第八話 仇
豊と別れた後、萌衣は紗瑠の家にお邪魔し、例の洋輔捜しを続けていた。
萌衣のアナテマは豊や紗瑠と違い戦闘向きではなく、サポート向きである。そんなアナテマだから信用できない豊に、自分の力を伏せた。もし豊にその事を知られた場合、どんな手段に出られるか分からない。
そのサポート向きのアナテマとは、動物を操る事。犬や猫、鳥などどんな動物でも操る事ができ、感覚を同期する事もできる。
一度に操る事ができるのは、今の萌衣では一匹が限界だった。はっきり最初はどう扱えばいいのか萌衣は困っていた。そこで紗瑠に使い方を教えて貰い、どうにか自分のアナテマを理解することに至った。
今萌衣は鳥を操って、視覚を同期していた。上空からなら捜しやすいし、最初は空を飛んでいる感覚が怖かった。でも慣れると意外と楽しい。
範囲を広げてあちこちと捜し回るが、洋輔の姿を確認する事はなかった。最初に見つけた場所をまた来ても手掛かりはない。
こうして洋輔を捜し回って、萌衣は思った。
どうしてあの男のためにアナテマを使わなければならないと。洋輔捜しに難航し、萌衣は密かに豊の弱みを握ろうと考えた。
事前に家の場所は紗瑠から聞いていたため、直ぐに見つけた。
すると、視線の先に家から出る豊の姿を確認した。これはチャンスだと思ってちょっと近づいて見ると、豊の様子が明らかにおかしかった。目を凝らすと、豊を中心に冷気が流れ出して、どこかへ向かっている。
萌衣は追いかけようか迷い、豊の自宅を確認しに向かった。
自宅から明かりは点いておらず、豊が出て行く前も消灯した様子もなく、明かりは消えたままであった。妙な胸騒ぎを覚えた。
萌衣は縁側に止まって、リビングの中を窺った。
そして、萌衣は二人の無残な姿を見てしまった。
「ーーひっ!?」
両腕を亡くした死体、腹を割かれた死体、その凄惨な現場を目にした瞬間に視覚の同期を中断し、萌衣は口元に手を覆ってえずいた。
「うぅーー」
何の損傷もない死体や胸を包丁で刺した死体などは見たことはあった。しかし、萌衣が見た凄惨な現場はそれ以上に酷い。
これは豊が殺したのか。
でも豊には血液は付着していなかった。それに様子もおかしかった。
そうなると彼はさっきの現場を直で目にしていることになる。
「萌衣ちゃん? 何があったの?」
紗瑠がえずく萌衣に気付いて、心配した様子で声を掛けてきた。
萌衣は真っ青な顔で紗瑠にさっきの事を伝えようとした。
「あ、あの・・・・・・え、榎園さんの家に、ひ、人が・・・・・・し、死んで・・・・・・」
「っ!? 豊? 豊は無事なの!?」
「え、榎園さんは、家を出て、ど、どこかに向かってました」
「・・・・・・豊の家で誰かが殺されたって事よね。それってーー」
紗瑠は豊の両親が誰かに殺されたと想像した。
ではそれは一体誰が殺したのか、犯人は直ぐに見当がついていた。
森沢洋輔。
紗瑠は歯がみした。
豊の両親に紹介を受けるはずだった。生まれてくる赤ちゃんを抱いてみたい気持ちもあった。それから豊の家族と紗瑠を交えて、一家団欒に夢見ていた。
悔しさで涙が流れた。
昨夜、洋輔の居場所を萌衣は見つけていた。その時に殺しとけば、こんな事にはならなかった。自分の失態に悔恨の念にさいなまれた。
「萌衣ちゃん、豊はどこへ向かってるの?」
紗瑠の冷たい声。殺意に満ちた瞳。
かつて冷血の女王として呼ばれた姿が顕現した。
「っ!? ま、待っててください!」
萌衣は直ぐに鳥を操り、視覚を同期させた。直ぐに豊の後を付いて羽ばたいた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
豊は都心から離れたとある廃墟に辿り着いていた。取り壊し予定とあり、立ち入り禁止の黄色いテープが貼られていた。それを目にした瞬間に、テープの一部分が凍り付き、次の瞬間に砕かれる。何事もなかったように豊は中へ入った。
