第6話

「私の姿が見えるのですか?」


「ええ、見えてるわよ?あなたはいつからそこにいたの?」


「え!?いや、あの……。」


 ソードは自分の姿が葉子に見えている事に驚きを隠せない。


「ふふ、おかしな人ね。」


「あの、私は……。」


 ソードは言葉に詰まった、死神と名乗るには時期が早すぎるからだ。しかし、姿を見られてしまった以上名乗らない訳にはいかない。


「私はソードと言います。」


「ソードさん?変わった名前ね。」


「貴方は桜庭葉子さんですね。」


「ええ。」


 ソードは仕方無いといった様子で続けた。


「私は貴方を迎えに来た者です。」


「迎えに?そう、あの世からかしら。」


「はい、私は死神です。」


「死神……、そうなんだ。」


「あまり驚かれないのですね。」


「驚いているわよ。」


「そうは見えませんが。」


 ソードは葉子の反応に少し戸惑った。聞いていた話しとは違った反応だったからだ。死神と名乗り、迎えに来たと言うと大抵バカにされるか、怒鳴られると聞いていたからである。


「私はいつ死んでしまうのかしら?」


 葉子はソードに尋ねた。ソードは内ポケットから手帳を取り出しパラパラとページをめくった。


「予定では、7月20日に息を引き取る事になっています。」


「そう、思ったよりまだ先なのね。」


「はい。」


「原因は病気かしら?それとも自殺かしらね。」


「え?いや、原因は肺炎となっています。長い入院生活でだいぶ身体が弱っていますからね。」


「そうなの……。」


「ええ、もし自殺だとしたら私たち死神は必要ありませんから。」


「え?必要ない?どうして?」


「私たち死神の仕事は死んだ人間の魂を天界へと導き輪廻転生の手伝いをする事です。しかし、死んだ人間を天界へと導く事はできません。」


「どうして?」


「死んだ人間は魂となり天界にて、生前での行いを清算し生まれ変わる準備をします。しかし、自殺した人間は魂になれません。死んだ時点でこの世から消えてしまうのです。」


「消えてしまう……。」


「そして、二度と生まれ変わる事はありません。」


「そう……なんだ。」


 ソードは急に大きな声で。


「しまった!余計な事を話し過ぎた!すいません、今の話しは忘れて下さい!」


「ふふっ、努力するわ。」


 そして、ソードはあわてたまま。


「私はこれで失礼します、上司に報告しないといけないので。」


「そう、残念だわ。」


 葉子は寂しげな表情でソードを見ていた、それはけして自分に死の宣告をしに来た者へ向ける表情ではなかった。ソードはその表情にまた胸が締め付けられるのだった。


「……また明日も来ます。」


 葉子はニコリと微笑み、ソードを見送った。


 つづく

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