第15話

1人過去に残された葉子は、先程見かけた谷山正彦を探した。


(あ!いた!正彦君だわ。)


正彦は1人で下校の途中だった。葉子は正彦の少し後ろを同じ歩幅で歩いた。


(ふふっ。こうして一緒に歩きたいって何度思ったか。)


楽しげに後ろを歩いていると、後ろから葉子の体を自転車が猛スピードですり抜けて行った。そして、その自転車は谷山正彦の横をすり抜けて行った。正彦は驚き道の端へよろめいた。


「もう!何なのあの自転車!危ないわね!」


「本当ですよね、びっくりした。」


「え?」


谷山正彦は間違いなく葉子の言葉に反応した。


「お姉さんは大丈夫ですか?」


「え、ええ……。」


「そうですか。良かったです。では気をつけて下さい。」


正彦は葉子の記憶通りの優しい青少年と行った感じだった。再び帰路につく正彦を葉子は呼び止めた。


「ま、待って!正彦君!」


「え…?」


正彦は見覚えのない女性から自分の名前を呼ばれて少し驚いた。


「どうして僕の名前を?」


「嬉しい!私の事見えるのね?」


「え?」


「あ、ごめんなさい。急に変なこと言って。」


「いえ……、どこかでお会いしましたか?」


「ふふ。私はね、貴方の事よ~く知ってるのよ!」


「すいません…僕はお姉さんの事全然覚えてないです。」


「それは…無理も無いわよ。」


「え?」


「ねぇ!よかったらあそこの公園でお話ししてくれないかしら?」


葉子は少し先に見える公園を指さした。


「え……?ええ、少しならいいですよ。」


「よかった!」


公園には大きな木の下にベンチがあり、二人はそのベンチに腰掛けた。


「あの、失礼ですけどお姉さんは一体…?」


「あ!ごめんなさい!私は桜庭葉子……じゃなくて、え〜と…」


「葉子ちゃんの知り合いですか?」


「……え?うん、そう!そうなのよ!葉子ちゃんとは病院で知り合って。私はユウコって言うの。」


「ユウコさんですか、はじめまして。」


「はじめまして、よろしくね。」


「はい。こちらこそ!」


「ふふ、よかったわ。何だかさっきは今にも死んでしまいそうな顔してたから。」


「え!そ、そんな顔してましたか?僕…。」


「ええ。あら?制服汚れてるじゃない!さっきの自転車かしら?」


「え?ああ…多分そうです。」


「大丈夫?ほんとに怪我は無い?」


「平気です、大した事ないですから。」


「ならいいんだけど…。」


正彦は何かを必死に隠しているようだった。


「あの!やっぱり僕もう行きます!」


「え?そう……。」


「あ……、すいません……。」


「いいのよ!無理に誘ってごめんなさい。」


「いえ……。」


正彦は立ち上がり公園の出口へ向かったが、途中で立ち止まり葉子に聞いた。


「あの……、葉子ちゃんは元気ですか?」


「え?ええ!もちろんよ。」


「そっか…。よかった。」


そう言って再び出口へと向かう正彦に葉子が問いかけた。


「よかったら、明日も会えないかしら?」


「え?明日……。」


「迷惑かしら?貴方の事や葉子ちゃんの事色々聞きたいんだけど。」


「明日はちょっと……。」


「お願い!少しだけでいいの!」


「……わかりました。」


「ありがとう!嬉しい!」


「いえ、それじゃ明日……。」


「ええ、気をつけてね!」


正彦の様子が少しおかしいと思った葉子は、無理やりに明日の約束をこぎつけたのだった。


つづく

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