第十九話 Xに提案

 翌朝。登校した豊は教室の中へ入ると、自分の席に向かう。

 周囲は豊の存在など気に掛けておらず談笑を続けて、当然だが豊に挨拶や近づく友人は皆無。

 席に着いて豊は、いつも通りのつまらなそうな顔で窓の外を眺める。

 豊の学生生活に色は無く、以前は青春を謳歌したいという熱望があったが、今では青春に対してすっかり興味索然としていた。

 ただ最近は少し変化があり、豊に視線を送る女子が一人いる。


「最近、あかねっちさー・・・・・・あの陰キャの事見てること多くない?」


「それな!」


 茜は豊が登校してきたのを確認して立ち上がった瞬間に、ゆいとももが怪しむような声を上げた。


「え・・・・・・? そ、そんなワケないでしょ?」


 足が止まり、二人へ顔を向けた茜だがそこには陽キャ女子のリーダーとしての威厳が感じられなかった。


「いやさ、あかねっちの気持ちも少しは分かるというか・・・・・・なんつーか、あの陰キャ変わったよね」


「あれあれ~? もしかしてゆいってぼっちくんに恋した感じ?」


「ちょっとももは黙ってくんない?」


「は~い、もも黙りま~す」


「実際あかねっちはどうなん?」


「・・・・・・別に」


 そう言いながら茜は友人二人を置いて、豊の元へ近づいた。これが二人に勘ぐられる原因と知りながら、直ぐに話したい事もあり、茜は心の中で仕方ないと言い訳する。後で二人には説明しようと思った。

 そして茜の気配に気付く豊は一瞥し、再び外を眺める。


「ちょっと、話があるから屋上に来て」


「・・・・・・」


 本来なら冷遇して断っていた豊。無言で何も口に出さなかったのは萌衣の一件で感謝しており、萌衣に茜の事を頼まれた事もあって邪険にできなかったから。

 茜は豊の沈黙を肯定と受け取り、豊は大人しく茜に付いていき屋上へ向かった。

 そんな二人が教室を出て行くのを視認した柴田も追いかけた。

 屋上には三人の姿。柴田の姿に豊は怪訝な顔をしていたが、気にせず茜に言った。


「話ってなんだ?」


「週末の事よ。あの男、どうして萌衣ちゃんの事を狙っていたの? もしかしてエックスが原因であの男は萌衣ちゃんを殺そうとしてたの?」


 豊はどう答えようか思案した。

 茜には萌衣を助けてくれた恩がある。萌衣のお願いもある。そのため茜の事を無碍にはできなかった。

 ならある程度二人に事情を話した方がいいだろうと、豊は考える。

 ほんの少し沈黙する豊に、柴田も口にする。


「俺達にも教えてくれよ。あいつはなんなんだ?」


「・・・・・・わかった話すよ」


 豊は二人に萌衣が殺される未来の話、その探していた赤髪の男の話、昨日のエックスからのメッセージについて話した。

 それを聞いた茜は萌衣を助ける事ができて安堵していた。


「未来で萌衣ちゃんが殺されて・・・・・・それじゃあそれが週末の事だったの? なら未来は回避したの?」


「本当に回避できたか分からない。それに赤津はまだ俺達の事を狙っている。またどこかで狙っているはずだ」


「まだ萌衣ちゃんは危ないのね」


「その辺は単独行動しないように当分は二人以上で行動するように言ってあるが、お前達も狙われている可能性はある。二人で行動しろ」


「二人で行動・・・・・・」


 茜の脳裏には週末の出来事を想起した。

 茜と柴田二人でも赤津には敵わず、もし豊が助けに来てくれなかった場合、二人とも殺されていた。もしまた赤津が現れたら、今度こそ殺される。それを思うと、茜は恐怖で震えた。柴田も同様に考えて、震える自分の手を見ていた。


