第十六話 赤髪の男の名前

 とある雑居ビル。テナント募集と書かれた張り紙がある階。

 ドアノブが破壊され、ドアが開いていた。中は薄暗く、静寂な雰囲気。

 そして微かに布が擦れる音が響き、誰もいないはずの部屋に人が寝転がっていた。

 ジッと天井を凝視し、赤髪の男は退屈そうな顔をしていた。

 不意にスマホが鳴り響くと、赤髪の男はスマホを取り出してメッセージを開いた。

 エックスからのメッセージである。


赤津稜玖あかつりく君。君にはある舞台に登場してもらいたい。おっと、別に君に得がない事じゃないよ。最近退屈だよね? 誰かを殺したくてうずうずしている。しかし、ただ殺すだけじゃなく、殺意、憎悪、妬み、そういう負の感情を向けられた上で相手を絶望に追いやる。その絶望した様に君は悦に入り殺す。最高な趣味だね。その舞台では君の欲に答えられると思うよ。ふふ、目の色変えたね。それじゃあ早速本題に入ろうか。君には何人か殺して欲しい。その相手はチームを組んでいる。榎園豊、暁烏紗瑠、花野萌衣。あと一人は・・・・・・これは別に必要ないから省こう。名を挙げた三人を殺して欲しい。まずは花野萌依から殺してくれ。それから暁烏紗瑠。順番通りに殺してくれ。君なら簡単だと思うよ。そして最後に榎園豊だ。彼は強いよ? 特に二人を殺されて怒りを見せた彼はね。そういう相手を絶望させて殺すの好きだろう? それじゃあ期待しているよ』


 三人の写真を見終わった後、赤津はスマホをポケットに入れ、立ち上がる。

 凝った身体をほぐしていく。


「いつも勝手だなこいつ。まあこうして退屈を潰せるからいいんだけどさ。というかこいつが本当に強いのか? この冷血の女王の方が手強いと思うけどね。つーか、俺の敵じゃねぇがな。しかし、殺す順番って、まずはチビガキか? このチビガキがアナテマ使いかよ」


 三人を殺す依頼。

 エックスは豊が手強いと評価を下した事に少し気になっていた。見た目は冴えない感じの男、だがその目には何か秘めている。そんな印象を受けていた。赤津は口ではこいつが? と思ったが、エックスが嘘を吐くとは思ってなかった。


「まずはチビガキを殺す事か」


 なぜその順番に殺せと言ったのか赤津には全然理解できていなかった。本当ならエックスの言う豊を最初に殺したいという思いがある。

 ただ怒りに染めた相手が結局何もできずに絶望し、殺される。そんなシチュエーションに自然と赤津は口の端を上げた。

 赤津は雑居ビルから出ると、赤津の前に三人の男達が姿を現した。

 どうやら三人はアナテマ使い、エックスからのメッセージで赤津を殺すよう煽動されたのだろう。


「ああ、俺を殺すの? 三対一で俺を? それはさすがに卑怯じゃない? ソロ相手にイジメはよくないね。しかし仲間ね。俺仲間できないから羨ましいよ。そうやってソロをなぶり殺せるんだからよ。俺もそっち側につきてぇよ」


「ごちゃごちゃうるせぇ! さっさとくたばれ!」


 一人が吠えて、右目に幾何学模様が浮かび上がるが、それより早く赤津の右目が銀鼠に発光し、男を縦に真っ二つにした。ぐしゃりと中の臓器が地面に落ちて、男に何が起こったのか知らずに死んだ。


「おせぇよ。俺が喋ってる間にアナテマ使えばいいのに、わざわざ俺の会話聞いてくれたの? 律儀だねお前ら。仲間一人死んだけどどうする? このまま続けてもいいが、逃げた方がいいんじゃない? ほら、力の差圧倒的だろ? それとも仲間を殺したかたきでも取るの? それはそれでいいけどさ」


「・・・・・・て、」


 もう一人の男の右目が発光する。

 しかし、アナテマが発動する事無く、その男の首が地面に落ちた。


「ひぃ!」


 最後に残った男は震えた。足が地面に縫われたように動けず、尻餅を着いた。


「だからよ。なんで俺の話をそんなに律儀に聞いてんの? バカなの? それとも俺の声って聞き惚れる程美声とか? まあいいけどさ。んで君はどうすんの? もう戦意喪失しちゃってるし、逃げるんなら逃げたら?」


