬ森の中に飛ばされ、不安で心細い思いをしている中で豊と出会った。彼からは殺意を感じられず、少し安心感を得ていた。その偶然の出会いは天のお導きだとさえ大袈裟に彼女は思うほど。

 最初、豊の事は無礼で冷たい殿方だと感じていたが、会話してみると印象は少し違う。無礼で無関心、冷たい事も変わらないが、豊からは少し温かさを感じていた。

 別の世界の人間と言われた時はルシールは信じられず、一人納得する豊に説明を求めれば渋々答えてくれるし、豊の世界についても質問すると返事が来る。

 豊とは分かり合えると最初は思っていた。

 しかし、オーバンを殺した豊を見た時、ルシールは少し恐怖した。

 話し合いで解決できるなら、ルシールはそれを迷わず選択する。争いが嫌いなルシールは人を殺めたことがない。剣術を身に付けたのは、自分の身を守るために執事から教授を受けただけである。人を殺めるために身に付けたワケではない。

 平和的解決が一番望ましい形。だけどそれが難しい事はルシールだって理解している。オーバンにどんな言葉を掛けても無意味で、再びルシールを殺すために襲い掛かってくる。現にオーバンは最後、説得を試みようとしたルシールを殺そうとしていた。

 それを豊に助けられたのだ。


「わたくしだって・・・・・・それくらいーー」


 助けられたお礼を言うべきだったルシールの口は、オーバンを殺した事を非難した。豊なら分かり合えると勝手にルシールが思い込んでいたため、躊躇なくオーバンを殺した豊に落胆した。


「どうして・・・・・・そう簡単にーー」


 ルシールを狙う連中は話し合いが通じる相手じゃない。平気で人を殺し、多くの命を奪ってきた罪深き連中。

 殺らなければ、殺られる。

 それくらいルシールも理解している。

 頭では理解しても、ルシールは簡単に人の命を奪うことはできない。もしかしたら話し合いで説得すれば改心できるかもしれないと、一縷の望みを求めてしまう。

 王女たるもの民を導き、過ちを犯さず、皆平等に笑い合える国の繁栄を目指す。例え悪い行いをしても、真摯に話し合えば分かり合えると信じている。オーバンだってその機会はあり、改心してくれる可能性が少しでもあったかもしれない。


 ーーやはりわたくしは甘いんでしょうか。


 ルシールは答えのない問いかけに誰も答えてくれる人はいない。

 しばらくすると豊が道を阻む草の中へ入るのを目にして、ルシールも中へ入って行こうと思った時、近くの茂みからカサカサと揺れる音を耳にした。

 ルシールの鋭い視線が音の発生源へ向けて警戒する。

 すると、そこに姿を現したのは三人の男だった。

 偶然の出会いに両者は視線が交わる。ルシールはそれに殺意がないことに安堵する。三人にも協力を申し出ようと口を開く前に、三人の男は口元をニヤニヤとして言葉にした。


「マジかよ。金髪の女とか外国人か? これはラッキーじゃね?」


 チャラい男はルシールの全身を舐め回して、口の端を歪ませる。


「こんな所に一人って、ここなら誰もいないし・・・・・・ヤっちゃう?」


 細身の男がルシールの豊満な胸に釘付けで、ゲスな考えをする。


「確かに、ここでヤるのもいいね。こいつを肉奴隷とかにしない?」


 長身の男はスタイルの良いルシールの肢体を観察し笑う。

 三人の悪意ある笑みに、ルシールは息が詰まった。これから三人がルシールに何をするのかも理解し、嫌悪感を露わにする。だけどもしかすると話し合えば分かると思い、再び口を開いた。


「あなたたちもここに飛ばされたのよね? 魔神ーーいえ、エックスのメッセージを読んだのなら、殺し合いは止めて欲しいの。他に何か解決策を考えた方がいいと思っているのだけれど・・・・・・」