「どうすればいいんだよ! あの化け物相手にーーっ!?」


 茜は恐怖を抱きながらも、赤津に傷を負わせた。ただそれは最初だけで、以降は何もできず近づく事さえできなかった。

 柴田も赤津を前にして足が震えて動けていなかった。下手したら豊が助けに入らなかったら殺されていた。

 そんな二人の能力を知る豊は事実を二人に告げる。


「あいつの相手はお前らでは無理だ。無理をせず全力で逃げればいい」


「で、でも逃げることができるの・・・・・・?」


「・・・・・・・・・・・・」


 ここで豊は「知らん」という一言で関係を絶って終わらせばそれでよかった。萌衣にお願いされ、気に掛けると言った以上、やはり捨てる事ができなかった。

 ただもう今回っきりで貸しを返したら今度こそ終わりにしようと考えて口にした。


「もしあいつがお前らの前に現れたら・・・・・・俺に連絡しろ。それまでは逃げて時間稼ぎすればいい」


 茜は目をパチクリして、驚いた表情をする。

 本来なら豊の上から目線の態度に対して、気に障って文句の一つでも口にしていただろう。だけど茜は、豊の境遇を知ってから、彼に接する態度が変わり、上から目線な物言いでも気にならなくなった。

 それに今までの豊であれば、茜達を助ける意図を含む言葉を口にしなかっただろう。茜の中で妙な気持ちが芽生えていた。


「それは・・・・・・ありがと」


「チッーー」


 しかし、柴田は豊の態度に未だに苛立ちが募る。だが以前ほど突っかかることはしなかった。赤津と互角の力を持つ豊に、柴田には敵わない。殺されそうになった事もあり、これ以上は関わりたくないと思っていた。

 とはいえ、茜と関わる以上は、必然豊との関わりを持つことになる。そして二人の姿にモヤモヤし、複雑な思いであった。


「柴田君、豊に何か言うことあるんじゃない?」


 そんな苛立っている柴田の態度を確認し、茜は少し怒った声を上げた。

 それは豊が柴田を助けた件についてだ。荒っぽい助け方だったが、殺されずにこうして柴田がいるのも豊のおかげだ。それは彼自身も知っている。

 頭をがしがしと掻いて、柴田はそっぽ向きながら言葉にした。


「榎園・・・・・・ありがとな。あの時は助かったよ」


「別にお前のために助けたワケじゃない」


「チッ、そうかよ」


 それっきり二人はこれ以上言葉を続けなかった。

 そんな二人を見て不器用だなと思った茜。


「あのさ豊、もしよかったらだけど・・・・・・ウチにアナテマの使い方とか、教えてくんない?」


「なぜ俺がお前に教えなきゃならん。赤津の件では助けるが、それ以上は関わるつもりはない」


「別にいいじゃん。てかなんでそんなに嫌そうな顔するの?」


「実際に嫌だからだ。これ以上はもう話すことはない」


 茜も簡単に教えて貰えるとは思ってなかった。予想通りの反応にしばし思案して、どうにかして豊からアナテマの使い方を教わりたかった。

 自分でそれとなく力を試したり自分なりに探求していたが、それも限界にきていた。そのため第三者からの意見が欲しいと思っていた頃である。もしすんなり教えを請うことができれば御の字だったが、豊にその意思はない。


「ふーん・・・・・・豊って萌衣ちゃんにお兄ちゃんって呼ばせてるんだよね?」


「萌衣が勝手に呼んでるだけだ。これ以上何が言いたい?」


「いやさ、豊って萌衣ちゃんに甘いよね?」


 茜は豊と萌衣の関係を思い出して、微妙に雰囲気が違う事に違和感を覚えていた。紗瑠に対しても態度は少し柔らかいと茜は感取していた。自分と比較して当然釈然としない。


「・・・・・・普通だ」


 間を置いて答えた豊。それは萌衣に甘いと自覚している証拠でもある。それを目聡く知った茜。萌衣の事を聞いたのは作戦に必要だったからで、そして見事、茜の予想通り、豊は萌衣に甘いという情報を手に入れる。それをどう活用しようかこれから奸計する。

 作戦は赤津の件を終えてから実行しようと思った茜である。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 豊は購買でパンを適当に買って、袋を手に屋上へ向かう。

