第三章 波瀾の無人島
第二十二話 出会いと決別
ようやく豊が目を覚まして、スノーウィオウルズの五人が揃った時の事である。
突然宙に文字が浮かび上がり、
ーー私が用意した舞台が決まったよ。今からその場所へ君たちを送る。
文字が消失した途端、みんなに異変が起きた。突如身体が光に包まれ、一人、また一人消えていき、それは豊も同様に消えることとなった。
そして気がついたときには、鬱蒼とした森の中に立っていた。
セミが自己主張するように鳴き響いて、どこからか鳥の鳴き声もこだまする。近くで草がかさかさと揺れ、ウサギが姿を現して豊と目が合うとどこかへ去って行く。
「どこだここは・・・・・・?」
見知らぬ場所に飛ばされた豊は戸惑うも、直ぐに状況を把握する。まずは紗瑠達が近くにいないか確認するが、人の気配は微塵も感じない。
そもそも紗瑠達は豊と同じ場所にいるのか。
一体
豊の中で幾つもの疑問が浮かぶ。
一旦整理するべく、一つ一つ優先順位を付けることにした。
まずは仲間の安否。
一番の問題点があるなら、戦闘能力がない萌衣と蓮魅の事を心配していた。
こんな場所に一人で行動していたら、他のアナテマ使いに見つかり、殺される可能性が高い。
ただ二人のアナテマは使い方によっては、他のアナテマ使いに見つからずに慎重に行動できるはずだ。そう豊は考えたが、他のアナテマ使いがどんな力を使用するか分からない以上、やはり最優先で二人を探すのが先決である。
まず豊は自分のこれからの行動を確定し、早速動き始めた。
とはいえ、豊自身が今どの場所にいるのか、萌衣と蓮魅がどの方向にいるのかも見当がつかない。
適当に歩き始める。
立ち止まっているよりは適当に歩き出して、二人の痕跡を探した方が良いだろう。
太陽の光は森に遮られ、木漏れ日が落ちて豊へ日が当たったり、隠れたりと、目がチカチカとする。自然に囲まれていることもあり、涼しい空気が肌を撫でて暑さで体力を奪われる心配は今のところなかった。
しばらく進むが、変わり映えの無い景色ばかりで前へ進んでいるのか不確実。自分が遭難でもしているのではと錯覚する。いや、実は遭難しているのかもしれない。
豊は歩きながら一番憂慮していたのが食料の問題。このまま闇雲に萌衣と蓮魅を探していたら、自分が倒れてしまうと危惧していた。
「・・・・・・」
果たして
未だに
聞こえたであろう方向へ視線を向けると、そこは腰まで伸びた草に阻まれていた。だが草に隠れてよく観察すると、道っぽいのがあることに気付いた。おそらくその奥に川があるのだろう。
豊は草を掻き分けて前へ進んだ。徐々に近づいてくる川の流れる音。
そして草むらから出ると、豊の目の前には日光が水面に反射し、光輝く綺麗な川を目に映した。近くに湧き水があれば水分を補給することができるだろう。
豊は川沿いを歩いて行くと、水が跳ねる音を耳にした。魚でもいるのかと、音のする方へ目を向けた。
しかし、豊が目にしたのは水浴びをしている全裸の少女だった。
水に濡れた金髪が腰まで伸びて滴り落ちて、波紋が幾つも広がる。日光に反射して金髪がキラキラと輝きを放ち、豊満な胸、くびれ、臀部、すらっとした脚線美、肌が白く透き通り綺麗な肢体、どの部位もグラビア並みで誰もが羨むスタイル。
その神秘的な姿形に、豊は思わず目を奪われてしまった。
「~~♪」
暢気に鼻歌をしながら、金髪少女は豊がいることも知らずに水浴びを続けている。
豊は面倒な場面に遭遇してしまったと思い、直ぐにその場から離れようとした。一歩後退して、枝があることに気付くも間に合わずに踏んでしまった。
バキッという音が鳴り、それを聞いた金髪少女は素早い反応で振り返った。
「誰っ!?」
豊と金髪少女の視線が交差する。
「・・・・・・」