「ーーっ、ば、ばけ、もの」


「いやいや、俺を化け物とか酷くない? 一般人からしてアナテマ使ってる俺らが化け物に見えるだろ。なら君も化け物だからな。はぁ・・・・・・、まあちょっとした準備運動になったよ。で? 三対一という有利な状況にも関わらず、仲間を殺されてお前は絶望したか? くくくくくくくくくくくくくくくくくく」


 最後の男は心臓を真っ二つにされて絶命した。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 HRも終えて、豊はいつも通りに教室へ出て行く。その姿を柴田は睨んでいた。しかし、殺されそうになった一件以来、豊にはちょっかいを出さなくなった。そんな柴田の元に茜が非難の目を向けて言った。


「まだ根に持ってるの?」


「・・・・・・あいつは俺を殺そうとしたんだぞ。そう簡単に割り切れねぇよ」


「あっそ。でも柴田君もその力を手に入っちゃったら、豊の事は気にしていられなくなるよ」


 茜の口から豊の名前が出てきて、余計にイライラが増した。そしてつい憎まれ口を吐いてしまう。


「茜もあいつのこと気に食わなかったくせに、名前呼びかよ。なに? あいつの事好きなの?」


「へ? そ、そそそんなワケ無いでしょ!? な、何勘違いしてんのよ!? ウチが陰キャの事なんて別に、どうでもいいわよ」


 茜は髪の毛を指でくるくると弄って否定する。


「・・・・・・」


 その反応を見て、柴田の気持ちはモヤモヤした。そして豊に対してまたイライラが増える。柴田は嫉妬している。好きな女が豊を名前で呼び、意識している。その事に今まで以上に苛立ち、柴田はサッカーに集中できてなかった。

 そんな柴田の気持ちも知らずに茜の胸の鼓動は高鳴っていた。

 柴田に豊の事が好きかと問われ、不覚にも意識していた。だけどちょっとしたきっかけで惚れたとか認めたくなくて、否定した。実際の所自分の気持ちが分かっていない茜である。その気持ちが自覚するのには少し先になるだろう。


 一方豊は教室で自分の話をされているとは知らず、校門を出るところだった。

 いつも塀に寄りかかる紗瑠に一瞥してから先を進んだ。紗瑠はにこっと笑い、豊の後を追って、自然と手を繋ごうとした。

 しかし、豊は手を避けて、紗瑠の手は行き場を失い、手を繋ぐ事に失敗した。


「豊って学校ではどんな感じなの?」


「別に普通だ」


「友達は?」


「いない」


「お昼はいつも何食べてるの?」


「購買のパン」


「なら今度から私が豊の弁当作ってあげようか?」


「学校も違うのにどうやって弁当を届けるんだ」


 学校が別々のため、豊に弁当を届ける手段はない。もしあるとすれば朝弁当を届けるくらいになる。

 それはそれで紗瑠は構わないと思ったが、やはり同棲した方が効率がいいと思った。だけど豊は一度同棲を拒否されている。それならどうにかして同棲できるように手を回すくらいしかできない。

 あれこれと紗瑠は考えて、プランを練っていく。


「それより、毎回放課後に俺を待ってていいのかよ。紗瑠にも友達と遊びに行ったりするだろ」


「う~ん、そうだけど、友人をアナテマ関係に巻き込めないし、暢気に遊ぶとか難しいかな。こうして豊と一緒に帰る事も、私が好きでしている事だからあんまり気にしないで」


「そっか。霧女には紗瑠以外にアナテマ使いはいないのか?」


「どうだろ。気にしてなかったし、中にはいるんじゃない?」


 特に霧葉女学園ではアナテマ関係の大きな事件は発生していない。対して総府高等学校では最近では豊に面倒が起こっていた一件くらいだろう。後々事件が発生する可能性もあり、紗瑠に関しては冷血の女王と呼ばれていることもあり、事件に巻き込まれてもおかしくない。