 その途中でとある女生徒を見かける。少しぼさっとした長髪で、萌衣と同じ身長の小柄な少女。視線を落としてちょっと気怠げな様子で、豊と同じ屋上を目指している。

 当然、二人は正面に向かい合わせになり、気配に気付いた少女は顔を上げて豊を見上げる。


「あ」


 思わずといった感じで声を上げた少女。その顔は「やばい、どうしよう。声上げちゃったよ」と困惑していた。それから口を開いたり閉じたりと、何か声を掛けようとしている。

 少女のその反応は豊を知っているような雰囲気を感じたが、当然豊は彼女に見覚えは無い。


「・・・・・・」


 お互い沈黙が流れる。

 何か伝えようとする少女の言葉を待っても何も言ってこない。その様子に豊は怪訝になりながらも、見知らぬ少女で気を遣う必要も無いと判断し、少女を無視して屋上へ続く階段に足を踏み出した。

 少女に背を向けて一歩上がった所で豊は袖を掴まれた。


「ちょ、ちょっと待ってよ」


「・・・・・・?」


 今度こそ声を掛けてきた少女に、豊は振り返る。


「あ、あの件どうなったのよ?」


 豊はどの件の事を指しているのか疑問符を浮かべる。

 そもそも初対面の少女にそんな事言われても、何のことかさっぱり伝わらない。


「人違いじゃないか?」


「え? あれ? ち、違ったっけ? 人の顔とかあんまり覚えられないボクだけど・・・・・・君のような失礼な男ならさすがに覚えてると思ってたけど、やっぱり人違いだった・・・・・・? いや、でも君、榎園豊だよね?」


「・・・・・・なぜ俺の名前を知ってる?」


 学校では目立たず、影が薄いと豊自身、自覚している。それがなぜ自分の名前を知っているのか警戒するのは至極当然。ましてやX《エックス》からのメッセージで名前や顔を知られている可能性もあり、狙われるのもあり得る話だ。


「そんなのいつも君がボクの所に来てたからよ」


 そんな事告げられても本気で豊には心当たりがなかった。


「悪いがお前は誰だ?」


「うぅ、それはちょっと酷くない・・・・・・? 友達いないボクにそんな事言われると泣くよ? ・・・・・・・・・・・・あ。そっか、君の前ではいつもフード被って素顔隠してたね。でもなんか君ならボクの正体なんか簡単に知ってると思ってたよ。『ああ、お前か』ってかっこつけたりして、ぷぷ」


「・・・・・・」


 バカにされて気分を害した豊は少女を無視して、そのまま屋上へ向かう。


「ちょっとちょっと!? ご、ごめんってべ、別にバカにしてるんじゃないって!?」


 袖を引っ張られて引き留められた豊は、再び少女に面倒くさそうな目を向ける。


「ボクだって、占い師の」


「・・・・・・ああ」


 占い師と正体を明かす少女の声と一人称の『ボク』に、ようやく合点がいった。

 占い師とは二回ほど会っている。

 最初の出会いで、萌衣が殺される未来を視て、豊達にそれを回避するようお願いし、それを条件に豊の未来を視た占い師の少女。

 今回の騒動の発端とも言える人物だろう。


「取りあえず屋上行こうか」


 二人は一先ず屋上へ行く。ドアを開けて、生暖かい風が気持ち悪く肌に纏わり付く。二人は日陰の場所まで移動し、腰掛けた。

 豊はパンを取り出して、それを咀嚼する。特に豊から会話を振ることはなかった。


「え? ボクの名前とか普通聞いてこない・・・・・・?」


「興味ない」


「ちょっと! 同じ陰キャでぼっち同士なんだから仲良くなろうとか思わないの!? そうだ君! 彼女いるんだよね!? なに? 『俺は彼女がいるからお前と一緒にするな』って言いたいわけ!? くぅ~~!? てか、あの時ボクの前でイチャイチャしてたよね!? 君ムカつくね! ボクに対する嫌味なの?」


「・・・・・・彼女じゃない」


「え? 何それ? 彼女じゃないのにイチャイチャしてんの? 君どこのラブコメ主人公なの? 他にもイチャイチャしてる女がいるの? うわ、もう君はボクの同士じゃないよ!? 爆発しろ!」


 隣でぎゃあぎゃあうるさく騒いで、豊は心底迷惑していた。こんなことであれば屋上で食べなければよかったと後悔する。


「未来を視て貰った事には感謝している。だがこれ以上お前に関わったりしない」


「えー・・・・・・勝手にボクの力を使って、もう関わったりしないとか酷くない? そうやって他の女とも手酷く振ってんの? 君鬼畜主人公系? というか未だにボクの名前聞いてくれないし・・・・・・」