「き、きゃあああああああああああああああああああああああ!!」
金髪少女の悲鳴が森中に響き渡った。それに豊はうるさそうな顔をして、踵を返して元来た道を戻ることにした。
「ちょっとちょっとちょっと!? あなた待ちなさいよ!? 人の裸見といてその反応はないでしょ!? もっと何かあるでしょ? 何でそんなに冷静なのよ!? なんかわたくし悲しい気持ちになっちゃったでしょ!?」
「・・・・・・」
一度立ち止まったけど、振り向きもせずに豊はまた前へ進み出した。
「だからちょっと待ちなさいよ!?」
豊はどうしようかと考えた。
他のアナテマ使いに出くわす可能性も十分にあった。もしその相手が好戦的であれば、相応の対処をしていただろう。ただ相手が争う意思がなければ、ここは情報交換するのも視野に入れた方がいい。なにせ今は状況が把握出来ていない。
しばらく考えた結果、立ち止まることにした。
「なら早く着替えてくれないか?」
金髪少女に背を向けながら声を掛けた。
川から出る音が聞こえて、少し時間が経過した頃に金髪少女が近づいてきた。
振り返って相手の服装を見て、眉を顰めた。
騎士甲冑にスカート、腰には剣が携えていた。最初はコスプレと思っていたが、その装いにコスプレっぽさがない。
豊が金髪少女を凝視していると、視線に気付いた彼女は胸を自分の腕で覆って隠した。別にそこを見ていたワケではない。
「あ、あ、あなたさっきのわたくしのこと思い出してますの!? 無礼よ!」
「お前誰だ?」
「ちょっと! 少しは何か反応しなさいよね!? このわたくしの裸を見たのよ? 本当ならあなた死罪になってもおかしくないのよ」
「・・・・・・」
豊はやはりそのまま立ち去ればよかったと今頃後悔した。
「何よあなた? ちょっとは感謝の気持ちはないワケ?」
「話が進まないから、もう行っていいか?」
「せっかちな殿方ですわね。まあいいですわ。いえ、裸を見られた事はちっともよくないですけどね! ・・・・・・それで、あなたどうしてここにいるのよ?」
金髪少女の雰囲気ががらりと変わり、豊に鋭い眼光で射貫いた。
やはりさっさとその場から去ればよかったと後悔する。
もし襲ってくるならば、豊は相手が女でも容赦なく殺そうと思っていた。チラリと金髪少女の腰にある剣を一瞥する。剣が抜かれるのが先か、アナテマが発動するのが先か。
両者睨み合ったまま沈黙が流れていくと、突然宙に文字が浮かび上がる。
それは数十分前に目にした、
『やあ、みんな。ようやくこの場所に揃った所でこれからの事を説明しよう。今回はみんなで、この場所で、殺し合って貰う。最後に生き残った一人・・・・・・というわけではない。ある程度人数を絞りたいと思っていてね。どれくらいの人数を減らすかは秘密だ。一定数まで減った時に君たちを元の世界に戻そう。特にルールは設けてないけど、飲まず食わず過ごすには厳しい環境だからね。食料が入った宝箱がどこかに隠されている。頑張って探してくれたまえ。説明は以上だ。目の前の人間を殺して人数を減らしてくれよ。ふふ、頑張りたまえ』
ふっと文字が消えた途端、金髪少女が動き出して、同時に豊の右目が幾何学模様に浮かび、雪色に発光した。
金髪少女の抜かれた剣が豊の首筋にぴたりと止まり、豊が生成した氷柱が金髪少女の首筋をぴたりと止まる。
このまま殺すつもりで動いていたら、お互い相打ちになっていただろう。
しばらく両者の目がぶつかり、金髪少女は先に動いて剣を納めた。
「あっさり引くんだな。俺がこのままお前を殺すかもしれないんだぞ?」
「あなたには殺意がない。それだけ分かれば、わたくしたちが争う必要はないと思うのだけど?」
「
「えっくす・・・・・・? さっきの魔神の事かしら?」
豊はその呼び名に疑問符を浮かべる。