 そんな豊が心配してくれたことに、紗瑠は嬉しく思い、豊の腕を抱いた。


「暑苦しい」


「ふふ♪ 豊が心配してくれたお・れ・い♪」


 ワザと胸を押しつけて、豊を意識させようとするが、豊は鬱陶しそうな顔をして反応が薄かった。

 最近、紗瑠の過激なアプローチにも慣れてきた豊はいつもの事に辟易していた。ただ好意を抱かれるのは嬉しい部分は豊にはあるが、別の理由で一歩引いていることも事実。

 そういうこともり、いつまで経っても二人は進展せず、紗瑠は内心焦っている。

 ふと紗瑠はあることが気になっていた。

 それは豊が無防備に寝ていた日に、紗瑠は豊のスマホを確認した事があった。ちなみに豊は指紋認証をしてロックを解除していたため、紗瑠は事前に豊の指紋でこっそりとロック解除し、その時に紗瑠の指紋も登録をしていた。

 今では容易に中身をチェックできる。そして連絡先を確認した所、『茜』という名前が登録されているのを見つけていた。

 女であるのは間違いなく、本気で削除しようと考えていたが、豊に削除した事を知られると思い、それはグッと堪えていた。


「ねぇ豊」


「なんだ?」


「茜って誰?」


「・・・・・・どこでそれを」


「豊の事なら何でも分かるわ。で? 茜って誰?」


 紗瑠の口はにこっと笑っているが、目は笑っていない。そんな不気味さに豊はどう話そうか考えた。

 同じアナテマ使いでクラスメイト。

 はっきり言えばそれ以外に説明はないだろう。それに茜とは柴田との一件で、特に彼女から接する事は無くなっている。相談役として連絡を交換していたが、このまま関係を絶ってくれればとさえ思っていた。


「ただのクラスメイトだ。接点もなにもない」


「ふーん? ただのクラスメイト」


 ただのクラスメイトが豊の連絡先に入っているはずがない。紗瑠の疑いの眼差しは向けられたまま、質問を続ける。


「アナテマ使いでしょ? 接点あるんでしょ?」


「・・・・・・わかった。茜について話すよ」


「んー? 茜?」


 豊が茜を名前で呼んだ瞬間、紗瑠の脳内では豊を誑かす茜という泥棒猫を何度も斬りつけた。嫉妬で殺意が沸いて、本気で排除しようとさえ考えた。しかし、豊にそれを知られれば豊の心は紗瑠から離れてしまう。グッと我慢。

 ただ由々しき事態である。

 まさか紗瑠と萌衣以外にも新たな女が登場するとは思わなかった。

 クラスメイトというのが危険である。即刻茜の素性を調べなければならない。


「ふふ、その茜とは仲が良いの?」


「別に仲が良いわけじゃない。エックスのメッセージについて相談を受けただけだ。それももう解決してる。これ以上の関わりは無い」


「ふーん・・・・・・彼氏とかいるの?」


「そこまでは知らんし興味ない」


「そう」


「これ以上茜について何も知らないから聞いてくるな」


「それ・・・・・・茜? どうして名前で呼んでるの?」


「名字を教えてくれなかったんでな。そう呼ぶしかなかった」


「クラスメイトなら名字くらい知ってるでしょ?」


「今まで意識してなかった相手だ。名前は知らなかった」


「じゃあ豊は茜って子の事好きなの?」


「はぁ・・・・・・何を勘ぐってるのか知らんが、好きでも嫌いでもないし興味ないと言った」


「ふーーん・・・・・・」


 思わぬ女の登場に紗瑠はこれからのプランを練らざるを得なかった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 豊は紗瑠と別れた後、一人で渋谷駅から少し離れた場所まで来ていた。紗瑠も着いていくと言っていたが、豊はそれを断った。当然不機嫌になった紗瑠は条件を突きつけ、それを渋々受けた事は別の話である。