「・・・・・・」


 豊はこれ以上話すことはなく沈黙し、一つ目のパンが食べ終わる。そして二つ目のパンを取り出した。

 その態度に少女は本気で泣きそうになっていた。だが直ぐに気持ちを取り直して、少女はめげずに話しかける。


「いいよもう、勝手に名乗るから。ボクは3年の小峰蓮魅こみねはすみ。で、君は榎園豊よね? 学年は?」


「・・・・・・お前上級生か。てっきり下級生かと思ってたよ」


 豊は目を見開き、蓮魅の姿を確認しても未だに上級生だと信じられない気持ちだった。


「榎園って2年・・・・・・って君さ? 上級生にタメとかどうなの? というか初対面の時でも普通に敬語使ってなかったし・・・・・・。それともボクの姿に文句あるの? こんちくしょう!? この姿がボクをなめてくるのか!? こちとら合法ロリだぞ!? ロリコン共には受けるんだぞ!?」


「そんなのどうでもいい」


「は? ロリ体系なめてんの? 榎園だってきっとボクのロリ体型にはメロメロになるんだからな? ーーねぇねぇお兄ちゃん? 蓮魅のロリ体型・・・・・・しゅきでしょ?」


 お兄ちゃんと呼ばれた豊は一瞬だけ肩がビクッと跳ねた。胸には埋めようのない寂寥感がほんの一瞬だけ味わった。その事に蓮魅は気付かず、妹キャラを演じる。


「・・・・・・はぁ、そんなのは萌衣で間に合ってる」


 ぼそりと呟いた豊の言葉に蓮魅の顔は歪み、さっきまでの妹キャラの雰囲気が霧散する。


「君、萌衣ちゃんにお兄ちゃんとか呼ばせてんの?」


「独り言に反応するな。それよりお前に萌衣とは関係ないだろ」


「萌衣ちゃんの危機を教えたのはボクだよ? 関係大ありよ! って、そうよ。萌衣ちゃんの未来は回避できたの?」


「・・・・・・回避はしたがまだ危機は去ってない」


「ほっ・・・・・・それはよかった。でもその物言い、あの赤津だっけ? そいつはまだ生きてるって事よね?」


 蓮魅は赤津の未来を視たため、彼が狂人な男ということを存知していた。

 その赤津の未来で起こった異常な光景を想起できるほど。

 人を殺すことに躊躇は無く、平気で残虐行為をし、赤津は人が絶望する様を見て悦ぶ狂人。

 蓮魅はそんなサイコパスの未来が過ぎって気分を悪くし、吐きそうになった。今までそういった狂気に出会った事がなかったため、生理的嫌悪感が強い。

 そして、そんな狂人の未来を視せた豊に根に持っていた。


「ああ、逃した。ヤツをこのまま野放しにはできない。・・・・・・お前は赤津の居場所を未来で視る事ができるか?」


「君、またボクにあの異常な光景を視ろって? はっきり言って二度と視たくないよ! でも、まだ萌衣ちゃんに危機があるなら・・・・・・視てもいいけどーーただ、今回の事って全てエックスが仕組んでることなら、それってエックスに知られちゃうでしょ? また何かワケのわからないこと目論んでいるだろうし、もしボクが赤津の未来を視て居場所を教えたら、榎園は今すぐにでもそこへ向かう。だけどエックスが赤津に榎園が側に居ない萌衣ちゃんのとこへ向かわせて、きっと萌衣ちゃんを殺すと思う」


「・・・・・・そうか」


「ならいっその事こっちから仕掛けたら?」


「こっちから仕掛ける・・・・・・?」


 豊は蓮魅の意図する事を察した。

 今までその発想には至らなかったが、果たしてエックスは応じるか疑問だった。


(いや・・・・・・エックスはあくまで殺し合う所を視て楽しんでいる。それなら・・・・・・)