薄暗く静寂な雰囲気が漂う。エレベーターは電気が通ってないため、使用する事はできない。仕方なく屋上まで階段を上る。
暗闇の中、非常灯だけを頼りに、一人階段を上る。階段を上る足音だけがこだまする。
屋上まで昇りきると、屋上へ続く扉を蹴飛ばした。甲高い音が周囲に響く。屋上から流れ込む風が頬を掠め、屋上に出ると、周囲に視線を走らせる。敵の姿はない。
すると、暗闇からぬっと突如姿を現した洋輔。一人のようだ。
豊の殺意が洋輔を射貫き、いつもと雰囲気が違う様子に洋輔はゾッとした。そうさせたのは洋輔、これからどう殺し合ってくれるのか楽しみだった。
「よぉ? 俺が送ったプレゼントはーー」
しかしーー続く声は中断され、洋輔は直感的にヤバいと思った。
洋輔を囲むように氷柱が生成され、直ぐにそれらを射出させて、全方位から襲ってくる。このままでは串刺しにされて終わる。
洋輔は咄嗟に風を発生させて、氷柱から守るように風の膜を張った。氷柱が風の膜と衝突し、次々と粉々に砕かれる。
「・・・・・・」
豊の目は氷のように冷たく、瞳の奥には殺意と怨恨のどす黒い炎が燃え上がっている。洋輔を射貫くように観察し、氷柱が全て粉々に周囲には氷の破片が散らばって、洋輔はその場に佇んで無傷だった。そんな些末な事に驚きはない。
「いきなりご挨拶だなぁ?」
今度は洋輔の右目に幾何学模様が浮かび、青緑に発光する。腕を振るい、周囲に散らばる氷の破片を一掃した。余裕な表情で、洋輔は言葉を続けた。
「そう、焦せんじゃねぇよ早漏野郎。だがお前がそこまで本気になってくれるのは嬉しいぜ! プレゼントを渡してよかったよ。お、そうそう、榎園豊、お前に伝言があるんだが聞くか?」
悪意に満ちた顔。それを聞かずとも洋輔の口から一体何が吐かれるか、豊は理解していた。虫酸が走る。
「・・・・・・」
豊の右目が雪色に発光すると、洋輔の地面から冷気が漂う。
刹那、氷柱が伸びて、真下から串刺しにしようと狙う。
いち早く気付いた洋輔は舌打ちをし、咄嗟にその場から跳躍し、串刺しから逃れた。
「だからぁ早ぇんだよ!! テメェの親からの伝言だぞ? 聞きたいだろ?」
ぴくりと豊の眉が跳ねる。
洋輔の言う伝言がくだらないことは百も承知だ。しかし、洋輔の余興に乗ることにし、一度攻撃の手を緩めた。最後に自分がどうなることも知らずに。
ようやく耳を貸すようになった豊をニタニタと洋輔は嗤った。
「聞く気になったか? ひひ、随分テメェは親に愛されていたぜ? テメェの父親は両腕が無くなってもなお、母親とテメェの事を心配してたぜぇ? 羨ましいねぇー。母親も同様にテメェの名前を口にしてたな。『この子と豊だけは殺さないで』って。泣けるねぇ? 自分の命よりも息子の心配するんだからよぉ。しかし、簡単に殺すにはもったい無いくらいテメェの母親は随分若くて美人だったな? ひひひ、殺す前に一発ヤらせて貰ったぜ? 妊婦ってのは初めてだったが、アレはアレでよかったな。あぁ、そういえば、テメェお兄ちゃんになるんだったな? ガキが拝めなくなって悪いな?」
洋輔の口に紡がれたのは、聞くに堪えない両親が殺された状況。今すぐにでも目の前のゴミを殺したくて、両親と同じ目に合わせたいと思っていた。簡単に殺さず苦しめて、懇願するまでなぶり続ける。
もはや今の豊には殺しを躊躇する事はなかった。
「・・・・・・それだけか?」
豊の静かな問いかけに、洋輔は拍子抜けした。
「あぁ? んだよ、もっと『テメェだけは許さない! 絶対に殺す!』とか、そんな台詞を言うもんだと思ったが、つまらんな。まあ、テメェが本気で俺を殺す気で来るんなら歓迎するが、テメェはアナテマに目覚めたばかりで禄に力を使い熟せてないようだからーー」
「もうないなら、もう片方の腕を奪う」
「はぁ? テメェじゃ俺にーー」
洋輔の台詞が言い終える前に、残りの腕が凍りづけにされ、次の瞬間砕け散った。それを呆けた顔で眺める洋輔は、一体何をされたのか理解が追いつかなかった。
