第7話

 ソードが去った病室は蝉の鳴き声だけが響きわたっていた、しばらくすると病室にノックの音がした。葉子の父、庄之助が見舞いにやってきた。


「入るぞ葉子、どうだ?体調は?」


「お父さん、ええ、今日は調子がいいわ。」


「そうか、それは良かった。退屈していたろう?」


「いいえ、いままでお話し相手がいたもの。」


「ほう、誰か来てくれていたのか?」


「ええ、死神さんがいままでいたのよ。」


 葉子のはなった不吉な言葉に庄之助は驚いた。しかし、庄之助もまさか本当に死神が来ていたなど信じるはずもない。


「何を馬鹿な事を言ってるんだ。」


「本当よ、私を迎えに来てくれたんですって。」


 あまりにも淡々とした葉子の言葉に、庄之助は怒りをあらわにした。


「冗談でもそんな縁起でもない事言うんじゃない!」


「お父さん……。」


「いいか、葉子の病気はけして治らない病気じゃない!昔に比べたら原因も分かっている。……ただ、まだ治療法がないだけなんだ、医学は進歩しているし研究も進められている、だから……、もう少し……もう少しの辛抱だ。」


「...そう言ってもう10年よ?」


「葉子……。」


「あと何年待てばいいのよ、治療法が分からないなら、治らないのと同じじゃない!もううんざりよ!」


 いつも大人しい葉子がこれ程までに感情をあらわにするのは珍しく、その言葉に庄之助は何も言うことができなかった。


「ごめんなさい……今日はもう1人にして。」


「葉子……わかった……。」


 そう言って病室を去ろうとする庄之助。


「……お父さん!」


 庄之助はドアノブに手をかけたまま立ち止まり、振り返った。


「……ごめんなさい。」


「分かっている、気にするな。……何もしてやれずごめんな。」


 そう言うと庄之助はドアノブを回し、寂しそうに病室から出ていった。


 葉子は一人残された病室で後悔した。いつも良くしてくれる父親にあたるなんて。


「もう……疲れたのよ。」


 葉子は思った、このまま生きていてもし病気が治ったとしても、自分には何があるのかと。


 友達もいない、恋人もいない、一番楽しいはずだった時期を葉子はずっと病気と戦ってきたのだ。


「どうして私だけ……?どうして私なの……?」


 葉子は涙が止まらなかった。


 つづく

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