 考えがまとまった豊は蓮魅に感心な目を向けた。


「またお前に助けられるとはな」


「伊達に色んな未来視てないからね。というかもっとボクの事を敬いなさいよ! それとこの貸し、いや今までの貸し、きっちりボクに返してよね?」


「・・・・・・何を望む?」


「ボクを萌衣ちゃんに会わせて欲しいかな」


「・・・・・・まあそれくらいならいいが」


「くふふ、やっと萌衣ちゃんに会えるぞ!」


 気持ち悪い笑みを浮かべる蓮魅を見て、豊は会わせるのは止めようかと思った。

 それから豊は二つ目のパンを食べ終わった所で言葉を紡いだ。


「おいエックス、お前に提案だ」


「端から見たら痛いよそれ」


 蓮魅の軽口を無視して、豊のスマホが揺れた。取り出してメッセージを開く。


『君が私に提案とは、面白いね。一応聞いてあげよう』


「お前は人と人の殺し合いを視て楽しむ異常な神だったな? ならその殺し合いを視せてやるよ」


『ほう? そういう事か。君は面白い事をする。さて、その相手とは隣の小峰蓮魅でいいのかね?』


「えぇ!?」


 そのメッセージを隣で見ていた蓮魅はぎょっとして豊を怯えた目で見た。


「お前が望む赤津との殺し合いだ。周囲の人間を殺し、最終的に俺と殺し合いをさせる気なんだろ? そんな面倒くさいことせず、直接俺にぶつけろ」


 豊のその言葉にほっとした蓮魅である。


『確かに君と赤津稜玖を最終的に殺し合いをさせようとしていた。そのためにお膳立てもしようと考えていた。しかし、舞台を進めるには起承転結がある。いきなり結を望まれても私としては困るのだよ。今の君では難しいと私は判断している』


「俺が赤津に殺されると思ってんのか? 俺に期待している割に随分過小評価してるんだな。赤津のアナテマは既に割れている。ヤツを殺す事も簡単だ」


『ふむ・・・・・・君は随分と彼の事を過小評価しているようだね。それでは君は殺されるよ?』


「過小評価してるつもりはない。最初にヤツと会ったときに異常さは知っている。俺は赤津を過大評価してるさ。ただそれでも俺が殺される事が無いって事だ」


『そうか・・・・・・なら君に賭けるのも一興。ギャンブル性を盛り込むのもなかなかに面白いかもね。しかし、そういう楽しみもできると君に教わるとは、君は本当に面白い事をする。ならその提案を受け入れよう。早いほうが良いだろうから明日の18時、場所は代々木公園にしよう。それと君は仲間と一緒に来るだろうから、その時は決着が付くまでアナテマは使用できないようにする。これで邪魔者もいない。存分に殺し合いができるよ。ふふ、では君に期待してるよ』


 会話を終えると、豊はスマホをポケットに仕舞った。

 さっきのやり取りを見ていた蓮魅は心底驚いた顔をして、豊の顔を見る。


「え? 榎園ってエックスに気に入られてんの? あの異常な神に?」


「さぁ、それは知らん。ただ他の人から見ても俺に執着してるって言われてる」


「いやまあ、あのメッセージを見ればね。てかそんな人とボク関わっちゃってんの? ・・・・・・ん? それでボクに関わるなって言ってたのね。・・・・・・やっぱり君ってラブコメ主人公よね」


「はぁ・・・・・・。とにかくもうこれ以上は関わるな」


「・・・・・・確か仲間がどうとかエックス言ってたよね? それって萌衣ちゃんも一緒でしょ? ならどうして萌衣ちゃんを関わらせてるの?」


「萌衣が付いてきただけだ」


「ふーん・・・・・・君、ボクに萌衣ちゃんと会わせる約束したでしょ? これはもう必然的に関わってしまうって事だし、もういっその事ボクも榎園の仲間に加えて欲しいよ!」


「・・・・・・」


「ちょっと無視とか酷いでしょ? ほらボクって未来を視る事できるし、お得だよ? それにロリ体型だし、それならお兄ちゃんって呼んでもいいよ?」


「全部遠慮する」


「ボクのアナテマまで遠慮したよ!? え? やっぱりボクって使えない子だった・・・・・・? ボクの事激しく求めてきたくせに、いらなくなったらぽいとか、やっぱり榎園は鬼畜系主人公だよ!?」


 蓮魅の口喧しさとウザさは昼休みのチャイムが鳴るまで続いた。

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