 豊の目的は占い師に再び出会う事である。

 最初に出会った公園まで足を運んでみたが、怪しいテントは無かった。そのため今度は違う場所を探している最中だった。神出鬼没でどこに現れるか分からない占い師。

 適当に歩いて見つからなかったら諦めようと思っていた。


「おう豊じゃねぇか」


 後方から竜斗に声を掛けられて振り向いた。


「・・・・・・」


「こんな所で一人どうしたんだ? 暁烏はどうした?」


「別にいつも一緒にいるワケじゃない」


 いつも豊は紗瑠と一緒にいるイメージもあり、一人でいることに竜斗は驚いていた。


「つーか、ぶっちゃけ暁烏と付き合ってんの?」


「はぁ・・・・・・付き合ってない」


 紗瑠に茜の事を疑われ、今度は竜斗から付き合っていると疑われ、豊は辟易した。


「あー・・・・・・」


 竜斗は豊の反応で紗瑠が一方的に好意を寄せていると察した。二人がどういう経緯で出会ったのか気になるが、これ以上は踏み込まず、話題を変えた。


「それで一人ここでどうしたんだ?」


「占い師に用があってきた」


「俺と目的が一緒か。この辺り探しても占い師の姿見かけなかったぞ。てか本当にいるのかよ。その占い師ってアナテマ使いだろ? もう誰かに殺されたりとかな」


「それはないだろう。未来を視るアナテマだ。自分の危機くらい回避できるはずだ。今日はたまたま占いをやってない可能性はある。赤髪の男の方は?」


「あー・・・・・・そっちの方も全然だな。渋谷にいるのかも情報はないしな」


「そうか」


 二人は占い師を探すため、色んな場所を歩き回る。

 そんな中、豊は竜斗を本当に信用できる男か観察する。

 一度は信用できると思いチームに加えたが、素性が知れない男だ。仮に紗瑠や萌衣に危険が及ぶ可能性もあるだろう。

 今のところ竜斗から殺意や悪意は感じ取れない。ただ、それだけで判断するには早計だろう。それとなく探ろうと豊は口を開いた。


「なぜ赤髪の男を追っている」


「ん? あー、大した理由じゃねぇが・・・・・・」


 竜斗が話そうか迷う素振りを見せたが、同じチーム同士で親睦を深める意味も含めて話すことにした。


「俺には弟がいたんだ。唯一の家族だった。それが家に帰ったらさ弟が死んでいたんだ。普通の死に方じゃない。アナテマを使わなきゃ説明がつかない殺され方をされてた。それからエックスからメッセージが来て、赤髪の男が弟を殺したと。それから俺はずっと赤髪の男を探して、必ずヤツを殺してやると。ただの復讐だよ」


 当時の事を想起し、竜斗は拳を強く握りしめ、瞳お奥には憎悪の炎が揺らめいていた。それを見た豊は自分と重なった。両親を殺されて憎悪に支配され、復讐を誓う自分。竜斗も同じ被害者。その気持ちが豊に分かってしまった。


「・・・・・・」


 それを聞いたところで、豊は同情するつもりもないし、掛ける言葉はない。

 豊も同じ立ち場だった事もあり、復讐は何も生み出さないとか、亡くなった人は還ってこないとか、そんな綺麗事を言葉にできないだろう。

 そして話し終わった竜斗はチラリと豊を確認し、竜斗もまた似ていると感じていた。


「豊もそうなんだろ? ああ、別に聞くつもりはない。俺はただ話したいから話した。それで自分も不幸話を語ろうとか思わないでくれ。お前を見てれば、わかるんだよ」


「そうか」


 豊は特に話さず沈黙する。

 竜斗が語ったことは嘘偽りのない真実。それに可哀想だとか同情するつもりはない。境遇が一緒なのだから、どういう気持ちかも知っている。だから豊は何も言わず、黙々と占い師を探した。

 そして豊の中で竜斗をある程度信用できる男だと認識が変わっていた。

 それからしばらくして、二人はようやく目的の怪しいテントを見つけた。二人は中へ入ると、以前出会った占い師と同じローブで顔を隠して座っていた。


「おい占い師」


「ん? あー君か」


 占い師は豊の顔を確認するとポツリと言った。横には竜斗の姿もあり、占い師の見覚えのない客に疑問符を浮かべる。


「えっと、その萌衣ちゃんって子が助かったっていうお礼?」


「残念ながら違う。赤髪の男の手掛かりを探すために来た」


「手掛かりと言っても、君はもう占ったし、その未来が現実になるか、回避しなければ無理だよ?」


「あまりアナテマについて使い熟せてないようだな」


「まあ・・・・・・そうだけど、それで私に何をさせたいの?」


 占い師には豊がドヤ顔しているようにしか見えず、苛ついたがグッと堪える。

 事実、占い師は数多くアナテマを使って未来を視てきたが、それでも現状使い熟せていない。相変わらず、同じ人には視た未来が過ぎ去るまでアナテマを使えない。それもアナテマを商売道具にしか見ていないのが原因でもあるだろう。