「う、腕がああアアアアアアアアっ!?」
地面には粉々になった氷が散らばり、徐々に溶け出すと自分のバラバラになった腕が転がる。両腕を失った洋輔は頭に血が上り、豊をギロリと睨み付ける。両腕が無くなってもアナテマは使える。右目を青緑に発光し、同じ痛い目に合わせようとした。
豊の両腕を切り落とそうと風の刃が襲う。
刹那、風の刃が氷に包まれ、氷の塊が二つできる。
「ーーは?」
「今度は両足。お前には不要なものだろ?」
「て、めーー」
またもや台詞が言い終える前に、洋輔の両足が一瞬にして氷付けにされて砕け散った。両足を失って支えるものが無くなり、地面へ身体を打ち付けた。呻いた洋輔の視線の先には、バラバラになった自分の足があった。
「あ、脚っ、俺の脚があああアアアアアアっーー!!!」
洋輔に近づいた豊は足下に転がる洋輔を冷たい視線で見下ろす。路傍の石と対して変わらずに。
「・・・・・・あっけないな」
酷くつまらなそうに呟いた。
「くそぉ!? テメェえええ!? 殺してやるっ!?」
青緑に発光する洋輔の右目。両手両足を無くしてもアナテマは使える。豊を切り刻もうと風の刃が襲いかかるが、豊に届く前に氷の壁が生成され、攻撃が防がれる。
今度は幾つもの巨大な竜巻を発生した瞬間に、全て凍り付けにされる。
「ーーなっ!?」
あり得ない。
洋輔のアナテマが豊に通じない。練度は洋輔の方が上。それがほとんど使った事がない豊のアナテマに圧倒されている。
「ああ、そうだ」
豊はまたアナテマを使われては鬱陶しいと思い、氷柱で洋輔の右目を潰した。ぐちゃっと嫌な音が流れる。
「ぎゃあああああああああ!! ーーうぅっがて、テメェええ!?」
痛みと怒りで吠える。
「その状態でアナテマ使えんの?」
豊は残酷にも潰れた右目でアナテマが使えるか実験する。
しかし、いつまで経っても洋輔はアナテマを使う気配はなく、殺すという言葉だけが吐かれるのみ。
実験の結果、右目を無くせばアナテマが使えなくなると知った。
もう用済みだと、豊は容赦なく洋輔の頭部を蹴り上げた。鈍い音が響き、洋輔の口から呻き声が漏れる。
「ーーっ、が、て、めぇっーー、お、俺を、殺したら、ぼ、ボスが黙ってねぇぞ?」
「お前一人じゃないのか?」
「ひひ、て、テメェと、あ、あの女が絶望に歪む顔が拝めねぇのは、残念だぜ」
「・・・・・・」
これ以上会話を続けても無意味だと判断し、巨大な氷の塊を洋輔の真上に生成する。それを目にした洋輔は目元が引き攣った。数秒後には自分の死が訪れる。
「ひひひ、て、テメェもようやく人を殺るってんだ。親の仇を討ててどんな気分だ?」
「・・・・・・」
「ま、まさかそこまでアナテマを使い熟せるようになるとは俺も誤算だったよ。おかげで俺は最悪な気分だ。本来ならテメェと俺の立ち場が逆の予定だったんだがよ」
自分が死ぬことは既に決定している。その間に好き勝手にべらべらと言葉を紡いで恐怖心を必死に押さえ込んでいた。
そんな洋輔の心情を察して、豊は巨大な氷の塊をいつ落とすか焦らしに焦らしていた。
「テメェ!? 殺るんならさっさとやりやがれぇええ!?」
「・・・・・・」
「くそくそくそくそぉ!!! テメェ地獄で待ってやがれぇ! 今度は俺がテメェをとことん絶望に追い込んで殺してーー」
巨大な氷の塊が途端に落下してきた。最後まで洋輔が言葉を続けられず、押しつぶされて圧死した。
沈黙が流れ、豊は一瞥すらせず、その場を離れた。屋上を出て直ぐ、階段へ腰を下ろした。目にはいつの間にか涙が流れていた。
「・・・・・・」
仇を討った所で殺された両親は返ってこない。虚無感に苛まれ、思考は停止し、豊は薄暗い空間で一人虚空を見つめる。瞳に光沢は消失し、虚ろ目で人形のようにただただ何をする事もなく、しばらくそうしていた。
やがて誰かが階段を上る音が響いてきた。豊は音に反応した風もなく、廃人と化している。