「そうだよね、殺し合いとか物騒だよね」


「つーか、君みたいなエロい子を殺すとか勿体ねぇし」


「そうそう。終わるまで俺達と一緒に来ない?」


「・・・・・・」


 ルシールは既に悟っていた。この三人は話し合いをしても無駄だと。

 三人の視線はずっとルシールの肢体を舐め回し、それを蹂躙しようとゲスな事しか頭にないと。それはルシールがいた世界でも同じような目に合った。いくら話をしても、ルシールの言葉は届かず、欲望のままに衣服を剥ぎ取り、犯す事しか考えていない。その時はルシールに仕えるメイドに助けられ、最悪な事態を回避できた。

 そして今回も同様な事が目の前で起きている。

 もし一人なら、ルシール一人で対処できただろう。しかし、相手は三人である。果たして、ルシール一人で相手にできるのか不安だった。


「黙っちゃってどうした? 別にそんなに怖がらなくてもいいんだぜ? これから気持ちいい事するんだ。ほら、楽にしろって」


 チャラい男がルシールの手首を掴み、それをルシールは払いのけて、剣を抜いた。

 三人は一瞬ビクッとなったが、長身の男が両目に幾何学模様を浮かび上がらせ、蜘蛛の糸がルシールの全身に絡まり、身動きできない状態となった。剣が手から離れて、蜘蛛の糸から逃れようともがいても解けない。


「なっーー、くっ」


 ルシールの両目が承和色に発光し、光の矢を三人に放つ。しかし、細身のアナテマが生成した盾に弾かれた。


「アナテマ使われると面倒だな。おい、女、これ以上攻撃してきたら、痛い目に合わせるよ?」


 長身の男に睨まれて、ルシールは怖じ気づいた。


「これから君に気持ちいい事すんだから、痛いのいやでしょ?」


 細身の男がルシールに近づいて服を剥いでいく。


「や、やめーーっ」


 騎士甲冑の取り外しに手間取る細身の男は、悪態を付きながらも取り外した騎士甲冑を投げ捨てる。


「てか、これ本物? 何かのコスプレとか思ったんだけどさ」


「さー。コスプレする外国人なんか結構いるだろ」


 長身の男は対して興味なさそうに呟いて、目の間のルシールの肢体に夢中だった。

 白くて綺麗な柔肌が覗き、下着姿にされたルシールは怒りと屈辱で、三人の男を睨み付ける。


「お、王女にこんな事してーー、絶対にーー許しませんわ!?」


「うっわ! やっば! この女おっぱいでかくね?」


「こんな最高の女とヤれるとかラッキーじゃねぇか」


「肌綺麗だな。つーか、この女処女とか? それヤバくない?」


 ルシールのあられもない姿を三人は視姦し、汚らわしい手で腕や足、お腹を好き勝手に触る。それに嫌悪感を抱いたルシールは全身に鳥肌が粟立った。

 嫌だ。こんな男達に触れられただけで気持ち悪くなる。

 恐怖で身動きできず、魔法も真面に使えない。


「たす、け、て」


 ルシールは涙を流した。こんな所で見知らぬ男達に奪われるのは嫌だ。


「泣いてる女に無理矢理とかレイプじゃね?」


「そもそも泣いても泣かなくても変わんねぇだろ」


「んじゃ、その下着も取るか」


 長身の男がルシールの下着へ手が伸びて、最後の砦まで剥ぎ取られそうになって、ルシールは必死に助けを求めた。

 するとーー。


「何やってんだ?」


 突然、別の男の声がして、三人の男は振り返った。

 それは豊だった。


「ああ? お前何見てーー」


「まあ待て」


 チャラい男が登場した豊に殺意を向け、アナテマを発動させるのを長身の男が止めた。豊を観察するように値踏みする。そしてここで争うのは得策ではないと判断した。


「お前と争うつもりはないんだ。これから楽しむ所でね、お前も混ざるか?」


「・・・・・・」


「お、おい、いいのかよ?」


「ここはみんなで堪能した方がいいだろ? 別に独り占めするつもりはないさ。どうだ?

 この外国人の身体を好き放題できるんだ。悪い話じゃないだろ?」


「ーー、・・・・・・」


 ルシールの瞳は豊に助けを求めていた。

 チラリと豊はルシールを見て、口の端を上げて答えた。


「なら俺も混ざるか」


 その言葉でルシールは絶望することになった。

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