このまま金髪少女を殺してしまうのは悪手だと思い、氷柱を消滅させて豊の右目は元に戻る。
「お前にはいくつか確認したい事がある」
「そうね、それはわたくしも同じですわ」
一先ず二人は一時休戦し、日陰へ移動する。
先に豊から質問をした。
「まずは・・・・・・お前は何者なんだ?」
「わたくしは・・・・・・ルシール・S・ベネディス。ベネディス王国のって言えば分かるかしら?」
「知らん」
「え? だってわたくしの名前くらい聞いたことあるでしょ?」
「だから知らん」
「・・・・・・」
即答だったもので、ルシールはポカンと間の抜けた顔をした。
豊は最初どうでもいいと聞き逃そうとしたが、王国という言葉に馴染みがなく、ベネディス王国は地球には存在しない。ルシールの見た目など二つの情報から豊の中で直ぐにある推測が浮き上がる。
「お前は日本、地球を知ってるか?」
「に、ほん? ちきゅう? それは何なんですの?」
その答えだけで豊の推測が確信へと変わった。
本当にそれがあり得るのかと豊は思案するが、
それに今までの
「おそらく俺とお前は別の世界の人間だ」
「え? あなた何を言ってますの?」
当然の反応をするルシール。豊だって何も知らなければ、同じような反応を返していただろう。
今までの経験から豊は十分に非現実的な出来事に巻き込まれているのだ。ルシールが異世界の住人と知っても、今更驚かない。それに今はルシールの存在より重要な事がある。
「お前が何者かは理解した。ただお前の世界の事なんかハッキリ言えばどうでもいいから省く。次にーー」
「ちょっと待ちなさいよ! 一人で勝手に納得しないでよね!? わたくしにも分かるように説明しなさいよ! それではあなたに友人はできませんわよ?」
「・・・・・・」
ルシールの言うとおり豊に友達はいない。別にそれを指摘されて傷ついているわけではない。理解力に乏しいルシールに呆れていただけだ。
「まず俺の服装に見覚えはあるか?」
Tシャツにジーパン。日本では普通の格好だろう。
「・・・・・・見たことがないわね」
「ならこの場所は? 多分だがここは俺達の世界の・・・・・・無人島かどこかだろう」
「・・・・・・そういえば見覚えのない植物や動物がいたわね。ということは・・・・・・本当にわたくしがいたルメーラとは違う世界ということですの?」
「ああ、そこまで分かればいいだろ」
「未だに信じられませんけど・・・・・・不思議ですわね。・・・・・・あ、そうよ。まだあなたの名前聞いてませんわよ? わたくしは名乗ったのですから、あなたも名乗りなさいよ」
「榎園豊だ」
「・・・・・・? え、・・・・・・?」
異世界では馴染みのない名前だからだろうか、ルシールは理解できず、疑問符を浮かべていた。
「・・・・・・豊でいい」
「ユタカ・・・・・・馴染みのない名前ですのね。やはり本当にここがわたくしとは違う世界・・・・・・ですのね」
ようやく理解したルシールは、未だに信じられない顔をしていた。無理もないだろう。豊も異世界の存在があるのを知ってもなお、信じられない。
これでルシールも理解した所で、豊は次の質問をした。
「お前は確か
「さっきからわたくしの事、お前お前って失礼ではなくって? わたくしベネディス王国の王女なのよ? その失礼な言葉だけでも死罪に値するのに、ちゃんとわたくしの事を名前で呼びなさいよ。わたくし名乗ったはずよ? それともユタカはもうわたくしの名前を忘れてしまったの? 裸も見ておきながら失礼ですわよ!」
未だに全裸を見られた事を根に持っていたルシールは憤慨する。
「・・・・・・おまーー、ルシールは魔神と呼んでいたな?」
まだ何か言いたそうなルシールだったが、ユタカの性格をある程度理解したのか、喉まで出かかっていた言葉を呑み込んで、質問に答える。
