第5話

 スレイブ、ソード両名は死神である。この世界での死神の役割は、亡くなった人や生物の魂を天界と呼ばれる場所へ導く事。


 死神ソードは新米で彼にとって桜庭葉子は初めて担当する魂であった。このソードの様に新米の死神は初めて担当する人間の魂には1ヶ月前から傍につき、亡くなるまでを見届ける様に義務づけられていた。これは人間と言うものを知るため、理解するため。そして、扱っている魂の重さを知るためである。


 先輩と呼ばれていたスレイブにも、そんな時期があった。しかし、それはもう遠い昔の話しである。


 翌日7月5日、ソードはふたたび葉子の病室へと向かった。


 五月蝿いほど蝉の鳴き声が響いている。葉子はベッドに座り窓の外を眺めている。それを観察するように病室の隅にはソードの姿があった。葉子にはその姿は見えていないようだ。


 コンコン


 ノックの音が聞こえ、看護師の山岸名津美が入ってきた。


「おはよう葉子さん。検温です。」


「はい……。」


 この二週間ずっと傍で見ていたソードには何か違和感を感じた。いや、死神だから感じたのだろうか。


 山岸奈津美は体温を測り終えると病室を出た、すると葉子は大きな溜め息をついた。


「はぁ……、もう、いいよね。」


 葉子の目には涙が見えた、しかしその目は何かを決意した、そんな眼差しをしていた。


 そして、翌日。


 7月6日


 相変わらず蝉は五月蝿く鳴いている。今日は珍しく朝から葉子の父親、桜庭庄之助が見舞いに来ていた。


 しかし、葉子は見舞いの間一度も庄之助と目を合わせようとしなかった。何か思い詰めているようだ、よくない何かを。


 ソードは何か嫌な胸騒ぎを感じていた、と同時に桜庭葉子に惹かれていた、彼女の事が頭から離れない事に気づいていた。


 そして、7月7日不思議な事が起こった。


 変わらぬ病室に葉子がベッドに横になっている。少し離れた場所にソードの姿がある。


「何故だろ、彼女を見ていると胸が締め付けられる、不思議な感覚だ。」


 ふと出てしまった独り言だった。


「え!だれ?」


 葉子がベッドから身体を起こした。


「え?」


 ソードは辺りを見渡した、葉子が自分の言葉に反応するはずがない、誰か来たのだろうか?


「あなたは誰?いつからそこに?」


 ソードはその言葉にもう一度辺りを見渡したが、病室には自分と葉子しかいない。間違いなく自分へと発せられた言葉だ。


「私の姿が見えるのですか?」


 つづく

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