徐々に音が近づいてきて、紗瑠が姿を現し、階段に腰掛ける豊を目にした。
「豊!?」
声を上げて慌てて駆け寄る。紗瑠は痛ましい豊の顔を覗く。しかし瞳には何も映しておらず、紗瑠の姿さえ気付いていない。頬には涙の跡が残り、精神的に酷い状態。豊の頬に触れても何も反応はない。そんな豊を抱きしめた。少しでも反応を示して欲しいと願っての行動だった。以前の豊ではあれば、異性に抱きつかれただけで狼狽していたが、廃人と化した彼の感情は動くことはない。
「豊っ!? 豊っっ!?」
「・・・・・・・・・・・・」
何度呼びかけても豊の口は開かれることはない。
しばらくして、紗瑠はずっと豊を抱きしめ、涙で濡らした瞳を屋上の扉が開いている先へ映した。離れた場所には肉の塊と血で濡れた地面。
名残惜しく紗瑠は豊から離れ、肉の塊の所まで近づく。
「豊・・・・・・? もしかしてーー」
これ以上言葉を続けなくても、ここで一体何が起こったのか、紗瑠は直ぐに理解した。いつまでもこんな場所にいるワケにもいかないと、豊の元へ戻る。さっきと変わらず廃人の豊は階段に腰掛けている。
この場から離れようと、豊の腕を紗瑠の肩に回して立ち上がらせた。
廃墟を出てしばらく歩いてタクシーを呼んだ。紗瑠の家の近くで降りて、豊を家まで支えてゆっくり歩く。
ドアを開いてリビングまで歩くと、豊をソフォーに座らせる。
支えを失って豊はぐったりとソフォーに倒れる。
ここまで一度も豊から声を発することなく、沈黙が続いていた。紗瑠の胸はズキンと痛みが走る。こんな姿見たくない。いつもの豊に戻って欲しい。
「豊・・・・・・」
萌衣は廃人と化した豊を目にして息を呑んだ。
実際に両親が殺された凄惨な現場を目にしていた萌衣。それを豊は間近で目撃している。それを目にして豊の精神が壊れるのは必然だろう。
萌衣は自然と豊に近づいた。目の前に男がいても恐怖心はなかった。
何か声を掛けようと思うが、どう声を掛けたらいいのか分からず、口が開かなかった。萌衣では力になれず、目を伏せてしまう。
もう萌衣には豊を警戒する必要もなく、男の中でも豊だけは近づいても、触れても問題なかった。
二人は何もできず、時間が解決するのを待つしかなかった。
「萌衣ちゃん、豊の家は今どうなってる?」
「あ、は、はい。今確認します」
萌衣が鳥を操って視覚を同期する。直ぐに豊の家まで羽ばたいていく。
上空から確認すると、パトカーと救急車の赤いランプが周囲を照らし、騒々しくなっていた。マスコミの人がマイクを手に事件について説明している姿も見えた。
「あの、榎園さんの家には近づくのは難しい、です」
「そうよね・・・・・・。しばらく、豊は私の家に泊まってた方がいいわね。それに
「・・・・・・紗瑠さん、私も泊まってもいいですか?」
「? それは別に構わないわよ」
「ありがとうございます。お母さんに連絡します」
萌衣がスマホを取り出して、母親と連絡を取り合っている間、紗瑠は豊へ視線を向ける。未だに沈黙し、壊れた人形のように微動だにしない。
近づいて顔を覗いても全く反応しない。
「豊?」
「・・・・・・」
「今日は私の家でゆっくり休んでいいからね。もし何かあったら呼んで? 豊のためなら力になるから」
「・・・・・・」
返答はない。
他にも言葉を掛けようとするが、紗瑠はこれ以上何も言わずに口を閉じる。今は一人にさせようと、その場を離れた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
紗瑠と萌衣が就寝してから数時間後、豊のスマホが振動した。豊はポケットからスマホを取り出す。