「あなたの世界では
「・・・・・・そうか。
ルシールの言葉で
異世界。豊はいつかその場所に行く必要がある。考える事が増えたが、今は目の前の問題を早急に片付ける事が先決となる。
ふと豊は
「ルシールの世界ではアナテマ・・・・・・不思議な力を使えるのか?」
「不思議な力? もしかして魔法の事ですの? 言っときますが、ユタカにわたくしの魔法は言いませんわよ? あなたが教えて下さるのでしたら・・・・・・さっき使ってましたわね」
「別に俺は隠すつもりはない。知られても俺が負けるはずが無いからな」
「大した自信家ですわね。ならわたくしも言いますわ。わたくしは光の魔法を使いますわ」
「ルシールがどんな魔法を使えるなんて別にどうでもいい。・・・・・・俺達が言うアナテマは、ルシールの世界では魔法と呼ばれているのか」
「・・・・・・少しは興味持ちなさいよね!? それにさっきから気になっていましたけど、ユタカのその上から目線は何なのかしら? わたくしは王女ですのよ? 普通王女に向かってその口の聞き方は死罪ですわよ?」
「ルシールが王女だからってなんだ? 俺にとってはどうでもいいことだろ」
「はぁー・・・・・・失礼な殿方ですわね。まあいいですわ。それよりわたくし、ユタカの世界が知りたいですわ。一体どんな世界なの?」
「別に話す必要はないだろ」
「わたくしには色々と聞いてきましたのに、横暴ですわよ。わたくしからも質問くらいさせても構わないですわよね? お断りしても勝手に聞きますけどね。そのユタカの世界・・・・・・なんて言ったかしら、ニ、ニホン? 一体どんな世界ですの?」
ルシールの質問に対して豊は答える義理は無いと思ったが、確かに一方的に豊から質問をした。それで得られた有力な情報も手に入れた事もあり、仕方なく渋々答えた。
「どんな世界と言われても、返答に困るが・・・・・・日本は平和な世界だ」
「平和な世界・・・・・・いい国ですのね」
ルシールが垣間見せた哀しげな顔を浮かべた。次の瞬間には何でもなかったように、話を続けた。
「どんな文化が発展しているのかしら?」
「・・・・・・俺の住む町は人混みが多くて、変人も多いな。昼夜問わず騒いで、物騒な場所もある。町も汚い。ハッキリ言えば俺は近づきたくない場所だな」
「一体どういう街なのかしら・・・・・・スラム街ですの?」
「そこまで物騒ではないが・・・・・・、良いところと言えば、飲食店や雑貨店など大抵の物はそこで手に入る。少し歩いた場所には公園もあるな」
「ふーん? よく分かりませんけど・・・・・・ニホン、行ってみたいですわね」
「もう聞く事がなければ、俺は先に行く」
「ちょっと待ちなさいよ!? わたくしの世界の事は聞かないですの?」
「今は目の前の事で精一杯だ。どうでもいい」
「はぁ・・・・・・ユタカの事はよーく分かりましたわ」
聞かれたら語る気満々だったルシールは拍子抜けし、豊を追いかけてジト目を向ける。ほんの少し接しただけで豊が失礼で自分勝手な性格だと知り、ルシールは諦めた。
、二人は川の近くを歩き始めた。
豊はまず
木の近くや茂みの中、あらゆる場所を探すも、宝箱を見つけることができなかった。本当に宝箱が置いてあるのか怪しくなる。
しばらく歩いていると、土を踏む音が豊達の耳に届き、音のした方へ目を向けると一人の騎士が立っていた。腰にある剣に手が伸びている。
「誰だお前?」
「・・・・・・ルシール・S・ベネディス。ここで会えたのは幸運、いや、魔神様のお導きなのだろう。ここでお前の首を取れば、セレスタン様に吉報を送れる」
豊の質問は無視され、騎士の鋭い眼光はルシールを射貫いていた。