「まずは星崎の未来を視てくれ」


「ん? 俺のか?」


 突然自分に振られた竜斗は声を上げる。


「・・・・・・わかった」


 渋々占い師は竜斗の顔を確認し、右目が月白に発光する。


「こんなちんちくりんがアナテマね」


「・・・・・・聞こえてるよ」


 ちんちくりんと言われ、占い師が気にしていることを言われて、苛立ちが募る。なぜこんな男達の未来を視なければならないのよ、と思っていた。本当は男と会話するより、可愛くて小さな子と会話したかったと思いながら、脳裏には映像が流れ始める。

 その映像の中で竜斗が赤髪の男に殺される場面を視た。


「君、死ぬね」


「言い方軽くね?」


「君たちが探している赤髪の男に殺される以上」


「本当に俺の未来視えてんのかよ・・・・・・雑すぎじゃね?」


 占い師はちんちくりんと言われた事を根に持っていた。


「それからここからだ。その赤髪の男の未来を視てくれ」


「え? いやいや君何言ってんの? そんな事できるワケないでしょ?」


「一度試した事はあるのか? それで無理なら別の方法を考えるしかないが、無理と決めつけてるだけなら試しにやってみてくれ」


「はぁ・・・・・・やったことはないけど、基本的に相手の姿を見てからじゃないと難しいのよ?」


「星崎の未来を視たときに赤髪の男の姿を確認しているだろ? それと萌衣、俺、三回は視ている」


 豊の言うとおり、占い師は三回赤髪の男を視ている。赤髪の男の異常さは嫌でも記憶に残ってしまうし、占い師は気持ちのいいものではなかった。はっきり言って会いたくない人物。

 占い師は仕方なく、豊の言った通り赤髪の男の未来を視ることにした。

 最初は映像が暗く、何も映さなかった。これは無理だと判断しようとした瞬間、占い師は視た。

 まずは萌衣を殺し、紗瑠を殺し、二人を殺されて憤怒の表情の豊と赤髪の男が殺し合う未来を。その時の赤髪の男の醜く、狂った感情も同時に流れ込んで、占い師は吐きそうになった。異常だ。この男は化け物だ。占い師は最後に赤髪の男の名前を知り、目を開いた。口元に手を覆って、気持ち悪く吐き気が襲ってきた。


「はぁー・・・・・・はぁ・・・・・・」


「お、おい、お前大丈夫か?」


 竜斗が心配そうに占い師を見ていると、キッと占い師は豊を睨む。


「君! なんてものをボクに視せるのよ! うわ、ちょ気持ち悪い、無理無理無理、あんな異常なヤツ、マジ無理。うぅ吐きそう」


「どうやら視えたようだな」


「はいはい視えたよ、視えましたよ。あいつホントヤバいわよ? 君たちはあんなやつを探してんの?」


「最初に頼んできたのはお前だろ」


「あー・・・・・・まあボクだね。でも萌衣ちゃんの危機なら助けたいって思うでしょ? というか仲間なら絶対に思ってるわよね! ならさっさとあんなやつ探して殺しちゃってよね」


「だからお前に頼ってんだよ」


「・・・・・・そうだったね」


「つーか、このちんちくりん、一人称がボクって。あれか、ボクッ娘ってヤツだっけ?」


「ひゃあ!? あ、これは・・・・・・」


 衝撃的な映像を見せられ、思わず素になった占い師である。


「そんな事より一体どんな未来を視た」


「あー・・・・・・君はあんまり気にしないのね」


 占い師は落ち着きを取り戻し、赤髪の男の未来を話した。

 そして最後に占い師は言った。


「ーーその赤髪の男の名前だけど、確か赤津稜玖らしいよ」

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