『榎園豊君、最初の試練を無事に乗り越えて嬉しいよ。おめでとう。まさか力を与えて、直ぐにアナテマを使い熟せるとは思ってなかったよ。君はまだまだ成長できるが、今の君の姿は些か残念だよ。まだまだ始まったばかりなんだから、一度の絶望で壊れないでくれよ。ああ、そうそう、君のーー・・・・・・いや・・・・・・ふふ。うん、気にしないでくれ。それで榎園豊君、君には早々に次の試練がある。と言っても、これは私が用意した舞台では無いのだけれどね。森沢洋輔君が殺された事で勝手に動いて、君たちを狙っている。まあ、今の君の力なら簡単に終わる試練だ。しかし、いつまでもそうしていると・・・・・・分かってるね? 頑張ってくれよ』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
豊は虚ろ目でメッセージを見つめて、最後まで読み終わってもずっとそのままでいた。やがて画面の明かりが消えたと同時に、スマホは手から落ちて、またしばらく沈黙が続いた。
しかし、豊の光沢が失っていた瞳の奥には憎悪の炎が灯り始めた。
勝手に異常な世界へ誘い、無関係な両親を殺した元凶とも言える敵を殺すために。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
とある事務所にて、筋骨隆々の大男が足下にいる気弱な男の手を潰していた。ゴキッという鈍い音が響いた。
「ぎゃあああああああああああああああああああ!!! だ、だすげてえええええええええええ!!!」
「チッ、うっせぇぞおめぇ? テメェが金払わねぇからそうなるんだ。さっさと金さえ払えば、痛い目に合わなくて済んだのによぉ?」
「うぅ、ひっーー、は、払い、ますっ」
「あぁ? 今更おっせぇんだよ。つーかよ、おめぇ、俺をバカにしてただろ? もうその時点でテメェは死ぬ運命なんだよ」
大男の右目が幾何学模様に浮かび上がった瞬間、大男の元に駆けてきた部下の一人が声を掛けてきた。
「あ、あのボス。少しいいですか?」
「チッ、今からこいつを殺すんだ。その後からにしろよ」
ギロリと睨まれた部下は、怖じ気づくが、急を要する事だったので、恐怖を呑み込んで大男に言葉を紡いだ。
「あ、の、それが洋輔さんの事で」
「あぁ? あー洋輔か。そういやーあいつはどうしたんだ? 色んな所で勝手に動いてるみてぇだが。まあ、別にあいつの好きにしてやればいいんだがよ」
「そ、それが・・・・・・死んだみたいで」
「・・・・・・死んだ? あいつがか? 誰があいつを殺した?」
「えっと、これです」
部下がプリントされた二枚の写真を大男に見せた。
そこに映っていたのは男女。男の方は総府高等学校の制服を着た豊で、女の方は霧葉女学園の制服を着た紗瑠だった。いつの間にか写真を撮られていたようだ。その二人を見た大男は眉を顰めた。
なぜ子供に洋輔が殺されたのか。
「普通のガキに殺されるヤツじゃねぇんだが、こいつら俺らと同じアナテマ使いか? だがまだ納得がいかねぇ。洋輔のヤツは上手くアナテマを使い熟せてたと思うんだがな」
「こ、このガキも同じように使い熟せるとかじゃ?」
「・・・・・・このクソガキはまず無理だろ。この女ならーーっておい。この女どこかで見たことあると思ったら、冷血な女王じゃねぇか?」
大男は実際に紗瑠と出会った事はないが、噂を耳にしていた。
そんな少女がアナテマ使いの中で、冷血な女王と呼ばれるようになった話。
「この女に殺されたんなら納得がいくな。ならこの女を・・・・・・いや、最初は楽しむとするか。この野郎の方は・・・・・・何かしらの関係があるならこの野郎の前で、この女を犯してみるのも面白いだろうな。くくく」
「ーーっ、ぁ、た、たすけーー」
気弱な男は涙と鼻水で顔を濡らして、目の前の大男に助けを求めた。大男は視線を落とし、まだいるのかと、既に興味は失せていた。そして、右目が白銅色に発光すると、その気弱な男は何か見えない力に押しつぶされた。大男は何事も無かったように事務所を出る。
「おい、この二人を俺の所に連れてこい。いいな?」
「は、はい! 分かりましたボス」
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