「あなたはオーバン・・・・・・わたくしを殺す気ですの?」
「如何にも。ベネディス王国の王女さえ亡き者にすれば、あの国は終わる。そして魔神様も安泰となることでしょう。魔神様のためにも、その命もらい受ける!」
騎士ーーオーバンが動き出して、一瞬にして距離を詰めると、抜いた剣がルシールへ襲う。彼女も剣に慣れて、オーバンが動き出したのと同時に剣を抜いて剣を受け止める。しかし、筋力はオーバンの方が上、ルシールは押し返される。
「ーーっ」
一歩二歩下がったルシール。腕は剣を受け止めた衝撃で少し痺れるが、何とか剣を落とさずに済んだ。
そして直ぐにルシールは次の行動に移していた。両目を
その豊と少し違うアナテマに、豊は目を見張った。
魔方陣から幾つもの光の矢が出現し、一斉に射出した。オーバンに光の矢の雨が襲う。
肩や足を掠めながら、オーバンは剣を大振りに払うと、一瞬にして光の矢を一掃した。
その戦闘場面を豊は観察していると、オーバンが豊をチラリと視線を向け、邪魔をされると困ると思ったのか、剣を構えて肉薄する。
一瞬にして剣の間合いに入る。豊は眼前にオーバンの姿を映し、横合いから一閃する剣が迫ってくる。
右目を雪色に発光した豊は氷の壁で剣を防ぐと、衝撃を耳にし、氷の壁がごっそり砕け散った。幸い攻撃を止められたが、一瞬だけひやっとした。
直ぐにオーバンの頭上に幾つもの氷柱を落とし、軽く払いのけながら豊から距離を取った。オーバンの目の色が変化した。
「そっちの世界ではいきなり襲うのが礼儀なのか?」
「・・・・・・」
豊の皮肉に対してオーバンは無言で睨み付けた。
豊から漂う妙な雰囲気を感取し、意識から外していた彼も危険人物と認識された。それはそれで面倒になると思った豊は、さっさと決着をつけようと思った。
しかし、それより早くオーバンが先に動き出して、両目を朽葉色に発光し、豊の足下に魔方陣が浮かび上がる。
警戒する豊の足下が泥に変化し、足が沈んだ。直ぐに抜け出す事が難しく、豊の意識が一瞬だけ逸らしてしまう。その隙にオーバンは漸撃を放ち、豊へ襲い掛かる。アナテマを発動する時間も無い。豊が焦った顔をし、漸撃を食らった。
「ーーっ、ぐっーー!?」
「ユタカーー!?」
痛みに呻いた豊の身体は袈裟斬りに、血が吹き出る。動悸が速まるが、身体を反らして致命傷を回避する。眇めた豊はオーバンが次の行動を移している事に気付いて、切っ先が豊に向けられていた。止めを刺そうとしている。
「ーーっ!? あなた関係ない人までっ!?」
怪我を負った豊にルシールは怒りを露わに、オーバンの頭上に魔方陣が浮かぶ。次の瞬間、光の柱が落ちてきた。
「くっ・・・・・・」
オーバンは攻撃の手を止め、直ぐにその場を離れた。
刹那、オーバンの眼前にいつの間にかルシールの姿があり、素早い剣捌きでオーバンを襲い、斬り結んでいく。勢いは止まらず、徐々にルシールが劣勢となり、オーバンの肩や腕、足へと斬りつける。血が地面を濡らしていくが、傷の度合いからオーバンはまだ動ける。激しい剣戟が続き、オーバンは目を光らせ、次の剣戟でオーバンが握る剣を強く握りしめる。
「ーーぬんっ!」
オーバンの力強い漸撃、それを受け止めるルシールは剣から伝わる振動に、柄を掴む手が痺れる。一瞬だけ怯んだルシール。それを見逃さないオーバンは口の端を上げた。
「うぅ・・・・・・ーーっ!」
「これで終わりだ!」
生まれた隙。ルシールを殺す漸撃が襲い掛かる。
しかし、彼女の顔は焦りは見えず、まだ余裕な表情を浮かべていた。何か狙っている。そう直感が告げるオーバンだが、既に攻撃の体勢に入り、手を緩める事ができない。
刹那、オーバンの漸撃がいつの間にか出現した光の剣によって弾かれた。それに驚愕するオーバン。
次の瞬間、オーバンの眼前に眩い光が放光し、全身に光を浴びたと同時に、炎に焼かれた激痛が襲い掛かった。
「ぐっあああああああああああ!?」
呻き声が漏れて、全身に激痛が駆け巡った。握っていた剣を落とし、オーバンは膝を着く。そして眇めたオーバンはルシールを見上げる。
「これであなたの負けですわね。大人しく観念しなさい」
「・・・・・・く、くくく、なら止めを刺せ」
「あなたを殺すつもりはないですわ。わたくしをあなたたちと一緒にしないでくれる?」
「甘いな・・・・・・っ、私達を殺さなければ、貴様は狙われ続ける。それに今回のこの舞台、人を殺し、一定数まで減らさなければ元の世界に戻れないと魔神様は仰った。そんなんでは、貴様は生き残れず、いずれ殺されるだろう」
「それは・・・・・・」
ルシールもそれは理解していた。このまま誰も殺さないと言ったところで、元の世界に戻れず、他の人達に狙われる事もある。
殺らなければ、殺られる。
この無人島に何人も送ったのは逃げられない状況を作り、殺し合いをさせる事が
平和的な解決をルシールは望んでいる。例え相手がルシールを殺そうとする相手であっても。
そんなルシールの苦悩に、オーバンに隙を与えてしまう。両目を朽葉色に発光し、ルシールの足下から鋭利な土の塊が、彼女を穿とうと襲う。
それに気付いたルシールだが、それを回避するのは間に合わない。
ルシールは目を瞑る。
ーーしかし、痛みは襲ってこない。
「・・・・・・がはっーー」
ルシールはオーバンの吐血し、苦しむ声を聞こえた。ゆっくり目を開くと、鋭利な土の塊はルシールに届く寸前で凍結していた。それからオーバンに視線を移すと、氷柱に串刺しにされた姿を目にした。もうオーバンは息絶えていた。
パッとルシールは非難の目を豊に向けた。
「どうして・・・・・・殺したのですの?」
「そいつは殺意を持って殺しにきた。だから殺した」
「そんなの・・・・・・殺さなくてもーー」
「殺らなければ、殺られる。当たり前だろ。お前も殺されそうになったんだ。そいつを助けたところで無意味だ」
「・・・・・・」
頭では分かっていても、ルシールは理解できなかった。
なぜ人は殺し合うのか。どうして、殺し合わなければならないのか。
話し合えばきっと分かってくれるはずだと、信じていた。
「そいつの言うとおり、お前は甘いな・・・・・・。ーーそれでは誰も救えない」
豊の最後の言葉はルシールに向けられた言葉ではなく、自分に向けた言葉だった。
「分かりませんわ。そんなの・・・・・・。ユタカは魔神の言うとおりに、この場にいる人達を殺していくの?」
「敵意を向けられたら殺す。それだけだ」
「・・・・・・話し合って何か解決策を考えるとかーー」
「人を殺し、数を減らせば元の世界に戻る。それ以外に解決策はないし、この島にいる連中が話し合いに応じるとでも思っているのか?
「みんながそういう考えを持っているわけではないですわ! きっと同じように別の解決策も考えていますわ!」
「ゼロとは言わんが、果たしてそんな少数の意見に耳を貸すのか?」
「そ、それは・・・・・・話し合えばーー」
「これ以上は無駄だな」
豊とルシールの話はどこまで行っても平行線のまま。意見の不一致。これ以上話しても無駄と判断した豊は話を切った。それはルシールも直ぐに理解した。
最初はわかり合えると思っていただけに、ルシールは失望した。
「残念ですわ。ユタカとはわかり合えると思っていました。もうこれ以上はあなたに頼りませんし、関わりませんわ」
「そうか。せいぜい最後まで生き残ればいいな」
決別した二人は背を向けて、別々の方向へ歩き去って行った。
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